ミュージカル『メンフィス』通し稽古レポート

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山本耕史&濱田めぐみという魅力的なタッグで、2015年の日本公演時には連日スタンディングオベーションが起こるなど、好評を博したミュージカル「メンフィス」。再演が決まって大きな期待が高まる中、12月2日に迫った初日を前に気合が入っている稽古場に取材を敢行した。

「メンフィス」は、2010年にトニー賞作品賞を含む4冠を獲得した傑作ミュージカルで、まだ差別が色濃く残る1950年代のアメリカで、初めて黒人音楽をラジオで紹介した伝説的DJ、ヒューイ・カルフーンと、彼が恋した黒人シンガー、フェリシアの物語。初演に引き続き、ヒューイを山本耕史、フェリシアを濱田めぐみが演じるほか、ジェロ、米倉利紀、伊礼彼方、栗原英雄、根岸季衣ら魅力的なキャストがズラリと揃い、今回は主演の山本が演出も手掛けることも話題となっている。

お邪魔した日は、寒さの厳しくなり始めた11月某日。通し稽古が行われると聞きつけて稽古場に駆け付けた。到着した時には、ダンスの振りを合わせたり、ステップを確認したりなど、開始前ながら真剣な空気感が伝わってくる。踏み込みのタイミングや足の高さ、移動のタイミングや距離感など、細かいところまでチェックを重ねていくものの、時折笑顔で茶化すような場面も。真剣さとリラックス感が同居しており、カンパニーの雰囲気の良さがうかがえた。

通し稽古前に、山本が気になっているシーンの手直しが行われた。隊列を組んで踊りながら移動していくシーンで、隊列が移動していく方向やスピード、移動距離などの調整を何度も試行錯誤しながら行うなど、細かい部分の演出を確認。そして、山本は他キャストらに「通し稽古をやっていく中で“こうしてやろう”みたいな考え方でなければ、おや?と、気づいたことはどんどんやってみてほしい」と声を掛けた。これまでの稽古の中で培ってきたものを、ワザとらしく変えてやろうという思いでなければ、キャストが気づいたことをどんどん挑戦的に取り入れて、より純粋にカッコよく見えるようにこの舞台を作り上げていきたいという想いがひしひしと伝わってくる。真剣な眼差しでその言葉を聞く面々を観れば、山本への信頼感は疑う余地がなさそうだ。

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また、振付と山本とともに演出を手掛けるジェフリー・ページからは、この舞台の魂ともいえる黒人差別への想いについて語られた。黒人差別に対する意思表示として、アメリカプロフットボールリーグの選手が国歌斉唱の際にひざまづいたりする行動が、古い時代の話ではなく現代でもあると紹介。このような行為は、他競技やオリンピックなど、幾度となく繰り返されてきたものだという。振付の中に、高く拳を掲げる振付があるが、その振りはそういう想いも込められたもの。「(差別は)もうたくさんだ」という気持ちがこの掲げた拳に詰まっていると明かした。

キャストらは、その想いを逃すことなく受け止めようと静かに耳を傾ける。そして、その拳の掲げ方など舞台としての見え方も考慮しながら振りを確認していった。

たくさんの大きな想いを背負い、通し稽古がスタート。
物語はメンフィスにある黒人専用のナイトクラブから始まる。のっけから陽気に歌い踊り、「♪ここはDOWN, DOWN UNDERGROUND」と、重なったソウルフルな歌声が一気に見る者を世界観に惹き寄せていく。そして「おまたせ~」と登場する歌姫、フェリシア。伸びやかな歌声が稽古場に響き渡り、心地よく胸に沁みわたっていく

そんな黒人たちの憩いの場に、招かれざる白人客、ヒューイが登場。黒人たちに話しかけるも、そっけなくあしらわれ当時の差別の大きさがうかがえた。たまらずヒューイは歌声でその純粋な音楽への想いを伝える。その想いに応えるようにフェリシアの歌声が寄り添った。何かを予感させる2人の関係性が見て取れるようだ。

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どんな仕事も長続きしなかったヒューイ。だが、黒人音楽にかける情熱だけは、いつも揺るがなかった。決して出来のいい男ではないヒューイだが、相手が黒人だろうと白人だろうと街行く人だろうと偉い奴だろうとフラットに接していく姿は実に魅力的。そして、フェリシアに対する奥ゆかしい態度もとてもチャーミングだ。

最初は白人であるヒューイに、疑いの気持ちがあったフェリシアもだんだんとヒューイに心を開いていく。差別が渦巻く時代に、不器用ながらも確かな絆を作り上げていく2人の姿には、まだ衣装でもなく、照明も音響も無い状況であるにも関わらず、こみ上げてくるものがある。ある事件に見舞われて、メンフィスの現実を見せつけられてしまう1幕終わりには目頭が自然と熱くなってしまった。

危機を乗り越えた2人だが、2幕では世間の目と互いの夢との狭間で歪みが見え始める。そのどちらもが正しいような気がして、両方に共感を覚えてしまう。そんな2人を見守る、フェリシアの兄デルレイ(ジェロ)やデルレイの店の従業員のゲーター(米倉利紀)、常連客のボビー(伊礼彼方)、ラジオ局プロデューサーのシモンズ(栗原英雄)、ヒューイの母親グラディス(根岸季衣)。単純に応戦しているわけでは無い。でも、いつもヒューイやフェリシアの味方。そのことが、2人にとってどれほど心強かったことだろうか。随所にある彼らとのやり取りは、時にコミカルで頬が綻ばせることも多いので、ぜひ注目していただきたい。

劇中で、次々に押し寄せてくるソウルナンバーは、どの曲も自然と体がスイングしてしまいそうになるほどノリノリで、キレのあるダンスも見もの。黒人と白人が、同じ音楽を楽しみ、惹かれあう。それが当たり前ではなかった時代だからこそ、ダンスで表現された“差別という垣根を超えた瞬間”をぜひ見届けていただきたい。

セットには、螺旋階段があったり、稼働するDJブースやカウンターなどがあったりと、この時点でも、ひと目でどんな場所のシーンかがわかるような工夫が随所に施されていた。これが、実際の舞台ではどのように作り込まれていくのか期待が高まる。

通し稽古だけでもこれだけの印象を残してくれたのだから、今後、衣装や照明などが揃ってしまうと、どれほどのものになってしまうのか。ぜひ劇場で、胸を震わせる感動の瞬間を体感していただきたい。

 

【公演概要】

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ミュージカル『メンフィス』

日程・会場:
2017/12/4(月) ~ 2017/12/17(日)  新国立劇場 中劇場(東京都)

演出・振付:ジェフリー・ページ
演出・主演:山本耕史
脚本・作詞:ジョー・ディピエトロ
音楽・作詞:デヴィッド・ブライアン
翻訳・訳詞:吉川徹

出演:
山本耕史:ヒューイ・カルフーン
濱田めぐみ:フェリシア・ファレル
ジェロ:デルレイ
米倉利紀:ゲーター
伊礼彼方:ボビー
栗原英雄:シモンズ
根岸季衣:グラディス

ICHI、風間由次郎、上條 駿、当銀大輔、遠山裕介、富永雄翔、水野栄治、渡辺崇人
飯野めぐみ、岩崎ルリ子、ダンドイ舞莉花、増田朱紀、森 加織、吉田理恵