今回は特別企画として、「阿佐ヶ谷スパイダース」の中山祐一朗さんにインタビューをさせていただきました。
実は今回私が演じる「井口孝之」の役は、中山さんが『イヌの日』初演(2000年)、再演(2006年)と演じている役なんです。
私としましても元祖に会いに行くわけですから緊張も半端ない。
「水戸黄門」に例えるならば、東野英治郎(初代黄門様)に佐野浅夫(三代目黄門様)が会いに行くわけですからね。
それでは、インタビュー始まります。
目次 初演の『イヌの日』(2000年)当時のことから聞かせてもらっていいですか?
中山 『イヌの日』をやる前の舞台が、年上の大人たちと共演する公演だったの。そこでおれがいつもみたいにふざけたギャグをやるんだけど、大人の方々にはムッとした顔しかされなくて。そんなこともあって『イヌの日』は好きなことばっかガンガンやろうかなって。
目次 稽古場はどんな雰囲気だったんですか?
中山 とにかくずっとふざけていたのは間違いない。稽古場で流行ってたのが、走ってヘッドスライディングしてセイウチみたいにスーッって床を滑っていくの。ずっとそれやってた。誰かに話しかけに行くのもそれ。こないだもグローブ座の公演の本番中にそれが流行っちゃって。あれ?目次くんはセイウチやらない?
目次 やりません。
中山 あとね、稽古期間中に殻付きのウニ食って食中毒になっちゃったの。最初腰が痛くて、「クーラーの風すっごい寒いんだけど」って言ってたら一緒に食べた二人が同じ症状で、あ、これ昨日のウニだって気づいて。しばらくせんべいしか食べれなくて。
目次 せんべい!?
中山 何日か稽古休んだんだけどそういうのがまだ許されてたね。今だったら食中毒といえどそんな休ませてもらえない。
目次 その6年後に再演することになるんですが、きっかけはなんだったんですか?
中山 きっかけ?わかんないな。でもおれは「孝之」がほんとに好きな役だったから、単純に次何かやるなら『イヌの日』やりたいって。正直今回も出たいぐらいだもん。
目次 え、出ちゃいます?
中山 出たい。でも俺がこんなこと思ってるなんてたぶん知らないんだよね(長塚)圭史とか。ちょっと前にその想いを告白したら「いいかげんやめなよ、大人なんだからそういうの」ってすごい普通のテンションで言われたの。普通のテンションでは止められない衝動を俺は言ってるんだけどな。
目次 先日、稽古場にも遊びに来ていただきましたが、何か思うところはありましたか?
中山 みんなで作品について自由にディスカッションしてたよね?するとさ、ちょっと恐いなぁって思ったのは、まだ本読みの段階なのにいきなり突き詰めようとしてくる人も中にいるわけじゃん。そうなると演出家の立場とかだとさ、「怖いな~、この人の意見は合ってるかもしれないけど、出過ぎるとこえーなー」って思いながら見てたりすると思うんだよね。まだそこの部分は広げておきたいのにな~って。その人の意見が真面目な意見であればあるほど影響力が恐いよね。
目次 中山さんたちはあまり話し合いはされなかったんですか?
中山 細かいディティールはグレーなままやってたね。「孝之」という役でいうとね、防空壕に監禁されてる4人の中で一人だけ中学生だから性の目覚めは一番早いよねとか言われちゃったら、そこで可能性が狭まっちゃうわけじゃない。自分たちは「有り得るよ!性の目覚め来てるのに、それに抗ってる精神年齢中2のおっさんいるよ!」って、そういう態度で作ってたな。
目次 もっと孝之について聞かせてください。
中山 孝之っていう役はめっちゃギャグ目線で作ったけれど、ギャグのお芝居をするつもりで作ったわけではないのね。客の笑いをとりまくるってわけじゃないの。劇空間の中の人たちがやるおかしなことでいいような気がして。だから初演のときはダダすべっててもいいって思ってやってたし、再演の時もギャグみたいなことをやるシーンはたくさんあるんだけど、そこで完全に笑いをとる必要はないって。
目次 物語の中の人たちがギャグやって自分たちで面白がってるだけでいいってことですよね。
中山 わかりやすい笑いで、ひと笑いきちんと収めるっていうやり方もあるんだけど、なんかね現代的な雰囲気にスッてなっちゃう気がして。そんで、ゴジゲンとは逆なんだけど「劇」作ってるつもりになっちゃって…再演を観に来てもらった吉田鋼太郎さんに「今回は八嶋智人に、笑い的には負けてたなぁ」みたいに言われて「いや、張り合ってるつもりはないんだけど…」とか負け惜しみ言ったりして…。
目次 本番中に衣裳で履いていた靴の底に穴が開いたと伺ったんですが。
中山 そうそう、再演の広島公演のときね。コンバースのオールスターだったんだけど、右足の親指の部分に穴が開いたの。
目次 え、新品ですよね?それは…どういう現象でしょうか?
中山 初っ端に孝之の長いセリフがあるんだけど、そのときに右足の親指に全体重と魂がかかるポーズをとってたからだと思うのね。
目次 全体重と魂…!?凄まじい熱量ですね。
中山 それぐらいほんとに孝之をやってるのが面白いの。なんかダッシュしすぎてお腹痛くなってウンコもらしそうになることない?
目次 えっと、なんすかそれ?
中山 ほら、走ったりとか、これ以上演技し続けるとやばいみたいな。舞台上でお腹痛くなるの相当恐いじゃん?
目次 恐い恐い。
中山 でも、これ以上やるとお腹痛くなるぞっていうのを8ステージ中、5回とかやってる。4日目ぐらいに恐くなってやめたのに、最終日にやっぱやりたくなってやっちゃうの。そのことしか考えないぐらいに孝之いいなぁって思うの。
目次 中山さんの孝之愛が半端ないですね。
中山 ま、でもね、そんなプレッシャーに感じずに目次くんが楽しんでやってもらえたら。
目次 いやいや、そんなの聞かされたらプレッシャーしかないですよ。
―終
Profile
目次立樹 メツギ・リッキ
1985年10月29日生まれ、島根県出身。
劇団ゴジゲン所属。舞台上では圧倒的な存在感を放つ、松居大悟作品には欠かせない存在。ここ数年は地元・島根県にて俳優、農家、ワークショップデザイナー、児童クラブの先生としても活動の場を広げている。
―今後の活動―
「イヌの日」 出演
作:長塚圭史 演出:松居大悟
2016年8月10日(水)~21日(日)
ザ・スズナリ(下北沢)