KAAT 神奈川芸術劇場<メインシーズン>上演作品、10月『まだここ通ってない』/12月『黙れ、子宮』公演詳細発表!

上記写真は、2023年公演 山田うん × 池上高志「Wild Wordless World」<ワークインプログレス>より
撮影/HAL KUZUYA

KAAT 神奈川芸術劇場では、2021年4月の長塚圭史芸術監督就任以降、4月~8月をプレシーズン、9月~翌年3月をメインシーズンとするシーズン制を導入し、メインシーズンにはシーズンタイトルを設け、年間のプログラムを実施。2024年度のメインシーズンタイトルは「某(なにがし)」だ。
私でありあなたでもあるかもしれない某、意志を持ってあるいは意志なくして正体を無くした某、また大きな思想や金儲けのために生み出される某、そして今日も一日働いて誰に褒められることもなく社会を支えている某。「某(なにがし)」のレンズを通すと、果たして何が見えてくるのだろうか。
この「某(なにがし)」をタイトルに、シェイクスピア作品から日本文学の舞台化、現代のテクノロジーと身体を問う実験的なプログラム、新作戯曲、国際共同制作等、多彩な作品が製作される。

KAAT×山田うん×池上高志『まだここ通ってない』

からだとサイエンスの豊かな共生と発見のためのエンターテインメント開幕!

上記写真は、2023年公演 山田うん × 池上高志「Wild Wordless World」<ワークインプログレス>より
撮影/HAL KUZUYA

10月にメインシーズンとして、久しぶりのダンス作品として上演されるのは、振付家・ダンサーの山田うんと人工生命研究者の池上高志がコンテンポラリーダンスと先端科学のコラボレーションにより、人間とサイエンスの関係を、またアートとサイエンスの関係を探す取り組み、『まだここ通ってない』だ。
この作品は2022年から二人が続けているプロジェクトの第二弾。池上高志と、彼が最高科学責任者を務めるオルタナティヴ・マシンによる<原始的なロボットやドローンといった人工生命の群れが、集団としての生命性・生態系を創り出すのではないか>というテーマに、ダンサーの身体が加わることで、人工生命の新たな可能性を探ろうというプロジェクト。ダンサーたちと原初的なロボットやドローンの群れとの共生、あるいは身体を持たないAIとの会話などを通して、ラベルを貼られていないむき出しの「生き物」あるいは「ひと」の存在を浮かび上がらせ、KAAT2024年メインシーズンのシーズンタイトルである「某」(なにがし)を照らし出す。

今回のKAATでのプロジェクトテーマは“記憶”。“記憶”について、池上高志と山田うんは、次のように考えているという――。
「わたしたちの記憶は、脳の中だけではなくて、自分の身体に、服や食べ物に、空の色や風の匂いのところに、しまわれている。だから、プルーストの失われた時を求めて、のプルーストは至るところで起こりうる。それは忘れた記憶だけではなくて、まだ行ったことのない場所も気がつかせてくれる。新しい記憶は、記憶によって作られる。それは、AIの時代、大幅に忘れ去られてしまったかもしれない。でも、ダンサーは覚えている。この舞台を通してそのことにもう一度頭を巡らそう。
常に人間のからだを使い創作する山田うんと、常に人工生命について考える池上高志。手段は違うが、どちらも人とは何かを探る長い旅の途中。この2人が今回の寄港地、KAAT神奈川芸術劇場のホール内特設会場で“記憶”をテーマにスパークします」

二人が続けてきたこのプロジェクトを、KAAT神奈川芸術劇場で深化させ、より多くの観客と共に感じ・考える観劇体験を実現するという。はたして私たちは、AIやロボットと人とのアライメント(共存)により、明るい未来を手に入れることができるのだろううか。もしかしたら私たちは、今まで誰も通ったことのない場所に行くことができるかもしれない。

本作に関して、KAAT 神奈川芸術劇場で芸術監督を務める長塚圭史、構成・演出を務める山田うんと池上高志からは次のようなコメントが届いた。

長塚圭史 コメント
舞踊家と科学者。空間とVR。身体と人工生命。ダンサーとドローン。言葉とコトバ。共生と発見のための未開の道のりに歩み出しますのがこのダンスエクスペリメント。山田うんさんと池上高志さんが、容易には噛み合うことのない激烈な理論を交わし合い、止揚しながら未知へと飛躍します。前人未到のハイパー・エンターテインメントをKAAT 神奈川芸術劇場で体感していただきたいと思います。

山田うん コメント
このたび KAAT 神奈川芸術劇場で、池上高志さんと舞台作品を発表します。池上さんとは2022年から共同クリエイションをはじめました。小さなロボットやドローン、VRなどを使って「人工知能(AI)」「人工生命(ALife)」と「人間」の関係を見つめ、生身の肉体を持っていない機械と、生身すぎる人間の思考をどう合わせ、どういう世界を作ることができるか考え、トライ&エラー&ディスカッションを重ねてきました。生命とは?感情とは?痛みとは?欲望とは?池上さんとの創作は、たくさんの問いが生まれて面白く、身体表現についても新鮮に捉え直すことばかりです。AIを通してできること、できないこと、使う、使わない、という選択への直結ではない、もっと違う質の技術や発想を持つための練習をしないとならないのかも、最近はそう思いながら、今回「記憶」をテーマに創作に挑んでいます。この秋、KAATで次なる一歩を展開できることで、これまでより先に進んだ面白いものをご覧いただけるかと思います。

池上高志 コメント
2022年から2023年にロボットやAI、VRを使って山田うんさんと創作した作品がとても面白くて、研究で普段やっていることとは違い、人工知能を現実世界に降ろし、もっとAIやロボットの可能性を探究できると感じました。
今回のテーマについてですが、日常生活には常に新しい発見があり、AI、特に巨大な言語モデルのchat GPTやLLaMaを使うことで、一挙に人間の知覚や認識が広がり、同じ風景でも今まで見なかったことが見えてきます。そういうことをテーマに、新しい芸術作品や表現が作れるのではないかという期待をもっています。うんさんの身体表現や身体を使って世界を、動く空間をどう見ていくかということが、言葉だけに頼りがちなAIに欠如している部分を補えると考えられるので、その点に関しても、うんさんとの試みは非常に面白くなるだろうと期待しています。

KAAT×ケダゴロ×韓国国立現代舞踊団『黙れ、子宮』

気鋭のダンスカンパニー・ケダゴロを率いる下島礼紗による、
子宮とキンタマを巡る壮大なダンス作品!

上記写真は、2021年公演より ©KNCDC_Shut Up Womb

続いて、同じくKAAT 神奈川芸術劇場がメインシーズン作品として2024年最後にお届けするのは、韓国国立現代舞踊団(KNCDC)とKAAT 神奈川芸術劇場の国際共同制作による、気鋭のダンスカンパニー・ケダゴロを率いた下島礼紗の新作ダンス公演『黙れ、子宮』。
下島は、オウム真理教や連合赤軍のリンチ殺人など集団における狂気や同調圧力をテーマにした『sky』(2018年)や、殺人事件で指名手配を受けた整形逃亡犯・福田和子を取り扱った『ビコーズカズコーズ』(2021年)、世界中に衝撃を与えた船舶事故を題材とし、KAATで初演した『세월(セウォル)』(2022年)など、常にダンス作品としては異色なジャーナリスティックな視点を持ち、実際の事件や社会問題を取り上げながら、創作を通して観客に強烈な印象と鮮烈な問いを投げかけてきた。
この『黙れ、子宮』(英題:『Shut Up Womb』)は、下島が韓国国立現代舞踊団(KNCDC)に委嘱を受け彼女自身の身体性にフォーカスを当て、2021年11月に発表した作品。KNCDC’s Asian Choreographer Project の一環として、「My family are off-limits(家族は立ち入り禁止)」という公演テーマのもと創られたこの作品は、下島が自身の身体を、韓国の文化の中で読み直して得た「気付き」から始まっている。2024年度メインシーズンのシーズンタイトル「某(なにがし)」が問うように、自分自身が何者であるのかという問題に正面から向き合い、日韓共同制作によるダンスという身体表現を通して、家族という規範の解体や分断、あるいは血のつながりや家族という枠組みから抜け出さざるを得ない個の在り方について、私たちに問いかけてくる。
本公演では2021年に発表した作品をベースに2024年度版としてさらに進化させながら再創作し、韓国のダンサーと、ケダゴロのメンバーを含む10名の日本のダンサーが壮大に綴る新作として上演される。

本公演について振付・演出・構成を務める下島礼紗は、次のようなコメントを出している。

下島礼紗 コメント
私には生まれつき子宮がありません。子宮が形成されなかったのではなく、この世に子宮を持ち込まないことを私が選択し、母の胎内で自ら子宮を取り外して産まれてきました。「胎内で自ら選択した」ということ。これは韓国の数え年の文化にインスピレーションを得て後から発見したのです。
2011年3月、18歳の私に医者は言いました。「あなたにはキンタマがあるかもしれない」。震災の真っ只中、私の身体の中でキンタマが大きく揺れていました。
“あると思っていたものがなく、ないと思っていたものがある”。この<欠落>と<余分>の感覚が、「私は女である」ことをなぜか強く自覚させました。
今回、2021年に韓国国立現代舞踊団(KNCDC)から委託され制作した作品『黙れ、子宮』を土台とし、私が、私の身体をめぐって韓国・日本で体験した出来事を題材に再創作します。
(以上、2024年度ラインアップ発表会より)

上記で紹介したいずれの作品も、ローソンチケットにてチケットの一般発売を予定。発売日などの詳細は、ローチケ(webサイト)内でご確認ください。