☆東京公演 追加公演が決定!!詳細は⇒コチラ
★インタビュー<前編>は⇒コチラ
――こづえさんにお聞きします。衣裳はどんなイメージから作ったのでしょうか?
ひびのこづえ(以下、ひ):イメージの元は、開次さんのあの絵(チラシのメインビジュアル)です。『LIVE BONE』(以下、『LB』)はわりと好き勝手にやっていて…『踊る内臓』があったからその延長で“骨”のイメージに行ったのかな…「精霊」って言われて骨の衣裳を提案したのもそういうところにあるかもしれない。今回は、まず開次さんのこの絵を何度も何度も見て、これを実現するためにはどうしよう?って頭に置いて考えてたわけ。だけど、このイメージどおりに作って出したところで開次さんはびっくりしないな、と。開次さんを先にびっくりさせないことには、観客もびっくりしない。だから、まずは開次さんをびっくりさせることがわたしの使命だと思ってますね。ほかのどんな仕事でもそうなんですが、他人の言うとおりにだけやっていると自分のテンションは落ちるし、自分のテンションが落ちたものを出すと、結局全部のテンションが落ちるんですよ。とにかく最初に自分のテンションが上がっているものを一度投げて、ちょっと待つ。だんだん待ちきれなくなって、開次さんに「そろそろ決めてくれ」って言うんですけどね(笑)。わたしの衣裳を“実験”として使って遊んでもらいたくて。と同時に、開次さんも新しいものに一度トライしてみてよ!という気持ちもありますね。
――じゃあ今回は、一番最初に開次さんからOKが出たのが、このチラシの衣裳だったわけですね。
ひ:いや、これはチラシ作りに間に合うようにとドタバタで作りました。でもこれも、開次さんのイメージ画の「涙」から来てるんですよ。絵の要素をチラシの中に入れていこうというところから始まった、いろんなものの組み合わせです。
――この絵が本当にすべてのベースというわけですね。川瀬さんは、現時点で楽曲の構想はありますか?
川瀬浩介(以下、川):現時点でお話できることはですね…実は、このイメージ画のように、僕のところへ開次さんによるデモ曲が送られてくるんですが、今はそれに苦しめられている状況です(苦笑)。開次さんの秀逸なデモ曲があってね。これを超えるのか!?とまずつまづいたんです。
――え!デモ曲は開次さんが作るんですか?
森山開次(以下、森):フンフン~って鼻歌で歌ってるのを録音したものですね。ソロではなく多くの人がかかわる作品になると、ワークショップや稽古で振付を早く始めたいと思っても、ダンスは台本が無いから作品イメージを共有するのが大変なんですよ。だから、自分の中のイメージを早いうちからどんどん周りに投げつけるわけです。みんながそれをどう超えてくるかな?って期待しながらね。
――『LB』の音楽は、音楽というよりほとんどことばで、説明のような感じでしたね。それを聞いて子どもたちもキャッキャと笑っていて。
森:そうですね。今回も、まったくわからないものより、ことばとか、衣裳の色とか、なにか見た目のアイコンのようなものがあるといいなと思っています。芝居とか音楽とかダンスとか垣根なくいろんなものを投入してやっていきたいですね。「ダンス作品」にしましょう!みたいな堅いことは考えてないです。
――今回、キーワードのひとつに「子どもたち」がありますが、年齢は大人でも、「ダンスを初めて観る人」は子どもたちと同じ感覚だと思うんです。みなさんはダンスを初めて観たときどんな経験をしましたか?
森:舞台上のダンスを初めて見たのは、20歳過ぎに見たミュージカルだったと思います。ダンスといえば…恥ずかしい話なんですけど、実は当時、バレエって何なんだろう!?と思ってしまうくらいクラシックバレエをよく知らなくて。ところがバレエとの初めての出会いは「稽古場で、タイツ姿の女性たちがバーレッスンをしている」姿で…すごく衝撃的でしたね、バレエの稽古場!
――こづえさんはいかがですか?
ひ:わたしはね…いちばん最初に見たダンスは、大学のときにイギリスへ行って観た「CATS」かな。学生だからそんなに高いチケットは買えなくて、上のほうの階のいちばんはじっこの席だったんですよね。こうやって(柵の上で腕を組んであごを乗せるしぐさ)始まるまでどきどきしながらずっと待ってるわけ。で、上演が始まって、ふと横見たらそこに猫(=ダンサー)がいたの。
森:客席から出てくるんだ!
ひ:そう。開いてるところがあって、そこから出てくるの。わたしがこうやってる(柵にもたれて観ている)上を猫が歩いて通るわけ。でもぜんぜん気づかずにふっと横を見たら猫と目が合って、うわっ怖い!と思ったら、目の前を猫が悠然と通り過ぎていくんですよ。それがもう、ダンスというか舞台というものの最初のインパクトかな。だからこんな仕事やってるのかも…だから開次さんとも一緒にやりたくなるのかな。
――川瀬さんは、初めて観たダンス、どんな作品でした?
川:1990年代後半頃のダムタイプだと思います。あれは、ダンスというより僕にとってはロックだったんですよね。目がくらむくらいストロボが光ってて、耳をつんざくような高周波から重低音まで鳴らす。彼らは海外公演までやるほどの集団らしい。そういうたぐいの情報って、義務教育を受けるだけの暮らしをしてたらまず伝わってこないものだから、目の前のこれはいったい何なんだろう!?と思いましたね。当時は、ダンスの音楽に興味があったからこそ観に行ってたし、見よう見まねみたいなことをやってた時期もありましたけど、いま思うとなんて青臭かったんだろうと思います。頭でっかちだったなあと。あの頃はたぶん僕の中に「大人向けの表現をしてやろう!できることならこれまで見たことも聴いたこともないような新しいものを作ってやる!」というような思いがあったんですよ。でも、それは大きな間違いだったなと思いました。特に『LB』を手がけるようになってからね。純真な、無垢な子どもたちに伝えることのほうが本当は難しいことなんですよね。
<新国立劇場 夏のこども劇場セット 記者発表の様子(森山開次)>
――子どもたちについて、こづえさんが制作発表でおっしゃっていた「大人が見たいものを子どもたちも見たいはずだ」ということばがとても印象的だったんです。この作品を子どもたちにどう楽しんでもらいたいですか?
森:こう見てほしい、という考えは特にないですよ。僕、小さい頃、身体表現が不得意だったので…この作品を見たことによってその子の何かが開花してほしい!なんてことまでは思っていません。たとえばワークショップをやってみると、すぐに身体を動かせる子もいれば、隅っこで見てる子もいる。隅っこで見てる子も、そこにいてくれたことがうれしいんですよ。そういう場を共有できたということ。小さい頃の僕も、盆踊りの輪には入れなくて外にいたけど、空間をともにしている感じはあったから。当時の僕は踊るタイプじゃなかった、というだけのことなんです。「ダンスって素晴らしいからみんなで踊りましょう」とまでは思いませんが、せっかくだから一緒の空間にいられたらいいですよね。
ひ:「大人向け」「子ども向け」って言われるけど、ほんとはそんな境界はなくて、いい作品は大人が子どもも連れて行くよね。歌舞伎とか、おじいちゃんおばあちゃんが孫の手を引いて行くじゃない。それに大人だって、大人向けって言われても、見てすぐに「理解できた」とは言えずに帰ってくることもある。境界線がないものを作りたいですよね。大人が見ても大満足して帰れるものにしたい。
――最後にあらためてこの3人のチームについて教えてください。「この3人のときだけ意識していること」「この3人で手がける仕事のときだけやっていること」、あるいは、こづえさんと川瀬さんが「開次さんと一緒のときだけ意識していること」はありますか?
ひ:他の仕事だと、みんなでやろうと言っても、どうしても演出家が先頭に立ってどんどん決めていく印象があるんだけど、その役割の境目がもうちょっとぼんやりしてるチーム…だとうれしいなぁ(笑)。チームのメンバーとコミュニケーションがとれないと、クリエイターって孤独になってしまって、すごく寂しさを感じることがあるんです。寂しくならないようにしたいですね。コミュニケーションをとって、開次さんからもいっぱいだめ出しをもらわなきゃ。
川:僕は、いまそう聞かれて初めて思いましたけど、「コンテンポラリーダンスっぽいことはやらない」ってことは意識しますね。「コンテンポラリーダンスを見に行くとよくこういう音楽が流れてる」というのはやらないようにしようと。現代音楽を多用しすぎるとかね。音楽の仕事をしている立場で、ダンスを観に行ってそういう音楽を聞いた瞬間、もっとほかに選曲する曲があったんじゃないかな?と思っちゃうんです。そういうことをすると大人は「ああ、ありがちだな」と思うだろうし、子どもたちはピンと来ないから。まあ『サーカス』がどうなるか、まだわからないですけどね。
――開次さん、いまのおふたりの話を聞いていかがですか?
森:『LB』と『サーカス』とでは、作品に対する3人の立ち位置が同じ場合もあるだろうし、違う場合も必要だなと思います。
『LB』のときは、「こづえさんの衣裳に対してNOと言わない」って決めてるし、どんな衣裳が来ても踊ってやると思ってる。そうすることで生まれるものがあるし、どんな衣裳が来るか?って楽しみもありますしね。覚悟を決めることで、責任をもって作品を背負える。作品の流れはできているからあとは流れに乗ればいいしね。音楽も、A⇒B⇒Cメロって決まった順番ではなくて、川瀬さんがアドリブで順番を変えてきたとしても、着地点は決まってるからそこへ持ってかなきゃいけない(笑)、その戦いを楽しんだりして。
ただ今回は、出演者も僕だけではないですし、僕が先導を切る必要があると思っています。自分がしたいことはしたいと言うべきだろうし、これは嫌だということも言っていかなきゃいけない。僕、「答えはたくさんある」と思っちゃうタイプで、やれる可能性があるならやってみようとやってしまう。それは楽しいけど、迷走すると思うんです。今回は、自分はこうしたい!ということをきちんと言わなければいけないと思っています。
ひ:わたし、『サーカス』は、『LB』のように一生続けていく作品のひとつだと思ってるんですよ。どんどん進化させる作品にしたい。
森:状況がどう変化しても、最終的に1歩前に進めるようにずっとつなげてきたという意味で、この3人でやってきた『LB』はかけがえのないものですね。いままでの関係性もふまえつつ、『LB』の延長ではない、僕たち3人の新しい関係性があったらいいなと思います。
取材・文・写真:ローチケ演劇部(た)
★インタビュー<後編>は⇒コチラ
【プロフィール】
■【演出・振付・出演】 森山開次 (モリヤマ カイジ)
21歳でダンスを始め、2001年ソロ作品の発表を開始。05年『KATANA』で「驚異のダンサー」(ニューヨークタイムズ紙)と評され、07年ベネチアビエンナーレ招聘。12年『曼荼羅の宇宙』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、江口隆哉賞、松山バレエ団顕彰・芸術奨励賞を受賞。演劇・映画・写真作品等幅広い媒体での身体表現に積極的に取り組んでいる。「情熱大陸」「からだであそぼ」等メディア出演も多い。平成25年度文化庁文化交流使。
■【美術・衣裳】 ひびのこづえ (ヒビノ コヅエ)
静岡県生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。コスチューム・アーティストとして広告、演劇、ダンス、バレエ、映画、テレビなど、その発表の場は多岐にわたる。毎日ファッション大賞新人賞、資生堂奨励賞受賞、他展覧会多数。1997年作家名を内藤こづえより改める。NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」のセット衣裳を担当中。歌舞伎「野田版 研ぎ辰の討たれ」、野田秀樹作・演出「ザ・キャラクター」「MIWA」「エッグ」などのほか、新国立劇場ではオペラ「さまよえるオランダ人」、こどものためのオペラ劇場「ジークフリートの冒険」「スペース・トゥーランドット」、ダンス公演・菊池純子「メタモルフォシス」、演劇公演・野田秀樹「贋作・桜の森の満開の下」の衣裳を手がけた。オペラ「フィガロの結婚~庭師は見た!~」衣装担当。5月26日金沢歌劇座より全国順次公演。森山開次とは、NHK教育テレビ「からだであそぼ」、パフォーマンス・劇場版などの「LIVE BONE」シリーズでコラボレーションを行っている。http://haction.co.jp/kodue/
■【音楽】 川瀬浩介 (カワセ コウスケ)
作曲家・美術家。1970年京都生まれ 東京育ち。2002年光のための音楽《Long Autumn Sweet Thing》を発表し、デビュー。05年、愛知万博で発表された映像作品《ポピュラスケープ》の音楽を担当。その雄大でロマンティックな楽曲は「この映像世界に魂を吹き込んだ」と評された。10年、第13回文化庁メディア芸術祭に、代表作《ベアリング・グロッケン II》が出展され話題に。12年、東京スカイツリーで催されたイルミネーションイベントにて最新作《光の音色:a tone of light》を発表。NHK教育テレビ「からだであそぼ~踊る内臓」の音楽を担当し、森山開次、ひびのこづえと「LIVE BONE」シリーズでツアーを共にしている。デビュー以来、「間口が広く奥行きのあるもの」を追求している。「あなたの心に眠る感動を呼び覚ますこと──それが私の使命です」http://www.kawasekohske.info
【公演情報】
森山開次『サーカス』
<東京公演>
日程:6/20[土]~28[日]
会場:新国立劇場 小劇場
<兵庫公演>
日程:7/4[土] 15:30開演
会場:兵庫県立芸術センター 阪急 中ホール