ともに舞台の世界で活躍しているが、小劇場出身とミュージカル出身というやや距離感のある場所にいた2人。
井上 「取材でよく「KERAさんが井上さんを起用した理由は何だったんでしょう?」って聞かれるんですけど、「いや、僕の方が聞きたいです」ってずっと言い続けていたぐらい(笑)、KERAさんの作品は自分が出られるような種類の演劇ではないと思っていました」
KERA 「僕はミュージカルは不勉強で、井上くんの舞台を初めて観たのもうち(劇団「ナイロン100℃」)のみのすけや松永(玲子)が共演したこまつ座のお芝居を拝見したとき。ミュージカルはショー的な要素が強いと思うけど、僕がやっているのはそうやって明示するような作品ではなくて、基本的にはお客が勝手に覗き観るようなもの。で、そういう作品に意外と似合うなと感じたんです。ミュージカルでの井上くんは観たことがないけど、ドキュメンタリー番組でのオフの姿とかを見ると、プリンスなのに生活感があるし。もうちょっといい言葉がないかなって探しているんだけど……でも“生活感”なんだよなあ」
井上 「うれしいです。起用していただいた理由がわからなかったから、取材でも「時代を背負った役を演じる僕の姿に……」とか予想で答えていたんですけど(笑)、そういうことかって今わかりました。生活感があって良かった!」
「陥没」は、「東京月光魔曲」(2009年)、「黴菌」(2010年)に続く、“昭和三部作”のラストを飾る作品。東京五輪を目前に控えた1960年代前半が舞台の群像劇で、井上は相手役の小池栄子とともに、どういうわけかこの時代の溝にはまってしまった人物を演じる。
KERA 「「黴菌」が敗戦の日で終わっているので、次は高度成長期じゃないかと。だから東京でやることになる前から、東京五輪という題材は決めていたんです。開催が決まってから、「時代を照射して」とかなんとか、もっともらしいことを言い出したりして(笑)」
出揃った三部作の題名からは、ダークなイメージが漂う。
KERA 「なんとなくですけど、シリーズを通して“裏側”を描きたいという気持ちがあるんですね。今回なら、東京オリンピックに日本中がうかれているときに絶望的な思いを抱かざるを得ない人たちを描くのが逆に面白いかなという」
井上 「KERAさんがおっしゃったようにミュージカルってやっぱり明示していくジャンルだとは思うんですよね。で、僕も本来は物事を素直に受け取っちゃうタイプで、裏側があるなんて25歳ぐらいまで思わなくて」
KERA 「25は遅いな(笑)」
井上 「「なんでウチの親は裏側を教えてくれなかったんだ。役者として今、めっちゃ苦労してるじゃないか!」って、25ぐらいでやっと反抗期が来た(笑)。だからそういう表現は不慣れなんですけど、自分も長く生きてるとやっぱり表だけじゃ生きていられないというか(笑)、逆にそれがあるからこそ自分たちは表現をしているんだなと感じます。KERAさんの世界でそういったものを表現できるのは、とても楽しみでドキドキすることですね」
インタビュー・文/武田吏都
Photo(井上芳雄):会田忠行
構成/月刊ローソンチケット編集部 11月15日号より転載
写真は本誌とは別バージョンです。
掲載誌面:月刊ローチケHMVは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
■’63年、東京都出身。’93年にナイロン100℃を結成。「グッドバイ」で読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞。
井上芳雄
■イノウエ ヨシオ ’79年、福岡県出身。浦井健治、山崎育三郎とのユニット・StarSでも活躍。来年度のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」に出演決定。
【公演情報】
シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017
『陥没』
日程・会場:
2017/2/4(土)~2/26(日) 東京・Bunkamuraシアターコクーン
2017/3/3(金)~3/6(月) 大阪・森ノ宮ピロティホール
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:
井上芳雄、小池栄子、瀬戸康史、松岡茉優、山西惇、犬山イヌコ、山内圭哉、
近藤公園、趣里、緒川たまき、山崎一、高橋惠子、生瀬勝久
★東京公演プレリクエスト抽選先行決定!
受付期間:11/16(水)10:00~11/23(水・祝)23:59