『エジソン最後の発明』
青木豪×瀬奈じゅん×東山義久 インタビュー

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私的な思い出話も脚本のヒントに!?青木を刺激した瀬奈&東山

劇作家・演出家としての青木豪の名前を見ない年はないのだが、オリジナル脚本で演出を手掛けるのはなんと7年ぶり。タイトルは『エジソン最後の発明』だが、エジソンの評伝劇ではないとのこと。物語の舞台は東京下町の工場。“エジソンさん”と呼ばれる発明好きのおじいさんが“死者と話す通信機器”の発明に乗り出したとあって、ラジオの人気パーソナリティである娘やその恋人、おせっかいなご近所さんも首をつっこんで大騒動。小野武彦演じる“エジソンさん”の娘に瀬奈じゅん、恋人でラジオ局のプロデューサーに東山義久。青木、瀬奈、東山のインタビューは、脚本執筆まっただ中の青木に新たなインスピレーションをもたらすほど、ドラマティックな展開になった!

 

――このタイミングでオリジナル新作に至ったのは?

青木 たまたまです。これまで、脚本だけ演出だけのお話をもらって有難くやってきましたが、昨年(2016年)、キューブに移籍したのをきっかけに、「作・演で新作どうですか?」と聞かれ、喜んで!と(笑)。そういえば、8年前に劇団グリングを解散して以来、作・演出はほぼほぼやっていなかったな、と気づきまして。とはいえ、このために置いてあったネタではないです。僕は言われてから動く怠け者(笑)。締め切り間際に追い詰められて2日くらいで思いついたものです。

 

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――下町の工場を舞台にしようと思った理由はなんですか?

青木 そこは最初から、工場にしようという絵面は浮かんでいました。で、なにかのタイミングに、エジソンが最後に取り組んだ発明が“死者と会話できる機械”だと知った。それから瀬奈さんにお会いし、声を聞いた時、ラジオパーソナリティがいいなと感じたんです。父と娘の話にしよう、恋人はラジオ局のディレクターで、東山くんで、バツイチでと、そこからいろいろと物語を転がしていきまして。

東山 え?僕、バツイチなんですか(笑)?

青木 うん(笑)

瀬奈 私は小さい頃から声がコンプレックス。低くてハスキーで。なのに、声が好きと言っていただくことがすごく多いんですね。自分がコンプレックスを持つものと、人が好きと言ってくれるものには、なにかしらの共通とがあるのかなと思いました。声を仕事にする役を当ててくださったのは、そういうことなのかなと。

――瀬奈さん、東山さんのキャスティングを見ると、歌って踊るお芝居なんだとはじめは思いましたが、ストレートプレイなんですよね?

青木 ごめんなさい、そうなんです(苦笑)。うーん、だんだん、歌って踊るシーンを作ったほうがいいのかなって思い始めた。

瀬奈 やりますか(笑)。

東山 オファーをいただいて、「やります、ありがとうございます」と即答しましたが、「言っとくけど、歌と踊りはないから」と念押しされました。楽しみだし、有難いんですが、僕になにができるんだろう!?という思いもしてるんです。

青木 普通の“あんちゃん”みたいな人がいいってリクエストしたんですよ。そしたら、東山くんだった。

東山 あ、これまでのストレートプレイで得てきた僕のイメージもありますか(笑)。いや、その通りだと思います。DIAMOND☆DOGSという7人のカンパニーを立ち上げて14年、今年で15周年を迎えます。自分はその発起人で、年上だし、あんちゃんというか、リーダー感がいい感じであるんじゃないかと思いました。フライヤーのイラスト(俳優の岸祐二・画)も完全にあんちゃんでしょ?僕の服、唐草模様ですよ!

瀬奈 岸くんのイラスト、ちょっと悪意を感じる(笑)。

 

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――すごく似ていると思います(笑)。ところで、瀬奈さんと東山さんはエジソンの最後の発明が“死者と話す機械”と知っていました?

東山 知っていました。テレビかなにかで。

瀬奈 私はぜんぜん知らなかった。まず、ありえないでしょ!そういうものを発明しようとする繊細さは素敵だけど。私はもっと現実的。夢がない人間だから……。

青木 どっちに夢があるのかわからないけどね。死んでなにもなくなったほうが、夢があるのかもしれないし……。よくよく調べると、エジソンは、箱の中の入れた書きつけメモを透視する霊能者のような人に出会い、こいつにそれができるなら、科学でできるんじゃないか、科学で証明してやろうと思ったのが発端だったらしい。

瀬奈 そういうことなんですか!

青木 誰かが自分を見ている視線って絶対に感じるじゃない?なのに、証明されていないですよね。同じことだと思うんです。エジソンの時代、遠くの人とこんな近くで、電話で話すなんてあり得なかったのに、彼は発明に成功した。今は携帯電話まであります。そういう、目に見えないところのものを物理的に解き明かすことが、エジソンのような天才ならできるのかな、と。そういえば、ラジオも、エジソンの会社にいた技師の発明なんですよね。

――本当に“死者と話す機械”が発明されたら、誰と話をしたいですか?

東山 僕が思春期に入る頃に亡くなった母方の祖父。小さい頃、僕は体が小さくて、おじいちゃんはそのことばかり心配していました。だから、この仕事を始めたこと、いろいろやってきたことを報告したい。一緒にお酒も飲みたいですね。実は、いまも、いまだに開けたことのない祖父の形見を大事に持っているんです。毎回、舞台の初日と千秋楽には、楽屋で形見を手に持って、おじいちゃん、行ってくるよってやっています。

瀬奈 開けましょう!稽古場で。

青木 これを機会に!

東山 絶対、ダメですから(汗)!

瀬奈 私も、母方の祖父に会いたいです。おじいちゃんは宝塚が大好きでした。でも、私が中学一年生の時に亡くなったから、宝塚受験を決意したことも、合格したことも、トップになったことも知らない。入ったよ、がんばったよ、トップになったよって報告したいんですよ。でね、私にも形見があるんです。バーバリーの水玉のスカーフ。とてもおしゃれな人だった。海軍の船長で、制服の胸ポケットにスカーフと香水をいつも入れていたそうです。そこを撃たれたら瓶が割れて体に流れるし、ほかを撃たれても自分で取って体に掛けられると。船上の社交に、大人のたしなみとしてタンゴも踊っていたようで。

青木 ……その話、いただいていいですか?

瀬奈 祖父の話はいっぱいありますよ。中学生の頃、毎週土曜はおじいちゃんとデートしていました。その中でたくさん話してくれたんです。海軍時代に捕虜を連れて港に行き、通訳を頼んだのが、実は父方の祖父だった、とか。びっくりでしょ!両親の結婚後にわかったんですが、すごいめぐり合わせですよね。そんな逸話を、祖父は私にしか話していないんです。もっと、みんなに話してほしかったな。話す、ということには、いろいろな理由があると私は思うんですよ。たとえば、話して自分が楽になりたいのか、人のために、みんなのために聞かせたいのか。おじいちゃんの話をみんなに聞かせてあげたいから“死者と話せる機械”はぜひ発明してほしいけど…。だから、私が伝えていこうと思います。

青木 おじいちゃんと宝塚は観に行かなかったの?

瀬奈 行かなかったですね。宝塚を直接勧められたこともなかったな。

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――青木さんは誰と話をしたいですか?

青木 昔、一緒にやっていた舞台美術の人に会いたいです。「円」(演劇研究所)のペーペー時代からお世話になった方で、当時すでにご高齢だった。グリングの旗揚げ(1997)を見に来てくださって、「おい、豪、金ないだろう?でも、おもしろかったから、2回目から俺とやろう。ギャラはいらないから」と。しばらく一緒にやらせていただきました。僕のことをよくわかってくれて、ふいに、グッとくることをおっしゃるんです。「お前、一回、死みたいなところを通らないと書けないからキツイよな」とか、ほろっと言ってくれるんです。キツイ話を書いていたのでしんどかったんですよ。技術がない代わりに、身を削って死の淵まで行かないとわかんない、書けない、という時期がありました。だから、いまの僕はどうですか?大丈夫ですかね?って聞きたいですね。…あ、今回の新作は、ハッピーエンドにしようと決めてますから(笑)。

――下町のエジソンさんが本当にいたら、なにを作ってもらいたいですか?

青木 イスカンダルにあるらしい放射線除去装置です!

瀬奈 洗濯・乾燥・たたみまでやってくれる機械が出来たって聞きました。愛する妻のために開発したとかで、私もぜひ欲しい!発明品って、できる・できないだけじゃなく、開発に至るまでの思いも大切ですよね。

東山 どこでもドアが発明されたら、家から稽古場、劇場が楽になる!……だけど、めんどうな道のりで、酔っ払いに会って友だちになったってことが結構あるんで(笑)、僕らの仕事にはそういうめんどうも必要だったりするんですよね。メールも、ポンッって送れるけど、表情がわからない。手紙にすれば、相手のために時間をかけるという素敵さが出てきます。さっきの話の洗濯も、もう、こんなところ汚して~って、手に取るからわかることもあったりするじゃないですか。発明も大事だけど、発明が人間を退化させることもありますよね。

青木 そうなんだよね。検索サイトでいろんなことが一発でわかるっていうのも便利だけど、一発でわかるから知識が浅くなっちゃって。

――お話を聞いていると、ラジオって、スマホやパソコンをやっていてもスッと耳に入る、もしかしたら、いま一番強いメディアなのでは?と感じました。

青木 僕もそう思ってきました!ラジオは耳にダイレクトに来るから聴くし、想像力が働く。

瀬奈 私、車に乗る時は必ずラジオを聴くんですよ。ピンポイントで情報がほしいニュースもあるけど、それ以外、ラジオはいいこととか言わないでいい、どうでもいいことを言っていてほしい。なんとなく接点を感じて、まるで一緒にいて会話をしているようで、想像力が膨らんでいく。そんなパーソナリティになりたいな。

 

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――歌って踊らないストレートプレイに向けて、意気込みをお願いします。

東山 このメンバーでは、僕が一番ご迷惑をおかけすると思うので、みなさんの胸をお借りして楽しみたいと思います。僕自身はいま、ダンスが、キャリア的にも年齢的にも総仕上げの時期に来ている。だから、今年はどうしてもダンスに意識が向いていくと思うんですが、ダンス、歌、芝居とあって、一番好きなのは芝居です。できる・できないは別として。普段とは違って自分の企画制作ではない、僕を知らない人もいる座組だからこそ、気張らずできる。いつもはリーダーと呼ばれて責任を負うことが多いから、瀬奈さんに寄りかかっていきたいです。

瀬奈 今回はリーダーって呼んで (笑)!私も、とにかくみんなで切磋琢磨し、楽しみたい、いいものを作りたいと思います。

 

◆◇◆青木豪×瀬じゅん×東山義久とローソン◆◇◆
みなさんにローソンにまつわるお話を聞きました。

瀬奈 ローソンCMに出ていた2匹のとりの兄弟!超かわいい。私の推しキャラです!

東山 DIAMOND☆DOGSのデビューPVが、レジのモニターに出たことがあります。ちょうどメンバーと買い物に入っていて、“あれ?これ俺じゃない?”とわざと大声で言った記憶が。あれはうれしかったですね。

青木 近所に2軒あって、いつもタバコを買いに行きますよ。一つは100円ローソンで、原稿のプリント用紙がなくなると駆け込むんです。事務用品もよく買いますし、生活を支えてもらってます。

 

取材・文/丸古玲子

 

ヘアメイク:武井優子(瀬奈、東山)
スタイリスト:松島三季(瀬奈)

 

【プロフィール】

青木豪
■アオキ ゴウ 1997年に劇団グリングを旗揚げ。以後、2009年に活動を休止するまで作・演出を務め、市井の人々の巧みな会話劇で評判を呼ぶ。近年では幅広い作風に挑み、プロデュース公演だけでなく多くの劇団にバラエティに富んだ作品を提供している。

 

瀬奈じゅん
■セナ ジュン 1992年に宝塚歌劇団 花組公演『この恋は雲の涯まで』で初舞台。2005年、月組トップスターに就任。様々な色を持つ演技で絶大な人気を集める。2009年12月に退団。以降、舞台だけでなく、コンサートも開催し、エンターティナーとして魅力を発揮している。2012年菊田一夫演劇賞演劇賞、岩谷時子賞奨励賞。

 

東山義久
■ヒガシヤマ ヨシヒサ 1998年、大学卒業と同時に初舞台。2003年春にボーカル&パフォーマスグループ「DIAMOND☆DOGS」を始動。2013年には肉体の可能性を追求する新しいカンパニー“BOLERO”を立ち上げるなど、多方面に活動の場を広げている。

 

【公演情報】
『エジソン最後の発明』

作・演出:青木豪
出演:瀬奈じゅん 東山義久 岡部たかし まりゑ 安田カナ 武谷公雄 八十田勇一 小野武彦

日程・会場:
2017/4/2(日)〜23(日) シアタートラム(東京)
2017/5/1(月) 青少年文化センター アートピアホール(愛知)
2017/5/2(火)・3(水・祝) サンケイホールブリーゼ(大阪)