柄本佑と吉沢亮がコンテンポラリーダンスの身体表現に挑戦!
芥川龍之介の短編小説『羅生門』『藪の中』が、イスラエルの演出家ユニット、インバル・ピント&アブシャロム・ポラックの手により、かつてない舞台を作ることになった。『羅生門』は天変地異が続き荒廃した平安時代の京都で、“羅生門”に打ち捨てられた死体から髪を抜く老婆と目撃者の下人の話。また、『藪の中』は、言い分が食い違い真実がわからない時に“答えは藪の中”という言い方をするが、その元の物語で、藪の中で見つかった死体について4人の目撃者と3人の当事者が殺人と強姦の告白をするもまったく嚙み合わないという極上ミステリーだ。あまたある日本文学の中でもひときわ異彩を放つ芥川作品を、コンテンポラリーダンス、セリフ、歌、小編成オーケストラの生演奏、美しく派手な舞台美術で現代に誕生させるこの試み。インバル・ピント&アブシャロム・ポラックの日本での活躍は、近年では2013年『100万回生きたねこ』などで証明済み。今回の舞台には、『100万回~』出演の満島ひかりほか、柄本佑や吉沢亮などいまを時めく実力派俳優たちが揃った。「なにが起きるかサッパリわからない!」と正直ビビっているという柄本と吉沢に心境を聞いた。(※本舞台は映画『羅生門』(黒澤明)は原作にしていない)
――オファーを受けた気持ちはいかがですか?
柄本「最初は、やはり黒澤映画の『羅生門』を思いました。で、単純に、三船(敏郎)?モリマサ(森雅之)?どっちをやるの?と(三船敏郎は多襄丸役、森雅之は武士役で映画出演)。でも、歌ったり踊ったりするっていうじゃないですか。自分にこんな話が来るとは!?いままでのどの舞台とも違うものになりそうですね」
吉沢「僕も、芥川龍之介、羅生門、ミュージカル、……どういうこと?と困惑しました。『100万回生きたねこ』をDVDで見ましたが、ステージ上のセットがカラフルできれいで、それをおしゃれに使っていて、これが芥川龍之介でどうなるのかまったく想像もつかない。コンテンポラリーダンスも、歌って踊るミュージカルも、初めての挑戦になります。なんで僕を選んでくれたんだろう?もし、やり切れれば、役者として進化できるんじゃないかと思うのでとても有難い、……のですが、正直ビビっています」
――インバル・ピントさんやアブシャロム・ポラックさんには会いました?
吉沢「僕は、まだ」
柄本「結構前になりますけど、インバルさんに一度お会いしました。今回の出演話を前提に、お見合いみたいな感じだったようです。とってもやさしい印象でしたね。その時はまだ彼らの作品を見ていなくて、イスラエル出身と聞き勝手に暗めのイメージをしていましたが、見事に覆されました(笑)。接しやすく、やわらかく、僕の話にすごい笑ってくれるんです。可愛らしい、子どものような印象も持ちました」
――原作は読んだことがありますか?どんな感想を?
吉沢「『藪の中』は読みました。読み終わった時、全員が嘘をついている、それで誰が殺したんだ!?と、すごくおもしろかった。こういう作品には書き手の人間性が出ると思うんです。昨年は三島由紀夫の舞台(『ライ王のテラス』)に出ましたが、あのときも、三島の人間性が役に反映され、三島自身の内なるモヤモヤみたいなものがすごく書かれていた。もっと芥川を勉強しないと、今の僕がまさしく“藪の中”。『羅生門』は僕もやっぱり映画の印象が強いですね」
柄本「『羅生門』『藪の中』『鼻』『蜘蛛の糸』……子どもの頃に読まされましたよね?国語の教科書に載っていたんじゃないかな」
吉沢「え?なかったような……」
柄本「本当?いくつ?」
吉沢「23歳です」
柄本「僕は30歳。うーん、世代の違い(笑)?子どもの時に受けた印象が強いんですよ。さっき、ふと思ったんですが、これって、大人になって読むと変な解釈が働いて、裏読みするような変な読み方になっていきそうなところ、子どもに読ませるととても純粋に、ああおもしろかった、になる作品じゃないかと。だから、教科書などで読ませるのってすごい納得しました。僕も、子どもの頃のほうがぜんぜん読めてると思う。解釈というのとは違い、純粋に、感じるものがあった。それって、大人になって物事を知るにしたがって欠落した“何か”なんですよね。例えば、『人間失格』(太宰治)を小学生で読んでもわからないと思うけど、『羅生門』は、わからないなりに豊かなものを、子どもは純粋に吸い取っていくと思うんです。『藪の中』のほうは、この時代からこのミステリーが出来上がっていたなんて驚き!犯人が誰かわからないまま終わる話はいまでこそいっぱいありますが、当時からあったなんて……。真似しようとしてもこれはなかなか真似できない。パイオニアって本当にすごいと思いました」
――モノクロームな印象を抱く作品ですよね。それが、歌って踊ってどうなりそうですか?
吉沢「すごく賑やかになるらしいって聞きました」
柄本「そうなんだ!?」
吉沢「羅生門とミュージカル、派手な舞台……、ぜんぜん接点ないですよね?どうなるか、まだ僕らもサッパリわからない。役も見えていないですから。歌って踊るという意味では、アミューズの毎年末恒例のイベントでやっていますが、それとはまったく違います。満島さんに聞きました、インバルさんたちの稽古には、本当に、“はい、やって”がいきなりがあったとか。初日は一歩も動けなかったって。うまくやろうとか、きれいに踊ろうとか、一切いらない。“とりあえず自分でいて。自分を出して”と。でも、満島さん、いままでで一番楽しかったともおっしゃって」
柄本「本当に、インバルさんの話をするときの満島さんは楽しそうだよね。きっと楽しいんだと思います。これも僕の勝手なイメージですけど、コンテンポラリーダンス、身体表現するものって、抽象的な絵を見せられて、“これを身体で表現して”とか言われるのかなと。そういう稽古が一月半あったらもう死んじゃう」
吉沢「(笑)」
柄本「正直怖いけど、それも経験。ちょっとずつ慣れて、楽しくなったらいいなと」
吉沢「早く“楽しい”と思えるレベルまで達したい(苦笑)」
柄本「最初はどうしても羞恥心が邪魔するからね」
――ダンスレッスンはされましたか?
吉沢「1回やりました。動き慣れない動きでした。ダンスレッスンというから、ヒップホップやリズムにハメていく、いつもやってるそういうものだと思ったんです。でも、ぜんぜん違った。曲を流しながら“感情が高まったら動いて!”と。先生も、その時の感情でうわーっとぐにゃーっと動き出して、僕はどうしたらいいんだ!?って。でも、すごく楽しそうに踊っているのを見ると、あんな風に湧き上がってくるものを感じて動けるようになったら、本当に楽しいんだろうなって思いました」
柄本「昨年末から5回ほど受けました。やったことがないことをやるのは楽しいですね。普段の生活では家のソファに座るか映画館で座っているかが多いけど、そんな僕もどうやら動くことは嫌いじゃなさそう。踊りのベースがなくてもコンテンポラリーダンスはできるかなと……、とはいえ、レッスンするとベースを感じずにはいられませんでした。それこそ、昔のバレエから脈々とつながって、現代のコンテンポラリーに進化していった、そんなベースを感じるんです。あとね、面白いのが、骨を一個一個バラバラにするような感覚(笑)。抽象的なぐにゃぐにゃした動きに見えるけど、これが骨単位で出来るようになったらすごく楽しいかもと思うんです。背骨なり、手の指なり、一個一個どの骨が動いているかを認識すると、めちゃくちゃに動けばいいってことじゃなく、見え方を想像したり、これくらいジャンプしたらどれだけ飛べるかがわかったりしていく。一つ具体的にわかれば、一つステップアップになる。身体がよりよく使えるようになり、自分の身体に再発見もしそうです」
――最後に意気込みと、読者にメッセージをお願いします
吉沢「単純に、ほんと単純に思うのが、セリフの言葉ではなく、身体と感情のぜんぶを使う芝居になるということ。いまは稽古前なので結構ビビっていますが、絶対にプラスになると思うし、やるしかない。挑戦でしかない。やれることのぜんぶをやります。芥川龍之介で賑やかな舞台になるって想像もつかないことだから、誰も見たことのないものをお見せできるようがんばります」
柄本「インバルさんたちのダンスパフォーマンスを見たことがあるんです。その時、思ったのは、舞台を作っていくことに国の違いも何もないんだということ。イスラエルのダンスカンパニーと聞いて身構えなくもなかったけど、見れば、作品を作るプロセスに違いはないし、とても舞台を身近に感じました。そこで演じる立場になったいまは不安もありますが、最終的には全力で楽しみたい。『羅生門』『藪の中』という奥行きの深い作品の中に、いったいどんな演出が起きるのか。皆さんにもぜひ楽しんでいただければ!」
取材・文/丸古玲子
【公演情報】
百鬼オペラ「羅生門」
原作:芥川龍之介
脚本:長田育恵
作曲・音楽監督:阿部海太郎
作曲・編曲:青葉市子/中村大史
演出・振付・美術・衣裳:インバル・ピント&アブシャロム・ポラック
出演:柄本 佑 満島ひかり 吉沢 亮 田口浩正 小松和重 銀粉蝶 江戸川萬時 川合ロン 木原浩太 大宮大奨 皆川まゆむ 鈴木美奈子 西山友貴 引間文佳
日程・会場:
2017/9/8(金)~9/25(月) Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2017/10/6(金)~10/9(月) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫県)
2017/10/22(日) 愛知県芸術劇場 大ホール(愛知県)