音楽劇『レミング~世界の涯まで連れてって~』 笹目浩之×麿 赤兒インタビュー

 レミング2015宣材
  
緊急対談!
音楽劇『レミング~世界の涯まで連れてって~』
笹目浩之×麿 赤兒
  
2013年、アングラ演劇の旗手である寺山修司の名作を、維新派の松本雄吉が大胆に再構築したことで大きな話題を集めた音楽劇『レミング~世界の涯まで連れてって~』。この度、2年ぶり、かつ、スケールアップしての再演がいよいよ開幕する。この公演の仕掛人であるプロデューサーの笹目浩之、そして、今回が初参加、かつては唐十郎率いる状況劇場に身を置き、現在は舞踏カンパニー大駱駝艦の主宰者である麿 赤兒に、寺山修司について存分に語ってもらった。 

新『レミング』が誕生するまで
  
――はじめに、プロデューサーの笹目さんに、2年前の『レミング』の立ち上げから振り返っていただきたいと思います。数ある寺山修司作品のうち、なぜこの作品を選ばれたのですか?
  
笹目 そもそもの原点は、僕の過去をお話することになるんですが、寺山さんが亡くなる前年の1982年、僕が19歳の時に初めて観た寺山作品が、紀伊國屋ホールでの『レミング~壁抜け男~』だったんです。そこで僕は、ポスターハリス・カンパニーの設立など、その後の人生を文字通り“貼り”替えるほどの衝撃を受けてしまいまして(笑)。それは、テラヤマ・ワールドの継承にしても、演劇プロデューサーとしての活動にしても、今の僕のすべてに言えることなんですけど。
  
――当時、維新派の松本雄吉さんが演出されることに驚いた演劇ファンは多かったと思います。
  
笹目 寺山さんの没後20年に上演した『青ひげ公の城』(2003年)は、九條映子さん(寺山の元妻。演劇実験室◉天井棧敷のプロデューサーやテラヤマ・ワールドの共同代表取締役も務めていた)から、「今回は(天井棧敷出身の)J・A・シーザーに演出でやってほしい」という要望があって、79年の再演という形で上演しました。没後30年の時は、演出家も私に任せていただいたので、「今、誰と組んだら、一番、面白いものができるか?」と考えて、そこで思い至ったのが、寺山さんの『レミング』の世界と松本さんの壮大な「ヂャンヂャン☆オペラ」との融合だったんです。音楽も内橋和久さんに全面的に書き直していただきました。最初は無謀かなと思いつつ(笑)、結果としては、没後30年にふさわしいいいタッグが組めたと満足しています。
  
――いっぽう、麿さんは、これまでに『レミング』をご覧になったことはありますか?
  
麿 いや、笹目君が初めて『レミング』を観ていた頃は、僕は唐十郎のマインド・コントロールから解けたつもりになって、大駱駝艦の活動に集中していた時期だったからねぇ。そんな僕が寺山さんの作品を観ても、また頭がおかしくなるだろうし、それに借金取りからも逃げ回っていたから(二人笑)。
でも、2年前の映像を見させてもらった時は、「ワオー!」って感じだったな。寺山さんの作品がバラッバラに解体されて、なおかつ素晴らしく再構築されている。これは慧眼があるな、事件だなと。
  
――維新派の松本さんについては?
  
麿 僕はね、松本君とは古いんです。それに松本君は寺山さんとも因縁がある。というのも、その昔、彼の東京公演を僕が世話してやった時に、寺山さんにも観てもらったことがあってね。その時、寺山さんから「あんなこと(白塗り)やってたら、麿と同じになっちゃうぞ」って言われたらしくて(笑)。ただ、その後、彼は大変な苦労をして、ヂャンヂャン☆オペラを確立していった。でも、維新派での少年少女の描き方なんかを見ていると、彼は寺山さんの本を相当読んでるんじゃないかと思うんだけど。
  
笹目 そうですね(笑)。研究してらっしゃったみたいです。
  
麿 だろうね。唐にしても、寺山さんの本をかなり読んでいたから。表面的には喧嘩をしながら、ボス同士では繋がっている。知らぬのはバカな役者ばかりでございます(二人笑)。
  
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【撮影:福山楡青】
  
実は繋がっていた天井棧敷と状況劇場
  
――先程からチラホラお話が出ていますが、寺山さんの天井棧敷と、麿さんがいらっしゃった唐さんの状況劇場は、火花バチバチのライバル関係だったと言われています(笑)。
  
笹目 お互いに客演するなんて考えられなかった時代ですか? 黒テントと紅テントは仲がよかったと聞いていますけど。
  
麿 いやいや、それはちょっとな(笑)。お互いがセクトみたいなもんだったから、新宿のゴールデン街で意味もなく喧嘩になったりしてた。天井棧敷との関係は、まぁ、一種のスタンドプレーですよ。唐はまだ世間には知られてないけど、俳句や短歌で知られている寺山さんと喧嘩するうちに上がっていこうと。そうしてそれを社会問題化して「これこそ演劇だ!」なんて仕掛けようとしたところはあったかもしれない(笑)、結果論としては。でも、そのへんは寺山さんの方が上手(うわて)だったからねぇ。
  
笹目 唐さんが、処女戯曲『24時53分「塔の下」行きは竹早町の駄菓子屋の前で待っている』(64年)をいろいろな劇作家に送った時に、一番反応してくれたのが寺山さんだったとも聞きます。状況劇場新聞や『煉夢術』(65年)のチラシにも、「唐十郎君を紹介する」みたいな推薦文を寺山さんは書いていて。
  
麿 そうそう。実は唐にとっては兄貴分みたいな感じだったんだな。
  
――天井棧敷と状況劇場といえば、69年の乱闘事件(天井棧敷が状況劇場のテント公演初日に葬式用の花を贈り、唐ら状況劇場のメンバーが天井棧敷を襲撃)を思い起こすので、ちょっと意外です。
  
笹目 聞いた話だと、もともとは状況劇場が、パチンコ屋からパクってきたかもしれないような花輪を送ってきたって……。
  
麿 それはやってた。でも、ちゃんとしたやつだよ。葬式用の花じゃねえぞ!
  
笹目 天井棧敷としては、当時の制作さんが寺山さんの許諾を得ずに贈ってしまったというのが真相らしいんですけどね。
  
麿 そんなの分かりませんよ、こっちは(二人笑)。
  
笹目 ただ、寺山さんは、事件に関する新聞記事をすべてスクラップしていたんです。で、いろいろと入っている封筒の表にはまず、「路上劇 葬式の花輪」って書いてあって、その後には「主演:寺山修司、唐十郎/協力:渋谷警察署/宣伝:朝日新聞」なんて続いている(笑)。もう、虚構化しちゃってるわけですよ。これぞ寺山修司の演劇の思想という感じで。それを見た時はビックリしました。
  
麿  当時、僕のことを、「(モノマネしながら)あいつはいいかもしれないぞ」と寺山さんが言ってるとはチラッと耳にしていたんだよ。それでもあの乱闘騒ぎの時、寺山さんに今で言う“壁ドン”をしたら、「(再びモノマネしながら)お前ら、どったの?」って。もう、握り拳の行きどころがなくなっちゃって「あぁ、いい人だなぁ」って(笑)。唐と目が似てるんだよな。あの少年のようなつぶらな瞳が。
  
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【撮影:福山楡青】
  
今、寺山ワールドが支持される理由
  
――2年ぶりの上演となる『レミング』。再演に至った経緯を教えてください。
  
笹目 実は、東京芸術劇場「RooTS」シリーズでの『書を捨てよ町へ出よう』について、以前から相談を受けていて。それはちょうど前回の『レミング』を上演していた頃だったんですが、PARCO劇場ほどのキャパでは、役者が大きく見えてしまい、いつもの維新派のスケール感がうまく出せないなと感じていたんです。もともと再演をしようという話は当初からあったので、じゃあ、『書を捨てよ~』を上演するシアターイーストの上にある大きい劇場(プレイハウス)をお借りして、“寺山修司祭り”にしたら面白いんじゃないかと。しかも、寺山生誕80年の2015年、誕生月である12月に標準を合わせて。松本さんは、「前回と同じことはしたくない」とおっしゃってくれています。再演といっても新作に近い形になっていますね。
  
――麿さんも含め、主要キャストも一新されていますね。
  
笹目 麿さんにはすぐにご快諾していただきました。一応、松本さんにもうかがったんです。「麿さんにオファーしてもいいですか?」って(笑)。
  
麿  畳の下に住んでいる、主人公の一人の母親という役で。たまに首だけ出してりゃいいかなと思っていたら、そんなに楽でもないんだよなぁ。
  
笹目 ただ、お母さん役はとても重要な役ですよね。寺山さんのいい台詞も多いですし。
  
麿 息子をいじめまくるババアなんだけど、いじめることが愛することだと。まぁ、寺山さんの台詞だから、分からないけど美しい。物語自体も、A面、B面、C面……みたいに幾重にもわたる層が出てきたり入ったりしてきて。それにしても、美輪さんの演出で出させてもらった『毛皮のマリー』にしても、寺山さんほど、母親と息子の関係をいろいろな形で派生させている劇作家はあまりいないと思う。
  
笹目 そうですね。それは『身毒丸』もしかりで。
  
――最後に、大きな質問で恐縮ですが、今なお、寺山作品が人々を魅了する理由はどこにあると思いますか?
  
笹目 一度やるとその魅力の虜になる台詞の美しさだと思います。今の戯曲って、ほとんどが話し言葉じゃないですか。でも、中学・高校時代から俳句や短歌で言葉を研ぎ澄ます訓練をしてきた、詩人の寺山さんから生まれる最後の決め台詞は、ほかものとはまったく違う次元のもので。
  
麿そうだな。寺山さんの戯曲を読んでいるとカクンと物語の中に入ってくんだよ。ちょっと入っただけで迷宮の中をさまよい、旅することになって、でも、そこから出てきた時にはホッともするような。そういう体験は、普通の芝居じゃなかなかできない。
  
笹目 ここ最近、寺山さんの俳句や短歌が中高の教科書などに載っていること、あとは、『書を捨てよ~』のような寺山さんの監督作品が残っていることが、今の若者に影響を与えているようなんです。寺山さんはよくサブカルチャーのカテゴリーに入れられるけど、実はメインもやっているんですよ。そこを入口にしていった30代のクリエイターから、寺山ワールド全開!ではない意外な作品を「舞台化させてください」と相談も受けることもあります。それから、アンソロジー的な本での使用許諾も増えてきているんです。教科書で出合った名句名歌百選とか、人生の節目に読むうんぬんみたいな。
  
麿 逆に、現代の方がコンセンサスを得られているのかもしれないな。そもそも寺山さんの世界って、普通に考えればかなり“邪”だよ(笑)。「本当は怖いグリム童話」じゃないけどさ。でも、若者はそこを魅力的だと感じてキャッチしていくんだろうね。
  
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【撮影:福山楡青】
  
  
笹目浩之 ささめ・ひろゆき
‘63茨城県出身。87年にポスターハリス・カンパニーを設立し、現代の演劇ポスターの収集、保存、公開などを通して演劇界、美術界の活性に尽力する。テラヤマ・ワールド代表取締役、三沢市寺山修司記念館副館長。演劇プロデューサーとしても活躍している。
  
麿 赤兒 まろ・あかじ
‘43石川県出身。「ぶどうの会」を経て、 64年より舞踏家・土方巽に師事。その間、唐十郎が主宰する状況劇場設立にも参加する。72年、舞踏劇団「大駱駝艦」を旗揚げ。スペクタクル性あふれる独自の様式“天賦典式”は、世界的に高い評価を得ている。
  
  
インタビュー・文:大高由子
  
  
《公演日程》
12/6[日]〜20[日] 東京芸術劇場プレイハウス
12/26[土]〜27[日] 北九州芸術劇場 大ホール
’16/1/8[金]  愛知県芸術劇場大ホール
’16/1/16[土]〜17[日] 森ノ宮ピロティホール