プロデュース公演などでの活躍もめざましい、劇団イキウメを主宰する劇作家・前川知大。
彼が劇団公演からはみ出たものに取り組む場、それが別ユニット「カタルシツ」だ。
カタルシツが今回取り上げる作品は、「地下室の手記」。初演(2013年)の二人芝居を、今回はイキウメの劇団員・安井順平の一人芝居として新たに挑んだ。
先日、赤坂REDシアターで初日を迎えた舞台は、ドストエフスキー原作ではありながら、まさに今を感じさせるものだった。
自らの意思で、人との関わりを避けて地下室にこもることにした「男」。
設定は現代になり、主人公の「男」はSNSやストリーミングを使いこなしている。
しかし、周囲とうまく折り合いがつけられず居場所を見つけられない不安感は、時代によって変わるものではない。
「男」は自らの過去の出来事を、ネットでの動画生中継に乗せて延々と語り出す。演じる安井の、見事な独り相撲っぷりは圧巻である。
「男」の話は、本人の真剣さや思慮深さの度が過ぎているせいか、聞けば聞くほど滑稽でもの哀しい。
周りとちょうど良い距離感を取る難しさは、誰にでも経験があるだろう。
小さな地下劇場空間で繰り広げられる「男」の物語を、観客は大笑いしながら楽しんだ後、見終わったときには「男」のことを笑えない気持ちになっている。
イキウメで、前川と安井がオリジナルに表現しているものと通底するテーマに、原作小説を通じて取り組んだ本作は、一人芝居化したことで、より切実さが増した作品になっている。
ローチケ演劇部