日本版演出・上演台本を担当する河原雅彦、
キャスト中の最年長コンビ橋本さとし&岸祐二のインタビュー
プロジェクションマッピングでステージ上に蘇る名画「星月夜」「ひまわり」「自画像」etc…そして気鋭のシンガーソングライター、ソヌ・ジョンアが書き下ろした情感豊かなナンバーの数々。観る人の感覚を鮮やかに刺激するステージの上で繰り広げられるのは、ある兄と弟の濃密なやり取りの数々だ。
様々な名作を遺し、37歳の若さで命を絶った画家、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。その活動を生涯にわたって支え続けた弟のテオドルス(テオ)の存在は、現在では広く知られている。この兄弟の愛と葛藤に満ちた半生を描いた韓国発の2人ミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』の日本版が上演決定。ヴィンセント役に橋本さとし、テオ役に岸祐二というミュージカル界を代表する実力派コンビが出演する他、泉見洋平(ヴィンセント)、野島直人(ヴィンセント)、上山竜治(テオ)、入野自由(テオ)、の4名がそれぞれペアを組む別バージョンもあり、カラーの異なる計5バージョンが上演されるのも注目ポイントだ。日本版演出・上演台本を担当する河原雅彦と、キャスト中の最年長コンビである橋本&岸に抱負を聞いてみた。
――韓国版を河原さんは一度ごらんになって、“すごく斬新”だと感じられたそうですが、この作品のどんなところに惹かれたんでしょうか?
河原 やはりプロジェクションマッピング(以下マッピング)のアイディアですよね。映像を使う舞台自体は珍しくないご時勢ですけど、ビジュアルでここまでのインパクトを与えられる作品は、そうないんじゃないかと思います。今回の映像はこの舞台の世界観に、完全に内包されてますからね、どうしても外すことができない。今回はありがたく……おいしいなとほくそ笑みながらお借りさせてもらいます(笑)。
橋本 あれは相当苦労して作っただろうと思うんですよね。そこはこちらも、リスペクトして使わせてもらわないと。
――音楽を手がけているのが韓国の人気女性シンガーソングライターの方ということで、ポップスやロックのエッセンスも感じさせるミュージカルナンバーが独特ですよね。
河原 そういう意味では、今回訳詞をお願いしている(森)雪之丞さんにもぴったりですね。
――雪之丞さんは過去に劇団☆新感線の作品などでも詞を手がけられたりしているんですが、今作の詞はどんな仕上がりになりそうでしょうか。
河原 自分たちが改めて語る必要もないくらいのキャリアをお持ちの方なので……先日、作詞家40周年記念のBOXセット(『森雪之丞原色大百科』)をいただいたんですけど、本当におそろしいほどの仕事量をこなして来られてるんですよ。
岸 かかわっているジャンルだとか、お仕事の幅も広いんですよね。それでいて、手がけていらっしゃるのが僕らも知ってる名曲ばかりですし。
河原 だから今回もこの作品のイメージに寄せたものを作っていただけるかどうかについては全く心配はしていなくて。先日雪之丞さんと打ち合わせをしたんですけど、ゴッホとテオのキャラクターを丁寧に歌詞に反映させていきたいとおっしゃってたんですね。韓国版の歌詞を日本語に訳したものももちろんあるんですけど、その意味だけを音楽にのせるのではなく、ゴッホやテオのキャラクターをふまえながらそれをアレンジしていってくださるでしょうから、自然に芝居に寄り添ったものにはなると思います。そんな雪之丞さんと僕とで、今回の舞台を通してどんなラリーを繰り広げるのか、今からとても楽しみで。
橋本 雪さん(雪之丞)は本当に言葉のチョイスが絶妙で、音楽にのせると歌詞のどこが“立つ”かもすごく考えていらっしゃるから。歌い手が「この言葉を伝えよう」と必死にならなくても自然に感情が入るような流れになっていて、とても歌いやすいんですよ。英語のナンバーを訳したものも、日本語がすっと耳に入ってくるようにアレンジする能力がずばぬけてすごいなと。
――橋本さんは同じく韓国発のミュージカル「シャーロック ホームズ」シリーズ(2013年/2015年)でも雪之丞さんとコラボされていますよね。
橋本 ミュージカルの歌詞って「愛してる」だとか、感情の高まりを伝えようとするものが多いじゃないですか。でも「ホームズ」では頭の中で行われている推理や暗号の解読だったりを歌にするということで、相当苦労されたんじゃないかと思うんですよ。僕らキャストは雪さんが歌いやすいように工夫してくださったた歌詞にずいぶん助けられましたし。その雪さんの詞を今回歌えるのは、僕らにとっても幸せなことですね。
――マッピングや楽曲は韓国版のものを使うとして、日本版オリジナルの要素というのはどんなところになりそうでしょうか?
河原 それはね、今こそっとやってます(笑)。
橋本&岸 こそっと(笑)。
河原 韓国版は兄弟愛をフィーチャーした爽やかでわかりやすい作品になっていて、それがいいところでもあるんですけど、いわゆる“いい話”というだけの作風に僕という人間は惹かれないタイプで。ヴィンセントとテオのことを調べれば調べるほど、わりと一筋縄ではいかない関係性なんだってわかってくるんですよね。例えば弟のテオは韓国版ではヴィンセントのためなら自己犠牲もいとわない本当にいいヤツなんだけど、狂気の画家として知られるお兄さんだけじゃなく、よく考えると弟にも狂気を感じさせる部分がある。だからこちらはそのリアルな関係性を生々しく描き出していくつもりです。ストーリー展開は同じでも、もっとヒリヒリした感触のものになるんじゃないかと。役者たちの芝居もそうですし、雪之丞さんの訳詞で歌の持つ雰囲気も必然的に変わってくるはずなので、韓国版をなぞるだけのものではない日本版オリジナルの「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ」を提示できる勝算はありますね。
――演じるコンビによって、カラーがかなり違ってきそうではありますよね。
岸 2人っきりですからコンビごとの色が強く出るでしょうし、それもこの作品の面白いところじゃないですか。
河原 作品中でそれぞれの担う役割が大きいし、とても深みのいる役だと思うんですよ。でもそれにチャレンジするっていうのが若いキャストにとっては意義のあるものだと思うし、さとしさん&岸さんなら「さすが憧れの先輩!」みたいなものを観せてくれるでしょうし。
橋本&岸 いやいやいやいや(爆笑)。
河原 だって、そうじゃなかったらお二人の立ち位置どうなるんですか?って話じゃないですか(笑)。
橋本 ホントですよ(笑)。でも、入野くんは今回初めて同じ作品に出るんですけど、他はいろんなミュージカルで共演したりしていて、すごく見知ってる人たちなんで。そこは気が楽ですよね。
岸 僕は声優の仕事も含めて全員と共演してるんですよ。僕と兄さん(橋本)のコンビは一番年上ではありますけど、マインドが一番子供というか自由なタイプなので(笑)、若い人たちにあれこれツッコまれながら稽古していく感じになるんじゃないかと。
橋本 リーダー(河原)のダメ出しはできればこっそり言ってもらいたいんですよね(笑)。若い子たちの前でダメ出しされたらものすごく凹むから。
岸 だから3人だけのLINEグループ作って、僕らへのダメ出しはそこでお願いできないかなって。
河原 超めんどくさいんですけど(笑)。LINEでダメ出しって、完全におかしいでしょ。
――(笑)。橋本さんと岸さんは「三銃士」(2011年)ですとかミュージカルでの共演はもちろん、一緒にライヴツアーをやられたりもしていますし、コンビネーションとしてはてっぱんじゃないかと思うんですが。
岸 とはいえ、さとしさんとの2人芝居は初めてですから緊張もしますけども。さとしさんは役者の先輩として憧れの存在でもあるので、今回は憧れの兄さんにくらいついていこうと思っています。あと、僕は実生活でもさとしさんと同じ4つ違いの兄がいるんですよ。兄がいる生き方を実際に経験してきてますから、それが今回の弟役にもうまく反映できれば。
橋本 これは偶然なんですけど、ヴィンセントとテオも4つ違いの兄弟なんですよね。今回のお話をいただいたときに〝できれば相手役が岸だったらいいなあ”って思ってたら、やっぱりそうなった。今の自分にとってのテオのような存在というと、岸しか考えられないなあとも思うし、だから決まったときは嬉しかったですね。
――ナレーションなどでもおなじみのお二人のセリフや歌が堪能できる2人ミュージカルということですごく楽しみなんですが、やる側としてはいろんな意味で難易度の高い作品ではないかと思うんです。今の意気込みはいかがですか?
橋本 やっぱり同じ場所、キャスト2人で約2時間、お客さんを飽きさせずに作品を見せるには、僕らの気持ちの流れがどれだけできているかが大事だと思うんです。どれだけ生々しい、歌というよりも言葉……セリフとしての歌をお客さんの心に響かせられるか。観ている間ずっと、その人の気持ちを揺さぶり続けられるようなものを作っていきたいですね。今回はマッピングを使いますけど、役者を追って照らしてくれる照明と違って、マッピングは役者がその世界に入りこまないといけないので、どれだけマッピングと一体化できるかというのが今回の個人的な課題でもあります。
岸 この作品で、これまで自分が役者として重ねてきた経験が全て活かせるんじゃないかと思ったんですよ。例えば先日「アップル・ツリー」(城田優演出)というほぼ2人だけのミュージカルをやりましたし。誰かを救っているつもりが、実は自分自身もその頼られる関係性に依存している“共依存”的な人間関係を描いた作品で、テオにも通じる役を経験させてもらったこともあるんです。河原さんとのお仕事は初めてなんですが、河原さんに今の自分を全て観てもらって、テオとしてのキャラクターを引き出してもらうことによって、新しい自分が生まれるんじゃないかという期待もあって。この作品がミュージカル俳優人生のターニングポイントになるんじゃないかと思っていますね。
河原 マッピングだとか効果の部分ももちろんありますけど、ゴッホとテオの物語って本当にインパクトが強いものなので。この日本版では2人の濃密な関係性やドラマをどれだけ深く掘り下げていけるかが肝になってくると思います。そのために台本を調整したり、雪之丞さんが歌詞の言葉を選んでくれたりしているので。あとはさとしさんと岸さんみたいに、2人の関係ができていることが、この作品では重要だったりするかもしれません。
――少人数だからこそ、演じる2人の関係性が作品にも反映されやすいというか。
河原 役を演じるだけなんですけど、この作品ではちゃんとパートナーとの理解を深めないと、お客さんに伝えられるものも少なくなってきてはしまうなと思うんですよ。コンビが変わっても、作品として何を大事にしていくべきかというベースは同じですから。その演じ方や見せ方となると、役者やコンビごとに答えは無数にあるんですけども。だからなるべく早く作品に向き合ってもらって、コンビ同士で会話や感じ方ですとかいろんなものを共有してもらえれば、それぞれ面白いものができるんじゃないかと思っていますね。楽しみにしていていただけたらと思います。
取材・文/古知屋ジュン
【プロフィール】
河原 雅彦
■カワハラ マサヒコ 1969年、福井県出身。1992年にHIGHLEG JESUSを結成し、2002年の解散まで全作品の作・演出を手掛ける。2006年、シス・カンパニー公演「父帰る/屋上の狂人」演出で第14回読売演劇大賞・優秀演出家賞受賞。ストレートプレイからミュージカルまで舞台を中心に、映画やドラマなど幅広い作品の脚本・演出を手がけている。役者としても「オーデュボンの祈り」(2011年)などの作品に出演。
橋本さとし
■ハシモト サトシ 1966年、大阪府出身。1989年、劇団☆新感線公演で俳優デビュー。1997年の退団後も多方面で活躍し、「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」などミュージカルの他、ストレートプレイの舞台にも多数出演。また「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK総合)ナレーターとしても知られている。2016年11月にはミュージカル「MURDER BALLAD」(天王洲銀河劇場他)、2017年1~2月には「お気に召すまま」(シアタークリエ)に出演。
岸祐二
■キシ ユウジ 1970年、東京都出身。1996年に「激走戦隊カーレンジャー」主役の陣内恭介/レッドレーサー役で人気を博す。以降「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」「エリザベート」など、ミュージカルを中心とした舞台や映像作品で俳優・声優として幅広く活躍中。2016年11月に「扉の向こう側」(東京芸術劇場プレイハウス他)、2017年1~3月には「ロミオ&ジュリエット」(赤坂ACTシアター他)出演も決定している。
【舞台映像】
【公演情報】
ミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』
作:チェ・ユソン
音楽:ソヌ・ジョンア
上演台本・演出:河原雅彦
訳詞:森雪之丞
出演:
橋本さとし 岸祐二
泉見洋平 野島直人 上山竜治 入野自由
日程・会場(予定):
プレビュー公演 2016/9/2[金] かめありリリオホール
本公演 2016/9/7[水]~24[土] 新宿・紀伊國屋サザンシアター
【出演者と日程(出演者は日替わり)】
★橋本さとし、岸祐二→9/7夜・9/11昼・9/13昼・9/16夜・9/17夜・9/19昼・9/21昼・9/24昼
▲泉見洋平、上山竜治→9/10夜・9/14昼・9/22昼
■泉見洋平、入野自由→9/9夜・9/18昼・9/21夜
●野島直人、上山竜治→9/8夜・9/15昼・9/17昼
◆野島直人、入野自由→9/10昼・9/13夜・9/23夜
【アフタートーク】
9/10(土)17:30公演 アフタートーク1/泉見、野島、上山、入野
9/11(日)13:30公演 SPアフタートーク/橋本、岸、ゲスト:石井一孝
9/13(火)19:00公演 アフタートーク2/野島、入野
9/14(水)14:00公演 アフタートーク3/泉見、上山
9/15(木)14:00公演 アフタートーク4/野島、上山
9/16(金)19:00公演 アフタートーク5/橋本、岸、泉見、野島、上山、入野
9/17(土)17:30公演 アフタートーク6/橋本、岸
9/18(日)13:30公演 アフタートーク7/泉見、入野
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!