つかこうへい TRIPLE IMPACT「初級革命講座・飛龍伝」「ロマンス2015」「いつも心に太陽を」
柳下 大×鈴木勝大 インタビュー
「つかこうへい」の六文字を、何らかの思い出やノスタルジーと共に思い返す大人はきっと少なくない。強烈な毒で社会を斬ったり、熱い純愛をその奥底に潜めたり。亡くなって4年が経つ今もなお、その喪失は多くの演劇(を愛する)人の心に大きな穴をあけている。
2月に開幕する『つかこうへいTRIPLE IMPACT』。上演期間を3つに分けて、『初級革命講座 飛龍伝』『ロマンス2015』『いつも心に太陽を』の3作品を、若手俳優の主演で蘇らせようという試みだ。『いつも~』に出演する柳下大は26歳、『ロマンス』に出演する鈴木勝大は21歳。つか作品が演劇界に旋風をまきちらしていた頃には、まだ生まれていなかった世代である。
柳下「つかさんのせりふって、どこか中毒性があると思うんですよ。演じていて、気持ちよくなってしまうほど。今まで到達したことのない感情や言葉のやりとりを毎回体感するんです」
鈴木「つかさんの作品って、同じ作品でも、演じる人によって全然違うんですよね。僕はちょうど1年ほど前に『熱海殺人事件』に出演したんですが、ものっすごく絞られたんです。「そのシーン、面白くなるまで繰り返しやってろ!」って(笑)。でもそのうちせりふがせりふじゃなくなって、リズムに応じて勝手に出てくる「何か」になったんですね。その瞬間「これか!」と思いました。何かを考える隙はない。始まったら、走るしかないんだと」
つか作品は過酷だ。2時間強の上演時間を、フルパワーで全力疾走しなくてはいけない。かなりの長距離を、きわめて短距離的な走法で、毎日毎日。
鈴木「ドラマ自体も、ぎゅんぎゅん変わっていきますからね。愛を語っていた次の瞬間、ピストルを向け合っていたりしますから。身体も心も、常に俊敏でいなきゃいけない。その緊張感は、常にありますね」
このご時世、観客の多くは「面白いに違いない舞台」あるいは「大好きなイケメンを観られる舞台」に吸い寄せられる。言葉が機関銃のように浴びせられて、ドラマについていくのにも多少のエネルギーを要するつか作品が、「ただ座っていれば楽しい気持ちにさせてくれる芝居」を好む観客層に、果たして何を届けられるのか。
柳下「いや、そういう方たちにこそ、つかさんの作品に触れてほしいと思いますよ。テレビや映画じゃなくて生の「演劇」を好きなのであれば、こんなに「生」を感じさせてくれる舞台って他にないと思います。もっと言えば、つかさんの作品を観ることで、他の舞台の見え方が変わると思うんですよ。目に見えていることの奥の方まで見通す目が育つというか」
鈴木「お芝居ってよく「わからない」イコール「つまらない」とされてしまいがちだけど、つかさんの作品はたとえわからなくても、絶対に観た価値があると思えるんですよね。ストーリーというより、僕らの心に起きる感情の変化を観てほしい」
今回はつかの右腕として長年演出を担ってきた岡村俊一のほか、劇団『柿喰う客』で力の溢れる舞台を編みあげる若手劇作家・中屋敷法仁が演出を手がけることも話題だ。
柳下「岡村さんをはじめ、つかさんの魂をつかんだ人たちによる舞台と、それを継承したいと思っている僕らの世代による舞台。この「境い目」感は今こそ観るべきだと思うし、今しか観られないと思いますね」
映画も舞台もJ-POPも、今は「愛」とか「勇気」とか「希望」とかをただ羅列する時代。ちょっとどうも居心地が悪いぞ、ともし思っているなら、この舞台を観るべきである。できれば2回以上。
柳下「つかさんは、憎らしさや汚さも含めた「本当の人間」を書こうとされていたのだと思うんです。例えば、本当に好きな相手だからこそ「好きだよ」とはなかなか言えないじゃないですか。そこを、つかさんは突いてくる。好きな相手に「馬鹿やろう!」って言っちゃうんですね。好きな気持ちがあればあるほど、その全く逆の言葉によって、本当の思いが色濃く見えてくるんですよ」
鈴木「そういう感情の起伏を演じていると、役者の感覚としては、飛び込んだら一瞬で終わっちゃう!っていう感じなんです。芝居が始まると、自動的に身体が動いて、気づけば終わっているという。お客さんにも、そんな感覚を味わっていただけたら嬉しいですね」
極寒の季節、どこまでも熱い男たちの激闘を観に、劇場へ急ごう。
文:小川 志津子