ミュージカル『にんじん』 大竹しのぶ インタビューが到着!

c
例えるなら夏の肝試しみたいな感じで、怖いもの見たさで来ていただければ(笑)。
でも絶対に、エネルギッシュなものになると思うんです。
どんなものを見せられるかはまだわからないですけど、観る人の心がシャキーン!となるようなエネルギーを渡せたらと思っています

 

今年還暦を迎える大竹しのぶが、ミュージカル『にんじん』に38年ぶりに挑む。しかも、38年前と同じ少年・にんじん役で! 兄・フェリックス役に中山優馬、姉・エルネスティーヌ役に元AKB48の秋元才加という、ジェネレーション・ギャップの概念すら吹き飛ばすような布陣も含め、話題騒然の同作。この試みは、演劇プロデューサー・北村明子氏との会話がきっかけだったという。

大竹「ある日、稽古場で北村さんから“今までに演じた役で、もう一度演ってみたいものはある?”って聞かれたんです。舞台って、どの役でももう一回演りたいと思うことが多いから……例えば『奇跡の人』のサリバン先生なんかも、何度も再演に再演を重ねて、それでもまだ自分が思うところまで行き着くことができなかったという気持ちがありました。『にんじん』は一度だけしか演ってないんですけども、“すごく楽しかったし忘れられない役で”と答えたんですね。そしたら、ブロードウェイで『ピーター・パン』を長年演じているキャシー・リグビーさんを例に挙げて「向こうのピーター・パンは60過ぎてもやっているわけだから、『にんじん』だってきっとできるわよ」とのせられまして、「そうですか? じゃあ」と(笑)。彼女の演じているピーター・パンは人間ではないんですけども、実際に彼女が演じているのを見ると、若さとはまた違った、不思議な深さがあるんです。『にんじん』でもそういった部分をきちんと描けなければ、やる意味がないなという風に思っていますね」

 

フランスの片田舎を舞台にしたこの作品で大竹が演じるのは、真っ赤な髪とそばかすだらけの顔で、家族にまで“にんじん”というあだ名で呼ばれている少年。母親のルピック夫人(キムラ緑子)はときおり理不尽なほどににんじんに辛く当たり、父親のルピック氏(宇梶剛士)は仕事で不在がち。わがままな兄のフェリックス(中山)、結婚式を控えて浮かれる姉エルネスティーヌ(秋元)を含め、周囲の人間はにんじんには無関心……。

大竹「にんじんの、孤独で周囲に愛されていない悲しみや、“どうやって生きていったらいいんだろう?”ともがいているところが、とても心に響くんです。そんな心情を山本直純さんの美しい音楽にのせて叫ぶように訴え続けるんですけど、前回演じたときはにんじんとして生きる時間が本当に楽しくて楽しくて……。当時は付き人もいなかったので、公演期間は友達が手伝いに来てくれていたんですけど、家に帰ってからもなんだかやりたりなくて、彼女と2人で“にんじんごっこ”をやってましたね(笑)。友達も芝居をやっている子だったから、彼女がにんじん役、私がお父さんやお母さん役をやったりして「あそこが楽しかったよね?」なんて言いながら」

 

そして38年前の公演でとりわけ記憶に残っているのは、観客の子供たちの反応だと語る。

大竹「その時は“親子で楽しむニッセイ夏休み劇場”という企画だったので、お客さんには子供もたくさんいたんですね。ある日のカーテンコールで、5歳くらいの子がステージ前まで駆けてきて、舞台に立ってる私に「にんじん!」って声をかけてくれたんですよ。本当ににんじんがそこにいるみたいに錯覚して、その子なりに頑張れって言ってくれたことに本当に感動しましたし、あのときの清らかな感情を忘れないようにしようと思ったんです。他にも、舞台を観終わってから「(僕は劇場を離れちゃったけれど)にんじん、大丈夫かな?」と心配していた子もいたと聞いて、なんて子供の感性はステキなんだろうと思って……今回も親子で来てくださる方がいると思うんですが、大人になっても「あのとき、楽しかったね」って言ってもらえるようなお芝居を作りたいですね」

 

a
 

自身にとっては3作目の舞台だった『にんじん』。そのときと現在で芝居への向き合い方に変化を感じることはあるのだろうか。

大竹「もしかしたらそこは、あまり変わってないかもしれないですね。にんじんをまた演じることによって、あの頃の自分を思い出すこともできるかもしれないですし。心の底から芝居を楽しむという部分は今でも変わらないんですけけども、(38年の間に)技術的な部分で身についたこともあるだろうし、その技術がついたことによって忘れ去られたものもあるかもしれない。そういったところをいったりきたりしながら、どの役とも向き合ってきたんですけども。にんじんで言えば、この38年の間に男の子を育てたので、よりリアルににんじんとして動けるかもしれないです。まあ、その分年を重ねたので、プラスマイナスゼロなところも当然ありますけども(笑)」

 

にんじんを囲む登場人物を演じるのは、4月上演の舞台『フェードル』でも共演したキムラ緑子(ルピック夫人役)や今井清隆(にんじんの唯一の理解者・名づけ親役)といった勝手知ったる面々と、中山や宇梶、真琴つばさ(ルピック家の女中・アネット役)ら初顔合わせの面々が半々といった具合だ。

大竹「中山さんや秋元さんのファンの方にしてみれば、“(この3人がきょうだいとは)どういうこと?”って、クエスチョンマークが100個くらいつきそうな感じですよね、フフフ(笑)。初めましての方も多いですけど、(キムラ)緑子ちゃんだとか芝居が好きで、それについて真剣に話ができる人が1人でもいると、ラクでもあるしやっぱり楽しいんです。稽古なんかで一緒のシーンに出ると、彼女はいつも本当に一生懸命で、汗びっしょりで…それなのに私が普通にしてるから「なんでやねん!」みたいに言われることもありますけど(笑)。緑子ちゃんみたいな人がいることで、稽古場の空気も自然によりよいものを目指すようになるので」

 

そして近年、大竹がタッグを組むことが多く、絶大な信頼を寄せている栗山民也が演出を手掛けることも、楽しみの一つなのだという。

大竹「2002年に初めて『太鼓たたいて笛ふいて』でご一緒したときに、毎日学校に行って大好きな先生に教わる、みたいな感じで本当に楽しかったんですよ。きちんとした演出プランがある方で、稽古でもダメだしすら楽しみで。栗山さんがいろんな役の動きや表情を具体的に演じて見せてもくれるんですけど、これがまた上手なんですよね(笑)。あとは音楽が好きでミュージカルやオペラの演出もされているので、音楽面に関しても信頼できる方だからというのもあります」

 

b
 

同作では38年前と同様に、さまざまな映画やテレビ番組の劇伴などで知られる山本直純による楽曲が使用されるが、大竹が力説するのがその“歌の持つ力”。

大竹「ステージで歌った私自身が覚えているのは当たり前だと思うんですけども、私の兄弟や高校の同級生だとか、当時観に来た人たちもみんな、主題歌的に何度か歌われる“真っ赤ーな髪で そばかーすだらーけー♪”という歌を覚えていたんです。それだけ観た人に強く印象付けられるような、覚えやすくて口ずさみやすい歌だったんですよね。すごく悲しいシーンで美しい音楽が流れてきたり、かと思えば村人たちがお祭りをやっていて明るい曲が流れる中で、にんじんが“僕は死ぬ、鳥になって自由になる”と語るシーンがあったりして……そのバランス感覚も含めて、やっぱりすごいなと思うんです。あの曲たちをもう一度歌えるのは嬉しいですね……また『にんじん』をできると決まった頃に、ちょうど『フェードル』で門脇麦ちゃんと共演していたので「麦ちゃんが演じたほうが、ボーイッシュだし年齢的にもちょうどいいんじゃない?」なんて冗談を言ったりもしていたんですけど、純粋にいい歌なので、若い方々にも伝わっていけばいいなという気持ちもあります」

 

38年前にファミリー向けの音楽劇として企画された同作だが、今回も子ども料金が設定され、幅広い世代が鑑賞できるように考慮されているという。

大竹「どんな子供でも抱えている、親にはわからない気持ちが描かれているので、人を応援する気持ちや、一生懸命生きていこうという意識が芽生えると思うんですね、なのでまず、子供が見てくれたらすごく嬉しいなというのはあります。その反面、今はお父さんがいてお母さんがいて子供がいて、みんなが愛し合っている……というのが当たり前ではないお家が多いわけですから、きっと親世代にも響くものがあると思うんです」

 

38年を経て子供たちをめぐる環境も変化している今、大竹は同作の持つ意味について、こう捉えているのだという。

大竹「にんじんが抱えている“闇”は現代の子供たちにも通じている部分があると思うんです。愛のない家庭で育たなければならない子供は、その状況にどうやって立ち向かっていくのか……結局それは、その子の心の自立を描くということなんですけども。『にんじん』は“お父さんやお母さんは、実はあなたを愛しているの”というような甘い結末ではないですし、彼が人はみんな一人なんだと悟って、大人への第一歩を踏み出すまでを芝居として成立させていかなくちゃいけない。本来は子供向けというわけではない切実な部分を持つ作品なので、そこをぼかすことなく描かなければ、という風に思っています」

 

取材・文 古知屋ジュン

 

【公演情報】

main (1)
ミュージカル『にんじん』

日程・会場:
8/1(火)~27(日) 東京・新橋演舞場
9/1(金)~10(日) 大阪・大阪松竹座

原作:ジュール・ルナール
訳:大久保洋
脚本・作詞:山川啓介
演出:栗山民也
音楽:山本直純

出演:
大竹しのぶ/中山優馬/秋元才加・中山義紘/真琴つばさ・今井清隆/宇梶剛士・キムラ緑子

 

★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!