言葉で、演技で、音楽で、映像で、観る者の心に「杭を打つ」。
2015年11月に横浜赤レンガ倉庫で上演された「怪獣の教え」は、演劇とバンド演奏とリアルタイムの映像上映を組み合わせた“ライブシネマ”というまったく新しい試みでシーンに衝撃を与えた。噂が噂を呼び大盛況となったこの作品が、この秋ステージを六本木ブルーシアターに移して上演される。
東京都内に位置しながら“東洋のガラパゴス”と呼ばれる豊かな自然を残す小笠原諸島=ボニン・アイランドを舞台に展開されるこの作品。その仕掛け人である映画監督・豊田利晃、そしてたった3人の登場人物の中で政府に追われる天作を演じる俳優・窪塚洋介に、作品の発端となった小笠原の魅力やライブシネマの醍醐味などについて話を聞いた。
東京で事件を起こした天作(窪塚)が、故郷の小笠原に戻ってくる。出迎えたのはいとこで島育ちのサーファー・大観(渋川清彦)。大観は天作が無人島にでも隠れに来たのだろうと考えていたが、天作の目的は祖父から教えられた“怪獣”を蘇らせることだった。そんな2人が出会ったのが、世界の島を転々としながら暮らすアイランドホッパーのクッキー(太田莉菜)。クッキーは“怪獣の教え”の秘密を知っていて……。
そもそも豊田がこの小笠原を舞台に作品を書こうと思ったのはなぜなのだろうか?
豊田 2014年に自分の父親が死んだのをきっかけに、どこかに旅に出ようと思って。もう20年くらいの付き合いになる作家の森永博志さんの作品によく小笠原のことが描かれていたので、いつか行きたいなとは思っていたんです。それで森永さんに相談したら、現地在住の宮川典継(今作のアドバイザー)という人を紹介されて…1か月くらい現地にいたんですけど、そのときにひらめいたことが「怪獣の教え」の始まりです。小笠原は東京とは180度違う世界なのに住所的には東京都内で、品川ナンバーがバンバン走っているんです。160万年前の海洋火山が噴火したときの風景が手付かずで残っていて、生き物も小笠原にしかいない固有種にイルカやクジラがいて…一言で言えば、パラダイスですよね。リトルハワイみたいな街並みに平均年齢30代くらいの若い島民たちが暮らしている。欧米をルーツにする方も多くて、その環境がちょっとしたSFみたいなんですよね。島というより、惑星?
窪塚 “ボニン・プラネット”みたいなとこあるよね。
豊田 本当に怪獣がいそうな場所なんですよ。あのゴジラも小笠原から出てきたっていう設定だったりして、怪獣にゆかりのある土地でもあるし。
窪塚 島自体が怪獣みたいなイメージありますよね。母島の写真を見せてもらったんですけど、背びれみたいな形の岩があったり、スターゲートみたいな大きな2つの岩が並んでいるところ…舞台の中に大きな岩礁が出てくるんですけど、その発想の元になった場所があったり。
豊田 で、小笠原にいると東京という場所が相対化されるというか、よりよく見えるようになった。真逆なので。
その小笠原に映画「Monsters Club」などで交流のあった窪塚が招かれ、それが自然にこの「怪獣の教え」へとリンクしていったのだという。
豊田 天作というキャラクターにはもちろんあて書きの部分もあるんですけど、最初に小笠原に行ったときにここは窪塚に合うんじゃないかと思って、本人にメールしたんです。
窪塚 僕も小笠原ってエジプトのピラミッドが気になるような感じで、地球の中で行くべき場所みたいなイメージはあったんですよ。僕は天からのガイダンスに従って生きてきてるようなところがあるので、そのメールをもらって「とうとう呼ばれたんだな」って思ったんです。それですぐ「行きます!」って返事して。夜に船で渡るんですけど星がすごく近くて、宇宙船に乗って天の川を渡って行くような気分になって…近づくと海の色が本当にきれいで「こんな青、あったんだ」とも思ったし。さっき惑星って出ましたけどボニン・プラネットに宇宙船が到着した、みたいな気分で上陸して、そこで一生忘れないだろうと思うようなすごい刺激を受けたんです。
豊田 タイトルの怪獣っていうのは天変地異などのメタファーだったりする。物語を先導する役というか“岩礁の上に立てる”やつの選択肢として、窪塚しか思い浮かばなかった。今僕が小笠原で感じてることを窪塚が同じように、むしろそれ以上に感じてくれるんじゃないか、っていう直感があったってことです。「絶対好きだよなあ? あいつ」みたいな。
窪塚 バレてる(笑)。この作品では、演劇というか芸術作品での天変地異を、僕らが豊田さんの世界を借りて起こすというか。僕らが小笠原で得たものをこの作品で純粋な気持ちでシェアしていけば、現実にも影響を与えられるなと思ったんですよ。物語の中で岩礁に杭を打つシーンがあるんですけど、実際に前回の公演で僕らは納得のいく形でお客さんの心に杭をぶち込むことができたと思うし、それが深いところまで刺さったからこそ今回の公演につながったと思うんで。東京公演ではさらに深いところまで杭をぶち込んでみたいと思ってます。
その衝撃的なステージの構成は、役者3人が演技する背景に映像を上映するスクリーンがあり、その後ろでバンド・TWIN TAILのメンバーが演奏。さらに客席後方には映像担当の豊田らが控え、その全員がライブでその日の空気感を作り出していくというものだ。
豊田 ライブシネマって言葉は僕が10年以上前に使い出したんですけど、そのときに「戦争と青春」っていう公演をしてるんですよ。そこからTWIN TAILっていうバンドを僕と中村達也(元BLANKEY JET CITYのドラマー)たちで組んで、ヤマジカズヒデ(ギタリスト。多数の豊田作品で音楽を担当)さんも入ったりしながら続けてきて。その最新形として、役者が入ったらどうなるだろうっていう試みがこの作品なんです。
窪塚 僕もその中に入ってみたら、得も言われぬすごい力がわいてくるってことがわかったんで、今回も本当に楽しみなんです。例えばドラムと杭打ちがシンクロするシーンもあったりしたんですけど、あの二つとない独特のグルーヴをまた体験できるのかっていう。それで豊田さんも映像のジャムみたいなことをやって。
豊田 映像もキメみたいな箇所は一応あるんですけど、パソコン4台並べてスイッチングしながら上映します。こういう、映像と役者と音楽が一体化してるなんてステージ、僕はあまり見たことがないんで、自分では発明だと思っていて…これからいろんな人に、パクられていくんだろうなって(笑)。
窪塚 荒々しくて猛々しくて男くさい3人が出してくるグルーヴが、なんだかヒリヒリしてるっていうか。そのヒリヒリ感が、芝居にもエネルギーをくれるんです。前回も毎日出てもらったんですけど、ディジュリドゥ(オーストラリアの原住民・アボリジニの伝統的な楽器)を担当するGOMAさんもすごいんですよ、なんか儀式感もあるし。
その音と映像の洪水の中で窪塚とともに圧倒的な存在感を放つのが、豊田作品の常連である渋川と、松田龍平の妻でもあるモデル・女優の太田だ。
豊田 渋川さんはデビュー作からずっと一緒にやってきた。リズム感がまったく独特な人で、窪塚の持つリズム感とも違うから、そのかみ合わせが絶対面白いっていうのは確信してました。
窪塚 大観(役名)は僕がデビューする前からモデルとして雑誌で見ていて子供心にかっこいいなと思っていたから、この作品でやっと一緒に仕事ができて嬉しかったです。稽古や本番での時間を目いっぱい一緒に楽しめて、一緒にいろんなものを作り出せる人。今回も、前回の公演をなぞるんじゃなく、新しい天作と大観の関係性が見せられたら面白いなと思ってます。太田さんはいでたちから謎っぽくて役柄を彷彿させる感じがあるし、公演でも回を重ねるうちにどんどん自由になっていったんですよ。だから今回はもっと自由で、アイランドホッパーなクッキーが見れるのかなって。
豊田 太田さんは舞台上ではぱっと見でもアイランドホッパー、島から島へと旅してるっていう役柄に対する説得力がある。あの脚の長さだけでも、観てる人たちをぎゃふんと言わせられるんじゃないかと(笑)。
そしてマーティン・スコセッシら数多くのクリエイターと仕事をしてきた窪塚にも、豊田の印象を聞いてみた。
窪塚 たまにTwitterで小笠原の写真を上げたりしているのを見ていても、距離は離れてるけど同じ方向に向かってってる気がするから、安心して一緒にクリエーションを楽しめる人です。僕のことをよく理解していて仕事の上でもすごく生かしてくれるから、そのときに僕がぶつけたい思いだったり、たまってる不満や憤りだったりっていうのも作品の中でうまく消化させてくれて。一緒に仕事をすることで、僕もその状態を乗り越えて次に進めるようなところがある。大事な存在ですよね。(「Monsters Club」で)僕にユナボマー(爆弾魔)の脚本を渡してくるような人なんで、何かこう、そそのかされてるような(笑)…感じはありますけど。
そして今回は作品中ではゼニス(銭の巣)と表現され、混沌とした世界の象徴である東京に会場を移しての公演となる。
豊田 この作品は東京でやらないと意味がないって最初から思ってた。横浜での経験もあるから、今回はもうハンパじゃないぞ、叩きのめしてやる!みたいな勢いですね。内容的には脚本が一章増える予定です。芝居だけじゃなく映像も全体的に変えていくと思うし、今回はスクリーンが前回よりデカくなるので、迫力も増すんじゃないかな。赤レンガよりステージの奥行きがあってTWIN TAILのためのスペースも広くなる。
窪塚 僕は舞台を始めた頃、何回も同じことをやるっていうのがストレスだったんです。でも、同じことをやるんですけど毎回が微妙に違う、それを楽しもうと思ったら気持ちが解放されたというか。“今日はあの人、こんなセリフの言い方してきたな”だとか、この作品なら“今日は音がこんな鳴り方なんだ”とか。
豊田 僕も、実は映像を毎日変えてたんですよ。終演後にホテルにこもってその日の映像を見直して、より伝わりやすくなるように編集し直して。だから今回も、おそらく初日と最終日の印象は全然違ったものになると思います。
最後に、作品中に出てくるセリフで今作のキャッチコピーにもなっている「夢を見ることに、あきたことなんてない」に込められた意味を尋ねてみた。
豊田 観る人それぞれに、いろんな解釈をしてもらったほうがいいかなって思ってる。物語の中で“夢を見ることにあきたことなんかない”っていう風に冗談めかして言うんですけど、我ながらいい言葉だなって。“夢”って寝ているときに見る夢とも理想を指す夢とも取れるし、めんどくさい一文字で。でもこの舞台を観終わったあとにふとこのキャッチコピーを見返したら、そのときにこの“夢”がお客さんにどう映ってるのか?っていうのも気になるところではありますよね。
取材・文/古知屋ジュン
Photo by TAKAMURADAISUKE
【プロフィール】
豊田 利晃
■とよだ としあき 1969年、大阪府出身。千原浩史(現・千原ジュニア)主演の「ポルノスター」(1998年)で監督デビューし、同年の日本映画監督協会新人賞、みちのく国際ミステリー映画祭 ’99年新人監督奨励賞を受賞。2002年に人気漫画家・松本大洋の「青い春」を映画化し、大ヒットを記録。ドラマー・中村達也らとの音楽ユニット・TWIN TAILでの活動も並行して行っており、それが本作「怪獣の教え」へとリンクしている。
窪塚 洋介
■くぼづか ようすけ 1979年、神奈川県出身。ドラマ「金田一少年の事件簿」(1995年)でデビュー。映画「GO」(2001年)での演技が高く評価され、第25回日本アカデミー賞新人賞&史上最年少で最優秀男優賞を受賞。その後も豊田監督作品の「Monsters Club」(2012年)に出演するなど映画や舞台を中心に活躍。最新出演作はマーティン・スコセッシ監督の「SILENCE」。卍LINE(マンジライン)としてのアーティスト活動も精力的に行っており、昨年には自身初のベストアルバムをリリースした。
【公演情報】
ライブシネマ 演劇+音楽+映画
「怪獣の教え」
満員御礼の伝説的公演、あの怪獣が東京に上陸!
初演(2015年11月・横浜)で大絶賛された
豊田利晃監督オリジナル脚本、窪塚洋介主演『怪獣の教え』
演劇と映画と音楽が融合した新しいエンタテインメント・ライブシネマ、
待望の東京公演決定!
日程:2016/9/21(水)~25(日)
会場:東京・Zeppブルーシアター六本木
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!