“あぶない刑事”にあこがれる、
そんなにあぶなくないコンビがいろいろ危ない目に遭うお話
作・演出はおバカかつシュールなコントを繰り広げるユニット「男子はだまってなさいよ!」を主宰するほか、構成作家や映画監督といった顔も持つ細川徹。迎え撃つのは皆川猿時、荒川良々といった大人計画の人気役者を中心にした面々。この座組だけでも期待値がだだ上がりの公演「あぶない刑事(デカ)にヨロシク」は、映画版最新作も話題になっている不朽の名作「あぶない刑事」…にあこがれる刑事2人がいろいろ危ない目に遭うお話、だという。ふれこみからしてなんともゆるいムードが漂うこの公演で“そんなにあぶなくないコンビ・タナカとヨシダ”を演じる皆川猿時、荒川良々はこう語る。
荒川 今回の企画の話が最初にあったのが1年半くらい前で。だから知らなかったんですよ、まさか映画で「あぶない刑事」が復活するなんて。
皆川 でも、ちょうどいいねみたいな話になって。ドラマ、すっごい観てましたもん。僕らくらいの世代ならみんな見てたんじゃないですか? 内容は…あんまり覚えてないんですけどね(笑)。
荒川 ベンガルさんがつねに扇子を持ってるあの感じとか、すごい覚えてますけどね。 それで、チラシ撮影のときにまず“どっちが舘ひろしでどっちが柴田恭兵ポジションなのか?”みたいな話になって。
皆川 僕が柴田恭兵さん好きなので、2人の間では僕が柴田さんポジションのつもりでいたんですよ。そしたら衣装さんは荒川くんがユージのポジションだと思ってたらしくて、意見が食い違ったという。
荒川 ホントに「それはないだろう」って2人でツッコみました(笑)。
皆川 チラシの撮影では荒川くんが走ってて、僕が撃たれてるポーズ、っていうオーダーが細川さんからあったんですけど、あとは「とにかくカッコつけてくれ」って言われて。
荒川 でも皆川さんが(バイクの)ハーレー役(笑)で、それに僕が跨ってるってシチュエーションのショットとかいろいろ撮ってるんですよね。まあ、わりとふざけてる感じです。
「男子はだまってなさいよ!」を中心に複数の細川作品に出演経験があり、なじみも深い皆川と荒川。細川流の演出方法についてたずねてみると…?
皆川 台本がちゃんとあるものと、“現象”だけが箇条書きで書いてあるものがあるんですよ。
荒川 台本って台詞が書いてあると思うじゃないですか? でも“男子”は、だいたい最初はページがすっかすかで(笑)。1ページの半分くらい“こんなことが起きる”だとかト書きだけ書いてあって、あとは僕らに「はい、どうぞ」と。そこから先は稽古で演者が動いたりするのを見ながら固めていくんです。
皆川 僕らの意見を取り入れてくれたり、やり方はかなり柔軟だと思うんです。だから逆に本番迎えるまでが、ものすごく不安(笑)。正解がわかんないっていうか…。
荒川 それはありますねえ(笑)。
皆川 普通の芝居なら台本を読み返せばある程度イメージトレーニングできるんですけど、台本がほとんどないような感じのネタもあるから、どうなるのかなあ…って。でも、その正解を初日のお客さんに教えてもらう、みたいなところがあります。笑ってくれたら「あ、これで大丈夫なんだ」って。
映像作品も含めてこれまで松尾スズキ、宮藤官九郎といった大人計画の演出家と組むことが多かった2人から見た細川の演出は、どんなところがユニークなのだろうか。
皆川 稽古がね、まず雑談から入るんですよ。たまに雑談だけで終わったりするときもあって「じゃあ、お疲れさまでした!」って言われて、これ稽古だったんだ?みたいなね。
荒川 でもそこからネタが生まれるようなところがあって、たまに、その雑談の内容が台本に出てきたりするんです。だから多分、細川さんのなかではこの雑談が大事なんだろうなって感じがします。
皆川 稽古期間は結構この雑談してる期間が長くて、本番ぎりぎりでネタがきちっと固まる。
荒川 ラスト1週間で勝負!みたいな。それで出来上がった台本を渡されるんですけど、急だからみんなすぐには覚えられなくって。試験勉強みたいですよね。
皆川 そうそう、ほとんど学生ですよ(笑)。だから他の演出家さんとは全然違うし、僕らも松尾さんや宮藤さんとは違う追い込まれ方をされるわけです。
2人が過去に出演した“男子”では「天才バカボン」(’10年)で釈由美子、「男子!レッツラゴン」(’15年)でミュージシャンの渡辺大知(黒猫チェルシー)など、毎回意外な面々も迎えて展開。過去公演の思い出話を聞いてみた。
荒川 「聖バカコント」(’13年)の千秋楽の前日だったかな、細川さんがラバーガールの飛永(翼)くんにじゃれて遊んでたんですよね。飛永くんは格闘技を習ってるんですけど、細川さんが何かワザをかけたら突き指したみたいになったんですよ。次の日に、突き指だと思ってたのが実は骨折だったことがわかって…ちょうど千秋楽だからみんなでスチャダラパーのライヴ行こう!って盛り上がってたんですけど、でも細川さん骨折れてるし、飛永くんがすごい落ち込んじゃって。いやーな空気になったのはよく覚えてます(笑)。だって、細川さんから仕掛けたんですよ?
皆川 あれはね、迷惑だったよ(笑)。「天才バカボン」では松尾(スズキ)さんがバカボンのパパ役だったんですけど、松尾さんも僕らと同じように何が面白いのかわからなくなっちゃって不安がってたんですよ。でも本番を迎えたらお客さんがすごくウケてくれたんで、みんなで「良かった~!」って。
荒川 僕は最新作の「男子!レッツラゴン」にも出てるんですけど、あのときも不安で…まあ、だいたいいつも不安なんですけど(笑)。
皆川 ある意味すごいよね、ほんっとに演者みんなが不安になるんですよ。
荒川 主演の渡辺大知くんが初舞台だったんで、細川さんが「台本はちゃんと書くから」って言ってたんですけど、稽古がスタートした段階ではやっぱり何にも決まってなくて(笑)。で、稽古で何をやるのかな?って思ってたら、その原作のマンガ本をみんなでひたすら読むっていう(笑)。で、マンガみたいに動いてみるってところから稽古が始まりましたね。
過去の“男子”に登場した面々が目立つものの、くくりが異なる今回の「あぶない刑事にヨロシク」。細川本人曰く「濃いいメンバーで、ばかみたいなことだけをひたすらやります」とのことなのだが、演者側はその内容をどう予想しているのだろうか。
荒川 村杉(蝉之介)さんは自分が出ること、知らなかったみたいですけどね(笑)。まあそれはさておき、“男子”のときは客演の外部の方も多いんですけど、今回は大人計画の人間が多くなるじゃないですか。なので、また雰囲気が結構変わってくるんじゃないかな。みんな、わりと知ってる仲ですからね。身内だと(大人計画の新人の)上川(周作)くんだけ、ドラマで共演したことはあるんですけどまだあんまり絡んだことがなくて。
皆川 すごく若くて、なんか育ちのいい感じの子です(笑)。僕はがっつり組むのは今回が初めてで。
荒川 どういう絡み方してくるのか、まだわかんないんですよね。あと芸人さんの早出(明弘)さんや本田さん(ひでゆき/本田兄妹弟)にはまだお会いしたことがないんですけど。
皆川 お2人とも細川さんが手がけたラバーガールの公演に出てもらったみたいで。芸人さんだと、前に“男子”でシソンヌとご一緒しましたけど、そのときは「顔で選んだ」って言ってましたね。
荒川 ネタがっていうより、顔が面白そうだからっていうのが決め手だったみたいですよ。
この個性的な演者たちで繰り広げる“スピード感のないコント”をさらに独特のカラーで彩るのは、ターンテーブルやギター、ベースなどざまざまな楽器を1人で操るオールラウンドプレイヤー、TUCKERの生演奏。
荒川 僕ら「聖バカコント」でも彼と一緒にやってるんですけど、あの演奏が加わるとコントがなんだかおしゃれな感じになるんですよ。
皆川 むしろ、これメイン聴きにくるだけでもいいんじゃない?ってくらい、あれはかっこいいです。
そして細川作品といえば、「天才バカボン」で「ラ□オンキング」ばりのダンスシーンがあったり、「聖バカコント」では「進□の巨人」がまさかの婚活!?…といった、話題作のオマージュネタが盛り込まれるのも特徴的だ。
荒川 “レッツラゴン”のときには、「マ□ドマックス 怒りのデス・ロード」だとか、いくつか映画のタイトルを指定されて、本番前に見ておいてねって言われたんですけど。
皆川 今回も「さらば あぶない刑事」は見ておいてって言われるかなあ? ただ細川さんは「関係ないかあるかで言ったら、そんなに関係ない」って言ってましたよ(笑)。
社会現象にまでなったNHKの朝ドラ「あまちゃん」など、大人計画公演以外のさまざまな舞台や映像作品でも幅広く活躍中の2人。今回の舞台では“それほどあぶなくない2人があぶない目に遭う”そうだが、仕事でリアルに“あぶない”と思ったエピソードとは?
皆川 映画の撮影で、ワイヤーに吊られた僕がバスにはねられて3メートルくらいの高さから落ちる…っていう、もう聞いただけで危ないシーンがあって。落ちる予定の場所にマットを用意してくれてたんですけど、本番でマットの手前で落ちちゃって。っていうか落とされて。死ぬかと思いました(笑)。
荒川 僕の話じゃないんですけど「突入せよ!あさま山荘事件」(’02年)って映画に出たとき、雪が降らないと撮影できないシーンがあって。スキー場のそばにある周りにあまり何もないホテルに出演者みんなで泊まってたんですけど、連日雪が降らなかったんですよ。ホテルに缶詰めでやることもないから、毎日みんなで大浴場行くかテレビ見るくらいしかやることなくって…まだスマホなんかもない時代だから、いい大人がクイズとかなぞなぞしだしたりしてね。3~4日経ったら伊武雅刀さんが耐えきれなくなったみたいで、もう表情が完全に「シャイニング」のジャック・ニコルソンみたいになってましたね。
皆川 精神があぶない感じって、それはやだよねえ。
細川×おなじみの大人計画の面々を中心にしたこの座組とふれこみだけでも、果てしなくゆるい雰囲気が伝わるこの作品。おそらく大人計画や“男子”ファン、お笑いファン的にはかなり期待感をあおられていることだろう。
皆川 あれこれ言いましたけど、細川さんの舞台ならまず面白いんで、気楽に笑いに来てもらえたらと思います。
荒川 ああ、それはもう保証できますね。
皆川 それでね、細川さんの作品は劇場でお客さんが見てくれることで初めて成立する部分が大きいんですよ。お客さんと一緒に楽しんで作るものだから、僕らもお客さんと一緒にその場を楽しみたいなって。
荒川 チラシを見てお客さんがたぶんこんな作品かな?って想像すると思うんですけど、それがいい意味で裏切られ…いや、どうなんでしょうね? 何せ細川さんの舞台は、予想がつかないから(笑)。
取材・文/古知屋ジュン
【プロフィール】
皆川猿時
■みながわ さるとき ’71年、福島県出身。大人計画のメンバーであり、グループ魂のMC・港カヲルとしても活動中。荒川と共に出演した映画「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」が公開待機中。(公開情報は映画公式HPをご覧ください。)
荒川良々
■あらかわ よしよし ’74年、佐賀県出身。所属する大人計画の作品など舞台のほか、第一生命「1UP(ワンアップ)」のCMなど映像分野でも活躍。現在ドラマ「家族ノカタチ」(TBS系)に出演中。
【公演情報】
「あぶない刑事にヨロシク」
作・演出:細川 徹
出演:
皆川猿時、荒川良々、池津祥子、村杉蝉之介、近藤公園、上川周作、
早出明弘、本田ひでゆき(本田兄妹)/生演奏 TUCKER
日程・会場:
2016年4月14日(木)~4月24日(日) 東京・下北沢 本多劇場
【チケット発売情報】
プレリク抽選先行:1/23(土)12:00~27(水)23:59
一般発売:2/13(土)10:00~
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!