ぜひ、会いに来てほしいです。
そして、何かを尊く想える気持ちを持ち帰ってもらえたら
映画、ドラマなどに引っ張りだこの石原さとみが、4年ぶりに舞台出演を果たす。人気演出家の鄭義信が脚本・演出を手掛ける、小川洋子原作の『密やかな結晶』は、鳥や香水、帽子など、さまざまなものが消滅してしまう不思議な島に暮らす小説家の「わたし」と、近所に暮らす「おじいさん」、ある秘密を抱える編集者の「R氏」の生き抜く姿を描いた物語。久しぶりとなる舞台での演技を、彼女はどのように感じているのだろうか。
――今回の舞台は、石原さんがこの作品をやってみたいと希望されたと伺いました。
石原 「原作を読んだときから、これをぜひ舞台でやりたいって思ったんですよね。舞台って、近すぎると恥ずかしくなってしまうんだけど、遠くない感じがしたんです。そういう、近すぎないけど遠くもない世界観がある作品が好きで、客観視もできるんだけど、中に入り込めるような。映画の世界もそれに近いんですけど、映画は一瞬にして現実に戻れてしまう。それが映像の特徴だと思うんです。でも、舞台は一体となる感じがあって。息づかいが伝わる空間の中で、みんなが同じ島の住人のようになればいいな、と。身の回りのものの名前がどんどん消えていって、記憶が消えて、存在が消えていく。それで代用できるものを見つけて、なかったことになっていく…。実際にこういう島があるのかも、忘れているだけで。そんな風に感じてもらえたら面白いなって」
――この物語のどういったところに惹かれましたか?
石原 「いろいろな本を紹介していただいて読んだ中で、この『密やかな結晶』はすぐに読み終えたんですよ。あっという間に読み終えたのに、心に温かいものが残って。怖くもなったんですけど。まわりの友達もこの本を読んでくれて、作品について語り合ったんですけど、それぞれでいろいろな答えが出てきたんです。そういうふうに、感想を言い合えるような舞台になればいいなと」
――今回演じる「わたし」という役についてはどのような印象をお持ちですか?
石原 「柔らかくて、優しくて、思いやりのある女性。とことんピュアなんです。純粋さをすごく感じました。環境とか時代とか、運とか縁とかも含めて、すべてに対して緩やかに対応できる人だと思います。だから、消えていくものにも対応できて、そのことについて辛いとか悲しいとかの感情を持たずに過ごしている。そんな人間だからこそ、この島でも幸せや豊かさを感じながら生きてこられた。でもR氏と出会って、守りたいものができて。消えてほしくないものや失うことの怖さを痛感するようになる。今まで失ったものの中に、大切なものがあったかもしれないとR氏との言葉の中で気づいていく。緩やかでピュアだった子が、強くなっていって、最後に向かっていく。その成長過程をきちんと描けたらと思っています」
――演じていくうえで、大切にしたい部分はどこでしょうか?
石原 「私の中では、主人公はR氏だと思っているんです。原作を読んだとき、とてもR氏が魅力的に見えた。あと、おじいさんと主人公である私の関係性が、同士の愛のような…少し突き抜けている愛情に思えたんですね。その関係性がこの作品の伝えたいところに繋がっていると思うので。上手く伝えられればと思います」
――演出は鄭義信さんです。鄭さんも石原さんが大好きな方だそうですね。
石原 「期待しています。大好きなんですよ、鄭さんの舞台。決して派手な作品ではないんですけど、鄭さんなら華やかにしてくれるかなって。鄭さんの舞台は、簡潔に言うなら、明るくて、楽しくて、わかりやすくて、感動して、泣けて、驚いて。さらに、持ち帰るものが多いんです。でも派手過ぎる華やかさじゃなくて、温かさが残る感じ。そこがすごく好き。この作品を鄭さんがどんなふうに華やかにしてくれるのかも楽しみですけど、単純に鄭さんとお仕事がしたいと言い続けていたので。叶いました! 言ってみるものですね。うれしいです」
――もともと、舞台そのものに対するご興味もずっと持ち続けていらっしゃったそうですが、舞台の魅力はどのようなところにありますか?
石原 「やっぱり稽古できることが楽しいですね。映像だと稽古の期間ってまったくないので。ドライやったらすぐ本番!みたいな現場もありますし。まだ、顔も起きていないのに、みたいな(笑)。その分、編集の力や、音楽の力、照明の力があるんですよね。でも、舞台は出てしまったら誰も助けてくれないから、本番は自分との戦いになる。かわりに、稽古期間はたくさん恥をかけて、失敗ができて、許してもらえる。そういう場は映像にはないんです。だから、これまでの舞台ではそれがうれしかったし、また味わいたいなとずっと思っていました。4年も空いてしまいましたが、今回は舞台が好きな演劇人の方と共演したいと思っていたら、まさに舞台で活躍されているみなさんなので、面白そうでうれしいです。」
――稽古の中で、楽しみにしていることはありますか?
石原 「単純に、みなさんと稽古をしたい! それぞれの個性の部分を知りたいですね。人間性みたいな。役者さんの人となりや、大切にしているものとか。映像だとそういう時間も持てなかったりするので、人を知る時間にしたいですね」
――ほとんどの方が初共演になりますね。
石原 「(鈴木)浩介さん以外は一緒にお仕事したことがないですし、楽しみです。とはいえ浩介さんも、前にご一緒したときは変態的な役だったので、浩介さんのことも良くわかっていないんですけど(笑)。プライベートでは、ごはん屋さんでたまたま一緒になったことがあって、ご挨拶したことがあるくらいなんです。ドラマを観ていると本当にいろいろな表情をされるから、どういう方かさっぱりつかめなくて。でも、ちー(大塚千弘)と結婚されたじゃないですか。ちーと結婚するような感じの方って考えると、一体どういう人なのか、稽古の中で、ぜひ知りたいです(笑)。(村上)虹郎さんはまだお会いしていないんですが、アーティスティックなイメージがあります。影がある感じ。表に出すものは静なのに、中にあるものは動な感じがします。おじいさんなので、静かな演技になると思うんです。でも、その中で動いている感情のようなものをどう表現されるのか、楽しみにしています」
――今回の舞台で、石原さんご自身が描いている目標はありますか?
石原 「全部終わった後に、鄭さんが好き!と言いたいです、それが言えれば大成功なんだと思います」
――観に来てくださった方には、どんな風に楽しんでいただきたいですか?
石原 「鄭さんワールドを楽しみながら、消えていくはかなさや、その中で抱く柔軟性、強さを感じてもらいたいです。観てくださった方、それぞれの経験と知識によって、思うところがそれぞれあると思います。持ち帰ったときに、ふと命についてとか、消えていく物質のこととか、漠然としたことでいいんですけど、お話ししていただけたらうれしいですね。こういう世界があったらどうなんだろう?とか。押しつけがましい作品ではないので、何か柔らかい気持ち、この尊い気持ちはなんだろう?という感じになってもらえればと」
――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
石原 「4年ぶりの舞台ですから、ぜひ会いに来てほしいです。映像作品を観て私に興味を持ってくれた方はもちろん、そうでない方にも、私が好きなものを同じように好きだと思ってもらえたらうれしいですね。あと、私が舞台で好きなのは、カーテンコールだったりするんですよ。どうやって最期の『ありがとうございました』を言うんだろう、とか自分で気になっていて。役のままなのかな、少し素に戻るのかな、とか。そこだけ、お客さんとの距離が縮まるというか、お顔を直接目の前で見られる瞬間なので。そこを楽しみにしています。だから、ぜひ会いに来ていただきたいですね」
――アフタートークがある上演日もありますから、楽しみです。本日はありがとうございました!
インタビュー・文/宮崎新之
撮影/吉田夏瑛
【プロフィール】
石原さとみ
■イシハラ・サトミ 1986年12月24日生まれ。東京都出身。2002年にホリプロスカウトキャラバンでグランプリを受賞し、03年に映画「私のグランパ」のヒロインでデビュー。以後、数々の映画やドラマなどで活躍する。主な舞台には「奇跡の人」「幕末純情伝」「ピグマリオン」など。2018年1月にはTBS系列で放送される主演連続ドラマ「アンナチュラル」の放送が控えている。
【公演情報】
『密やかな結晶』
原作:小川洋子「密やかな結晶」(講談社文庫)
脚本・演出:鄭 義信
出演:
石原さとみ 村上虹郎 鈴木浩介
藤原季節 山田ジェームス武 福山康平 風間由次郎
江戸川萬時 益山寛司 キキ花香 山村涼子/山内圭哉 ベンガル
日程・会場:
2018/2/2(金)~25(日) 東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2018/3/3(土)・4(日) 富山県民会館 ホール(富山県)
2018/3/8(木)~11(日) 新歌舞伎座(大阪府)
2018/3/17(土)・18(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール(福岡県)