
大人も子供も楽しめる名作ミュージカル『ピーター・パン』。日本での上演がなんと45年目を迎える今年は、ピーター・パン役を11代目の山崎玲奈が3年目の続投を務めるほか、フック船長に石井一孝、ウェンディに山口乃々華、タイガー・リリーに七瀬恋彩、ダーリング夫人に実咲凜音と、メインキャスト4名が初参加メンバーとなることにも注目が集まっている。演出・振付を手がけるのは、ダイナミックな動きに加え、パルクールやパペットを取り入れた鮮やかな演出が話題を呼んだ長谷川寧。今回も3年連続の続投となり、さらなる進化が期待される。
本格的な稽古が始まる前の3月某日、ヴィジュアル撮影が行われていた都内スタジオにて、今回フック船長を演じることとなった石井一孝に作品への想いや意気込みを語ってもらった。
――『ピーター・パン』の、しかもフック船長で出演オファーが来た時のご心境はいかがだったでしょうか
まさか僕が『ピーター・パン』に携わる日が来るとは、まったく思っていなかったですし、しかもフック船長役ですからね!大変、嬉しかったです。初演で榊原郁恵さんがピーターを演じられていた時、たぶん僕は小学生とかそのくらいだったと思うんですが、「へえ、そういう舞台があるんだー」と思っていて。
――やっぱり知っていましたか
もちろんですよ!郁恵さんがやる!と、テレビでも大々的に紹介していましたしね。その後、僕が『レ・ミゼラブル』でマリウスを演じていた時に仲良しだったコゼット役の宮本裕子ちゃんから「次は『ピーター・パン』をやるのよ」と言われて、観に行った記憶がありまして。それが確か30年くらい前の話で、実はそれ以来なんですよ、僕が『ピーター・パン』に触れるのは。ですので正直なところ、内容に関してはまだあまり詳しくなかったりします(笑)。そうそう、面白かったのが今回僕に「石井くん、ちょっとフック船長役、どうかな?」と声をかけてくださったプロデューサーさんに「なぜ僕をキャスティングしてくださったんですか?」と聞いてみたら、「顔がフック船長っぽいから」だと言われまして。
――それは、どういうことでしょうか(笑)
「そんな理由ある?」って思いますよね(笑)。まあ、半分は冗談でおっしゃっているとは思いますけど。確かにあの帽子とコスチュームは似合いそうだな、と自分でも思いますから。僕、「どんなに激しいカツラも似合う顔だね」とよく言われるんです。
――どんなカツラにも負けない?(笑)
そう、負けないんです(笑)。
――今日初めて、フックのカツラと衣裳をつけてみて、いかがでしたか。
やっぱり想像通り、負けなかったな、と思いました。
――むしろ、勝ったと?(笑)
勝ちましたね!(笑)。しかも今回のフックのヴィジュアルって、ちょっと白塗りベースなんですよ。もしかしたら今後の舞台稽古や本番で多少のチェンジがあるかもわかりませんけど。演出の長谷川寧さんと話した時も、「今回は新しいフック像を作りたい。新しい『ピーター・パン』にしたい」とおっしゃっていましたしね。前回までフックをやられていた小野田龍之介先輩のバージョンとは、また違うフックにしたいとのことで、その一つがこの白塗りベースのメイクなんです。しかも、きっちりと塗った白塗りではなく、ちょっとまだらになっているんですよ。
――そこも、こだわりなんですね
そうなんです。現状のイメージですけどね。さらに、切り傷が顔にあってもいいんじゃない?ということで今日のヴィジュアル撮影では頬に大きな切り傷も入っております。フックも、つまりはいわゆる歴戦の戦士だと思いますしね。
――ピーターにやられたのかもしれないし
ええ、腕もピーターに落とされてるわけなので、顔を切られていたっておかしくはないですよね。それで「にっくき、アヤツ!私の顔を傷つけたわね!」みたいなことですよ。
――なんだか、これまで見たこともないフックが誕生しそうです(笑)
果たしてどんな役作りになるかは、これからの寧さんとの相談次第ですが、楽しみにしていただきたいと思います。それにしても、あの例の海賊帽をかぶって赤いコートを着たら、なんだかすごくカッコイイ感じに仕上がって。ちょっと今、気分はジョニー・デップ感もあります(笑)。
――フックを演じるにあたって感じている面白味や、特にこだわりたいポイントは
とにかく楽しみしか、今のところないんですけどね。なんといってもピーターを演じる山崎玲奈さんは、僕の先輩にあたりますので、ぜひともいろいろと玲奈先輩にご指導いただこうと思っているところです。その玲奈ちゃんは、本当に素晴らしいアクトレスで歌もめっちゃ上手いし、芝居もできるし。こんなすごい若手が出てきたんだなと、しみじみしていますよ、って、ある種お父さん目線になっちゃっていますが(笑)。その玲奈ちゃんと剣を交えて、感情をぶつけあって、これから戦っていくのが本当に楽しみでならないです。さっきもヴィジュアル撮影で、15センチぐらいの距離まで顔を近づけて、「もっと戦ってる感じで!」と言われた瞬間にキッ!と僕を見てくる目がものすごい迫力のホンモノの目でね。年齢は何十個も上なのに、そんなこと気にせず睨んでくれた度胸もプロ根性も本当に素晴らしい。ですから年は離れていますけど芝居も歌も、ぜひともガチの勝負でしっかり向き合いたいなと思っています。

撮影/宮川舞子
――ご自分の中では、今回特にやり遂げたいこととかあったりしますか
パルクールを使ったステージングになると伺っています。寧さん自身がパルクールをおやりになっているそうで、僕は聞いたことのない単語だったんですが、早速YouTubeで調べてみたら壁から壁に飛びつくみたいな、スパイダーマンみたいな動きをやっていて。ま、僕自身はいきなりあんなすごいことはできないから、できる範疇でということになるとは思いますけれども(笑)。だけどなるべくクオリティの高いものをお客さんにお届けしたいとは思いますね。

撮影:宮川舞子
――お客さんの反応も、楽しみですね
そうですよね。しかもやはり、子供が観て楽しめるというところが、他の数多くの名作ミュージカルとの違う立ち位置だとも思うんです。子供に観てもらいたいというのが前提にあるということなので、テーマは夢と希望になりますし、自由を求めようと渇望する気持ちもありますし。だからもちろん、子供たちが「楽しい!」と思ってくれる舞台にしたいですが、その中で僕のフック船長という役は出てきた瞬間に子供が泣く可能性もある役どころですからね。子供の目から見たら悪者でしょうし、あまり不容易に怖がらせ過ぎたくはないですけれども。とはいえこの役にはコミカルさも必要なので、その点では僕の持って生まれたこの芸人魂で彩りを添えたいと思っております。「最初、怖いと思ったけど面白かったね、あの人!」と言ってもらえるような面もどんどん出していこうか、と。また、お子さんも多く来られると思いますが、それと同時にお父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんも来てくれるはずですから、子供だけに限らず大人が観ても「おお、よくできているな」と思っていただきたいですし「あそこのピーター・パンの嘆きは素敵だったね」とか「すごく勇気をもらったね」とか親子でぜひ語り合ってもいただきたい。大人も楽しめるハイクオリティな作品だからこそ、45年も続けて来られたわけですからね。単なる子供向けではない、大人も楽しめるウェルメイドなミュージカルですから、そこもしっかり堪能していただきたいと思います。寧さんによると「ストレートプレイ的なアプローチもしたい」とおっしゃっていましたし。
――ミュージカルではあるけれど、お芝居の部分も大切にしたいと
それってすごくいいことですよね。だって、子供さんもすぐ見抜くと思うんですよ、「これ、本格的なんだな」って。だからフックにはフックの葛藤があり、ピーターにはピーターの、ウェンディにはウェンディの心の悩みがあると思う。そういう要素もしっかりと繊細にお届けできたらと思っています。とにかく本当に素晴らしい作品なので、お子さんたちはもちろん、お母さん、お父さんも含めてみんなで一緒に『ピーター・パン』の世界を共に楽しみましょう!劇場でお待ちしています!!
※山崎玲奈の「崎」は「たつさき」が正式表記
※榊原郁恵の「榊」は「キヘンに神」が正式表記
インタビュー・文/田中里津子