ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』
早霧せいな インタビュー

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昨年夏に惜しまれながらも宝塚歌劇を退団した元雪組トップスター、早霧せいなが退団後初めてミュージカルに出演する。作品は、1981年にブロードウェイで初演されトニー賞4冠に輝いた「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」で、主人公の仕事に生きる人気ニュースキャスター、テスを演じる。テスはその年に最も輝いた女性に贈られる“ウーマン・オブ・ザ・イヤー”の授賞式を控えながら、運命の相手に出会いスピード結婚。だが、どんな時も仕事を優先してしまい、早々に離婚危機に陥って…。いつでもパーフェクトであることを目指すテスを、彼女はどのように演じていくのだろうか。

 

“男役の早霧せいな”だけにしてしまうのが
とても失礼なことのような気がしたんです

 

――退団後にショーへのご出演はありましたが、役を演じる作品では今回が退団後初となります。どのようなご心境でしょうか。

早霧「宝塚を退団して以来なので、今は本当にお芝居ができるワクワクや喜びに溢れていますね。ショーをやったときは、宝塚以外の新しい世界に正直なところ不安も大きかったんです。でも今回は、新たなメンバーとひとつの作品を産み出せる喜びを見いだせると思うと、楽しみのほうが強いですね」

 

――やはり退団後初のお芝居作品となると、特別なお気持ちがありますか?

早霧「自分が宝塚を卒業しても表現者として舞台に立つのかどうか、表に出るのかどうか、覚悟を決めさせてくれた作品ではあります。この作品だったから、というわけでもないですが、卒業後も舞台に立とうと思わせてくれるきっかけになった作品なので、ちょっと特別な気持ちもありますね。退団後、どうするのかすごく迷っていましたし、お話をいただいて悩んだ末にやってみようという気持ちになれました。まだ、どこかに早霧せいなを応援したいと思ってくれる人がいると、感じたので。そういう方々に“男役の早霧せいなしか存在しません”としてしまうのは、とても失礼な気がしたんです。別パターンの早霧もいるよ、というのをお見せしたいと今は思っています」

 

――「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」のお話の魅力はどのようなところでしょうか。

早霧「ブロードウェイ作品なので、お話がしっかりしているんですよね。仕事をしているひとりの強い女性が、家庭を持つことによって悩みを抱えながらも両立してがんばっていこうとするお話です。コメディタッチでテンポもよくて、1980年代なのでちょっと古い時代のお話なんですが、現代の日本のみなさんにも共感していただける内容になっています。当時よりも今のほうが働く女性は多くなっていますし、ほかの方が演じる役にも誰かしら共感できる作品になっています。華やかなナンバーも多いですし、お芝居のお上手な方々がたくさん出演されますので、一緒にお芝居をするのが本当に楽しみです」

 

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――花形キャスターというキャリアウーマン役ですが、役を演じるにあたってどのようなことをされていますか?

早霧「働く女性の本を読んでいます。私はキャスター役ですが、いろいろなお仕事をしている方たちの働き方やどうやって仕事に向かっているのかというメンタル的な部分から、インスパイアを受けられたらと思っています。あと、テレビをつけたらキャスターの方が映りますからね。よく忘れているんですけど“あぁ、キャスター役やるんだった!”って(笑)」

 

――今までは男役らしさを追求されていましたから、また観点も変わられたんじゃないですか?

早霧「私はあんまり形や外から役作りをするのがそんなに好きではないんですよ。演じるキャラクターに対する感情が生まれたら、自然にしぐさが出てくると思っていて。だから、あんまりこういう形で、とかポーズで、みたいなところから女性を演じることはしたくないと思っています」

 

――見た目などの外側からよりも、自分が受けた内面の感性から出てきたものを大切にされる感じでしょうか。以前、自分からこんなふうにしたい、とリクエストをするのも苦手とおっしゃっていましたが、そこにも通じる部分かもしれないですね。

早霧「そうなんですよ。リクエストも苦手なんです。自分だけのもので作ると、いつも同じだったり、はみ出したくてもはみ出せなかったりしてしまう気がするんです。周りの方たちの知恵や言葉、アドバイスで、自分の器が広がったり大きくなったりすることが、発見につながると思うので。なるべく、アイデアをもらうために自分からはあまり言わないです(笑)」

 

――ポスタービジュアルでは、キリッとしたキャリアウーマンの雰囲気がありつつも外ハネの髪型がチャーミングな女性という印象ですが、今のところ、演じられるテスという女性はどのような人物だと感じていますか?

早霧「とてもかわいらしい女性ですね。強がっているけど弱い部分もあって、とても頭がいいのについつい感情的になってしまう。感情が行動に表れてしまうところが人間らしくて、素敵な女性だなと思います。がんばればがんばるほど空回りしてしまうとか、そういう女性像って意外と今の時代にも合っていると思うんですよね」

 

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――共演の方々の印象はいかがですか?

早霧「ミュージカルはもちろん、ストレートプレイも得意とされる方や、バレエに長けた方など、本当に幅広いジャンルの方とご一緒できるので、そういう方々がどんなふうに役にアプローチされるのか楽しみです。一緒の稽古場で見たり体験できたりするわけですから。あと、先輩が2人もいらっしゃって、特に樹里(咲穂)さんは男役からの転向なので、心強いですね。先日のショーのときも、ヤンさん(安寿ミラ)が出演してくださったんですが、だいぶ違ったんですよ。性転換をなさった先輩がいるだけで(笑)、どこか安心感があって。だから今回も、そういった先輩や、春風ひとみさんのようなキャリアを積まれた先輩とご一緒できて、何よりも安心感があります。演出の板垣(恭一)さんも初めてなので、最初はお互いに探り探りになると思うんですが、自分の意見も出し合いながら共同作業しつつ、その世界観に飛び込んでいけることをとても楽しみにしています」

 

――宝塚を卒業して、“性転換”された先輩である樹里さんに聞きたいことはなんですか?

早霧「具体的なことよりも、現場に入ってから、本当にほんの些細なことが気になると思うんですよね。どう見えているのか、という。このままじゃ男らしすぎますか?っていう加減ですよね。やっぱり、そういうのを聞きやすいんですよ。同じ道を通って来られた先輩ですから、気持ちをわかってもらえるという安心感があるので。同じご飯を食べてきたからわかりますよね、みたいな(笑)」

 

――女性を演じるにあたって、今感じている変化や戸惑いはありますか?

早霧「今までは、女役の方と一緒にやっていると目線が同じか下になることの方が多かったんですね。男役の背の高い人と演じることもありましたけど。でも、これからは、男性を相手に演じていく中では視線も上になって変わっていくんだろうなという気がしています。あと、単純に男性の声は低いから、セリフや歌声を受けたときの感覚はまったく違うんだろうなと。そこに戸惑う自分もいるんでしょうけど、前向きな戸惑いになると思います。でも、男役のときにこうやっておくべきだった!なんてことも出てくるんでしょうね(笑)。もしくは、男役としてはこうして欲しいのに!っていうのも出てくるかも?」

 

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――今まで培ってきたものがあるからこそ、そういう部分もあるかもしれないですね(笑)。先日、退団されてから初めて宝塚歌劇を観劇されたそうですが、ご覧になられてみていかがでしたか?

早霧「やっぱり、宝塚は裏切らないなと思いました。楽しかったし、面白かったし、自分にとってのふるさとなので、安心感もあった。もう自分は宝塚にはいないので、純粋な意味で楽しめたと思います。在団していた時は、どの組の舞台を見てもどこか研究しているというか、そういう感覚が常にあったんですが、退団してやっと100%で楽しめました。もちろん、完全なファンには戻れないですし、夢と現実を行き来しているんですけど、気持ちの上では楽しみにいくぞ、という感覚で観られたのが嬉しかったです」

 

――退団されてから挑戦されたり、新しく始められたりしたことはありますか? 退団公演の直前には、退団したらラフティングをやってみたいとおっしゃっていましたが…。

早霧「ラフティングは、お仕事の機会があってやってきました! でも、季節的に川の流れが穏やかな時期だったので、やってみたかった急流で飛沫がザッパ~ン!みたいな感じではなかったんです。なので、またやってみたいですね。新しく始めたことはキックボクシングですね。これもやってみたかったんです。あと、まだ挑戦はしていないんですが、ボルタリングをやりたくて、もう目星をつけています」

 

――けっこうアクティブなものがお好きなんですね

早霧「そうなんです、好きなんですよ(笑)。キックボクシングはやってみると、けっこう痛くて。気軽な気持ちで、もっと簡単にできるかなと思ったんですが、型とかがあってけっこう難しいんですよ。何事も基礎を学ばないとできないんだなと痛感しましたね。突き詰めようと思うと、何事も時間がかかる。割と突き詰めたくなるタイプなんですよね。そういうのも経て、今はバレエに戻っています。自分でも意外なんですけど」

 

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――バレエですか! 宝塚の頃にたくさんやってこられたと思いますが、やはりそこに戻ってくるものですか?

早霧「私にとってはバレエは宝塚に入るためのツールでしたし、バレエが好き!という感覚でもなかったんです。バレエにはポジションがあるんですが、私はそういう決まり事をいつもはみ出したいと思っていたので。どちらかといえばノリのいい曲でジャカジャカと踊っていたいほうだったので、自分がバレエをやりたいって思うようになるんだ、なんて不思議に思いましたね。基本の地道なところからやっています。自分の体と向き合うための体づくりのツールとしてですね」

 

――原点回帰のような感覚が生まれてきた感じですね

早霧「それもありますね。バレエにしても、宝塚にいた時は応用ばかりやってきたような印象があって。すぐ舞台に立つためのバレエというか。キレイに見えるよりも、華やかに見える方を取ってきたような感じなんです。でも今は、はじけるよりもまとまるような美しさを求めようとしているんだなと思います。小ぢんまりしたいわけじゃないんですけど、精神的なものも含めて美しくありたいですね」

 

――退団後、いろいろな思いと経験を経ての初ミュージカル、楽しみにしています!

早霧「自分にとっては宝塚の世界を飛び出してからの初挑戦なので、ワクワクドキドキしていて、その感覚を劇場で、私とともにぜひ味わってほしいと思っています。本当に楽しい、面白い、損はさせない作品にします! 劇場でお待ちしています」

 

インタビュー・文/宮崎新之

 

【プロフィール】
早霧せいな
■サギリ セイナ 2001年宝塚歌劇団に入団。同年宙組に配属。2006年『NEVER SAY GOODBYE』で新人公演初主演。2009年雪組へ組替え。2013年『Shall we ダンス?』でヒロインのダンス教師を演じた。2014年『ベルサイユのばら-オスカルとアンドレ編-』で全国ツアー初主演。同年9月雪組トップスターに就任。『ルパン三世』『星逢一夜』『るろうに剣心』『ローマの休日』など。卓越した芝居力で型にはまらない男役像を作りあげた。2017年7月『幕末太陽傳/Dramatic“S”!』にて宝塚歌劇団を退団。11月には退団後初となるショー『SECRET SPLENDOUR』に出演。

 

【公演情報】
ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』

出演者:
早霧せいな
相葉裕樹 今井朋彦 春風ひとみ 原田優一 樹里咲穂
宮尾俊太郎(Kバレエ カンパニー)
藤田光之 俵和也 大野幸人 木内健人 池谷京子 角川裕明 田村雄一
新井俊一 佐々木崇 染谷洸太 山本大貴 天野朋子 木村晶子 栗山絵美 原広実

原作:ピーター・ストーン
作曲:ジョン・カンダ―
作詞:フレッド・エッブ
上演台本・演出・訳詞:板垣恭一
音楽監督:玉麻尚一

日程・会場:
5/19(土)~27(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪府)
6/1(金)~10(日) TBS赤坂ACTシアター(東京都)