同窓会で次々に暴かれる過去の罪
蓬莱×井上が挑むストレートプレイ
日本ミュージカル界の“プリンス・オブ・プリンス”として名を馳せる井上芳雄だが、3~4月に出演する「正しい教室」はストレートプレイ。井上たっての希望により、作・演出は井上と同世代の蓬莱竜太(モダンスイマーズ)が手がける。
井上「蓬莱さんとは同じパルコ劇場の“TRIANGLE”シリーズ(蓬莱脚本、井上主演の3人ミュージカルで、過去2作上演)の脚本を書いてもらったんですけど、あれは僕のフィールドに近いものだったので、今度はがっつりとセリフだけでつづる蓬莱さんの世界を、そしてできれば演出もしてもらいたいと思ったんです。蓬莱さんの作品はどんな話を書いてもどこかまなざしが温かいというか、つらい結末でも何かしらの希望があるという意味では、尊敬する井上ひさし先生と決して遠くないなと感じます。ただ井上先生が舞台にしていた時代と違って、今自分たちが生きてる時代は白黒つけづらく、何が正しくて何が間違ってるって言いにくい。蓬莱さんも良い悪いをはっきり言いたくないけれども、とにかく考えつづけていかなきゃいけないという姿勢で書いているように感じて。諦めないという意味ではまだそこに希望があると思うし、そういうところがすごく好きなのかな」
そんな蓬莱から渡されたのは、とある地方都市での同窓会を舞台にした骨太な人間ドラマ。井上の目には白黒つけないと見える蓬莱は、「正しい教室」という題名に何を託したのか。教師をしている男(井上)が同窓会に出席するが、招かれざるかつての担任教師(近藤正臣)が現れたことで会の様相が一変する、というストーリー。
井上「とても面白かったですね。ストーリーが思いもよらない方向に進んでいって、どんでん返しもたくさんあって、気づいたら夢中になってました。“同窓会あるある”みたいな感じで(笑)、前半は面白く進んでいくんですけど、元担任の出現でみんなが凍りつき『あのとき先生がああ言ったせいで自分は今こうなったんだ』『いや違う』っていうような言い合いのなかで、どこまで教育のせいにできるのか、自分の人生の責任や落とし前はどこにあるんだろうということが、けっこうぐちゃぐちゃしている、面白い話でした」
井上自身は、同窓会に出たことが一度もないそう。
井上「ほんとに仲がいい人とは会ってますからね。名前を覚えるのが苦手だから思い出せなくて気まずいんじゃないかとか、『どんな有名人と仕事してるの?』って絶対聞かれるだろうとか、ネガティブな要素しか浮かばなくて(笑)。聞かれてもいいんですけど、そういうとき、『いや、別にないよ~』って引いちゃうか、『誰々さんはすごかったよ!』みたいに積極的に乗っかるかのどっちかしかなくて、立ち位置が難しいんです(笑)。あと、この物語もそうだけど、故郷に残れば地元の同級生とつながることにとても意味があると思うんですけど、僕は東京に出た人間だから、そういう意味でもピンと来ないんだと思います」
ミュージカルを軸に、ストレートプレイ、ショー、コンサート……など、彼が立つ舞台のジャンルは実は幅広い。浦井健治、山崎育三郎とのアイドルユニットのStarSでも新しいファンを多数獲得した。
井上「色んなことをやっているのでいい意味でのミクスチャーというか、混乱(笑)はファンの方に与えているのではないかなと。ミュージカルのお客様がそのままストレートプレイに来てくれるかというと必ずしもそうではないと思うんですけど、願わくば、『井上くんがやるならジャンル関係なくきっと面白いだろう』と思ってもらえるぐらいになりたい。それにはまず自分が興味を持って、クオリティが高く面白いものを提供し続けなければならないと思っています」
インタビュー・文/武田吏都
Photo/Masataka-Shinobe
構成/月刊ローソンチケット編集部
【プロフィール】
■井上芳雄(イノウエ ヨシオ)
‘79年、福岡県出身。東京芸術大在学中に、ミュージカル「エリザベート」のルドルフ役でデビュー。6~8月には、そのデビュー作「エリザベート」にトート役(Wキャスト)で出演決定
【舞台『正しい教室』のSPOT映像!】