撮影・柴田和彦
前作「水の戯れ」で夫婦間の不安定な愛情を緻密に描写した岩松了が、新作でも再び夫婦を題材に筆を執った。夫に宮藤官九郎、妻に麻生久美子という初の本格共演の2人を配したM&O playsプロデュース「結びの庭」が、5日夜に東京・本多劇場で幕を開ける。ほかに安藤玉恵、太賀、そして岩松によるこのサスペンスチックな5人芝居の、初日前日に行われたゲネプロの様子をレポートする。
財界の大物を父に持つ令嬢・瞳子(麻生)と敏腕弁護士・水島(宮藤)が結婚して1年。5年前、恋人だった男の殺害容疑をかけられた瞳子の裁判を水島が弁護し、無罪を勝ち取ったことが2人のなれそめだった。結婚一周年を迎えてもなお仲睦まじい2人を、屋敷に出入りする家政婦の丸尾(安藤)、水島の秘書・近藤(太賀)は温かく見守っている。そんな2人の前に、5年前の事件の真相を知ると語る謎の男・末次(岩松)が現れ……。
セレブな若夫婦の住まいらしいセンスのいいリビングと、隣接する緑豊かな庭のみでほぼ展開。序盤は、いまだ新婚気分の抜けない水島夫妻の浮き足立った雰囲気が、作品全体にも漂ってほほえましい。インテリのエリートという普段あまり演じない役に、三つ揃いのスーツにメガネというカッチリした姿で扮する宮藤が新鮮だ。酒の入ったグラスをカチッと合わせた直後に、瞳子をグッと引き寄せてキス、といった場面も。細身のスーツが綺麗にキマるシルエットや全体的な空気感など、宮藤は不思議な色気を漂わせている。その宮藤扮する水島に「こわいよ、オレは。いつまでたっても、こうやってあいつのことが好きなままだってことがさ」と言わしめる妻・瞳子を演じる麻生。登場時のペールピンクのドレスがよく似合う可憐な令嬢そのものだが、接する人物によって異なる顔を見せたりする多面的な女性だ。多少意地悪でヒステリックな面もあるが、彼女の芯にあるのも夫への強い愛。自覚的か無自覚かはわからないが、その愛ゆえに男を惑わせていく“ファム・ファタル”な存在と言えるだろう。約5年前に岩松作品「マレーヒルの幻影」で初舞台を踏んだ麻生が、持ち前のはかなさと包容力の両面を生かし、魅力的に演じている。この夫婦に翻弄されながらも“仕える者の矜持”を垣間見せる家政婦役の安藤と秘書役の太賀も、少人数の座組において、各々の役割を的確に務め上げる。特に安藤演じる丸尾は、彼女の目線から語られる物語という意味でも、陰の主役的存在。
その、それまで現実感たっぷりだったキャラクターの丸尾と、岩松扮する闖入者の末次が、後半のシュールな展開を呼び込む。岩松ワールド独特の眩惑を与えられながらも、最後まで確かに残るのは夫婦の愛。玉虫色のハッピーエンドが、不思議と心地よいのだ。
撮影・柴田和彦
>宮藤
引き受けたとき、ここまで夫婦の愛にあふれた芝居だとは思っていなかったので、台本を読んでドキドキしました。でも恐ろしいものでやっていくうちに慣れてきて、カッコいい役をやるのが当たり前、みたいな(笑)。ずいぶん傲慢だなってときどき思うんですけど。台詞も、最初は声に出して読むのにすごい勇気が必要だったのに、今全然やれてますから。ただ、妻の麻生さんを守らなきゃいけない役なのに、いろいろテキトーで申し訳ない。もうちょっと頼りがいのある人になりたいですね。「カッコつけていい」って言われている珍しい状況で、“カッコいい俺”が見られるのはここだけです(笑)。別に笑うためでもいいので、ぜひ観に来てください。
>麻生
岩松さんの舞台は大好きだったんですけど、私の理解力の問題なのか、難しいことが結構多くて。でも「わからなくても、そのまま受け止めよう」という感じで楽しんでいたんですけど、今回はいつもよりわかりやすいというか、物語に入っていきやすい。もちろん今もわからないところはたくさんあるけど、前より視界がクリアになってすごくうれしいんです。他の役者さんたちも役にぴったり合っていてとても魅力的に見えると思いますし、お芝居していてとても楽しいです。宮藤さんも色っぽくて、つい目で追っちゃいます(笑)。ただ悲しいお話なので、これから何回も演じていく上で、自分がどういう変化していくのかが楽しみでもありますね。
>岩松
登場人数が少ない分、話がコンパクトになっているし、殺人事件の話なんかも一応あったりするので(笑)、つかみやすい世界観なんじゃないでしょうか。全ての役を、役者さんの印象に基づいて書きました。宮藤くんは前回出てもらったときもわりと二枚目の役だったので、僕がそういう印象を抱いているのかもしれない。麻生さんとは2度目ですが、よりいい女優さんになっているなと。実はすごく達者な人です。好きな役者さんばかりなので、僕も楽しいですよ。以前、烏丸せつこさんに「あんた幸せよ! みんな自分の言うとおりに動くんだから」って言われたんだけど(笑)、この楽しさを思うと、彼女の言ってたこともあながち嘘じゃないなと思いました。
文・武田 吏都
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