『KOUHEI MATSUSHITA LIVE 2017 -acoustic–』松下洸平 インタビュー

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“誰のものでもないモノ”であってほしい
それは、音楽でも、演劇でも同じですね

 

俳優として着実に活躍の場を広げている松下洸平が、自身のライフワークとも言えるライブを敢行することが決定した。立て続けに出演する舞台の本番や稽古の合間を縫って、奇跡的に確保できたスケジュールで行われる今回のステージは、松下にとって初めてのアコースティック・ライブとなる。ステージへの意気込みのほか、楽曲づくりについてや、30代を迎えて改めて思うことなど、たっぷりと話を聞いた。

――松下さんにとってライフワークとも言えるライブが今年も開催されることになりましたが、なかなかスケジュール面での調整が大変だったとお聞きしました。

松下「本当は今年は無理かも、と諦めていたんですよ。今、やっている作品(ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」)と、その後の作品(舞台「TERROR テロ」)の間がとてもタイトだったので。でも、定期的にYouTubeなどで自分の楽曲を配信しているんですが、聴いてくださったいろいろな方から『絶対、ライブをやったほうがいいよ』と背中を押していただいたんです。そういう期待にはやっぱり応えたいですし、ファンの皆さんには年1回だけでもライブでの姿をお見せしたいので、スタッフさんやお世話になっているミュージシャンの方や、いろいろな方に無理を言って(笑)。なんとか現実になりました」

――やはり、ライブで歌うことは松下さんにとって特別なことなのでしょうか?

松下「デビューが音楽だったので、音楽を続けていきたい気持ちはあるんです。ですが、役者のお仕事もありがたいことにいただけるようになってきて、そうなってくると自分の音楽に向き合う時間がどうしても少なくなってくる。そこが、消化不良のような気持ちになっている部分は正直ありました。普段は役者として、自分以外の役を演じる姿を見せているわけですが、年に1回でもこうやってライブをすることで生身の松下洸平をお見せできる機会が必要なんじゃないかと…。役者をやっていると、自分のパーソナルな部分を見せたほうがいいのか、それとも少しミステリーな部分を残しておいたほうがいいのか、いつもすごく迷うところではあって。でもやっぱり、自分の素顔を知ってもらった上で芝居を観ていただけたら、きっと違う感覚でも楽しんでもらえると思うので。そういう部分でも、やっぱりライブは必要だな、と」 

――今回は初めてのアコースティックライブになりますね

松下「いつもは割とガッツリ編成を組んで、ライブハウスとかでやっているんですけど。僕も今年30歳になって、改めて自分の音楽と向き合うきっかけになったらいいなという思いもあるんです。よりシンプルに、自分で作ってきた音楽をシェイプして、ありのままの自分をさらけ出したい。だから、今回はあえてアコースティックな編成にしました。ギター1本だったり、ピアノ1本だったり、本当にコンパクトでシンプルなものになりそうです。僕にとっては大きな挑戦になりますね。今回の場所は一般的なライブステージではなくて、原宿にあるライブもできるギャラリースペースなんです。だから、お客さんとの距離はめちゃくちゃ近くなると思います。ステージと客席も同じ高さのフラットな形になるので、前列の方は座布団や低いベンチなどに座っていただくようになるでしょうし、手と手を伸ばしたら触れてしまうんじゃないかというくらいの距離感になっちゃいますね」

――今年9月にドロップした曲「エンドレス」は、ピアノの弾き語りでとても切ないバラードでしたし、松下さんの楽曲とアコースティックはすごく似合うんじゃないかと思うんですよね。

松下「エンドレスという曲は今年の春に書いた曲なんですけど、ちょうどその頃、3月くらいからピアノを習い始めまして。いや、今は習っている訳じゃなく、触り始めたという感じかな。夏に音楽劇『魔都夜曲』に出演したのですが、ピアノを弾く役だったんです。それで、『ピアノ弾けないんです』って言ったら、『じゃ、やろっか』って(笑)。けっこうびっくりだったんですけど、ピアノを触りだしたら思いのほか、面白いし楽しくて。普段はギターで曲作りとかをしているんですけど、まずはピアノで僕のスキルでも弾けるくらいの簡単なバラードを作ろうと思って、できたのが『エンドレス』です」

――ピアノがまさか今年始めたばかりとは思いませんでした!

松下「基本的に、物事に対して入り込んじゃうので…。ピアノって一人でできちゃうじゃないですか。一度ハマってしまうと、もう長いときは12時間くらい弾いちゃうんですよ。舞台をきっかけに始めたとはいえ、せっかくなので自分の音楽にも活かして転換できるように。今では、家帰ったらまず着替えてピアノ弾くんです。楽しいですねー(笑)」

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――ピアノに出会って、曲作りで何か変化はありましたか?

松下「変わりました。ピアノの音ってとっても繊細で、歌詞を考える時により慎重になりましたね。いい意味で。この音に乗せて曲を歌うとなると、ただただ思ったことを歌うのではもったいない気がして。ギターだと割と、家でお酒を飲みながら作ったりしちゃうんですけど…そういうときにできる曲って、大概めちゃくちゃザックリした曲になっていて。結局、何が言いたいのか?って思っちゃうような曲がすごくいっぱいあったんですけど(笑)。でもピアノに出会ってからは、もっともっと言葉があるんじゃないかって。コード進行も無限にあるので、それを探す旅もすごく楽しい。より音楽に対して丁寧に接するようになりましたね」

――松下さんの歌は、時に本当に語り掛けるような囁きで歌われていることもあって、言葉の選び方にとてもリアリティを感じるんですよね。作詞で意識していることはありますか?

松下「大喜利みたいな感じで、同じ恋愛でもいろいろな書き方や表現方法があると思ってて。人を好きになれば胸が痛くて…誰しも同じ気持ちにはなると思うんです。それを100万人のアーティストがいたら、100万通りの表現の仕方がきっとあるはずで。そこを縫うように誰もまだ表現していない言葉はなんだろうなと考えて、答えを出していくのもソングライターの仕事だと思うんです。普段、ポップスやいろんな曲を聴いていても『そうか、その表現があったか!』って悔しい気持ちになることもあります。『その答え、いい!』って(笑)。まだ誰も書いていない言葉を探している時に、役者とは違う要素が働くんです。俳優は、いかに演出家の言っていることを表現できるかというところで、自分の引き出しを開けていくんですけど、曲を書いていくときはゼロから自分で見出して、提示していかなきゃならないので。オリジナルな表現に辿り着いたときに、よっしゃ!って思いますね(笑)」

――自分の中だけにある表現を見つけたときの達成感はありそうですね

松下「でも一方で、曲っていうのは、誰のものでもないモノであってほしいんです。自分の想いを伝えるためだけの曲っていうのもあっていいし、必要だと思うんですけど、誰が聴いても共感できるためには、自分のパーソナルな部分を入れすぎないことなんじゃないかなと。第三者的な目線で曲を書いていくことで、性別や年齢、国も関係なく、共感できる。そういう微妙な抜き差しが必要かなと考えています。自分の体験談だけを綴っていくと、それは僕だけの曲になってしまって、相手の心に残らないんじゃないかなと。想像の余地を残しておく、あえて曖昧にしておくことで、聴き手が自分の過去や現状と照らし合わせることができて、心に響かせることができる気がします」

――聴き手が曲をその人のものにできるような余地を残してあげることが共感につながると。

松下「その感覚は演劇でも同じで、演劇をやり始めてから学んだことなんです。時々、舞台を客席で観ていて取り残されたような気持ちになることもあるんですよ。僕の入る余地がない演目なんじゃないか、と。そんな時、日ごろからお世話になっている演出家の栗山民也さんが『誰のものでもないモノを目指すのが、演劇だ』とおっしゃっていて。確かに、栗山さんの作品を観ていると、戦争を体験していない僕でも何か想像力を働かせて明日のためのヒントが見つかったりするし、全く知らない世界の全く知らないお話でも自分の中に落とし込める余地が残っている。音楽でもそれを体現したいと、最近はすごく思います」

――そういう部分でも、演劇との出会いが松下さん自身の音楽を変えたんですね。

松下「たまにデビューした頃のデモの音源を聴いたりするんですけど、『この歌、誰が聴くんだよ!』って思う(笑)。それはそれで、一つの音楽としては成立していて面白い曲ではあるんですけど…自分のことしか言ってない。聴き手も顔が赤くなるようなすごくパーソナルなことばかりで、若気の至りだったんだな、と(笑)。今は少し大人になって、不確かなものや未完成なものを追いかけたくなる気持ちも、愛おしく思えるようになってきました。人間関係でも同じですよね。分からないからこそ、分かろうとする。そんなふうに音楽を作っていきたいですね」

――30歳になってから初めてのライブになり、今年を締めくくるステージになってくると思います。30代の自分のビジョンをどのように描いていらっしゃいますか?

松下「本当に、芝居や曲作りで人の人生のこと考えている場合じゃないんですけど(笑)…自分のことを考えるのはすごく苦手で。今年は、俳優、演出家、スタッフの方、本当にいろいろな方とご一緒できた1年でした。個人的には、僕をサポートしてくれている周りのスタッフの方々が一新するという環境の変化があったんですね。それもあって、これからの自分についてよく考える機会がたくさんありました。とは言え、30代でやってみたいことと言ってもパッと思いつかず…そういう意味ではあまり欲が無いのかも。いいのか悪いのかわからないんですけど…。来年でCDデビューしてから10年になるんですが、これまで大きな転機というものも実はなくて。でも、やってきた仕事のひとつひとつが、自分の中に積み重なって、自分を成長させてくれて…。だからきっとこれからも、それを変わらずにやっていくんだと思います。地道にコツコツと、周りに感謝しながら続けていければ。その気持ちは10年前からずっと変わっていないし、そういうペースじゃないと僕はやっていけないような気がしています。30代もこれまでと同じように、一歩一歩を着実に進んでいきたいですね」
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――忙しい中でのライブとなりますが、どのようなステージにしたいですか?

松下「僕はこのライブを特別な一日というよりも、お客さんの日常の1ページというようなライブにしたいと思っているんです。これまでのライブでは、やっぱり僕はミュージシャンだけを職業としている訳ではないからこそ、年1回だからやれることは全部やろう!と、どんどん色々な要素を詰め込んでいって…。お客さんとの距離がちゃんと測れていたかな?と思う部分も少しありました。なので、今回はなるべく余分なものをそぎ落としたシンプルなセットでお届けしたいと思っています。会場はマイクが無くても後ろまで声が届くような響きのある場所なので、アンプを通さずにやる曲があってもいいし。とにかく、お客さんにとってより身近な存在になれるよう、心がけたいと思います。でも日常の中でのスペシャルな部分ももちろん必要だと思っていますよ。それがサプライズなのか、何なのかはこれから考えていきますが(笑)」

――日常の中にあるスペシャル感、楽しみです!

松下「やっぱり日常であってもライブにはスペシャルさも必要で。でもそれは、明日を頑張れる活力を少しだけあげられるような。明日1日を楽しく過ごせるような。それくらいのスペシャル感をプラスしたステージにしたい。フルコースの料理じゃないけど、たまに実家に帰って食べるお母ちゃんのメシが旨くて特別な感じがするような。そんな感じに、僕はなれればと思っています。そういう時間を、ぜひ皆さんと一緒に過ごしたいですね」

 

インタビュー・文/宮崎新之

【プロフィール】
松下洸平
■マツシタ コウヘイ 画家である母の元、幼少時より油絵を始める。2008年より、自作曲に合わせて絵を描きながら歌を歌う「ペインティング・シンガーソングライター」として都内及び関東近郊でライブ活動を行い、同年11月に「STAND UP!」でCDデビュー。2009年よりテレビ、舞台と、活動の幅を更に広げる。最近の舞台出演作品は、「スカーレット・ピンパーネル」「テロ-TERROR-」。。

【公演概要】
KOUHEI MATSUSHITA LIVE 2017 -acoustic–

日程・会場:
12/10(日) 原宿VACANT(東京都)