同じ時代を生きる2人の女王の物語
10年の時を経て、2人の女優が挑む
16世紀のイギリスを舞台に、まったく性格の違う2人の女王の生き様を描いた舞台『メアリー・スチュアート』。奔放な恋愛を楽しみ「男で身を滅ぼした」と言われるスコットランド女王・メアリーと、「処女王」と呼ばれ一生を政治に身を捧げたイングランド女王・エリザベス、そしてその侍女たち4役を、中谷美紀と神野三鈴が演じ分ける。
中谷「瞬時に演じるキャラクターを入れ替えなくてはならないというのは、とても難しいこと。2人芝居なので、相手の演技をよく観察し話す言葉によく耳を傾けなければ、劇場の空間を満たすことはできないでしょう。その一方で2人だからこそ生み出せるエネルギーもあるはず。演じる難しさを逆手に取って、うまく作品に昇華できたら」
エリザベス役の神野とは、彼女の舞台を観てからというものぜひ共演してみたいと思っていたそう。
中谷「2人芝居なので、信頼できる女優さんとご一緒させていただけることは何よりもありがたいです。神野さんはその圧倒的な存在感はもちろん、特徴的なお声が魅力。そのお声は時に深い闇を抱えた人物の声にも聞こえるし、妖精のように清らかな声に聞こえることもある。そんな神野さんの巧みな表現をぜひ学ばせていただきたいです」
中谷演じるメアリーと神野扮するエリザベス、史実ではふたりは常に拮抗した力関係にあり、メアリーがエリザベスによって処刑されるまで顔を合わせたことはなかったと言われている。ところが、この作品では2人の女王は夢の中で出会い、政治や宗教、そして男たちに翻弄されるひとりの「女」として、互いの人生を共有することとなる。女王である前に「女」でありたかった――、そんなふたりの心の叫びを感じられる作品でもある。
中谷「私が演じるメアリーは、男性関係も奔放。エリザベスが徹頭徹尾理性で自分を制していたのに対して、メアリーはそのときの感情に素直に動いてしまうようなあさはかな部分もある女性です。国のため、国民のために尽くすべき女王という立場にあるはずなのに、時に愚かな選択を繰り返してしまう。でもそこに人間らしい魅力があると私は思うんです」
パブリックな「中谷美紀」のイメージはどちらかというと、自制心が強くしっかり者のエリザベスに近いと思うが――と投げかけてみると、「私にはメアリーのような選択ができないからこそ、彼女がうらやましくもあるんです」という返事が返ってきた。
中谷「この作品のヒロインは2人の女王ですが、ふたりの生き方や悩みは、働く多くの女性にも共感できる物語だと思います。政治のために自分の女としての幸せを犠牲にしなければならなかった彼女たちの姿は、現代の女性たちにも置き換えることができるのではないでしょうか。この2人の女王を演じてみることによって、私自身も働く女性のあり方についてあらためて考えてみたいと思っていますし、ぜひ女性のみなさんに見て感じていただけたらうれしいですね」
インタビュー・文/まつざきみわこ
構成/月刊ローソンチケット編集部
【プロフィール】
中谷美紀
■ナカタニ ミキ ’76年、東京都出身。’93年女優デビュー。以降、確かな演技力と透明感のあるたたずまいで多数の作品に出演。初舞台の「猟銃」(’11年)で第46回紀伊国屋演劇賞個人賞、「ロスト・イン・ヨンカーズ」(’13年)では読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞するなど、舞台作品でも輝きを増している。