「ちゃんと“虫の視点”を理解して虫の内面から演じたい」(安西)
「ワイルド・プラントな逞しくておもしろい若い俳優たちが楽しみ」(西田)
今夏に上演される「キティエンターテインメント×東映 Presents SHATNER of WONDER #6『遠い夏のゴッホ』」の作・演出の西田シャトナーと、主役ゴッホを演じる安西慎太郎にインタビューが叶った。2013年に松山ケンイチの初舞台として話題となり大絶賛を受けた作品だ。恋人ベアトリーチェよりも1年早く羽化してしまったユウダチゼミのゴッホが恋人との約束を果たすため、生きて、生きて、生きまくり、セミには絶対に不可能な過酷な冬越えに挑む。登場するのはすべて虫、あるいは両生類、爬虫類。人間の知らない小さな森で紡がれる究極の純愛と生命賛歌の物語を、西田ならではのミラクルな想像力と創造力で作り上げていく。出演には『ミュージカル・テニスの王子様2ndシーズン』はじめ数々の舞台や映像で身体能力と存在感を示す安西ら若手実力派が揃った。「SHATNER of WONDER(シャトナー・オブ・ワンダー)」プロジェクトとして蘇る「遠い夏のゴッホ」はどんなものになるのか――。2人に魅力を聞いた。
――いきなりですが、安西さんは以前から西田さんをご存知で、今回ご一緒されるのをとても楽しみにしておられたとか。
安西 以前『弱虫ペダル』(西田の脚本・演出)を一度見ていて、今回のお話をいただいてから『破壊ランナー』を拝見しました。前から時間は経っていたんですが、改めて、なんて素敵なんだ……!と。素敵、って、デカいくくりの表現で恐縮なんですが。
西田 いい言葉ですよ。素敵なんて言われることないんで
安西 とにかく素敵なんです。『破壊ランナー』の役者さんも今回は何人かいらっしゃるし、すごく楽しみになりました。でも、不安もあります。初演キャストが豪華だったからというだけでなく、一つの作品を作るということは、いろんなものと戦うってことだから。その戦いが良い材料になっていい作品作りができたらと思っています。
――『破壊ランナー』にどんな魅力を感じたのですか?
安西 世界観が、もう、あり得そうであり得なくて……。なんていうのかな、人間って、役者って、すごく可能性がある動物だと思ったんです。普段の僕はそんなこと考えないんですよ。見に行って良かったよって言って終わる。でも、この作品では純粋に役者ってすごいなと思い、つまり総指揮者のシャトナーさんがすごいなってことになり。一緒に作品を作っていく中では、いい意味でも悪い意味でも変わるかもしれないけど、いまは、稽古場で肌で何を感じられるかがとても楽しみです。
――4年越しの上演に至った経緯を教えてください。
西田 今回は「SHATNER of WONDER(シャトナー・オブ・ワンダー)」としてやることになるんですが、まずはそのお話をしますね。「SHATNER of WONDER」は僕の戯曲を上演するプロジェクトで、2014年に始まりました。過去の劇団時代(惑星ピスタチオ)は、僕はあまり自分にこだわらない作品作りをしていました。友だちと集まって世に劇団を出していく、非常に不安な中助け合って、自分よりまず劇団を覚えてもらいたいとがんばったんです。その後一人でやるようになった時、初めて、自分の作品というものがよくわからなくなっちゃって、調子がわからなかった期間が10年間くらいあるんです。思い返せば、どの時代も自分が発想したんだから自分の作品だし、これで一生終わってもいいと常に100%の力を出しています。が、どこか他人事の気持ちもあったのは確か。それが、「SHATNER of WONDER」のプロジェクト名で自分の作品をもう一度上演していく機会を得て、過去からいまの僕がすべて結実したように思いました。『センス・オブ・ワンダー』を持ったサイエンスフィクションの小説や映画が大好きで、そこから名付けたものなんです(センス・オブ・ワンダーとは、大いなる自然や空想物語に触れた時に感じられるという不思議な感覚)。芝居作りをする以前の少年時代からセンス・オブ・ワンダーで育ってきて、作品作りを始めてからもずっと胸に抱いてきましたから、「SHATNER of WONDER」と名付けた時、なんか、散らばっていた人生が一つに束ねられていく、今後は散らばらない気がする……と、人生でやっと演劇が好きになりました。どの作品も、自分が世界と向き合って出来たものだと確認できるようになった。『破壊ランナー』もそうですし、今回の『遠い夏のゴッホ』もそう。ゴッホは、「SHATNER of WONDER」以前に、人生的にも揺れ動いていた時期の作品で、自分の中でバラバラだったパーツの中でもかなり大きな存在でしたから、「SHATNER of WONDER」として上演できるのは本当にうれしい。散らばっていたものを改めて拾い集め、加熱し、溶かしていくんだという感覚を、いま持っています。
――西田さんご自身の少年時代からの時間が含まれるプロジェクトのうえなんですね。虫の世界にしたのもその辺りに理由が?
西田 あるでしょうね。昆虫が大好きな子どもで、愛読書は「ファーブル昆虫記」と、昆虫図鑑。毎晩、眠くなるまで昆虫図鑑を眺めていました。中学生までは学術的な手法に基づく昆虫標本も作っていましたが、ある時、弟に、虫好きなら殺すなと言われまして。昆虫の姿が好きすぎて、胸を痛めながらも良心に蓋をして標本にしていたんです。薬品で殺すんですが苦しがるんですよ。で、言われて確かにと思ってそれからは、昆虫はただ眺めて過ごそうと決めて何十年も経ちました。昆虫のことを、姿ではなく、内面から描く作品にたどり着いたのがゴッホ。これが書けたのはなかなか幸せなことだと思います。
――台本や過去映像をご覧になった安西さんの感想は?
安西 いままで虫のことなんて考えたこともないんです。だから、虫の世界がなんだって?と最初は思いました。でも、僕らからすればすごく小さな世界で、めちゃくちゃスケールのデカいことが起きるじゃないですか。すごく感動しました。虫たちの生活や、食う・食われるの戦い。虫を意識したことも話したこともないのに、応援したり、共感する瞬間が多々あるんです。これを演じるのはとても光栄ですね。
――西田さんから安西さんへの期待やリクエストは?
西田 仲良くしてほしいなと思います(笑)。ただね、稽古場でよく言うんですが、演出家、スタッフ、俳優と、現場でみんなの絆はどこにあるかというと“いい芝居を作る”ことにある。ときどき間違えて仲良くなることが目的になると、本番でひどい目に遭ったり、お客さんをひどい目に遭わせてしまう。いい芝居を作ることが絆だと考えて仲良くしたいなと。
安西 なるほど(深くうなづく)
西田 僕の若い時代の若い俳優と、いまの若い俳優は違うと思いますね。いまの俳優はなんかおもしろい。非常に豊かに育っているというか、熱帯植物の感じがする。あいさつがカジュアルだし、すぐ遊ぶし、僕らオッサンからすると、わけわからんな!というところですが(笑)。でも、僕らは厳しく躾けられすぎたところがあるんですよ。いまの若者が甘く育てられたというのではなく、彼ら自身が獲得したものだと感じます。たとえば、昔より俳優同士の交流がありますね。僕らの時代は、劇団と劇団が、弊社・御社みたいな関係で(笑)、壁を越えて付き合うと上に怒られそうでしたが、いまの若い俳優は、カンパニーや事務所を越えて俳優同士が反応し、遊びに行ったり、旅行までして、大変人間的だと思います。熱帯植物というか、ワイルド・プラント(自生)ですね、鉢植えじゃあない。アイツおもしろいと思ったらすぐ仲良くなるし、嫌いな人とは無理につるまない。いまの若者たちの人間らしさ、ワイルドさはとても頼りになります。芝居などのアートにはもちろん、社会の在り様にも、きっとこの人間らしさがいい方向に影響していくんじゃないかと。すごく逞しいヤツらが育ってきていますよ。物語を作る立場の人間が、楽しいかどうかに鈍感だったら終わりですよね。いまの若者は楽しさに非常に敏感で、というか、それが当たり前、本来なんですよ。
そのうえで、安西さんは、非常にやわらかく、ゴツゴツしていないけど、しっかりパワーがある印象です。楽しみですね。若者と仕事をするのは楽しいですよ。なにしろ人間的ですし、おもしろければ笑うし、それでいて結構真面目。あいさつが“うい~ッス”だったりすると不真面目と思われがちですが、全然真面目なんです。むしろ、上の世代の“おはようございます!”のほうが口だけなこともありますし。
――物語は、セミが越冬するという過酷で不可能な挑戦。人間とは違う、命の潔さも虫の世界ならではと感じました。
西田 不思議なこと、偶然のようなこと、絶対に無理な計画から立ち上がるものと、どの作品にもそうした要素を多少なりとも込めるのですが、ゴッホを書いた時は、作っていく過程で当初のプロットとは違う気配になりました。最後のほうは、もう、プロットとしても、伏線の回収の仕方や、観客に納得してもらうための情報の置き方も、間違っているんです。でも、どうしてもそうなってしまった。セミのゴッホが越冬することにもっと理屈っぽい仕掛けを用意していましたが、そうじゃない、仕掛けを持って越えるんじゃない、ただひたすら越えていくんだ、と。当時、現場でも書き換えようかと悩みましたが、とうとうそのまま行ってしまった。脚本の書き方について僕も人並みに勉強していて、そこに従っていつも書いてきましたが、そうした脚本の技術も吹き飛ばしてしまったんです。自分のコントロールを超えた力を感じましたね。ゴッホは非常に原初的な、僕自身も不思議を感じている作品です。
――小説などでは物語が勝手に転がったと聞くことがありますね。
西田 よく言いますよね。ただ、違うのは、キャラクターが勝手に動き出すというより、作品そのものに命がある、ということ。われわれ書き手は文字という魔法陣を使って物語を立ち上げていきます。で、それがうまくいった時、“よくやった、お前のおかげで本来の自分の姿で生まれることができた”と、命ある物語から言葉をかけてもらえるんじゃないか、と思いながら書いているんですね。僕のこざかしい頭で作ったプロットに、“そうじゃないよ” “本当の自分はこういう形だから”と作品自体が言ってきて、そして生まれてきた。その感覚に逆らわないようにしてゴッホは書きました。予想外のカタチで、まさに“羽化”したと思いますね。
――セミのゴッホを演じるうえで安西さんの挑戦とは?
安西 虫なので、役作りするうえで何が正解かわからないのですが、大切にしたいのは、僕たち人間から見た虫の視点ではなくて、ちゃんと“虫の視点”を理解することだと思っていて。
西田 虫のことは一応勉強したほうがいいかもしれないけど、それはさておき、内面からの役作りをね。勉強しすぎると間違った方向に行く場合もあるし(笑)。虫たちは、虫であろう、とはしていないはず。演じる時に虫であろうとしてしまったら、逆に、人間になってしまうかもしれない。
安西 台本や映像を見て一つ思ったんですけど、結構みんな種類違うよね、と。セミ、アリ、ミミズ、トカゲ、カマキリ……。それってすごいことじゃないですか? 僕ら人間って、ほぼ人間としか話さない。なのに彼らは種類の違う同士でも関わっている。
西田 科学的に言えば本当は会話していない可能性が高いけど、でも、人間と猫くらいの会話はしているかもしれないしね。人間はかなり明確な言葉で会話しているけど、そうじゃない、もっとアバウトな感じなら、別の種類同士にもきっと会話はあるんじゃないかな。
安西 種類が違うのに、すぐ隣り同士で生きていて、食うか・食われるかの世界で、敵なのにある時は味方で、ある種の味方で、なんというか……、自分だって危ない状況なのにそこで助けるのかって。そこまでしてゴッホを好きな人に会わせたいのかと思うと、すごく素敵で、虫たちの心のドラマがしっかりあると思いました。そこが、僕がこの作品を大好きな理由です。
西田 動物界でも、たとえば、オオカミが人間の子を、ヒョウが猿の子を育てたりする。ヒョウが食おうとして追いかけた鹿の、母親のほうはたぶん食べたんだろうけど、残された小鹿をほかのヒョウから守ってしまう、という映像も最近見ましたよ。強いものが弱いものを守る理なのかな、われわれだって別の種類(猫など)をかわいいと思うじゃない? それって人間だから湧く感覚ではなく、どの動物にもちょっとはあるんじゃないかと思うんです。ゴッホの話でも、台本ではさらっと会話しているけど、ここに至るまで種類の者同士、いろいろあったんじゃないかな。だいぶコミュニケーションしてきたんだろうと思いますね。
――虫の内面のドラマ、セミの不可能な冬越え、異種類間のコミュニケーション。私たち人間の知らない世界に出会える作品ですね。最後にメッセージをお願いします。
安西 シャトナーさんのお話を聞いていま思ったんですけど、だったら、僕ら人間はもっとコミュニケーションできるはず。僕は外国語が全然できないけど、それで通じないというのはどうなの?ってことですよね。いろいろなものを超えいく、それを舞台でお見せしたいと思いました。
西田 人間同士なんて同種なんだからコミュニケーションしてないも同然、お互いの情報はいくらでもあるんです。僕はフルーツもすごいと思うんですけど、見るからにうまそうで、もぎやすくて、皮もパッケージみたいに簡単に剥けて、実際甘くて美味しい。バナナなんて特に剥きやすいじゃないですか、あれ、完全にバナナ同士向けじゃない、食べる側にコミュニケートしている形だと思いません? たとえばそういう感じで、共通言語のない者同士が、なんとか全身を使って会話しようとする、それが本当のコミュニケーションだと思うんです。
植物と人間ですらコミュニケーションが可能なんだから、安西さんがいま言ったように、人間同士ならどこまでできるか、という、あり得ないかもしれない領域の世界を伝えるのがお芝居なんですね。天井があっても空が感じられたり、役者の脳内で今こんな映像見えているんだけどみなさんにも見えるかな、とか、ちょっと魔法領域のコミュニケーションをするような、そんな可能性を探っていくのが芝居作りだと思うんです。単純に、こうなってああなって幸せになりました、ではなく、そこに存在しない、頭の中にしかない異世界を、客席と舞台と一緒になって旅していく。安西さんが言ってくれた、人間、もっとできるんじゃないの、というところに挑もうとしています。ぜひ感じに来てください。
取材・文/丸古玲子
【プロフィール】
西田シャトナー
■ニシダ シャトナー 大阪府出身、劇作家、演出家、折り紙作家、俳優。劇団ピスタチオの座付作家演出家で俳優としても出演。劇団以外での作演出活動も幅広く、2012年より舞台『弱虫ペダル』の脚本・演出を担当して以来、若手俳優の舞台を多く手掛ける。2014年より「SHATNER of WONDER(シャトナー・オブ・ワンダー)」をスタート。
安西慎太郎
■アンザイ シンタロウ 1993年生まれ、神奈川県出身、俳優。舞台『ミュージカル・テニスの王子様2ndシーズン』『明治座・るの祭典』ほか数多くの舞台に出演。ドラマ『アリスの棘』『男水!』など映像でも活躍の場を広げている。
【公演情報】
キティエンターテインメント × 東映 Presents
SHATNER of WONDER #6『遠い夏のゴッホ』
作・演出:西田シャトナー
出演:安西慎太郎、山下聖菜/小澤亮太、木ノ本嶺浩、山本匠馬/陳内 将
伊勢大貴、宮下雄也、三上 俊、永田彬、土屋シオン、丸目聖人、星元裕月
米原幸佑、平田裕一郎、兼崎健太郎/荻野 崇、石坂 勇
2017/7/14(金)~23(日) 天王洲 銀河劇場(東京)
2017/7/29(土)・30(日) 森ノ宮ピロティホール(大阪)