池田純矢、鈴木勝吾、井澤勇貴。
若手俳優の中でもめきめきと頭角を現しつつあるこの三者が顔を合わせる舞台といえばミュージカル『薄桜鬼』などが思い浮かぶのだが、今回の作品は、3人がこれまで経験してきた現場とはひと味もふた味も違うものになりそうだ。
その名は「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」。
脚本家、演出家としてはもちろん、作家やミュージシャン、コピーライターなどさまざまな顔をもつ奇才、故・中島らもが’92年に上演し話題を呼んだ作品だ。演出は中島とは知己の間柄であり、ストレートプレイ、ミュージカル、時代劇など多彩な作品を手がけるG2が担当する。
舞台は昭和16年の満州。日本が第二次世界大戦へ踏み出そうとしている矢先に、軍隊の慰問に訪れようとしているあるサーカス団がいた。その慰問が軍から見て適正なものであるか視察に来た軍人たちと、クセ者ぞろいのサーカス団員たちとの丁々発止のやり取りが続く。日本で食べ物が不足している非常時に動物たちに餌をやることをとがめられた団員たちは、「餌を食わない動物もいるんですよ」と、一頭の動物を連れてきた。この“ベイビーさん”、見る人によって姿が異なるという不思議な生き物。そしてこのベイビーさんを巡って、とんでもない騒動が巻き起こる…。
元々中島らも作品のファンであり、今回主役を務める池田はこう語る。
池田「起承転結の中に、友情や恋愛、家族愛といったいろんな要素がギュッと詰まっていて、一つの物語としてすごくよく出来ているんですよ。かつ、話のスパイスとして”ベイビーさん”っていうよくわからないものが出てきて、よくわからないまま話が展開するんですけど(笑)、この存在が加わることで普遍的なストーリーがすごく生き生きとしたものに化けてるんだろうなって。『物語を作りたい人はまずこれ読んでみたら?』っていうくらい完成度が高いというか、非の打ちどころのない作品だと思いました」
先に挙げた「薄桜鬼」など、これまで数々の舞台で共演してきた3人。「作品の空気にすぐ順応できる、スキルの高い役者」(鈴木)、「仕事に臨む姿勢がストイック。100点では満足しない人」(井澤)と仲間が評する池田が演じるのは、カタブツの内海少尉だ。
池田「これまではアクションが大きくて感情的で、わかりやすい役を演じることが多かったんですけど…内海ってキャラクターは集団意識の塊みたいな人間なのに、サーカス団の面々の影響でどんどん自我が芽生えてきてしまうんですよ。なので、そんな自分に臆してるようなところがあって。そういった葛藤を、表面的にじゃなく内面的に表現しなければいけない。発しているセリフとは真逆の心でいないといけないっていうのが、この役の難しさなのかなって思っています」
その池田が「器用ではないけど、役に対する集中力や本番での爆発力が並外れてる」と語り、「芸術家肌なところがあって、芝居に対してはすごく慎重派」と井澤が分析する鈴木は、サーカス団に拾われる孤児・少年(ボーズ)を演じる。
鈴木「台本を読むまでは、戦争で悲しい目に遭ってきているから、もっとスレた感じのキャラクターなのかなって思ってたんですよ。でもボーズは馬が大好きで、彼にはベイビーさんがきれいな馬に見える。自分の夢をベイビーさんに投影できるような純粋な部分を残してるんですよ。彼はサーカス団に入ることで、やっと本来の子供らしさを取り戻していくんですけど、演じる上で彼の持っているピュア感を大切にしたいなって思います」
そしてサーカスの花形であるゾウを操り、サーカスのMCも務める“ゾウさん”を演じるのが井澤。共演の2人に「芝居や歌、ダンスのスキルも高い。総合力に長けてる」(池田)、「板の上に立つと本当に華がある。ズルいよね(笑)」と褒めちぎられて照れていたが…。
井澤「ゾウさんは紳士的で面倒見がいい人物なのかなって。ゆるい人っぽく見えるんですけど、そもそも生き物の世話をするってこまめで面倒見がよくないとできないことですもんね? 動物だけじゃなく登場人物一人一人に対しても、例えばいきなりサーカス団に入ってきたボーズにも全然邪険にはしないですし。ゾウさんはステージ上に立ってる時とバックヤードにいる時のモードの切り替えというか、そこが悩みどころになるかもしれないなって」
3人は今回がG2と初顔合わせ。さらに、今回“らもワールド”を表現するにあたり集結するのは、役者以外にもさまざまな分野で活躍する松尾貴史、鴻上尚史率いる第三舞台出身の小須田康人、G2作品の常連・久保酎吉といったベテランぞろいだ。そんな本作への意気込みやいかに…?
井澤「すごく面白い作品なので、それを演じる上での重圧感や不安はありますね。素晴らしい役者さんたちとご一緒することになるんですけど、そのなかでもどこか“負けたくない”っていう意地みたいな気持ちがあって。勝てないかもしれないけど、負けないような心意気で臨んでいきたいと思ってます」
鈴木「G2さんや諸先輩方っていうのは一緒に作品を作っていく仲間なので、僕はみなさんの胸をかりて、今やれることを全部ぶつけたいと思ってるんですよ。でもこの作品が面白くならなかったら、それはもう役者の責任だっていうプレッシャーは感じます。僕ら若手だと役不足だなって思われるのが一番怖いですし。この作品が持つ面白みをどうみんなで見せていけるのか?って、そればっかり考えてますね」
池田「それはあるよね。G2さんは舞台をやっている役者からすればいつかは一緒にやりたい憧れの演出家さんの一人で、それがこんなに早く叶うとは思ってなかったですし、そんな作品でなぜか僕がこうやって真ん中に立たせてもらうっていうのも、本当に気が引き締まります。自分も役者としての意地があるので、一緒にお仕事する上で今までG2さんが見てこなかったような何かを提供できたらと思いますね。その上で、最終的にこの面白い作品をよりよくしなければという気持ちがあります」
実態のよくわからない“ベイビーさん”を巡る本作は、本人たちも「絶対映像じゃできないもんね」(鈴木)、「舞台でやるから面白いんだと思う」(井澤)と語る、演劇ならではの醍醐味を味わえる作品といえる。ところでベイビーさんって、本当は何なのだろう?
池田「なんなんですかね?(笑) でも、なんだかわからないのがいいんじゃないですか? 想像は自由なので、答えをお客さんそれぞれに委ねるというか。そういう想像や思考は自由であるべきだということも、この作品で伝えられたらいいなって思います」
物語や時代設定の興味深さに加え、若手役者×ベテラン役者のカンパニーを奇才演出家が束ねるという取り合わせの妙が光る舞台。どんな人におすすめしたいか、最後に3人に聞いてみた。
池田「この作品は、誰が観ても絶対面白いっていうのはあると思うんですよ。あと、今の時代って何かに縛られてるように感じてる人が多いと思うんですね。自由なようでいて、自分がこう思ったということを言いたくても言えない。言葉に自由がないというか…そういう風に、言葉に不自由を感じてる人に観てもらったら、すごく気持ちが晴れるんじゃないかな。基本的に、全人類に観てほしいですけど」
井澤「(笑)。まず芝居が好きな人には絶対観てほしいですし、らもさんの作品に触れたことのない人にもこの機会に是非観ていただいて、この面白くて独特な世界に飛び込んできていただきたいなって」
鈴木「純矢とは少し違うんだけど、モヤモヤしてる人に観て欲しいかな。今って、時代の変化と上手く折り合いがつけられなくて苦しんでる人が増えてると思うんですよ。でも悩んでることの答えはわりと自由だったりして、おのおのの感性に従えばいいじゃん!って。台本読んでて、そういうことを実はらもさんも考えてたんだなって思ったんです。だからこの作品で悩んでることの答えを見つけてもらって、それがその人の新しい一歩につながればいいかなって」
~Profile~
池田純矢
イケダ ジュンヤ
’92年、大阪府出身。`06年に「JUNONスーパーボーイコンテスト」で史上最年少準グランプリを獲得し、デビュー。今年夏には自ら企画し作・演出なども手がけた「エン*ゲキ#01『君との距離は100億光年』」を上演。11/21[土]劇場上映「デジモンアドベンチャーtri.」、今冬公開の映画「ライチ☆光クラブ」にも出演している。
鈴木勝吾
スズキ ショウゴ
’89年、神奈川県出身。’09年に「侍戦隊シンケンジャー」のシンケングリーン/谷千明役でデビュー。ドラマや映画のほか、ミュージカル「薄桜鬼」シリーズの風間千景色役などさまざまな舞台作品でも活躍中。映画「野良犬はダンスを踊る」が2015年10月10日に公開。
井澤勇貴
イザワ ユウキ
’92年、東京都出身。’11年の舞台「PEACE MAKER 〜新撰組参上〜」を皮切りに、さまざまな舞台に出演。これまでに「Messiah メサイア」「CLUB SLAZY」「薄桜鬼」シリーズなど、人気作に多数出演している。
取材・文:古知屋ジュン
★「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について」コメント動画が到着!
作:中島らも
演出:G2
出演:池田純矢 鈴木勝吾 井澤勇貴 入来茉里/小須田康人/松尾貴史
久保酎吉 植本 潤 木下政治 林希 坂元健児 六本木康人 横山敬
一般発売:9/26(土)10:00~