「錦秋特別公演2016」 中村七之助 インタビュー

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多くの人に歌舞伎に触れる機会を作ること
それが『錦秋特別公演』の一番の目的

 

 中村勘九郎と中村七之助が「自分たちが全国各地に出向き、たくさんの方に歌舞伎を観てもらおう」という思いのもと、2005年からスタートさせた『錦秋特別公演』。一昨年に10周年を迎え、今年で12回目を迎える。今回はこれまでと少し趣向を変え、歌舞伎をより身近に感じてもらうための「歌舞伎塾(立役、女形の出来るまで)」も企画しているという。

七之助「やはり“歌舞伎”と聞くと、どうしても格式高く感じてしまったり、気軽に観られるものではないという印象をお持ちの方が、まだたくさんいらっしゃいますね。過去の公演でも、僕らがスーツ姿で舞台上に登場するだけで、『歌舞伎役者も洋服を着るんだね』って驚かれたりして(笑)。ただ、そうしたいつもと違う雰囲気を作るだけで、お客様もスッとラクな気持ちになる。そうやってリラックスしてもらいながら初めての歌舞伎を体験していただくことが僕たちの狙いでもありました。

 今回の『歌舞伎塾』でもそのスタンスは変えず、タイトル通り、化粧をする過程や歌舞伎の楽しみ方を、僕たちの生の解説とともに観ていただこうと考えています。たとえば、踊りに関しても歌舞伎の振りというのは本当に独特で、一定のリズムがあるわけではなく、大げさに言えばすごく自由です。ゆったり動いたかと思えば、急に速いテンポになったりする。そうやって緩急をつけることで、お客様の心を掴んでいくわけですが、もちろんその動きのひとつひとつにも意味がある。そうしたことも、この『歌舞伎塾』をとおして紹介していきたいと思っています」

 

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 この公演の目的は、「あくまで歌舞伎に触れてもらうこと」と七之助。誤解を恐れずに言えば、「新しいファン層を獲得したいという思惑はないんです」と話す。

七之助「歌舞伎って入り方がすごく難しいと思います。演目の題名を見ても漢字ばかりで読みづらいですし(笑)、歌舞伎座のような劇場も初心者の方にとっては近寄りがたいイメージがあるのかもしれない。でも、皆さんが住む地元の会館であれば、気軽に足を運んでいただけるだろうし、『せっかくなので、これを機にちょっと勉強してみようかな』と思ってもらえるんじゃないかな、と。もちろん、そこで“やっぱり苦手だな”と感じていただいても結構です。それは好みの問題ですから。ただ、触れる経験がないというだけで、歌舞伎を敬遠されるのは実にもったいないことなので、僕たちの手でその機会を作っていきたいんです」

 

 ちなみに、今回の『歌舞伎塾』で例として取り上げる演目は『草摺引』。兄の危機を聞き鎧を持って出かけようとする弟・曽我五郎とそれを止めようとする小林朝比奈の妹・舞鶴がお互いに草摺を引き合う「派手で、歌舞伎らしい作品」だそうだ。

七之助「物語もとても単純で、初見でも楽しめる演目です。また、兄・勘九郎が演じる『女伊達』も同じく華やかな作品。兄が女形を演じるのは意外に感じられるかもしれませんが、昔は兄が女形で僕が立役でした。それに立ち回りのある役ですし、女性ではあるものの、江戸っ子のような、粋ですっきりとした踊りをされるのではないかと思っています」

 

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 一方、七之助が挑むのは『汐汲』。こちらは、在原行平から寵愛を受けた美しい女性が、都に戻ってしまった行平を思いながら舞いを踊る、美しい舞台だ。

七之助「『汐汲』は格式や風情、情愛など、すべてが詰まった演目です。しかもとてもシンプルで分かりやすい。そこが今回、僕がこの演目を選んだ理由でした。また、2年前にも坂東玉三郎のおじさまと一緒に『二人汐汲』で踊らせていただいたのですが、それが初役でした。そのときは姉妹として立たせていただき、お隣におじさまがいらっしゃったからこそ、やり遂げられた舞台でした。ただ、今回は玉三郎のおじさまを情景として思い浮かべながらの踊りになる。そこは自分にとっても、新鮮で面白い試みになるのではないかと感じています」

 

 最後に、今回計14ヵ所を予定している全国巡業への思いを聞いた。

七之助「これまでで『錦秋特別公演』を11回経験してきましたが、場所によってまったく反応が違う。それが面白いですね。質問コーナーでも、おとなしくて全然手の挙がらない会場もあれば、『彼女はいるんですか?』といった歌舞伎とは関係のない突っ込んだ質問をしてくるところもある(笑)。でも、それでもいいんです。どんな質問でもお答えして、歌舞伎や歌舞伎役者のことを身近に感じてもらうことが一番ですから。まぁ、プライベートの質問をされても、そこは上手いこと言ってかわしますし(笑)。それに、地方ごとに歌舞伎への“熱”が異なるのも面白いですね。香川や愛媛は「四国こんぴら歌舞伎大芝居」がどんどん盛況になってきて、それにともない、四国で歌舞伎を興行することに地元の方たちも自信を持ってきているような印象を受けます。一方、岩手や秋田、宮城といった東北には昔ながらの小屋があったりして、古くから歌舞伎が根付いていたのでは、と感じる部分がある。本当に場所によっていろんな出会いや感じ方がありますので、僕たちも一人で多くの方とお会いできるのを楽しみにしています」

 

撮影:山下ヒデヨ

 

【公演情報】

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中村勘九郎 中村七之助「錦秋特別公演2016」

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