Reading Live Show「アンゴスチュラ・ビターズな君へ」高泉淳子インタビュー

 

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 クリスマスシーズンを迎えた小さなフレンチレストランでの風景を、ちょっと個性的な来客たちにまつわるショートストーリーと洗練されたジャズの生演奏でつづっていく「ア・ラ・カルト」。25年にわたって愛されてきた青山円形劇場の風物詩は、同劇場の閉館にともない、’14年のファイナル公演と翌年のアンコール公演をもって、いったんその幕を閉じた。

 これからもどこかで「ア・ラ・カルト」を。そんな声は当初から大きかったが、同じ想いは、台本・演出・出演をこなす高泉淳子らプレイヤーたちにもあったようだ。そんな中、去る2月に東京で上演されたのが、Reading Live Show「アンゴスチュラ・ビターズな君へ」だった。

 

高泉「実は、『ア・ラ・カルト』のための場所探しはしていたんですが、納得できる形でやれる同じ規模の劇場や、準備に時間と予算をかけられる環境がなかなか見出せなかったんです。そうしていろいろ回っているうちに、中西俊博さん(ヴァイオリン/『ア・ラ・カルト』の音楽監督)と、『じゃあ、自分たちが大切にしているものは妥協せずに、できるところから。例えば、「ア・ラ・カルト」のラジオドラマ版なんてどうだろう?』という話になって。

というのも、’08年の『ア・ラ・カルト』20周年の時に、この舞台と同じタイトルで五つの物語を小説化していて、以前にも兵庫でリーディング公演をやったり、『ア・ラ・カルト』の季節が近付くと、ライブでほんの一部を披露したりしていたんですね。それに私、そもそもラジオドラマが大好き! この春、23年ぶりに復刻した『おいしい時間の作りかた』も、そんな雰囲気のあるCDなんですよ」

 

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1日だけの公演。とはいえ、本番を迎えるまでは不安で仕方なかったと言う。

 

高泉「アンコール公演を終えたばかりの時期だったこともあり、自分たちにも、それからお客様の中にも、何か物足りなさが残るかもしれないと考えると眠れなかったんです。でも当日は、客席から惜しみない拍手をいただいたくことができて!

今になっての新たな体験もありました。例えば、ミュージシャンのみんなが、私という“声の楽器”から出てきた言葉を受け取ってから、自分たちの音を作ってくれているのを目の当たりにできたこと。『ア・ラ・カルト』では、音楽が流れている間、私はほとんど裏で着替えていたので(笑)、同じ舞台上で一緒に物語を創り上げているという実感があまりなかったんです。だからこれは普通の朗読ではない。みんなとはそう話しています。落語家や講談師じゃないけれど、常に動いているような意識をもって私はお話しているし、ミュージシャンはミュージシャンで、単にバック演奏をしているわけではけっしてなくて。つまり全員が主役で表現者なんですね」

 

今回は、久しぶりに再会する父娘の話(「バナナのブランデーマリネ」)のほか、小説に収められていないエピソードなども盛り込まれる予定だ。

 

高泉「21年目の『ア・ラ・カルト』以降に書き始め、定番になっていった年老いた男女のお話を最後に入れようと思っています。父と娘の話はね、最近の『ア・ラ・カルト』では封印していたんですがここで解禁(笑)。なんと、ゲスト出演してくださる三谷幸喜さんと山寺宏一さんに父親役をやっていただきます! 『アンゴスチュラ~』では、まるで映画のように音楽や歌がシーンを彩りますが、お二人が父親の心境を歌う歌も用意されていますよ。

三谷さんは、毎日歌の自主稽古をしてくださっていて、「アドリブを入れてもいいかな」なんて相談の電話もよくかかってきます。山寺さんも、実は父親役をほとんどやったことがないそうで、とても張り切ってくれていて。なぁんて言いながら、本当は私自身が一番、共演できるのを楽しみにしているんですけど(笑)」

 

「楽器とマイクとプレイヤーだけで潔く」と高泉。一見、不自由なようで、実はこのスタイルだからこそ、多くの準備を必要とする芝居形式では実現できなかったさまざまな可能性が広がっているように感じられる。

 

高泉「お二人のようなゲストもお呼びしやすいですしね。それに、このスタイルなら、すぐそこのミーティングルームとか、はたまた誰かのお家とか、すごく小さなスペースでも気軽に上演できるはずなんです。数十年後、私たちメンバーが年を取って歩けなくなってもきっと大丈夫(笑)。今後は新しいお話も増やしていって、『ア・ラ・カルト』と並ぶもう一つの大人のステージとして確立していけたら。そうしてまた、『ア・ラ・カルト』もできるようになればさらにいいな思います」

 

ちなみに、タイトルにあるアンゴスチュラ・ビターズとは、小説中のお話の一つに登場するリキュールの一種。ほんの一滴入れるだけで、その飲み物を絶妙に美味しくするのだそう。

 

高泉「アンゴスチュラ・ビターズのような何かがちょっとだけ足されているお話と音楽。この作品をご覧になったら、ほかの舞台にはないどこか大人の“風味”を感じていただけると思います。『ア・ラ・カルト』ファンの方はまた別の味わい方があるでしょうし、これまでご覧になっていない方なら初めて味わう楽しみが待っている。思い思いに堪能していただけたら嬉しいです」

インタビュー・文/大高由子

 

高泉淳子 タカイズミ アツコ

女優、劇作家、演出家。早稲田大学卒業後、’83年、白井晃らとともに遊◎(←中の○は●)機械/全自動シアターを結成。老若男女を演じ分ける役者として人気を得る。’13年に三谷幸喜作・演出「ホロビッツの対話」と「ア・ラ・カルト2」で、読売演劇大賞優秀女優賞受賞。歌手としても活躍を続ける。

 

【公演概要】

高泉淳子「アンゴスチュラ・ビターズな君へ」

台本・演出:高泉淳子
出演:
高泉淳子
中西俊博(Violin)
有田純弘(guitar/mandolin)、Patrick Nugier(vo/accordion)、Brent Nussey(bass)

特別ゲスト:三谷幸喜(8/22)、山寺宏一(8/23)

公演日程:2015/8/21(金)~8/23(日)
会場:Bunkamuraシアターコクーン