「メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~」 中井貴一 インタビュー

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PARCO劇場名物「志の輔らくご」が
中井貴一主演で待望の舞台化!

 

 毎年、正月のPARCO劇場を1カ月にわたって賑やかせている「志の輔らくご in PARCO」。その人気の高さからチケット争奪戦も起こる劇場の風物詩が、急遽、「メルシー! おもてなし~志の輔らくごMIX~」というタイトルで初めて舞台化されることになった。主演として白羽の矢が立ったのは、PARCO劇場と縁深い中井貴一。企画から関わったサスペンス・コメディー「趣味の部屋」(13年初演)が好評を博したのも記憶に新しい。

中井「今年はちょっとゆっくりしたいなとスケジュールを空けていた時期が、まるで申し合わせていたかのように、公演日程とピッタリ重なったんです(笑)。僕は、自然に演じられる458席のPARCO劇場のキャパシティ、そして雰囲気が大好き。これはきっと劇場が、『もう一度、どう?』と呼んでくれたんだと思いました」

 

 客席で鑑賞したこともある志の輔の創作落語については、次のように語る。

中井「とても現代的でありながら、古典の要素もあると言えばいいのかな。“熊さん八つぁん”のようなノリがベースにあるから、例えば、商店街の話も長屋の話のように聞こえてくるんですよ。それに、聞き手の想像力をかき立てるようなお話なので、頭の中で情景が広がるし、登場人物それぞれの個性も浮き上がってくる。志の輔さんは、名プレーヤーであると同時に、優れた脚本家でもいらっしゃると思います。今回とは別の演目が過去に映画化やドラマ化されているのも納得です」

 

 「志の輔さんのファンに、『落語よりも面白かった』と思わせるのが僕らの使命」と自ら高い目標を掲げるいっぽうで、「でも、(普段の芝居より)何倍も大変になるだろうなぁ」と苦笑もする。

中井「落語って、究極の一人芝居のようなものだと思うんです。自分ですべての間合いを考えながら、すべての人物を演じる。そこに、コンディションも毎日違う複数の役者がやる芝居がどう対抗していけるのか。そもそも、原作ものって難しいんです。それが小説だとしても、読み手が自由に想像しているものを具体的に表さないといけない。しかも落語の場合、あのちょっとかすれた志の輔さんの声色とともにみなさんの記憶に残っているわけですよね? 『そうじゃないんだよなぁ』と言われかねないのが辛いところで(笑)」

 

 とはいえ、「メルシーひな祭り」(フランスの外交官夫人とその娘が雛人形を見たいとやって来る商店街での騒動を描く)を軸に、「踊るファックス」「ディアファミリー」「ガラガラ」の計4本を一つの物語に紡いでいくという新たな試みの今作。脚本・演出のG2とも相談しながら、この舞台ならではの魅力を懸命に創り出そうとしている。

中井「第一稿を読ませていただいた時に、僕の好きな演目「ガラガラ」が、語りだけで終わる感じだったので、『僕、この話が大好きなんですけど』と言ったんです。G2さんは、『でも中井さん、これを膨らませたら、中井さんが大変になりますよ』とおっしゃってくれましたが、演者が楽をしてはいけないなと(笑)。志の輔さんの落語が、現代と古典を合わせもっているのなら、僕らは、それをコテコテにやるのではなく、落語とおしゃれな現代劇の融合を目指そうと思っているんです。幸いにも、それができる奇跡的なキャストがそろいました」

 

 おしゃれ感のある笑い。これは、中井自身がこれまでの舞台で追求してきたものだ。

中井「ゲラゲラと笑う冗談のようなものではなく、客席が思わずニコニコするようなユーモアのある舞台を創り上げるのが僕の夢なんです。日本の“喜劇”というのではなく……例えばコーヒーをこぼしてあわてる姿が面白いのではなく、相手に慎重に渡そうとしながらも落としてしまうような、日常的に起こりそうなシチュエーションが笑えてしまう感じ(笑)。ただ、演じる本人たちは、そこを意識し過ぎてはいけないとも思っています。この作品にしても、元は落語の人情噺だから、まずは感動させる方に重きを置いて演じていく。要は、物語のシメに対して“落差”をどうつけるかということなんですね。『趣味の部屋』も、あくまでミステリーで、笑いは、お客様の頭を一度空っぽにしてもらうための逆算でやっていましたから」

 

 冒頭のとおり、今回の出演は、劇場への思いからくるところも大きい。というのも、この作品も含まれる「クライマックス・ステージ」シリーズが終わる8月、PARCO劇場は、再開発にともなう一時休館が決まっている。

中井「PARCO劇場の客席って赤いシートですよね。誰もいない劇場でウォーミングアップしているとよく分かるんですが、その長い歴史の中でお客様が座った跡が席に刻まれていて、まるであの赤い椅子に白いハートが浮んでいるように見えるんです。あぁ、僕らはこれだけの愛に包まれて芝居をやっているんだなと。本番でその席が埋まっていたとしても、その奥には長年のお客様の想いみたいなものも詰まっている。だから僕は、初舞台の子がいたりすると、『僕がこの劇場が好きなのはそれが理由なんだ。劇場にはお客様の愛が詰まっていることを忘れてはいけないよ』と話しています」

 

 さらなる発展を目指し、一度、幕を閉じることになるPARCO劇場。その舞台に誰よりも思い入れのある役者が立ち、演じる姿を、私たちは楽しみながらも、しっかりと目に焼き付けよう。

 

【プロフィール】

■中井貴一
61年、東京都出身。映像作品の第一線で活躍するいっぽうで、三谷幸喜、福島三郎らが手掛ける舞台にも出演。「趣味の部屋」ではプロデューサーとして企画から作品にたずさわる。最近の出演に、映画「柘榴坂の仇討」「アゲイン 28年目の甲子園」、「グッドモーニングショー」(今秋10月8日公開)、ドラマ「雲霧仁左衛門」「きんぴか」など。

 

【公演情報】

「メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~」

原作:立川志の輔
脚本・演出:G2

出演:
中井貴一、勝村政信、音尾琢真
YOU、阿南健治、明星真由美、サヘル・ローズ
陰山 泰、関 秀人、有川マコト、高橋珠美子、高橋克明

日程・会場:
2016/6/4[土]~26[日] 東京・PARCO劇場
2016/6/28[火]~30[木] 大阪・メルパルクホール

★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!