彩の国さいたま芸術劇場を拠点に、蜷川幸雄が率いる若手の俳優集団「さいたまネクスト・シアター」。ここの2期生として所属し、前田敦子を相手に印象的な演技を見せた「太陽2068」、フォーティンブラスを演じた藤原竜也主演「ハムレット」ら、蜷川演出の外部舞台でも活躍する“蜷川の秘蔵っ子”が内田健司だ。17年ぶりの復活として話題の「NINAGAWA・マクベス」にも、父王ダンカン(瑳川哲朗)をマクベス(市村正親)に殺され、兄マルカム(柳楽優弥)とともに復讐に燃えるドナルベーン役で出演。華奢な身体やささやくような声が印象的で、師匠の蜷川から“現代の若者の象徴”的ポジションを与えられている彼が、この桜舞い散る和モノのシェイクスピア劇で、どんな若者像を見せるか。
――現在「NINAGAWA・マクベス」の稽古中とのことですが、感触はいかがですか?
「本格的な和モノの舞台は初めてなんですけど、予想以上に苦労しているのが立ち回りです。僕が悪いのか、難易度が高いのかわからないんですけど(笑)。ただこの前、殺陣の先生に『キャスティングが決まった時点で、苦労しないように自分でやっておくべきじゃないか』と言われて、『あ、そうだよな』と(笑)。いや、笑い事じゃないんですけど。もし俳優という職業を選ぶんだったら、それが仕事だよなと改めて思いました。殺陣や着付けなんかは物理的で具体的なことだから、事前にできないことはないですから。これは早くも反省した点です(苦笑)」
――でも普段から蜷川さんの近くにいらっしゃるから、俳優としての意識は同世代の俳優よりも高いのではと想像するのですが。
「どうでしょう……。でも同世代でも、プロの俳優さんは独立してやっていますから。僕らはまだ確実に、“蜷川さん”という名前の中でやっているなと思うので」
――“プロの俳優さん”という客観的な表現がユニークですね。ご自分にはその意識はない?
「えっと、それは難しいところで(苦笑)。確かにお金をもらってやっているから、お仕事としてちゃんとやらなきゃいけないですよね。と同時にはっきり言って、蜷川さんの作品だから入れてもらっているだけだと思っているので。テクニックとかの部分では僕が選ばれる理由はないですし。そういう、ふたつの意識がある感じです」
――とはいえ、ホームのさいたまネクスト・シアターではここのところ主役続きですし、ノッている注目株という印象を受けます。俳優としての充実感が出てきた頃に役も大きくなってきたというような、自分の中で何かリンクはあったんでしょうか?
「しないです。しなかったなぁ。キャスティングのことは僕にはわからないんですけど、蜷川さんの中にはテーマがありますよね。その瞬間持っているテーマに沿うキャラクターだったっていうのが大きな要因じゃないですかね。その他に理由はあんまり(苦笑)。だからいつも同じように大きな役をやれるわけではないし、それでいいと思います。蜷川さんがよく言うのは、『ネクストには実体なんてないんだから、動き続けないとダメだよ』って。『実体はなくて実際しかないから、自分で動き続けろ』とずっと言われていますね」
――そのホームと、この「NINAGAWA・マクベス」のような外部の舞台で一番異なるところは?
「意識として一番違うのは、稽古初日と稽古が終わった後。ネクストはみんな知り合いだから集まったって別に挨拶しなくていいし、終わった後に付き合いで飲みに行くってことも僕はほとんどないんです。そういう組織じゃないですし。だけど外部の場合は“社会”ですから、そこが一番違います。この前、最初の顔合わせがあって、やっぱりチラシに大きく名前が載るような方には、ペーペーの僕から挨拶しなきゃいけないじゃないですか。それは当然のことですよね。で、しなきゃしなきゃと思って、『今は台本読んでる』『蜷川さんと話してるな』とかって様子を見ているうち、ほとんど誰にも挨拶できなくて(笑)。最悪だったのが、タイトルロールの市村さんには絶対行こう、ここクリアしなきゃいけないと思いながらやっぱり様子を見てたら、あちらから来られて肩をパンッ!って叩かれて、『この前、ネクスト・シアターで観たよ!』って。『あああ、これもう、すごい態度の悪い新人だよ!』って思いました(笑)」
――「NINAGAWA・マクベス」はその特徴的なセットから“仏壇マクベス”と呼ばれている伝説的な作品ですが、内田さんの世代だと、そういう作品に出るんだという気負いはない感じ?
「そうですね。この前、蜷川さんのところにずっといらっしゃった先輩が稽古場をのぞいてくださって、『これは本当に伝説の作品だから』って。でも素直に『そうですね!』って感じじゃなくて、『そうでしょうけど』っていうか(笑)。かといって『そんなのわかんねえよ』って思っているわけじゃなくて、伝説の作品だという事実はありつつ、僕にとっては結局、蜷川さんが演出する『マクベス』に出演させていただくというだけですね」
――内田さんはネクスト・シアターで「ハムレット」や「リチャード二世」を経験していますが、シェイクスピアは好きですか?
「好きかもしれないです、結構。読み合わせをしたとき、マクベスの終盤のセリフとかほんとにいいなと思ったし。ただ僕個人として絶対的に好きかっていうとちょっと違って、やっぱり蜷川さんの解釈が介入して初めて、『それは痛いな、悲しいな』って思える感じ。僕がただ出会ったところで全く現実味がないし、本当の意味で心を動かされることはないと思うんですけど、蜷川さんの解釈を通じて、自分にもそういうことがあるかもしれない、あり得たかもしれないっていう普遍性や実感を、初めて味わった感じですね」
――ドナルベーンとして、この作品にどう挑んでいきますか?
「読み合わせのときに蜷川さんが、『もっと大きな運命のうねりがさぁ!』みたいなことをおっしゃったんです。今回に限らず、古典ではいつもこういう言葉が出るんですけど。で、僕もいつも『そうだよなぁ』って思うんです。ドナルベーンという役のディテールは立ち稽古をしてみないとわからないんですけど、『もうちょっと大きいところでやろう。だから意味あるんだよな、シェイクスピア』って思いました。やっぱり自分とは圧倒的に距離のある人をやるんだから、もっと大きくやろう、あ、大仰ってことじゃなく、大きな解釈や目で見て演じようと思いました」
――例えば、四六時中スマホに支配されるようなチマチマした現代生活の中で、“大きな運命のうねり”を感じるのは難しいことではないですか?
「そうですねえ。でも『こんなの今の僕じゃわかんない』じゃなくて、『あ、こんな大きな物語なんだ』って、いつも新鮮に感動できているのはいいことかなって思うんですね。蜷川さんだからなのかわからないんですけど、それを演劇の魅力として感じています」
取材・文:武田吏都
≫蜷川幸雄 インタビューはこちら
≫吉田鋼太郎 インタビューはこちら
≫市村正親 インタビューはこちら
【公演情報】
NINAGAWA・マクベス
公演日程・会場: 9/7[月]~10/3[土] Bunkamuraシアターコクーン
料金: S席¥13,500 A席¥9,500
Lコード:37080
★プレイガイド独占! チケット残りわずか!詳しくは下記ボタンをクリック!