日本ではアンダーグラウンド寄りなカルチャーだったストリートダンスに、近年のダンスブームの追い風もあり脚光が当たるようになった昨今。そんな中、2014年に始動したのがここ日本だけではなくアジア各国でも隆盛のストリートダンスをキーワードにした文化交流プロジェクト「ダンス・ダンス・アジア~クロッシング・ザ・ムーヴメンツ」だ。3年目となる今年の東京公演では、新進気鋭の演出家とダンサー勢がコラボ制作した作品を上演、東京を皮切りに2017年にはフィリピンのマニラ、ベトナムのハノイでも上演を予定している。
今回の注目株は、その独創的な世界観で日本のみならず海外からも熱い視線を集めるMIKEY from 東京ゲゲゲイが演出する『BLACK LIP BOYZ』。さらにフィリピンからは数々の国際ダンスコンテストでの受賞経験を持つVince Mendoza“Crazybeans”、ベトナムからもやはり国内外で活躍するほか、本国で約80名のストリートダンスカンパニー「Big Toe Crew」を率いるLION Tが、それぞれアジア各国から選抜した多国籍ダンサーチームの作品を演出するとのことで、どんな作品が生み出されるのか気になるところだ。本番直前の3チームのうち、LION TチームとMIKEYチームのリハーサル現場にお邪魔した。
まずはLION Tチーム。ウォーミングアップから様子を見ていると、ロボットダンス風のポップで踊るJackson Boogie J(マレーシア)、腕を鞭のようにしならせる動きが独特なパンキングを得意とするMARIN(日本)といった感じで、一人ずつの得意ジャンルは違うよう。簡単な英語で積極的にコミュニケーションを取り、休憩中にも楽しそうに踊り続ける彼らからは、ダンスが好きでたまらない、という空気がにじみ出ている。
『CHAIRS』と題したLION Tチームの作品は6部構成になっている。そのうちの「Real Men」と名づけられたユーモラス&スピーディなコーナーは、男性陣4人をメインに進行。車のタイヤを小道具に使い、実際に車を運転しているようなパントマイム風の動きや、タイヤを人に見立てた組み技などを披露。ぱっと見はコミカルだが、重みのあるタイヤをコントロールしながらの動きには正確性が求められるようで、綿密にお互いの動きを確認しながらリハーサルが進められていく。
また、ティーンの恋愛模様を描いたコーナー「Love」では、雨の日の公園を舞台にMARIN(日本)とC2Low(ベトナム)が動きが大きく伸びやかな「雨に唄えば」的世界観のダンスを披露。言葉が介在しないせいか、ダイナミックな動きはもちろん2人の表情の豊かさも目を引いた。そして後半には、予期せぬ展開が…!
それぞれテクニックを持つダンサーたちが、ストーリーの持つ世界観をどの国の人にも伝わるように表現することに力を尽くしていたこのチーム。演出のLION Tは「Everybody,Nice!」などと声をかけつつ、ダンサー個々の見せ場がパズルのように縫い合わされた作品の流れをじっくり確認していた。作品内容や東京公演について、まずLION Tに話を聞いてみた。
LION T この作品では、ベトナムの現代の生活のさまざまなシーンを再現するような形で見せたいと思っています。家族の中で起こりがちな問題も含めて表現したいと思っていて、例えばある男性が仕事で疲れて家に帰ったのに、奥さんからはいろんな不平不満や愚痴を言われたり、時には子供のことでけんかになったり。現実は苦しいけれども将来のため、人生のためと思えば生活を投げ出すわけにはいかない。明日からまた頑張ってこの生活を続けるしかないわけで。
作品の流れでいうと、「Street Life」をテーマにしたパートがあって、次に男性がお金を稼ぐために頑張る「Power of Money」、そして先ほど見ていただいた「Love」ではメインの2人がベトナムの高校生の制服で踊るんです。その次にその両親が登場してケンカを繰り広げる「?(クエスチョン)」、そして家庭でトラブルがあっても働き続けなければならない男たちの悲喜こもごもを描いた「Real Men」。最後に、登場人物であるファミリー全員が一緒に踊って気持ちを表現し合うエンディングになってますね。
家庭内の問題は、国や文化は変われどある意味変わらないものなのだろう。このストーリーに込められているのは、LION Tチームが考える幸福論なのだと言う。
LION T 子供はせっかく学校に行かせてもらっても親の愛情には考えが及ばないし、親から見ても子供たちの考えていること全てはわからない。夫婦の関係だっていつでもうまくいくものじゃない。そういう話の流れなんですけど、家族一人一人がお互いのために思いあえて理解しあえること=幸せなんじゃないかと思うんです。それで作品のエンディングではダンサーみんなが一緒にボディランゲージのようなダンスで目いっぱい自分の気持ちや、自分の幸せを表現しようと。
――チームには4カ国のダンサーが参加していますが、多国籍チームでのコラボはいかがですか?
LION T ちょっと話すだけではお互いの深いところまではわからないんだけど、時間をかけてワークショップで一緒に踊ったりしているうちに、それぞれの文化の違いみたいなものが少しずつ理解できてきたんです。これがダンスに関する自分のアイデアや感覚を変えるきっかけになったかもしれない。例えばささいなことですけど、チームの中でみかんのむき方が“議題”になったことがあって(笑)。私はバラバラにむきますけど、日本では花のようにむくでしょう? エレベーターに乗るときに片側に寄って急いでいる人を通すんだ…とか。そういう、自分と違う文化を持つ人に作品を見てもらう際に、どうしたらより伝わるのか考えてみたりね。それが今回の作品の持つ面白さじゃないかと。
ビジュアルや音楽などの面でもさまざまな隠し玉があるのだという。
LION T 今回はベトナムで制作した衣装を使うので、それも楽しみにしていていただきたいと思ってます。音楽も今回のために作った、日本とベトナムの民謡のミックスを一部で使うんですよ。そして私たちのチームにはヒューマンビートボクサーのMKが参加するんですが…。
ここでMK氏がふらりとインタビューに参加。作品中でのパフォーマンスをちょっとだけ実演して聴かせてくれた。琴のような和テイストの音をヒップホップ調にスライドさせていったりと、ビートボックスの自由さが作品に新鮮な息吹を与えてくれそうだ。
さて、本番も間近に迫っているが、舞台を観るときにストレートな反応をぶつけてくるアジア各国の観客に比べると、日本の観客は比較的おとなしめだといわれている。『CHAIRS』上演を控える今の自信のほどを聞いてみた。
LION T スタッフからも前もって「日本の観客はシャイなんだよ」と聞かされてはいるんです。私たちのグループはストーリーの世界観の中で生きているので、どんな状況でも心を込めてパフォーマンスはしますが、一応みんな心の準備はしてますね(笑)。MCの方がいるなら、お客さんも心を開放して、いつもより自由に表現していいんだよと伝えて欲しいんですよ。ショーではお客さんとダンサーのコミュニケーションみたいなものもとても大切だから、ダンサーたちもお客さんが盛り上がってくれることが励みになると思いますしね。私たちはストリートダンスをしながら育ったから、もともとの舞台はホールじゃなくストリート。今回はちゃんとした舞台の上で踊りますが、お客さんも街を歩くときのようにリラックスしながら見ていただくのがちょうどいいんじゃないかと。
そして余談になるが、日本で人気の東京ゲゲゲイのパフォーマンスは、ベトナムの人々から見るとどう映るのか聞いてみた。
LION T 彼らのパフォーマンスは映像で見てますよ。ベトナムのダンサーたちからすれば、ユニークだから、気に入るんじゃないかと思うんです。ただ、やっぱり彼らってすごく独創的だから、ダンスをやっていないベトナムの普通のお客さんからすると、最初は理解できないかもしれない(笑)。私が本国でハウス系のダンスを披露したときには“おかしい”と言われたこともあるんですけど、日本に来てクラブで同じダンスをすればお客さんは盛り上がってくれたんですよね。だから国によって反応には結構違いが出ると思いますよ。
さて、お次はMIKEYチーム。こちらもMIKEYが4カ国から選抜したダンサーチームなのだが、スタジオにはやや張り詰めたような空気が漂っていて、先ほどのLION Tチームとはまったく雰囲気が違っていた。
1カ月前に固めた振りつけをみんなで一から練習しなおす作業をしていたそうで無理からぬことだが、こちらはユニゾン(各人が振りをそろえて踊る)のパートが多いため、一つ一つの動きやタイミングについて、何度も何度も反復練習を重ねている。
東京ゲゲゲイのMVなどに登場したこともあるkEnkEn(日本)は振り付けをよく覚えていて、先陣を切って見本のダンスを見せている。それを見ていたEl-John(フィリピン)は、細かい動きを瞬時に正確に再現。A-Yao Ninja(台湾)は動きの一つ一つがゆったりとしていてエレガントだ。対してRenZ(フィリピン)は、手足が長いせいもあるのか動きに華やかさがある。TeDoubleDy Teddy(マレーシア)は片言の日本語が話せるようで日本人スタッフともコミュニケーションを取りつつ、振り付けの確認などリーダー的に5人をまとめている印象だった。
この場でMIKEY氏に代わって5人に細かくアドバイスをしているのは、演出助手であるBOW(東京ゲゲゲイ)。例えば2つの動きをつなげてパフォーマンスするときに、流れで動かずにいったんぴたっと動きを止めて…というような説明を「Keep Posing」などと説明しつつ、振り付けの中にあるメリハリを最大限に表現できるよう進めていく。「それぞれのやってるジャンルが違うから、みんなが同じ動きをしようと思っても難しいと思うんですよ。ただ、やってる中で自分が一番キレイに見えると思うタイミングが5人一緒であればそろって見えると思うので」とはBOWの談。公演約2週間前、今がふんばりどころの彼らの動きをチェックしながらMIKEYは横からボソリと「みんな動きがバラバラだから、厳しくね」「今のところ(チケット代の)3500円の価値がないからね」と鬼軍曹的な(?)ツッコミを入れている。そんなハードなリハーサルのさなか、MIKEYにこの5人についてを中心に語ってもらった。それぞれ個性的でチャーミングなメンバーがそろったが、どんな基準でメンバーを選んだのだろうか。
MIKEY 私は普段ダンスのワークショップなんかでアジアに行く機会が多くて、この国にはこういういいダンサーがいるっていうのは何年も前から知ってたんですよ。それで今回のDDAはアジア各国のダンサーを集めてやるっていう企画だっていうので「じゃああの国からはあの子を」みたいな感じで、このメンバーをジョイントさせたら面白いだろうなっていうのが頭の中にあったんです。
テクニックと華やかさを兼ね備えたドリームチーム的な人選で、グループ名は『BLACK LIP BOYZ』。これはやはり黒のリップを塗ってパフォーマンスする東京ゲゲゲイの世界観の延長線上にあるグループということなのだろうか。
MIKEY そうですね、あと元々彼らがやってたダンスのスタイルが、ゲゲゲイともそれほどかけ離れてはいないんですよ。お互いセクシュアリティがゲイである(※MIKEY曰くkEnkEnのみ違うそう)ということもあって、なんとなくセンス的に似たものがあったと思うんですよね。この名前を決めたのが、10月にフィリピンでリハーサルをやった時だったんですけど、撮影でメイクアップをするときに誰かが「黒のリップを塗りたい」って言うので、「僕も黒のリップ大好き!」みたいな話になって。なかなか男の子で黒のリップつけたがる子っていないんですけど、その場では当然のように「黒にしよう!」みたいなノリで。それが名前の由来なんですけどね。だから彼らとは美意識で通じるものがあって…細かくダンスのジャンル分けをすると結構それぞれのスタイルは違うんですけど、美意識や踊ってるときに感じるパッションのようなものはすごく共通してるなと思いました。
さて、演出家とダンサーの共同制作がコンセプトになっている今回のDDA。MIKEYがプロデュースする東京ゲゲゲイとは異なる制作スタイルになるのだが?
MIKEY 東京ゲゲゲイは完全に私が独裁してる(笑)形なんですけど、今回みたいなスタイルだと妥協とはまた違う…自分の中にはなかったイメージなんだけど、自分がいいって思ってるものと彼らがいいって思ってるものが違ったときに、一回自分のイメージを疑うプロセスが入るというか。「本当はこうやりたかったのに!」っていう妥協じゃなく、第三者から見てどちらのアイデアのほうがよりいいのかっていう俯瞰の角度から見て作っているというのは新鮮ですね。私はわがままなので最初は自分の思い通りにならないことがストレスになるんじゃないかと思ったんですけど、途中からは彼らのアイデアを取り入れつつ、私も納得できないことは流さずに、そのコントラストを上手く調整するかっていうところを話し合えたりしていますね。普段は周囲を説得するのが得意だから、最初はどう自分の思い通りにしようかっていう風にやってたのが(笑)、でも彼らの出したい魅力っていうのも大切だなと思い直したりして。そういう調整の仕方を今、学んでるところかもしれないです。
リハーサルで見たパートには、5人の体のラインの美しさに目が行くようなシーンも多かった。そこで振り付けのポイントをたずねてみたところ…。
MIKEY 実は私が振りをつけているのは20~30%くらいで、あとはみんなそれぞれが作ってるんですよ。得意とするものがそれぞれ違う中で、振り付けをみんなでつけてほしいというシーンでは「自分が輝きたいように振りを作っていいから」とオーダーしたんです。この動きは他の人には難しいかなと考えてちょっと簡単にする、じゃなくて、自分が輝くための振り付けをまず考えてほしいって。ゲイだから美意識が高いっていう言い方は、私はあんまり好きじゃないんですけど、でも彼らの中にあるそういう美意識のラインや姿勢だったりには、さっきも言いましたけど共通してるものがあったからか、知らず知らずのうちに振り付けもそういう感じになったのかなと思います。
全ての振り付けをMIKEYが担当しているわけではないが、統率する立場から見た今回の作品の色合いとはどういうものなのだろう?
MIKEY うーん…今回は最初から、ディープなものを作りたくなかったんですよ。ストーリーもないし、特にメッセージもないし、ホントにただただファッションだったりメイクだったり、“美”に焦点を絞っていて、そこに深く思想を込めたくなかったんです。それがなんでそうなったのかはわからないんですけど。それよりはもっとライトに「これっておしゃれだよね? ファビュラス!」みたいな、キャッチーな感覚のものを作ろうと思ってやってますね。だから全体的にはMVみたいな作品になってるかもしれない。それはまだ15~25歳という、彼らの若さに由来しているところもあると思います。あとはいろんなカルチャーや国をそれぞれが背負ってるから、みんなで同じメッセージや思想をシェアしようというよりは、おのおのがそれぞれのモチベーションだったり解釈で踊れるような作品にしたかったというのもあるかもしれないですね。
才能があり、それぞれに違う個性のきらめきを感じさせる5人について、1人ずつ紹介してもらった。
MIKEY RenZとEl-Johnは「G-Force」っていうフィリピンの大きなダンスカンパニーに所属してるんですけど、まずその団体に入ること自体がすごくハードルが高いんですよ。何百人もがオーディションを受けて、でも受かるのは数十人。さらに受かったとしても研修期間にほとんどが脱落するっていう。だからそれをクリアしている彼らのタフさもすごいと思います。彼らはストリートダンス、ヒップホップだとかを踊るんですけど、ベースがバレエだったり新体操なので、アクロバットとかもできたりして…その地肩の強さみたいなものや厳しいカンパニーで育てられてきた筋肉やエナジー、若いんですけどそういうパワーを持っていて。あと去年のDDAのマニラ公演のときに、彼らのスタジオに遊びにいって、そこで2人が踊ってくれたんですよ。それまで正直、フィリピンのダンサーはまったく眼中になかったんですけど、彼らの踊りを目の当たりにしたときにここにもこんなにヤバいダンサーがいるんだ!って感動して。それで今回誘ったんです。
RenZは5人の中で一番フェミニンなんですよ。すごくパーソナリティも踊りもクセが強いんですけど、それが彼のキャラクターという“作品”になっていると言うか。彼の打ち出す雰囲気やグルーヴっていうのは、他の人には真似できないものだと思いますね。パッションとかパワーというよりは「私はこういう美しさが好きなんです」っていう主張と強さを感じます。
El-Johnもゲイなんだけど、彼は男の子のセクシーさみたいなものを持っていて。彼がバイセクシャルだっていうのもあると思うんですけど、女の子っぽいセクシーさも、ジェントルマンっぽいセクシーさも表現できる。そのユニセックスな感じが魅力だなと思います。
それぞれ雰囲気のまったく違うフィリピン組。マレーシアから参加しているTeddyは若くしてゲイとしての業を背負って生きてきた人物なのだという。
MIKEY Teddyは最終的には女の子になりたい人で、いずれは女性の体になって生きていきたいと言うんです。好きになるのがストレートの子ばかりだから、自分が女の子になればストレートの子に愛されるって信じてるんですね。でもだいたいそういう人って絶望的な片思いに陥りがちだったりするんですけど…彼がこの中でも一番壮絶な人生を送ってて、マレーシアはイスラム教の国なので、ゲイにとっては生きにくい場所なんですよ。それでもダンスがあるから生きてるんだって言っていて。だから彼のダンスって、戦ってるように見えるっていうのかな。主張も人一倍強くて、ストリートのアンダーグラウンドのバトルにも一人で出ていて。ストレートのダンサーたちの中にガーリーな感じの彼が一人混じってやってるんですけど、自分がゲイだということにすごくプライドを持ってやっている姿を、私はすごくかっこいいなと思って。そういう彼の姿には共感するし、選びたくてなれる人生じゃないから、その強さが彼の魅力だと感じます。
そしてこの中では年長組のYaoとは付き合いも長いのだそう。
MIKEY Yaoは彼がまだ10代の頃に、私が台湾でワークショップをやったときに受けてくれたりしていて。その3~4年後に台湾に行ったときに、それまでジャズダンスやってたんですけどそれがヴォーギングっていうダンスになったりしていて、ダンススタイルがまったく変わってたんですよ。それでそのときあるバトルに出てすぐ負けちゃったんですけど、そのときのダンスがすごく衝撃的で「なんてエレガントでかっこいいんだろう!」と思ったんですね。楽屋まで「あなたの踊りはすばらしい。負けちゃったけど私にとってはあなたがNO.1だ」って言いに行ったくらいで。彼は自分よりも若いけど精神的に大人なんですよ。彼のダンスもボディコントロールがきっちりしてるんですけど、そこは心と体が通じてるのかなと思います。とにかくダンサーとしてすごく尊敬していて、ボディコントロールとかダンステクニックっていう意味合いでも、私にはとうてい追いつけない領域の人です。
そしておそらく東京ゲゲゲイファンにはおなじみのkEnkEnは弱冠15歳で最年少。
MIKEY 彼は2~3歳からダンスやってるんですよ。私はダンスを始めて10年なので、キャリアとしては同期的な感じなんですよね(笑)。音のとり方とかリズム感にマイケル・ジャクソンを感じるところがあって、彼のダンスを始めて見たときに「天才だ!」と思ったんですよ。彼はフィリピンと日本のハーフで、両親ともダンサー。だからダンスを習いたくて習ったんじゃなくて、ファミリーの中にすでに文化としてダンスがあって、ダンスの自然なグルーヴ、教えられない感覚みたいなものを持っているんです。近年はキッズダンサーで上手い子がいっぱいいるんですけど、なんだか体操的っていうのかな、仕込まれた感じに見えるんですよ。それが悪いとは言わないですけど。彼はそうではなくてナチュラルにグルーヴィーなダンスができる人なので、末恐ろしい才能と可能性を感じますね。
新世代のダンス・アイドル感も漂わせる才気と華を兼ね備えた5人が1つの舞台で火花を散らす『BLACK LIP BOYS』。
MIKEY 一言で言えばショーガールの世界なんですよ。私にはポールダンサーやバーレスクダンサーの友達がいるんですけど、彼女たちはステージだけじゃなく楽屋からもうバチバチやってるらしいんですよね(笑)。私はそういうのを経験したことがないから、彼女たちの愚痴なんかを聞いてると“ダンスだけやってりゃいいじゃん”って思うんですよ。でも彼らと一緒にいると、その感覚がちょっとわかるんですよね。それぞれ「私がセンター!」っていう5人が集まってるんで(笑)。仲良しなんだけど、それぞれがディーヴァでありクイーンであるっていうね。
他の2チームの様子については知らないものの「私たちとは全然違うんだろうなという予想はしてますね」と語ったMIKEY。残るVinceチームにはジャズダンスなどのキャリアを持つ松田尚子ら5か国のダンサーが参加し、コンテンポラリー色の強い演目「Hilatas<君を導く光>」を、DJやベース、クビン(フィリピンの口琴)も交えて披露するとのことだ。
三チーム三様、さまざまな国のカルチャーが混ざり合いユニークかつ活気に満ち溢れた作品が期待できそうなDDA。東京にいながらにしてアジアのストリートダンスシーンの今を体感できる、貴重な3デイズになりそうだ。
取材・文 古知屋ジュン
【プロフィール】
LION T
ライオン・ティー ベトナムのダンサー、振付家。1991 年ヒップホップをはじめ、翌年からストリートダンスグループ「Big Toe Crew」 に参加。2010 年にBattle Of The Year SEA & SOUTH ASIA で優勝。同年、世界的なコンペティションR16 でも第3 位に輝く。現在リーダーを務める「Big Toe Crew 」は、ポップ、ワック、ハウス、ヒップホップ、合わせて約80名のメンバーで構成され、5〜15 歳までのジュニア世代の育成にも力を注いでいる。また、個人の活動としてテレビ番組やオリジナル作品も手がけている。
MIKEY(牧宗孝)
マイキー パフォーマー、振付師、演出家、音楽家。ダンスチーム「東京ゲゲゲイ」のリーダー。3 歳から日本舞踊やお囃子を学ぶ。19 歳で歌のオーディションに参加し3万人の中からグランプリを獲得。その後歌を封印し、バニラグロテスクや東京★キッズなどで活躍。ゲイをカミングアウトし、ゲイカルチャーにインスパイアされた奇抜なスタイルへと変貌をとげ、ダンス界から注目を浴び始める。2013 年に東京ゲゲゲイを結成。2015 年の河原雅彦演出「ライチ☆光クラブ」ではパフォーマンス演出、テーマソング作詞作曲を担当。2016 年、中村うさぎ書きおろしの話題作「ASTERISK Goodbye, Snow White 新釈・白雪姫」では演出・振付・音楽を手がけ、主演も務めた。DDAでは、東京ゲゲゲイとして2015 年にフィリピン、タイ、東京公演に出演。同年ストリートダンス界から初の日本ダンスフォーラム賞を受賞している。
【公演情報】
DANCE DANCE ASIA
公演日:2016年12月9日(金)~12月11日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
料金:一般3,500円 (全席指定・税込)
演出:牧宗孝(MIKEY from東京ゲゲゲイ)(日本)
出演【ダンサー】:
Yao Ninja(台湾)、El-John(フィリピン)、kEnkEn(日本)、 Renz(フィリピン)、TeDoubleDy Teddy(マレーシア)
演出:Vince Mendoza “Crezybeans” (フィリピン)
出演【ダンサー】:
boy Allen(フィリピン)、Bird(シンガポール)、Khenobu(マレーシア)、 松田尚子(日本)、Rhosam V. Prudenciado Jr. “Sickledsam”(フィリピン)、Salt(インドネシア)
DJ:MED MESSIAH(フィリピン)
ベース・クビン:Carlo Bernardino(フィリピン)
演出:Lion T(BIG TOE) (ベトナム)