『春のめざめ』志尊 淳インタビュー

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初ストレートプレイで初主演。
プライドはいらない、この舞台に身を投げ出す覚悟です!

“いま、若手俳優戦国時代”とこのインタビューで志尊 淳は言う。そうした中でメキメキと注目度を上げる彼が初のストレートプレイに挑む。しかも主演。『春のめざめ』はドイツの劇作家フランク・ヴェデキントの1891年の名作であり、問題作とも言われた戯曲だ。構成・演出を手掛けるのは白井晃。白井がKAAT神奈川芸術劇場芸術監督として取り組んでいる、近代戯曲を現代に蘇らせるシリーズ第4弾。問題作と言われるゆえんは、思春期の少年たちの性への目覚め(まさしく“春”の目覚め!)と、大人たちの抑圧の言動、結果、起きてしまう悲劇を露わに描くためだが、「僕はまったくそう(問題作)とは思わない」と志尊は語る。いまの時代だからこそ上演するのは興味深い、戯曲に共感するなど、プレッシャーを背負いながらも本作に真摯に向き合う彼の言葉を受け止めてきた。

 

――初ストレートプレイで主演が決まった時の思いとは?

志尊 プレッシャーでしかありませんでした。初のストレートプレイ、初の主演、そして、白井さんの演出です。もうやるしかない、プレッシャーを楽しみに変えていかないと!と思うばかりで、早く稽古に入りたくて。

 

――白井さんの演出というのも大きいのですね。

志尊 とてつもない方ですから。白井さんの演出舞台は『マーキュリー・ファー』(2015年)、『レディエント・バーミン』(2016)を観劇させていただきました。初めてお会いした時の印象は、僕が言うのも失礼ですが、とっても上品な方だなと。それでいて、「僕、厳しいからね」とおっしゃったんです。こんな穏やかな方がどんな風に厳しくなるんだろうと違和感を抱くほどですが、白井さんの演出を経験した方々に話を聞くと、確かにプレッシャーを感じる。先輩の瀬戸康史くんもかなり追い詰められたようで。でも、「(白井さんの演出舞台は)本当にやったほうがいい」とみなさん口を揃えて言うんです。だから、こんな機会はない、ぜひやらせていただければと思いました。

 

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――作品に対する印象はどのように感じましたか?

志尊 “性”をテーマにした物語です。海外の戯曲だし、時代も違うし、数回読んだだけでは理解できないけれど、抑圧されている子どもたちの抱える感情が、媚びていないんです。問題作と見られてきた作品ですが、僕はまったくそんな解釈はしていない。むしろ、すごく共感して、この繊細なところを伝えられるならとてもいい作品だと思いました。

 

――媚びていない、とは?

志尊 赤裸々な感情をまっすぐに吐露している。それは、僕自身の本心にもあるものなんですよ。

 

――だから共感も強くなると。

志尊 若い時期に性に目覚めると、親や先生といった周りの大人たちに抑圧される。それがまた、大人によってそれぞれに違うやり方で抑圧してくる。まだ幼い影響されやすい年頃が、どう反応していくのか、自殺という悲劇もあって……。いまの現実には起こりえない、とは言い切れないと思いました。国や時代背景が違うから一概には言えないし、いまの子どもたちが性を知る方法も変わっていると思うけれど、でも、いまの子どもたちも大人たちの抑圧に遭えば、同じように思うかもしれない。むしろ、遙かに大きな反応をするかもしれない。こうした性の話を、いまの時代にやるのは興味深いと思いました。国や時代が違っても、“本質”に思うことは世界共通なんだ、という感想も持ちました。

 

――客席の反応もどうなることやら、興味深いです。

志尊 どんな風に解釈していただけるんだろう。年齢によっても違うと思います。若い人が観れば僕らと同じ解釈になり、親世代が観れば先生や親の解釈になるでしょうし。性を知った子どもは興味本位で聞いてくるし、聞かれた大人は嘘をつくし、すると子どもは隠し事をされたとフラストレーションを溜めて……、と、どちらの気持ちもわかるような気もします。でも、正解はないんですよね。本当に、個人個人で解釈は変わる。すごく繊細な作品だと思います。

 

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――優等生のメルヒオールを演じることについては、どのように感じていますか?

志尊 中高生時代の僕はわりと優等生だったので(笑)。先生の言うことをよく聞いて、いっぱい勉強して、野球部でしっかり練習して。学生時代はそれしかやることないですから。性にストレスをためたこともなかったし、勉強と部活に集中できたと思います。もちろん、内心に反発はありましたよ。でも、兄と姉がいるので失敗を見ているから(笑)。兄弟ともに親に勉強しろと言われたことはなかったですね、だから好きでやっていたのかな。競争心も強かった。学業に熱心な学校でしたが、勉強というのは数字で評価がハッキリわかる。そこに負けず嫌いが出るんです。闘争心がありました。

 

――同級生の劣等生モーリッツ役は栗原類さんが演じます。バラエティ番組でご一緒だった栗原さんとの舞台初共演はどうですか?

志尊 びっくり!でした。4年ほど前に同じバラエティ番組でレギュラー出演して、同い年ですし、よくしゃべっていました。当時はタレントさんでしたが、それから役者を始めたと聞いていて、ある時、偶然に食事の場でバッタリ会ったんです。そこには何も変わらない、そのままの類くんがいた。僕の舞台をたくさん見てくれていて、「一緒に仕事したいね」と話して、それが現実になり、バラエティとはぜんぜん違うところで初めてお芝居を交わします。ものすごく楽しみなんです。類くんはすごいんですよ、すべてがすごい。バラエティではいつも刺激を受けていました。海外の戯曲にも詳しいから心強いんです。

 

――初のストレートプレイへの心構えはいかがですか?

志尊 とにかくなにもわからないので、身を投げ出す覚悟です。プライドはいらない。自分が経験してきたものをぶつけて、崩される、その繰り返しだと思っています。だから、なんでも遠慮せずに提示し、叱られていくのがいいなと思っています。

 

――性がテーマゆえに生々しいシーンも。音楽やダンスという様式で見せるミュージカルとは違うことになりますが……。

志尊 映像も舞台も芝居のスタンスは変わらないです。役の意識しかないから、僕本人として見ることはないですし。キスシーンへの抵抗も申し訳ないほどなくて(笑)。生々しいシーンへの挑戦、と周りの方は注目してくださると思いますが、僕自身はヘンに意気込むことはない。芝居に向かう気持ちは、すべて一緒なんです。

 

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――このタイミングでの初主演をどう感じますか?

志尊 壁だと思っています。役者人生で、ここが転機になる、どうしても越えていかなければならない気持ちで。いろいろな場所で影響を受け、刺激を受け、学んで、いろいろな人に会って、表現の幅を広げていかないと。いま、“若手俳優戦国時代”ですから!一つ頭抜け出していくには、試練はあったほうがいい。

 

――中でも一番の大きな壁が……?

志尊 白井さんの演出、ストレートプレイ、そして主演。見るからに大きな壁です!僕としても、メルヒオールとしても、どう越えていくのか。自分自身との闘いになります。しっかり見つめ合っていきます。

 

――白井さんのコメントにも、本作を通じて新たな“志尊淳”に出逢ってほしいとありました。どんな自分に出会えるか楽しみですね。

志尊 最近は映像が多かったですが、舞台となると表現の仕方は少し変わります。どんな発見ができるのか、成長できるか、楽しみであり、自分にプレッシャーをかける点です。まだまだどんな自分に会えるかまったくわからない!自分がこれだと思う表現をして、どんな評価を受けても、それが自分の力。みんなに気に入ってもらうことを目指すのではなく、一個の役者として、なにかインパクトを、感じるものを出したい。なんでもいいんです、なんでもいいから、心が動く表現がしたい。作品が伝えたいものを主軸としても、そこからおのおのの個性は派生していく。僕は、自分が表現するものを肯定してもらえることが役者として一番いいと思っています。誰かを目標にするのではなく、個人にしか出せない色、表現できないものが絶対にある。唯一無二です。自分の表現が肯定されると役者はうれしいし、役者冥利に尽きると思う。“志尊 淳”で勝負できたら、と思ってがんばります。

 

◆◇◆志尊 淳おすすめの一冊◆◇◆
『演劇最強論』
この作品で“演劇”をやるにあたり事務所の社長に勧められました。いろいろな観点で演劇を評価する内容は、いままで触れてきたことのない文化論でした。演劇の本質を問う本で、すべてが新鮮に感じた一冊です。

 

取材・文/丸古玲子

 

【プロフィール】
志尊 淳
■シソン ジュン 1995年3月生まれ、東京都出身。2011年に俳優デビュー。主な出演作はミュージカル『テニスの王子様』シリーズ、Dステ『TRUMP』、舞台『タンブリング』など。本作にて本格ストレートプレイに初挑戦。また、テレビでは『烈車戦隊トッキュウジャー』、『表参道高校合唱部!』、『5時から9時まで~私に恋したお坊さん~』、『そして誰もいなくなった』など、映画では『先輩と彼女』、『疾風ロンド』、『サバイバルファミリー』、『帝一の國』など、数々の話題作に出演。

 

【公演情報】
『春のめざめ』
原作:フランク・ヴェデキント
翻訳:酒寄進一
構成・演出:白井晃
出演:志尊 淳 大野いと 栗原 類
小川ゲン 中別府葵 北浦 愛 安藤輪子 古木将也 吉田健悟 長友郁真 山根大弥
あめくみちこ 河内大和 那須佐代子 大鷹明良

日程・会場:
2017/5/5(金・祝)~23(火) KAAT 神奈川芸術劇場 <大スタジオ>(神奈川)
※5/5(金・祝)・6(土)はプレビュー公演
2017/5/27(土)・28(日) ロームシアター京都 サウスホール(京都)
2017/6/4(日) 北九州芸術劇場 中劇場(福岡)
2017/6/10(土)・11(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール(兵庫)