初演より陰影を深くするような、スタイリッシュな舞台にしたい
2015年の日本初演が好評を博したミュージカル『メンフィス』が待望の再演を迎える。白人としてブラックミュージックを世に送り出した実在のDJデューイ・フィリップスの半生を描き、2010年にトニー賞作品賞ほか4冠を獲得している本作。キャストは前回に引き続き山本耕史&濱田めぐみが再タッグを組み、今回は演出も山本自身が手掛ける。山本は、演者として、そして演出家として、本作にどのように臨むのだろうか。
――今回は待望の再演となりますが、まず初演時の手ごたえや感想をお聞かせください。
山本「ブロードウェイで賞を総なめした作品なので、小細工をしなければ絶対にうまくいく作品だとやる前から思っていました。曲もすごく良いですし、作品のもつパワーをそのまま表現した結果、ありがたいことに好評を得ました。そんな力のある作品ですから、再演にあたっても何の不安も感じていません」
――再演では演出も手掛けられます。今のところ何かイメージは沸いていらっしゃいますか?
山本「初演よりもわかりやすくという言い方は違うかもしれないけれど、よりスタイリッシュに、よりシンプルにできればと考えています。彫刻で言うなら、もう少し深く彫り込んで、陰影を深くしていくようなイメージですね。楽曲にも力がありますから、その辺もさらにシャープにしたいと思っています。初演のときはどこか角がまるいような印象もあったので、素直にシュッとお客様に届くようにしたいですね」
――山本さんが演じられるヒューイは、白人でありながら黒人差別が当たり前だった時代にブラックミュージックに惹かれていきます。彼のモチベーションの原動力は何だと思いますか?
山本「やはりブラックミュージックそのものの魅力でしょうね。亜流のものが主流になって、主流だったものが亜流になる。時代ってそういうものじゃないですか。ただ、良いものを良いと言えない時代の中で、彼が勇気をもって言ったのか、もしくはそういう勇気とかは考えずに言ってしまったのか。僕らが初演で作ったヒューイは後者でしたけど、実際のデューイはどうだったのかな、という思いはありますね。でも、そういう難しいところを飛び越えてしまったことが、この作品がヒットした理由なんじゃないかと。ヒューイがブラックミュージックを世に出すために試行錯誤をして…というふうにしてしまうと、ヒューイの苦悩の部分に焦点が当たってしまって、あんまり面白くないと思うんですよ。そういう小難しいところを飛び越えて、良いんだよ!ってやることで起こる“うねり”が面白いというか。ヒューイって導火線に火を着けておきながら、着けっぱなしなんですよね。この舞台においては。自分だけが時代を先取りしていると思っている。そういう短絡的なところが主人公として魅力的なんですよね」
――確かに、この作品の中でのヒューイはとてもシンプルな思いで物怖じせずに動いていて、それが小気味良く感じます。
山本「ヒューイって、僕のパフォーマーとしてのスタイルにすごく近いところがあるんですよ。演出をしていても、細かく説明が必要な状況ってあるんですけど…。もちろん人それぞれだし、それを説明するのも演出家の仕事だと思うんですけど、そうやってじっくり考えたことを実際にやってみると残念なこともたくさんあって。それより、言葉で説明しなくてもとりあえずやってみてカッコいい動きのほうが良い、と僕は思うんですよね。もちろん、意図があってあえて残念なものを選ぶこともあるんですけど。いろいろ考えるよりもまず動いてみようよ、頭で考える前に動いてしまう、というヒューイのスタイルは、この作品の魅力の一つだと思います」
――確かにそうですね。わかりやすいからこそ、魅力的に映る。
山本「だからやっぱり、お客さんはヒューイの味方だと思うんですよ。でもラストのほうまで舞台上ではそういう説明をせずに、最後にヒューイの苦悩が見え隠れしてくる。こう、カタルシスじゃないけど、そのさじ加減が上手い作品だと思いますね。だから、こういう力のある作品はひと捻り入れたりなんかはせずにやったほうがいい。演出家ってどうしても独自の部分を入れたがる風潮ってありません? でも、だったら自分の作品を作ればいいという話で、海外の作品を僕らがするうえで、そういうひと捻りで僕らが勝ろうとすること自体が間違いだと思うんです。海外作品の力にのっとって、僕らが演じていくパワーで同等なり、それ以上なりにもっていくのが理想だと。なかなかそれ以上にすることは難しいですけどね」
――作品のもっているパワーを信じる、ということですね。濱田めぐみさんとの再タッグになりますが、濱田さんの印象はいかがですか?
山本「いやもう、とにかく歌がうまい! この作品は「歌」が重要ですから。共演は前回の『メンフィス』が初めてだったんですが、場数もかなり踏まれている方なので、僕がこう動いたら、濱田さんもそれに合わせてスッと動く、みたいなことが自然とできるんですよね。でも、今回は僕が演出もしているからどうしようかなと。フェリシア役は濱田さんにぴったりだし、素晴らしかったけど、もっと掘り下げられるはず。どういうことをしながら、掘り下げようかなと考えています」
――主演兼演出として、稽古についてどんなふうに仕上げていくか考えていらっしゃいますか?
山本「振付などの部分は根気よくやっていく部分なんですけど…。でも、お芝居ってそんなに難しく考えないほうがいい。お芝居とはこうだから、このシーンではこうで、このセリフが…!なんてされている方もたくさんいらっしゃるんですけど、そんなに難しく考えなくてもって僕は思うんです。初めて演出したときに、役者さんのほうから“こういう気持ちを引きずっているからこう動きたい”みたいな提案があって、僕もパフォーマーだから実際にそれをやってみるわけです。その動きが、気持ちを客席に届けられるようなものであればいいんですけど、なかなかできないものなんですよ。舞台上で、カッコよく魅せられる動きのほうがやっぱり伝わりやすいから。思いを抱えていても、お客さんに伝わらなければ意味がない。そこを間違えてはダメだと。だからとりあえず動いてみるんです。こだわるところを間違えてはダメだと思っています」
――あくまで観客に伝わるものを優先するということですね。先日、濱田さんにもお話しを伺ったんですが、「とりあえず動いてみる」という山本さんのお話を聞いていると役へのアプローチが全然違う感じがして興味深いですね。
山本「真逆ですね(笑)。でもそれもすごく勉強になるんですよ。役に対するアプローチは人それぞれあると思いますし。わりと男性の役者は演出家から何か指示されたら“とりあえずやってみます”って軽くこなす人が多い。でも女性の役者さんの場合は、言われたことをしっかりと考えてから動く人が多いように思うんです。濱田さんの役はそういうしっかりと考えてから動く必要がある役だし、すごくまじめに役に取り組む方なので、本当に安心しています」
――役へのアプローチが違っていても、舞台上の呼吸はピタッと合っているのがまた面白いですね。ちなみに、山本さんはたくさんの作品に出演していらっしゃいますが、オンとオフの気持ちの切り替えが大変ではないですか?
山本「気持ちの切り替えは、そんなに意識したことはないですね。役にのめり込みすぎるということもないですし。役にすごくのっているときでも、視野を広くして周りを見ているほうだと思います。だから、例えばハプニングなんかに見舞われたときにも、きちんと対処できたりするんですよね。もちろん公演が終わった後は解放感も感じますし、休日の貴重さやありがたさも感じるんですけど」
――そうなんですね! 切り替えないと役を引きずってしまうような気がするので、意外な感じがします。
山本「もし僕がオンとオフがはっきりしているタイプの人間だったら、例えば自分に何かあったときに躊躇なく舞台を休んでしまうかもしれない。今だから言えることなんですけど、先日、ある公演の前半に肉離れを起こしてしまって、その後ずっとケガをしたまま千秋楽までこなしたんです。体はぼろぼろだったけど途中で降りるなんてできないし、まぁなんとかなるよって気持ちもあったんですよね。お客さんに気づかれないようにするのは大変でしたけど(笑)」
――ケガをおしてステージに立ち続ける…。お話しを聞いているだけで冷や汗が出てきます。では最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!
山本「前回ご覧になった方は、また新しいビジュアルの『メンフィス』をお見せできると思います。新キャストもいますので、そういった部分も楽しんでいただきたいですね。初めての方も、絶対に楽しませる舞台にしますので、この記事が目に留まった方はぜひ足を運んでいただければと思います」
インタビュー・文/宮崎新之
【プロフィール】
山本耕史
ヤマモトコウジ 東京都出身。幼少の頃より芸能活動をはじめ、1987年に東宝ミュージカル「レ・ミゼラブル」に出演したのを皮切りに、ドラマ「ひとつ屋根の下」、「新選組!」や舞台「レント」、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」など数々の舞台や映像作品で活躍。2005年には第29回エランドール賞新人賞、2015年には第23回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞するなど、数々の賞でその演技力を評価されている。現在「植木等とのぼせもん」(NHK)、「トットちゃん」(テレビ朝日)に出演中
【公演情報】
ミュージカル『メンフィス』
演出・振付:ジェフリー・ページ/演出・主演:山本耕史
脚本・作詞:ジョー・ディピエトロ
音楽・作詞:デヴィッド・ブライアン
翻訳・訳詞:吉川 徹
出演:
山本耕史
濱田めぐみ
ジェロ
米倉利紀
伊礼彼方
栗原英雄
根岸季衣
ICHI、風間由次郎、上條 駿、当銀大輔、遠山裕介、富永雄翔、水野栄治、渡辺崇人
飯野めぐみ、岩崎ルリ子、ダンドイ舞莉花、増田朱紀、森 加織、吉田理恵
日程・会場:
12/2(土)~17(日) 新国立劇場 中劇場(東京)