マリリン・モンローやジュディ・ガーランド、
往年の歌姫そっくりの美声と表情になりきる!
部屋に引きこもりがちの無口な少女が、ある日大人気の歌姫に!?マリリン・モンローやジュディ・ガーランド、シャーリー・バッシーなど往年のディーバ(歌姫)たちの歌を、歌声だけでなく歌い方まで完璧にマスターした少女、リトル・ヴォイス(以下、LV)が、歌の力で人生を切り拓いていく感動作。大原櫻子の初主演舞台であるに加え、硬派な作品で知られる劇団チョコレートケーキの日澤雄介が演出する点でも注目の名曲満載ストレートプレイだ。舞台『Little Voice(リトル・ヴォイス)』は1992年にロンドンのナショナルシアターにて初演。1998年にはマーク・ハーン監督により映画化され、日本でも1999年の公開と共に好評を博した。そんな名作が舞台となって日本再降臨するにあたり、主役のLVに抜擢されたのが、現代の若き歌姫、大原櫻子。映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(2013)で5000人のオーディションを勝ち抜きヒロイン役で鮮烈なデビューを果たした大原だが、一方では、ソロライブで武道館を満員にする実力派の歌手でもある。初主演となる本作では、マリリン・モンローやジュディ・ガーランドになりきり20曲以上の歌を披露するという。実際に生歌を聞かせるパフォーマンスも行った緊張の製作発表直後、インタビューに応じてくれた。取材室に入ると、「♪んんん~」と口ずさんでいる!
――口ずさんでいる曲は?
大原「今回の舞台の歌です。ひまがあったら練習しないとで(笑)」
――20曲以上あるそうですね。初めて聞く歌もありましたか?
大原「曲数は数えられないんです、もう必死で!とりあえず頭には入ったかな。でも、まだ身体には入っていないから、ひまさえあればやっておかないとって感じです。ほとんどが知らない曲でした。知っているのは、『Gold finger』(シャーリー・バッシー)、『I wanna be loved by you』(マリリン・モンロー)、『Over the rainbow』(ジュディ・ガーランド)くらい。大変です!CDを聞いて、同時に練習もして、自分の声も録音して本物と聞き比べもしています」
――初主演を受けたときの衝撃はどうでしたか?
大原「歌やお芝居に興味を持ち始めたきっかけが、子どもの頃に見たミュージカル『アニー』です。今回はミュージカルではありませんが、本当にたくさんの歌を歌いますし、お話をいただいたとき、いままで歩んできた人生の中で、自分が本当にやりたかったものはこれだったんだ!と気づきました。すごくうれしかったです」
――LVは無口な少女ですが歌によって外に出た。そんな主人公への共感は?
大原「歌だけが自分を表現してくれる――。それは、ある気がします。このお仕事を始めた頃、わたしもしゃべるのが得意じゃなくて、早く歌わせてよ!歌を聞いてもらえたらわたしのことぜんぶわかってもらえるんだろうな!と思いました。そんなところは似ているかもしれませんね」
――初めて人前で歌ったことを覚えていますか?
大原「覚えています!ピアノの発表会なのに、なぜか、歌を歌いたいと言って歌いました。ピアノも弾きましたけど、歌だけも歌いたくて、大好きなアニーの『Tomorrow』を。その日以来、親戚の結婚式で歌い、別の習い事の発表会でも歌いと、歌の場が増えていきましたね。7歳くらいだったと思います」
――そのときの感触はいかがでしたか?
大原「ビデオが残っていますが、もう、やり切った感の顔がすごい (笑)。足もすごく開いて立っているし、歌い終わるとき、わーと両手を上げ、指揮者のように手のひらをくるっと丸めて自分で締めているんです。あなたのステージじゃないよってツッこみたいくらい張り切っていました。ここが、わたしの始まりでした」
――大原さんは幼いころから人前で歌えていたけれど、なかなか外に出られなかったLVの気持ちを想像するといかがでしょう?
大原「わたしもちっちゃい頃は“ぶすくれ”ってあだ名だったんですよ。いないいないばあをされてもぶすーっとしているような子です。いつからか、こんなにぎやかになってしまいましたけど(笑)。言葉で伝えるのはすごく難しいし、ちょっと恥ずかしいような感じもする、でも、歌は歌える。たとえば、愛している、と言うのは恥ずかしくても、メロディーにのせて「アイ・ラブ・ユー♪」が歌えるなら言える、と、そんな感じはずっと持っていました。だから、LVのそこの気持ちはわかります。人と話せない内気なLVの場合は父を亡くしたことが大きくて、部屋に閉じこもり、唯一の楽しみが父の形見の古いレコードを聞くことだった。その点は想像力でしかないけれど、LVの気持ちになるべく近づいていきたいと思います」
――LVを部屋から出す後押しを、大原さん自身が演じながらするのかもしれませんね。
大原「LVを演じるにあたって絶対に心がけようと思ったのは、LVはしゃべらないんじゃない、しゃべりたいけど、なにかが突っかかっている、という、しゃべりたい“Wants”のところなんです。ただの引っ込み思案ではなく、本当は自発的にやりたいんだ、という“Wants”を大事に持っておこうと思いました。それができたとき、LVが引きこもっている理由がわかるんじゃないかと、そんな風に思いました」
――台本の読み合わせでは、共演の皆さんから刺激も受けたとか。どんな気づきが?
大原「たとえば、セイディ役の池谷のぶえさんは、映画とはぜんぜん違うすごくスパイシーなキャラを本読みで出されて、すごい、こういう役作りもあるのかと。作品自体に対してもですが、それ以上に、役者としての脚本の読み方の勉強をしました。LVはセリフ量が少ないので、立ってみないとわからないことがたくさんあります。キャッチボールしていないようでしているのがLVの会話だと思うので、そこも大事にしたいです」
――母親・マリー役の安蘭けいさんは、LVとは逆に膨大なセリフ量だそうで。
大原「本当に多いです!しかも、そうとう口が悪い!ここまで品のない役は初めてと安蘭さんも先ほどの製作発表でおっしゃっていました。娘として、それを無言で受けるLVは、セリフのない演技が本当に大きいと思います。佇まいからにじみ出る闇のようなものが絶対にある。しっかり研究していきたいと思います」
――製作発表では生歌を披露されました。華奢なお身体ぜんぶが“歌の袋”なのかと思うほど、歌をご自分のものにされて素晴らしくて、どこからあの声が出てくるのかと。
大原「ありがとうございます。もう、ひたすら“まねぶ”、真似て、学んで、真似をして、です。そうやって小さいころからやってきたので、今回もできたらいいなと思います。歌って、たぶん、何分練習したから絶対にうまくなるというものではなく、変な言い方ですけど、気が向いたらの練習でいいんです。だから、トイレでも、お風呂でも、ドライヤーしながらでも、いろんな場面に歌の練習時間があります。どれだけ日常に歌を練りこんで行けるか。わたしにとって歌は呼吸に近いものですね」
――モノマネのためのモノマネではないですが、マリリン・モンローやジュディ・ガーランドそっくりの歌い方を真似るために、どんな練習を?
大原「歌を聞きまくって、動画も見まくって、自分の声を録って比べて。結構、外見から役作りに入るタイプかも。演じる役がどんな女の子かわかったら、ネイル、髪型、メイクまでその子になって変え、そこから内面が作られていくことがあります。今回はそれができないから難しいですけど、でも、真似るその人の表情を見て、この人が、一言一言に、一音一音にどんな思いを寄せているんだろうと、そこをまずは見ますね」
――セクシーや弾け切る歌い方も抵抗なしで?
大原「まったくないです、めちゃくちゃ楽しいです!それこそ、普段のわたしだったら恥ずかしくてダメな仕草も、歌だからできるんです」
――歌に寄せる信頼感が強いのですね。
大原「それ、今日思いました。製作発表で歌うのに実はすごく緊張していて、マリリン・モンローになりきったらきっと緊張しないだろうと、朝からいろいろ調べました。マリリンの名言というのを見つけ、その中に“愛とは信頼。人を愛するときは完全に信じることよ”とあって。ああ、今日は、製作発表に来てくださった皆さん(マスコミのほか一般ファンも訪れた)を信頼したら愛せる!そうしたらきっと緊張が飛んでいくんだろう!と、そう思って歌いました」
――とても伝わってきました。イキイキしたお顔も印象的で。
大原「どこを見られているんだろう、批評されたらどうしようと思うけど、いや、そんな風にこっちが思うんじゃなく、信頼してます、お願いします、どうぞ見て聞いてくださーい!と。それなら伝わるかなと思って。今日はマリリンに救われました!……もしかすると、緊張の壁を作るのはこっちかもしれないですね。演じる身としては、心の中でファイティングポーズを取ってしまう気持ちになることがあります。それをなくそうと思いました。うまく見せよう、いいように捉えてもらおうと思うからよくないんだ。……と、言いながら、幕の中はガタガタでしたけど(笑)。だから、幕が上がると一緒に両手を挙げたんです。そこで緊張からやっと解放された感じ。幕が上がるほうが解放されるんです。本番でも、お客様を信頼=愛してやり切りたいです」
――どんな方に見てほしいですか?
大原「お子さんにもステージの華やかさで喜んでもらえるし、バラエティ番組やCMにも出てくる曲があるので若い方々にも楽しんでもらえるし、老若男女問わずぜひいらしていただきたいです。あと、演出の日澤(雄介)さん(劇団チョコレートケーキ)の舞台を先日見ましたが、舞台上も客席も演劇大好きな方々の雰囲気で、そうした演劇ファンの方にも見ていただきたいと思いました。よろしくお願いいたします!」
◆◇◆わたしのおすすめの一冊◆◇◆
『イグアナくんのおじゃまな毎日』佐藤多佳子
姉に紹介されて読みました。イグアナが家に来て飼うことになるんですが、飼い主の女の子とイグアナの成長が描かれて、すごくほっこりするんです。で、ほっこりしながらも深くていい話。大好きです。この本に影響されてわたしもイグアナを……、さすがに飼わないです(笑)!
取材・文/丸古玲子
【プロフィール】
■オオハラ サクラコ 1996年、東京都出身。2013年、映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」でスクリーン&CD同時デビュー。2014年、女優として「日本映画批評家大賞 “新人賞”」、シンガーとして「第56回輝く!日本レコード大賞”新人賞”」をダブル受賞。
【公演情報】
Little Voice(リトル・ヴォイス)
作:ジム・カートライト
演出:日澤雄介 (劇団チョコレートケーキ)
音楽監督:扇谷研人
出演:大原櫻子 安蘭けい 山本涼介 池谷のぶえ 鳥山昌克 高橋和也
日程・会場:
2017/5/15(月)~28(日) 天王洲 銀河劇場(東京都)
2017/6/3(土)・4(日) 富山県民会館 ホール(富山県)
2017/6/24(土) アルモニーサンク北九州ソレイユホール(福岡県)