日本初上陸作品は、自分たちでかみ砕きながら
時間をかけて創っていけるおもしろさがある。
ミュージカルもストレートプレイも話題作への出演が続く矢崎広。彼のいるところでおもしろい作品に出合えるわけだが、次なる出演に『フォトグラフ51』が発表された。アカデミー賞受賞女優のニコール・キッドマン主演により、イギリス・ウエストエンドで大好評を博した海外戯曲の日本初上陸だ。“フォトグラフ51”とはDNAの二重らせん構造発見において重要な鍵を握ったX線解析写真。1951年、科学の分野で女性の地位がまだ認められなかった時代を舞台に、1人のひたむきな女性科学者と、彼女を取り巻く5人の男性たちの運命を一幕で描く。演出は、2017年にブロードウェイデビューを飾った話題のサラナ・ラパイン。また、板谷由夏の初舞台にして初主演でも注目の本作で、矢崎は、板谷演じるロザリンドの助手ゴスリングを演じる。
――科学者のお話ということでビジュアルも白衣姿。白衣は着慣れましたか?
矢崎「スチール撮影のとき、初白衣だ!と思ったんですが、そういえば、過去作品(『黒いハンカチーフ』)で町医者をしたときに着てたんですよね。だから、町医者と科学者ではちょっと違うかもですが、意外と着慣れ感はありました」
―――本作の出演が決まった感想はいかがですか?日本初演ですよね。
矢崎「海外ものの日本初上陸作品に、今まで数作出演させていただいているのですが、海外で上演されたものを日本で初めてお客様に伝えることは、とてもおもしろいですし、光栄です」
―――初上陸作品を担われることが多いんですね!任されるというか。
矢崎「いえいえ、若い頃から舞台に関わってきた中、たまたま機会に恵まれていたんだと思います。思い返せば、『ミュージカル ワンダフルタウン』、トム・サザーランドの『ミュージカル タイタニック』もそうでした」
―――日本初演となればプレッシャーも大きそうですが。
矢崎「僕は、逆です。日本初演だから出来ることがたくさんあると思っているんです。初演でちょっと型ができてしまうと、再演でやるときに前にやった人を追ってしまうというか。もちろん尊重してのことですが、そういう役づくりになってしまうこともあるんですよね。正直、再演の稽古期間は初演より短い場合もあるし、訳のわからぬまま型から入ってしまうこともあって。でも、初上陸だと、まず“型”がない。自分たちで海外の戯曲をかみ砕き、理解しながら稽古ができる。今日もこれから初めてのリーディング(本読み稽古)をしますが、上演は4ヵ月後です。まっさらな状態から、長い時間をかけて作品づくりに関われるのはおもしろい。そこも、今回の楽しみなところです」
―――俳優としては一つの役への長期戦にもなりますか?
矢崎「今日のリーディングでやっとゴスリングに出会います、初めて自分の声にする。だけど、来年4月の上演までの間に別の作品も何本かやるので、一度ゴスリングを忘れてほかのをやって、またゴスリングになる、というのは不思議な感じもしますよね。リーディングにも舞台稽古にも時間をかけてしっかり作っていくんだな、こんな風に準備期間が長いのが、海外スタイルなんだな、と。ただ、一度役に触ったことがあるかないかでは、違ってくると思うんです」
―――台本を読んだ感想はいかがですか?
矢崎「これまで科学というものをじっくり感じたことはなかったのですが、台本を読んで、科学者の方って何かを見つけるのに本当に必死なんだ、と思いました。主人公のロザリンドは女性で、特にこの時代(1950年代)はまだ女性蔑視があり、その中で一生懸命に戦っている。ちょっと変わり者だけど、変わり者なほどひたむきにやっていた女性科学者がいたんだと、おもしろく興味惹かれる歴史だと思いました。彼女がいなければ、いまこうして健康に暮らせていないかもしれないわけですしね。僕の役は、そんな彼女を見ている立場です」
―――1人の女性と、5人の男性。この構図が気になります。男性社会の中でロザリンドがどう戦うのだろうと……。
矢崎「男性陣もみんな素敵なんですよ。ただ、ロザリンドがひたむきすぎると言いますか、男性に対する負けん気が強く、それでボタンが掛け違ってしまう感じというか。これが普通の女性なら、もしかしてコロッといっちゃう部分もたくさんあるんじゃないかと……」
―――なるほど。そうした男性陣の中で、矢崎さんが演じるゴスリングは、ロザリンドの助手ですね。
矢崎「彼女だけでなく、白衣(科学者)チームみんなの助手みたいなものですね。いろんな人の間に立つ役回りなんです。どちらかというと、僕はロザリンドを支える側。“彼女が一番でもいいはず”とずっと思っていて、その思いから彼女に惹かれていくところもあって。5人の中では一番“普通”かもしれません。というのも、全員がロザリンドについて語るのですが、ダントツで多いのが僕なんです。ストーリーテラーを担う面もあるから、お客さんと目線が一番近い。きっと、お客さんも感じるだろう疑問を、僕が代わりに舞台で投げかける感じで、“ゴスリングが代わりに言ってくれた”って思ってもらえる部分も多くなると思います」
―――ゴスリングの人物像はどんなイメージですか?
矢崎「心のツッこみが口に出ちゃう、空気が読めない、不器用……。でも、研究所の中でもっとも普通であり、研究所全体をある意味把握してまとめて見ているヤツ、でしょうか。人をちゃんと分析しているから、世渡り上手でもあって(笑)。ロザリンドと男性たちの間で伝言したりもします」
―――矢崎さんの立ち位置を伺うとなおのこと、過去共演も多い宮崎秋人さん、橋本淳さんとのタッグにも楽しみがありそうです。
矢崎「2人と同じシーンはあまりないかもしれませんが、作品について話す機会は多くなると思います。どの方向で向かっていくか、演出のサラナの言っていることはこうだよ、ああだよと、たくさん話ができるんじゃないかと。小規模な劇場空間で物語を作るときって、一つの話し合いが結構大きいですね。ここってこういう意味だよね、と意志疎通していないと、お客さんにはすぐバレる。ふたりは特にそういう話がしやすい人々なので、心強いです」
―――一方で、板谷由夏さん、神尾佑さん、中村亀鶴さんとは初共演。
矢崎「先輩お三方が初共演なのは緊張です。でも、芝居で応えていけばどの先輩とも心通わせられると思うから。学ぶことが多いし、とても楽しみです」
―――以前、空想やファンタジーの世界は好きと話されていましたが、本作のDNAみたいに、未知なる科学の世界、というのはいかがですか?
矢崎「DNAにそこまで強い興味を抱いたことはないけれど、二重らせん構造のカタチはおもしろいと思います。これから勉強することになるかもしれませんね。“見つかりました!”のセリフ一つも、知っていると知らないでは出方がぜんぜん変わると思うから。DNAの構造は現在広く知られていると思いますが、あの時代は不思議だったわけですよね。で、僕が思う不思議話をすると、たとえば中世の魔女狩りは、魔法だといわれてのことだけど、実は科学で証明できた。なんでリンゴが落ちるのか?という重力の発見もそうで、いま当たり前のものはすべて、彼女(ロザリンド)のような研究者がいたから、なんですよね。そういうことを考えるのはおもしろいです。現代で言うなら、タイムマシンはあると思う?とか」
―――ないですよね?この中に未来から来た人はいなさそうだから……。
矢崎「……と、いう人がいてね、と、そこから話が始まるかも。わかりませんよ~(笑)」
―――主人公の生き様や、人間模様に加え、そうした科学の発見の奇跡という魅力もありそうです。最後にメッセージをお願いします。
矢崎「いま段階の僕の印象は会話劇ですが、これからどのようになるのか、サラナの演出をとても楽しみにしています。僕のゴスリングも、それぞれの人物に別々の思惑がある中、ロザリンドがどう戦い続けていくのか。この時代だからこそ感じられるものがたくさん詰まっている作品になると思います。ぜひ楽しみにしていてください」
インタビュー・文/丸古玲子
【プロフィール】
矢崎広
■ヤザキ ヒロシ 1987年、山形県出身。16歳で劇団ひまわりに入団。2004年にミュージカル『空色勾玉』でデビュー。ドラマ、映画、アニメ声優、CMナレーションなど幅広く活躍。主な舞台出演作は、『ジャンヌ・ダルク』、『黒いハンカチーフ』、『女中たち』、『ETERNAL CHIKAMATSU』、『モマの火星探検記』、『Shakespeare’s R&J』、ミュージカル『タイタニック』、『ドッグファイト』、『ジャージー・ボーイズ』、『ロミオ&ジュリエット』等多数。
【公演情報】
『PHOTOGRAPH 51』
作:アナ・ジーグラ
演出:サラナ・ラパイン
出演:
板谷由夏
神尾佑
矢崎広
宮崎秋人
橋本淳
中村亀鶴
日程・会場:
2018/4/6(金)~2018/4/22(日) 東京芸術劇場シアターウエスト(東京都)
2018/4/25(水)・2018/4/26(木) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪府)