iiiZO新作公演『HOMEostasis Transistasisーホメオスタシス トランジスタシスー』│皆川まゆむ×住吉佑太×中込健太 インタビュー

©小山田邦哉

※「iiiZO」の「O」はスラッシュ付きOが正式表記

身体と音とが交錯する先に新たな表現が生まれようとしている。『ねじまき鳥クロニクル』などその作品が日本でも数多く上演されているインバル・ピントのカンパニーダンサーとして活動後、国内外の様々な舞台で活躍しているダンサー・振付家の皆川まゆむ。太鼓芸能集団 鼓童のメンバーとして太鼓のみならず作曲や演出を手がけながら、前衛的即興打楽器ユニット〈ケンタタクユウタタク〉としても活動する住吉佑太と中込健太。『HOMEostasis Transistasis-ホメオスタシス トランジスタシス-』はひとりのダンサーとふたりのミュージシャンによる新たなユニットiiiZO(ミゾウ)の初めての劇場公演となる。Oはデンマーク語で「島」を意味する単語らしい。3人のアーティストが鼓童の拠点である佐渡島から、そして島国日本から発信する未曾有の=誰も見たことがない身体と音のパフォーマンスはどのようなものになるのか。開幕を控えた3人に話を聞いた。

――まずはこの3人でユニットを組むことになった経緯からお聞きできればと思います

住吉 2020年に現代サーカスの作品で一緒になったのが最初のきっかけです。同じ時間を過ごすなかでお互いシンパシーを感じる部分があって、まゆむさんが「ちょっとセッションしようよ」と誘ってくれたんです。その後も会ってはセッションをしてということを繰り返していて、いつか公演をやりたいねという話もしていたんですけど、ちょうどコロナ禍の時期だったのでなかなか公演はできなかった。それが今回ようやく実現することになりました。

皆川 鼓童はもちろん皆さんご存知だと思うんですけど、一緒に仕事をするのは私はそのときが初めてで。でも、そのリハーサルを通してこの2人には鼓童で見せる魅力だけではない面白さがあるなと思ったんです。それでもっと2人のことを知りたくなった。やっぱりアーティストなので、お互いを知るにはセッションが一番早い気がしてお誘いしました。

中込 僕もコンテンポラリーダンスのことはよくわかってなかったんですけど、まゆむさんの踊りを見たときに強く惹かれるものがありました。僕は和太鼓のなかでも大太鼓という大きな太鼓を担当することが多くて、やっていることは音楽といえど、肉体性がとても強いんですね。そこでやってきたもの、大切にしてきたものがまゆむさんの踊りのなかにもあるように感じられた。それで、音楽とダンスというものの境界を超えて何かをやってみたいと思うようになりました。

舞台「カラダとオト/ウチとソト」より ©大洞博靖

――皆川さんと組むことで鼓童ともケンタタクユウタタクとも違った世界が生まれてきそうですね

住吉 僕らは打楽器のミュージシャンなので、一定のリズムがグルーヴしていくものが音楽だと思ってずっとやってきたんです。でも、まゆむさんとセッションをしたときに、音と音の隙間に何か不自由さみたいなものを感じてしまった。それは裏を返せば音と音の間にもっと無限の世界が広がっているという感覚でもあります。僕らの出す音はどうしても点の音楽になってしまうんですけど、そこを自由にいろんな線で繋いでいける可能性みたいなものをすごく感じたんです。その可能性をもう少し探究してみたくなってこのユニットをはじめました。iiiZOでは、奏でてる人の動き、動いてる人の音楽みたいなものがクロスオーバーするような作品を目指して、活動を続けていきたいと思っています。

皆川 公園や道端でのセッションの経験はやっぱり大きかったですね。2人は楽器を使った演奏者としてもちろん素晴らしいんですけど、街中をぶらぶらしながら、2人がそのあたりにある公園の遊具や道、噴水を使って出していく音とセッションをしていくうちに、この2人なら楽器から離れたところでも素晴らしいものが生み出せるということを確信しました。3人で新しい可能性を探っていくことで、振付を踊ったり楽譜を演奏するのとはまた違う表現世界が生まれてきていると思います。

住吉 僕らが最初にまゆむさんを見て思ったのは、音はなくてもいいんだということだったんです。身にまとった世界観みたいものだけで踊りが成立していて、そこが一番リスペクトしてるところでもある。だからこそ、僕ら2人はより削ぎ落とした、本当にミニマルなところから音表現ができるし、逆にそれは僕ら2人だけでは絶対にできないことでもあります。

中込 セッションでまゆむさんが踊るのを見て、本当に些細な響きからでも踊りが生まれてくるということに僕はすごく感動したんです。まゆむさんはミュージシャンとはまた違う耳を持っているんだなとも思いました。僕はちょうどコロナ禍あたりから廃材や不用品を使って自分で楽器を作るということをやりはじめたんですけど、そういう不完全な楽器から出る、それだけでは成立しないような不完全な音でもまゆむさんは踊ってくれるし、その踊りと音によって生み出される世界がある。それがすごく面白い。今回の公演でもそこからアイディアを膨らませて、動作が音に変換されるようなイメージで舞台美術兼楽器みたいなものをメンバーで手作りしています。

©小山田邦哉

――舞台美術も3人で手がけていると聞いて、本当にこの3人で舞台の上に新しい世界を創り出そうとしているんだなということを改めて感じました。舞台美術兼楽器というのはどういうことでしょうか?

皆川 ダンサーとミュージシャンの垣根を超えるといっても、実際にやろうとするとやっぱり難しくて、たとえば私が楽器を演奏したり、2人に踊ってもらったりということも試してはみたんですけど、あまり上手くいかなかったんです。お互いそれについてはプロではないんだから当たり前ですよね(笑)。それでも、3人のパフォーマンスがミュージシャンとダンサーということではなく成立するような場所を探るために、今回は約1ヶ月のクリエーション期間を設けて色々なことを試してきました。

住吉 動きを作っていくなかで同時に音が立ち上がってくるような、そこに必然性のあるパフォーマンスがどうしたら実現するのかということを考えていって出てきた答えの一つが舞台美術兼楽器なんです。そこでパフォーマンスをすることが、そのまま音を奏でることになる。たとえば、生の踊りを近くで見ていると、衣擦れや足音が聞こえますよね。それを増幅したものが音楽になっていくようなパフォーマンスができないかというようなことを考えながら試行錯誤しているところです。

©小山田邦哉

――作品のテーマについてもお聞きしたいと思います。タイトルは状態を保とうとする性質を意味する「恒常性 homeostasis」と 状態を変化させようとする性質を意味する「変転性 transistasis」という対になる二つの言葉で構成されています。さらに「家 HOME」という言葉も含まれていますが、このタイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか?

皆川 作品づくりにも色々なやり方がありますよね。ライブ感を大事にした即興もあれば、あるストーリーに基づいて何かを演じるようなパフォーマンスもある。それで、今回の公演はどんなやり方がいいかと考えたときに、どちらでもなくそのあいだのようなやり方ができないかと思ったんです。私たちが演じることをしないでも、作品が提示する世界観に観客が没入できるようなテーマは何かないだろうかと考えていったときに出てきたのが外側と内側、そしてその間というキーワードでした。たとえば、ずっと家にいると外に出たくなる一方で、外に出ると家に帰りたくなったりする。でもそれは、その両方があるからいいんだと思うんです。内と外と、その中間。それは安定と変化とその間ということにもつながっています。ちょうど私たちは3人なので、舞台の上の3人を見ることで、3つの場所で生きている人間の姿と、そこにある世界観が立ち上がってくるといいなと思ってクリエーションをしています。

――最後に、観客の方に向けて見どころなどを一言ずつお願いします

住吉 鼓童の活動で僕らは和太鼓を使った生音の表現を追求してきました。それが今回は音響機器を使った表現に挑戦している。そういう意味で、シンプルに音楽としてすごく新しいところに行けると思うので、身体性の面白さと合わせてそこもぜひ感じてもらいたいです。

中込 今回、僕らは太鼓を叩かないということを宣言していて、それはやっぱり自分たちにとっても大きなチャレンジです。僕らが太鼓で育んできた身体性が、他の楽器や音が入ってくることでどうなっていくのか。それも見どころの一つだと思うので、だからこそ鼓童を見てくれている人や太鼓が好きなお客さんにも見に来てほしいですね。

皆川 iiiZOが面白いのはやっぱりメンバーにミュージシャンとダンサーがいるというところだと思うので、音楽が好きな人にもダンスが好きな人も見に来てもらえたら嬉しいです。パフォーマンスとしては聞き慣れない音が聞こえてきたり、見慣れない状況が目の前で起きたりする可能性が高いとは思うんですけど、それを楽しんでほしい。新しいもの、見たことがないものを見たいというお客さんの期待は裏切らないと思うので、是非見に来ていただけたらと思います。

取材・文/山崎健太(「崎」の字は、タツサキが正式表記)

公演直前ティザー第2弾公開!!
映像:「カラダとオト/ウチとソト」@十和田市民文化センター生涯学習ホールより