あの「仏壇マクベス」が17年ぶりに復活!
『NINAGAWA・マクベス』柳楽優弥インタビュー
蜷川幸雄の『マクベス』といえば、往年の演劇ファンにはすぐ“仏壇マクベス”という言葉が浮かぶだろう。マクベスを安土桃山時代に置き換え、舞台に仏壇を設えた斬新な演出は大きな反響を呼び、蜷川演出の名を世界に知らしめることとなる。
その後、封印されたこの“仏壇マクベス”が、今回集大成として復活することとなった。しかもマクベス役に市村正親、マクベス夫人役に田中裕子と豪華キャストも顔を揃えたこの公演、全方位的に注目が集まる中でマルカムを演じるのは、昨今舞台、映像作品ともに存在感を増す柳楽優弥。蜷川作品は初舞台だった2012年の『海辺のカフカ』以来となる。
「蜷川さんと“二回目”、というのが一番嬉しいですね。初舞台だった一回目とは違い、また誘って頂けた、という嬉しさがあります。蜷川さんと相談しながら、“自分なりのマルカム”をしっかりやりたいと思います」
蜷川演出といえば、初めて参加した若手俳優は殆どの場合、その壮絶な“洗礼”とも言える厳しさで追い込まれることとなる。それは柳楽も例外ではなかったようだ。しかも柳楽の場合、初舞台。当時の印象を問うと……。
「怖かった、ですね(笑)。普段は優しいんですけど、稽古になると厳しくなる」
蜷川が稽古場で追い込んでいく方法は、俳優や状況によりケースバイケース。徹底的に言うか、もしくは何も“言わない”か。
「僕はその両方でしたね。言われないほうがキツイんですよ。例えば冒頭のシーンが、僕ともう1人、2人しか出てないんですね。そこで『ど頭2人だけだから、他の人たちは楽にしていいよ』ってみんなに言われたりとか……ぼそっと一言だけ言われて放っておかれるとか。でも、初日乾杯で『華々しい初日だね!』って肩をポンと叩いてくれて、それがすごく嬉しかったんです」
初舞台のプレッシャーが、少しほどけた瞬間。しかし、ではそこからは順調だったかと思うと、けしてそうではない。
「東京公演と大阪公演の間が1ヶ月空いたんですね。その間にいろいろ抜けちゃったらしく……大阪公演前の稽古で『お前、その銀行員みたいな喋り方やめろ!』って言われて。みんなに聞きましたもん、『僕、銀行員みたいですかねぇ……』って」
しかし、鮮烈な初舞台の経験は、確実に彼の血肉となった。その後、宮本亜門演出の『金閣寺』で再び舞台を踏み、好評価を得た彼。
「僕、いい舞台ばかり出てますよね? 自分でも気に入ってるんですよこの並び」と笑うが、それは今、俳優・柳楽優弥がいかに評価され、求められているかということの現れだろう。
「初舞台から舞台も映像でも多少経験を積んできている分、『海辺のカフカ』よりは舞台を広く見ることができるかもしれない。『金閣寺』に出ていた時、お客さんの反応が聞こえるようになったというか……お客さんの笑う場面も毎回変わるし、自分の演技も変わってくるということを体感していったんですよね。新たな課題は確実に今回も見つかると思うし、少しでもそれをクリアしていけるように頑張りたいです」
また、今感じているのは蜷川作品、しかも“シェイクスピア作品”に出られるという幸せ、だという。
「同世代や先輩俳優でも、蜷川作品、しかもシェイクスピア作品に一度は出たい、という声をたくさん聞きますから。そんな中、自分がこのタイミングで出していただけるのは本当に幸運だなと。あと僕、マクベスの『きれいはきたない、きたないはきれい』という言葉が大好きなんですよ。たまたまなんですけど」
数年前、映画『ヴェニスの商人』を見て、その面白さに衝撃を受けたという。その後、戯曲やシェイクスピア名言集などの本を読む中、強烈に彼の心に響いたのがこの『マクベス』の有名なセリフ。
「でも、シェイクスピアって難しいじゃないですか。戯曲を一人で読んでいてもなかなか入ってこないんですよね。だから今回、作品として関われるのはそういう意味でも楽しみなんです。趣味で読むのとは絶対変わってきますから」
「僕、この作品やってる間にシェイクスピア作品のファンだって言い出すかも(笑)」と笑う柳楽。抑制の効いた役からハイテンションな役まで、近年そのレンジの幅広さに観る側は翻弄される事が多いが、インタビューで話している本人は至って自然体でマイペースなことに改めて驚かされる。そんな彼が満を持して挑む『NINAGAWA・マクベス』、観逃し厳禁! であることは間違いない。
取材・文:川口有紀
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【公演情報】
NINAGAWA・マクベス
公演日程・会場: 9/7[月]~10/3[土] Bunkamuraシアターコクーン
料金: S席¥13,500 A席¥9,500
Lコード:37080
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