福田こうへい特別公演|福田こうへいインタビュー第2弾

民謡・演歌歌手の福田こうへいが、大阪・新歌舞伎座と東京・明治座にて座長公演「福田こうへい特別公演」を開催。第一部のお芝居では時代劇・鯉名の銀平「雪の渡り鳥」を、第二部では自らが構成・演出を手掛ける「福田こうへいコンサート2024」をお届けする。2024年元旦には新曲「庄内しぐれ酒」をリリースし、勢いに乗る福田はこの公演にどのように挑むのか。話を聞いた。

――まずは今回の公演に向けてのお気持ちをお聞かせください。

民謡、演歌歌手としてやらせていただいている中で、今の時代が一番、民謡や演歌、あるいは時代劇というものをご覧いただく目が厳しいのではないかと思っているんです。数々の時代劇を見慣れて、数々の演歌歌手の歌を聞きなれていらっしゃる中で、私のところに来ていただけるのが本当に最後の方になってしまうんじゃないかと思ってしまうくらいですね。そういう中で、1部で自分自身も大好きな時代劇を、2部で民謡、演歌をやらせていただく今回のような形は、私にとって夢でもあります。自然と力が入ってしまいますね。

――歌とお芝居の両方をやる上で、特にお芝居は挑戦のような部分もあるかと思いますが、いかがでしょうか

私自身の顔は時代劇にあったような顔つきなので、そういう意味では楽に役に入っていけるんじゃないかな(笑)。歌でも、一方通行の歌い方であれば、お客さんは3曲も聴けば飽きてしまいます。そこを飽きさせずにいるために、どういうふうに見せて、組み立てていくかという部分があるんですね。お芝居も、日に日にいい方向に組み立て方を変えていきたいですし、笑いであったり、すすり泣きであったりというお客さんの反応を見ていれば、だんだん流れが良くなっていくのではないでしょうか。どちらもお客さんを見ていることを、一番大事にしたいです。自分が目立ちすぎず、共演の役者のみなさんから上手く助けていただきながら、いい波を作ってお客さんにお運びしたいですね。演出の先生とも相談しつつ、稽古中のいろんな方の動きを見ながら完成させたいと思います。

――座長として意識していることはありますか

座長をさせていただくのも今回で4回目。座長ではありますが、お城で言えば石垣のひとつ自分がコケてしまったら、全部がコケてしまう、と思いながら座長をさせていただいています。楽屋でも皆さんにちょっとしたイタズラなんかをしてみたりして。やはり、裏が面白くないと表も面白くないですから、緊張感を持ちながらも全公演を無事に楽しんで終えられるようにやっていきたいと思います。今回が初めての東京・大阪と2か所での長丁場となりますので、より神経をとがらせて臨みたいです。

――これまで座長公演を経験してきた中で、初めて臨んだ時と現在とで変化したお気持ちなどはありますか

基本的にはあまり変わっていません。セリフ、動き、殺陣と詰め込んでいると、ある時に寝ぼけてしまって、壁に頭をぶつけて目が覚めたことがありました(笑)。手には、掃除道具のコロコロを持っていましたね。それくらいの緊張感というのは、慣れてはいけないことだと今でも思っています。積み重ねてきた中で得たものは、自然と出すことができますから。セリフ、お芝居、歌に関しても、慣れてしまって、なぁなぁになってしまってはいけない。私1人がダメになってしまったら、ほかの演者さんもダメになってしまいます。回を重ねていく中で、本当に皆さんがしっかりとやぐらを組んでくださっているんだなと実感しますね。

――大阪は特に、お笑いに厳しい部分があるかと思います。そのあたりは意識されていますか

そこはあんまりないですね。実際のところ、自分自身としては、歌手としてふるいにかけられた中でも、ちゃんと1級の歌手として残っていきたいと思っています。たくさんいる歌手の方々の中でも、一枚看板でやられている方がどれほどいるかというと…やはり厳しい世界ですから。どんな場所でも、ごく普通に懸命に歌って、お芝居をしている姿をお見せできるのが一番ですけど、その普通が一番難しい。とはいえ、東京と大阪で笑いどころや泣きどころが変わってくる場合があると思うんです。そういう部分はお客さんとキャッチボールしながら、うまくやっていきたいです。私自身、時代劇が好きですし、今回も前回にもやらせていただいた殺陣がありますので、しっかり頑張ります。殺陣はまだまだ初心者ですので、お相手も含めて怪我の無いようにやっていきたいと思います。

――2部の歌のステージについては、どのようなことを考えていらっしゃいますか

今はあまり行かなくなりましたけど、歌手になる前、社会人になった頃に会社の新年会や忘年会では必ずカラオケボックスに行っていたんです。そこで、誰かが何かを歌ったら、じゃあ自分は演歌にしようかな、フォークを歌っている人の次だから、ちょっと違う感じのフォークにしようかな、と探してしまう時があったんですね。その延長線上で、聞いている側からすると揺さぶりをかけられているような感じで、お客さんを連れていけるような構成にしていけば、きっと飽きさせないという確信がある。そういう、自然にお客さまを連れていけるようなステージにしていきたいですね。子どもの頃、上手い人というのはどこが上手いんだろう、と考えたことがあったんですよ。そしたら、食いつかせるのが上手な人は声の出し方のほかにも抑揚とか押し引きの部分が上手い。お客さんを惹きつけておくために、自分も1曲1曲で別々に声を変えていくような努力をしています。目で魅せる部分で言うと、自分のオリジナルの歌や派手な躍動感のある曲の中では、踊るというか…もはや暴れている状態の演出の部分もありますので(笑)、まずはそこを頑張ります。しょっちゅうご覧いただいている方には、「そこまでやらなくても」「体を壊すよ」と心配をかけてしまっていますが、楽しんでいただければと思います。

――2024年の元旦に発売した新曲「庄内しぐれ酒」も2部のステージで披露されると思います。こちらはどのような楽曲なんでしょうか

「庄内しぐれ酒」は歌詞の内容がデビュー曲に似ているんです。都会で仕事をして稼いでいかなきゃならなくて、仕事で上手に立ち回って出世して、成功するまで故郷には帰らないと意地を張って頑張っているような歌詞なんですね。当初、ちょっと寂しい感じの曲調と楽しい印象の曲調との2種類があって、編曲と作曲の先生が楽しいアップテンポの曲にしてくださいました。私が歌うのであれば寂しい歌よりも、明るくなるような歌を聴きたいと、みなさんから言っていただけるので、作曲や編曲の先生に相談して、アップテンポのほうにしていただきました。エールや応援歌のような歌になっています。2024年は年男ですし、元旦のリリースですから、いいスタートになると思っています。

――表題曲のほか「親友(とも)よ」と「男の祭り唄」もCDには収録されていますね

今回のシングルには3曲入っているんですが、なぜ3曲になったかというのは、ディレクターが「この曲も、ちょっとやってくれないかな」と、随分と強くお願いされたからなんですね。ディレクターとは、これまでずっと一緒にやってきたんですけど、昨年に亡くなってしまって…。今まではあまりやってこなかったような曲ですが、「こうへいちゃんは、これもできるはずだから。こういう曲を作るのが上手な先生がいるから、その人でやってみようよ」と。それと、「男の祭り唄」の3曲で1枚出しましょう、それが最期のお願いだったんです。レコーディングには来られたんですけど、発売前に亡くなられてしまいました。病気も分かっていて、これが私との最期の仕事になるとわかっていたんだと思います。ディレクターが命と引き換えに、遺してくれたものですね。

――そのお話をうかがうと、「親友(とも)よ」という曲のタイトルも、胸に来るものがあります

過去にもね、いろいろと根堀り葉堀りと聞かれて、こういう曲もやってみない?という提案をしてくださっていたんですよ。「親友(とも)よ」みたいなメロディも、お客さんもちょっと新しい発見になるんじゃないかとご提案くださいました。

――最期にできることとして、福田さんの歌の世界を広げるような楽曲を一緒に作りたかったのかもしれませんね。2024年は年男ということですが、抱負をお聞かせください

私の父は51歳で亡くなったんですが、父が亡くなったことでデビュー曲が私に回ってきました。父の年齢に近づく中で、気合いを入れるというよりも、慎重に1年1年を重ねていきたいという思いです。父に勝るものは自分としては1つとしてなかったんですけど、年齢くらいは親父を超えて、その先もだんだんと味のある歌を歌っていければと思います。

――歌にはどのような想いを込めていらっしゃるんでしょうか

歌を歌っているとき、お客さんを見ながら歌うのがまず肝心なんです。全国を歩かせていただいていますが、名前は覚えられなくてもお顔は覚えているんですよ。マスクをされていても、目の印象や髪の特徴などで、覚えているんです。「2か月前の公演でお母さんいらしてましたね」「前は前列でしたけど、今度は右側ですね」とか、お声掛けすることで、お客さんにも喜んでいただける。歌以外でもそういう会話のようなものは大切にしています。

――ファンのため、お客さんのためという福田さんの強いお気持ちが伝わってきます。最後に、今回の公演を楽しみにしていらっしゃるみなさんにメッセージをお願いします

まず一つは、貫禄が出てきたな、というふうに見てもらいたい。もう一つは、懸命にやっているということを伝えたいです。初日から千秋楽まで、同じに見えるとしても、努力して懸命にやっていると思っていただける姿を見ていただきたいですね。いつも応援してくださるお客さまなど、東京と大阪の両方でご覧になる方もいらっしゃると思います。同じ演目ではありますが、東京バージョン、大阪バージョンみたいなちょっとした変化はあると思いますし、そのあたりも少し考えたいですね。一期一会ではありますが、また観たいと思っていただけるものをお届けしたいです。ぜひお越しいただければと思います!

ライター/宮崎新之
撮影/高村直希

※高村直希の「高」は「はしごだか」が正式表記