パルテノン多摩×FUKAIPRODUCE羽衣「愛いっぱいの愛を」 深井順子&糸井幸之介 インタビュー

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大人から子どもまで楽しめる〝妙—ジカル〟を。

 

自然を感じながら旬の演劇を楽しめる、パルTAMAフェス2016in多摩センターきらめきの池ステージのプログラム。
今年は、ミュージカルならぬ「妙—ジカル」で人気のFUKAIPRODUCE羽衣が登場します。
主宰で女優の深井順子さんと、作・演出・音楽・美術まで手がける糸井幸之介さんに、劇団のこと、「妙—ジカル」のこと、そして今回の新作『愛いっぱいの愛を』について聞きました!

 

●ロマンティックな“音楽劇”に!

——今回はパルTAMAフェスの水上ステージでの公演。話を聞いたときはどう思われましたか?

深井 嬉しかったですね。私は唐組(劇作家・唐十郎さんが主宰する劇団)の出身で、水を使った舞台をやることが多かったんです。「羽衣」を始めてからも、水や海にちなんだ作品を発表することが多かった。だから水上ステージで、とお話を聞いたときは、私たちに合うんじゃないかなって気がしました。しかも野外で、ここまで水が張ってある場所はなかなかないよね?

糸井 そうですね。水もそうですけど、空が見えて、上演中に夕方から夜になっていくところも魅力でした。

 

——羽衣さんは、野外劇の経験は?

糸井 短い歌や踊りのパフォーマンスならありますけど、今回のように1時間の作品をやるのは初めてです。

 

——どんな作品にしたいと思っていますか?

糸井 野外で、ロマンティックなロケーションがあって、開放感もある。それをうまく生かしたものにしたいと思っています。具体的には、ストーリーの筋を強く通す感じではなく、「音楽劇」という感じになるかなと。新しく作った曲や、今までに作った曲を組み直して、全体に統一感を出していくような作品になりそうです。

深井 糸井くんがここでどんなものを作るのか楽しみ。ただ、今回は子どもから大人の方まで見に来るから、いつもとは表現方法を変えなきゃいけない部分もあると思う。やっぱり、男女の話になりそうなの?

糸井 まあ、愛の雰囲気は漂うとは思うんですけど、あまりエロティックにはしないようにとは思っています(笑)。

深井 大丈夫なの?

糸井 ……大丈夫(笑)。僕も子持ちなので。

深井 今、何歳だっけ?

糸井 6歳。小学1年生。

深井 その子が、いつも公演を見に来るんですよ。

 

——エロティックな羽衣さんの舞台を、お子さんが見てるんですか?

深井 全然見てます。

糸井 見たあとに質問してくるんですけど、何か察してなのか、エッチなことに関しては質問してこないんですよ(笑)。

深井 あはは(笑)。糸井くんが作るものは、エロティックというより、ロマンティックなんです。たとえば「人を好きになるって、こういうこと…?」って胸が高鳴ったり、心がふわってなったりする……。そんな心を動かす作品を書ける作家だと思うので、めっちゃ楽しみにしてるんです。今回も。ああ、早くやりたい!(笑)。

 

 

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●高校の演劇部で、出会った2人

——お2人の出会いは?

深井 高校の演劇部の同級生なんです。先輩にはケラリーノ・サンドロヴィッチさんとかもいる、日本大学鶴ヶ丘高校の。

 

——出会ったときの印象は。

深井 糸井くんは当時から音楽好きで、音楽の話ばっかりしてましたね。そういう人に会ったことがなかったから、私はけっこう衝撃的で。おもしろい人だな、才能がありそうだなって思ってました。

糸井 深井さんは、当時から元気でしたね。

深井 でしょうねぇ(笑)。

糸井 肝っ玉があるというか、すごく生命力がある感じ。あと、ある先輩のことをずっと「カッコイイ!」と言っていた気がします(笑)。

 

——そもそも演劇部に入ったのはどうしてだったんですか?

深井 私の母は歌がうまくて、歌声喫茶で司会をしたりもしていたんです。その影響で、小さいときから歌ったり舞台に立ったりすることに興味があって。糸井くんは、演劇に興味なんてなかったんでしょ?

糸井 そうなんですよ。「人前に出て、あんな恥ずかしいことをするなんて」と思ってました。

 

——なのに、なぜ演劇部に?

糸井 中学時代に帰宅部だったので、高校でも帰宅部はまずい。だけど運動部は、とてもじゃないけどできる気がしない。

深井 絶対、無理でしょ(笑)。

糸井 で、文化系の部活で、たとえば演劇部の舞台装置を作ったりすることならできるかなと。それで見学に行ったら、役のために長髪にしていた男の先輩が、ジョン・レノンを聴きながら大工仕事をしてたんですよ。それを見て「カッコイイ!」と(笑)。ちなみにその先輩は、深井さんが「カッコイイ!」と言っていた先輩と同じ人です(笑)。

深井 そんなときもあったよね~(笑)。

 

——深井さんはのちに唐組に入られますが、高校時代からご興味が?

深井 はい。高校3年のとき、糸井くんに「唐十郎って、知ってる?」と言われて、中野で公演していた『裏切りの街』というテント芝居を見に行ったんですよ。2人で、自転車に乗って。そしたら唐さんが舞台の水槽の中から出てきて、「何、この大人!」と驚いて(笑)。そこからはまって、そのまま『裏切りの街』を9回観に行って、高校を卒業してから、すぐに唐組に入ったんです。

 

 

●役者にとっての「妙—ジカル」の魅力

——高校卒業後は、2人とも日本大学の演劇学科に?

深井 入ったんですけど、2人ともあまり大学には行ってなかったですね。

糸井 深井さんはもう唐組に入ってましたし、自分たちで学生劇団も始めていたので。

 

——それが「劇団劇団」?

深井 はい。主宰は糸井くん。でも向いてなかったんです、主宰が(笑)。

糸井 人とコミュニケーションをとって、集団をまとめていくのが苦手で。しかもなかなか客足が伸びず、借金もかさみ……。10回くらい公演したんですけど、休止しました。

深井 そして1年くらい経ったとき、「やっぱり糸井くんの作品をやらないと、私の人生はつまらない」と思って、「じゃあ私の主宰でやってみよう。そしたら糸井くんももっと伸び伸びやれるかも」と。そうして始めたのが「FUKAIPRODUCE羽衣」。羽衣になってからは、糸井くんがすごく伸び伸びやってました(笑)。

 

——そして作風が「妙—ジカル」に?

深井 それは「劇団劇団」からやってたよね?

糸井 最初はもうちょっと素朴で、お芝居をして、最後に歌って踊る、みたいな感じでしたけど。

 

——それがだんだん、全編、歌とダンスに彩られる形に?

深井 そうですね。糸井くんは音楽が好きだから、アルバムを作るような感じで、作品を作ってるんだと思うんです。一枚のCDを作るみたいな感じで。

糸井 確かに、一曲目はこう、二曲目はこんな感じ、と作っていくことはあります。

 

——深井さんが「妙—ジカル」を演じる楽しみは、どんなところにありますか?

深井 まず、糸井くんが書く「言葉」が本当に美しい。ふだん何気なくて忘れていることや、自分が本当に言いたいことを、削ぎ落とされたシンプルな言葉で表してくれるんです。その美しい言葉を言えるという喜びが、いつも体を走ります。

 

——たとえば、どんな言葉ですか?

深井 この春の公演『イトイーランド』でいうと、「愛いっぱいの愛は、どこ行っちゃったんだろう」。そう言われると、「確かに……」と思うじゃないですか。38年間生きてきて、それなりに楽しいと思うけど、子どものときはどうだったかな、とか……。糸井くんの作品をやっていると、自分が子どもになったり、トカゲになったり、クモになったりと自由になれて、生きている喜びが感じられる。だから、常にやりたいんです。毎月でもやりたい。ほかにはお酒を飲むくらいしか、楽しみがないので(笑)。

糸井 深井さん……。どうしてそんな人になっちゃったの?

 

 

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●女優・深井順子の「ここがスゴい!」

——逆に、糸井さんが「深井さんのここがスゴい!」と思うところはありますか?

糸井 中国の『三国志』とかで、1人で何千人もの敵に向かっていく武将がいるじゃないですか? そういう「無双」的な迫力が、バーッと出ているときがあるんですよ。特に感じるのは、ライブのとき。メインで歌って、ゲストを紹介して、お客さんに果敢に話しかけていくんですけど、そうやって場を仕切っていく深井さんを見てると、「うわ〜無双感出てる!」と思います(笑)。

深井 そういうの、昔は苦手だったんですよ。でも最近はお客さんが目の前にいると、がぜん気分が盛り上がる。今度の野外劇も、向いてると思います(笑)。

 

——そんなふうに変わったのはどうして?

深井 コンタクトを入れてから、変わりましたね。

 

——え、コンタクトレンズ?

深井 それまでお客さんの顔がよく見えないから、怪訝な顔でこっちを見てるのかな、とか思ってたんですよ。でもよく見ると、そんなふうには見てないんだなと気づいた。あと、これは年齢的なものもあるかもしれないですけど、あまり細かいことを気にしなくなってきたんです。「自分が楽しければ、お客さんも楽しいだろう」と思えるようになってきた。

 

——糸井さんが出会ったときに感じた「肝っ玉」が、深井さんの中で成長しているのかもしれませんね。

糸井 そうですね。もちろん、深井さんにもデリケートな面もあるんですけど(笑)。

 

——ほかの羽衣の役者さんも、みなさん魅力的ですね。演じているのはセクシーな世界だったりしますけど、みなさんかわいらしいオトナという感じがします。

深井 嬉しい! なんか、新宿の小道に入ったところにいるような人が多くないですか?

 

——ゴールデン街とか?

深井 そう(笑)。糸井くんがまた、そういうところにいそうな人を描くのがうまいんですよ。「うわ~、こういう人たち、いるかも!」っていつも思う。

 

 

●「野外」は今の羽衣にぴったりの場

——糸井さんの作風に変遷はありますか? たとえば『イトイーランド』では「自然」がテーマのひとつになっていましたが、それは最近の変化ですか?

深井 それは、尾道の影響じゃないかな? 糸井くんは広島の尾道市に家を持ってるんです。タダでもらった家を(笑)。

 

——親族の家を相続されたとか?

糸井 いやいや。地方には今、空き家問題があるじゃないですか。特に尾道は観光地だから空き家があると良くないということで、現地のNPOが空き家の仲介をしているんです。それで譲渡書類だけでもらったボロボロの家を、1ヶ月くらいかけて掃除していたら、すごく「自然」を感じまして……。山を下れば5分で観光地という場所なんですけど、その5分の間の自然が、ものすごいんです。

深井 『イトイーランド』にクモが登場しましたけど、実際、尾道には(両手を広げて)こんな大きなクモが出るんですって!

糸井 そんなには大きくない(笑)。

深井 でも私たちは東京育ちだから、そういう衝撃も作品に表れたわけでしょ?

糸井 そうそう。家で廊下の角を曲がるときは、常に「クモがいないかな……?」って恐怖心と闘ったりしてるので(笑)。

 

——そういう生活を経験したことで、わかりやすくいうと「自然を大切にしたい」みたいな気持ちが芽生えたんですか?

糸井 そうなんです。意識せざるを得なかったんですけど、意識してると、逆に楽しいのかな、と思うようになりました。

 

——今回は野外ということで、そんな「自然」が感じられるステージですね。今の羽衣さんにぴったりかも。

糸井 そうですね。楽しみです。

 

 

●開放的で、元気いっぱいの〝お祭り〟に!

——今回は一般公募で、「アンサンブルキャスト」も募集しました。

深井 初めてのことだから、すごく興味があります。糸井くんがアンサンブルの人たちをどう演出するのか。

糸井 いきなり「深井さんみたいに客いじりをしてください」って言われたら困るかな?

深井 やめて! 危険だから(笑)。いつもは羽衣のメンバーと、客演の何人かだけ。アンサンブルの人が入ることによって、世界が幾重にも広がるといいなと思っています。

 

——最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。

深井 今日はきらめきの池に入ってみて、水や空気の気持ちよさをあらためて感じました。見てくださる方も、きっと開放的な、いい気持ちになってもらえるはず。元気いっぱいにやりますので、ぜひ元気いっぱいで来てください!

糸井 フェスということで、お祭りでもあると思うんです。だから、ぜひ地元の人たちにも来てほしい。自分が子どものころを思い返しても、地元のこういう文化施設って、意外と入ったことがないまま大人になった気がするんですよ。それは、もったいないこと。この機会に「こんな楽しい場所が身近にあったんだ!」と思ってもらえたら嬉しいです。

 

——ちなみに初日の9月17日は、月の出が午後6時11分。満月だそうです。

深井 上演中に月が出てくるんですね〜。しかも、満月! もう、想像しただけで感動しちゃう。

糸井 ロマンチックですよね〜。

深井 早くやりたいっ! 今すぐ始めたいです!(笑)。

 

インタビュー・文:泊貴洋
撮影:疋田千里

 

 

【プロフィール】

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深井順子 Fukai Junko
■1977年、東京都生まれ。96年から99年まで劇団唐組に在籍。04年に糸井幸之介が生み出す「妙ージカル」を上演するための団体、FUKAIPRODUCE羽衣を設立。以降、全公演に出演し、プロデュースを行う。近年はラジオCMへの出演や野田地図『エッグ』『MIWA』に出演するなど、活動の範囲を広げている。

糸井幸之介 Itoi Yukinosuke
■1977年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中に「劇団劇団」を旗揚げ。04年からはFUKAIPRODUCE羽衣の座付作家・演出家として全作品の作・演出・音楽・美術を手がける。第14回公演『耳のトンネル』にて、CoRich舞台芸術まつり!2012春グランプリ受賞。14年から多摩美術大学の非常勤講師も務めている。

 

【公演情報】

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パルTAMAフェス 2016 in 多摩センター ~音楽と演劇を楽しむ2日間~

【きらめきの池ステージ】
パルテノン多摩×FUKAIPRODUCE羽衣
「愛いっぱいの愛を」

2016年9月17日 (土) ~9月18日 (日)  
各日17時30分開演(16時45分開場)

作・演出・音楽:糸井幸之介

出演:深井順子、鯉和鮎美、澤田慎司、キムユス、アンサンブルキャスト ほか

一般3,000円
学生1,500円
[全席自由]

※小雨決行・荒天中止
※レインコートなどの雨具をご持参ください。(雨傘不可)
当日券は一律300円増し
整理番号付き自由席
学生券は枚数制限あり
未就学児無料
小学生以上は1人につき1枚のチケットが必要

★ほかにも大階段ステージ、十字路ステージなどで無料イベントあり。
9/17(土)原田真二、Polonets ほか
9/18(日)DE DE MOUSE、太田美知彦 ほか
公式サイト http://www.partama-fes.com/
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!