ミュージカル『チョコレート・アンダーグラウンド』|北川拓実×石丸さち子インタビュー

健康推進を掲げる政党が政権を取り”チョコレート禁止法”が発令し、少年たちがチョコレートの密造と革命に突き進んでいくミュージカル「チョコレート・アンダーグラウンド」。英国の小説家アレックス・シアラーの人気作を世界で初めてミュージカル化し、演出を石丸さち子、脚本・作詞を高橋亜子、音楽をオレノグラフィティが手掛ける。キャストには、北川拓実、東島京、木村来士ら魅力的な面々が名を連ねた。スイートでもビターでもある、まさにチョコレートのような本作に、石丸と北川はどのように挑むのか。話を聞いた。


――北川さんは今回の出演が決まって、率直にどのようなお気持ちになりましたか。

北川 一番はシンプルにびっくりしました。嬉しさもあるし、いろんな感情が混ざって…責任をもってしっかりとやりたいし、ちゃんと作品を届けたいという気持ちになりました。本当に光栄ですね。それに、ミュージカルをやってみたい気持ちはありました。いろいろな先輩方の舞台を観てきて、それで心を動かされたこともあったので、僕がステージ側に立って、お客さんに届ける側になりたいと思っていたんです。こうやって機会をいただけて挑戦できることは嬉しいですね。憧れでもあったので。

石丸 すっごく歌うし、踊るよ!

北川 そうですよね。ミュージカルは、まだ経験の少ないジャンルで、普段のライブとはきっとまったく違うので、絶対に厳しい世界なんだろうなって。それをしっかり乗り越えて、稽古に励んで、責任を持って届けたい。ミュージカルには、もっと挑戦していきたいんです。

石丸 私としては、楽しんでやってほしいですね。厳しいことを乗り越えようとするよりもね。もちろん、そういう面もあるけど…スマッジャー(北川の役名)と一緒に成長していこうね。もう、元気に稽古場に来てもらえれば、稽古はグイグイと進みますから。


――石丸さんはどのような経緯で本作を手がけることになったのでしょうか。

石丸 原作を読んだ時に、今この世界に、作品に描かれた恐怖に近いものがまさに起こっていると感じて、ずっとミュージカル作品にしたかったんです。もともとはイギリスの子ども向け番組で放送されたもので、そこから小説になっているんですが、それがまたいい塩梅なんですね。苦すぎず、政治のことを直接描いているわけじゃないんですけど、的確に問題意識がある。何より、登場する少年たちが成長していくのが面白くて! どんどん勇気と覚悟を持ち、生きる知恵を見出していくし、その原動力になっているのが”チョコレートを食べたい!”というスイートな想いなんです。これはストレートプレイよりもミュージカルだ、と思いました。それで、以前にご一緒したことがある高橋亜子さん(脚本・作詞)と作戦会議と称してお会いするときに、私は「チョコレート・アンダーグラウンド」の本をカバンに入れていきました。そしたら亜子さんもすごく社会的な問題意識の高い方ですし、一気にやりましょう!と話が進んでいったんです。ここまで辿り着けたことが、もう嬉しくてしょうがないですね。


――ストレートプレイではなく、ミュージカルが良いと思われた理由はどのようなところでしょうか。

石丸 この作品が持っている甘さ、厳しさ、その振り幅の広さをミュージカルの方が表現しやすいと思ったんです。主人公は、チョコレートの密売をして、矯正施設送りになり、非常に暴力的な環境に置かれます。誰に売ったのか、誰と作っていたのかを吐くように脅されるし、吐かなければ「お前にとっての最善を教えてやる」と強制労働させられる、厳しい場面もあるんですね。でも、彼らの原動力はチョコレートを口に含んだ時の喜びなんです。この反復横跳びみたいな甘さと苦さの振り幅は、歌の力を借りた方が良いんじゃないかと考えました。何より、チョコレートを密造する喜びは、絶対に歌にしたいと思ったんです。レシピを命がけで見つけてきて、たまたま余っていたカカオを使って自分たちで作ろうとするけれど、なかなかうまくいかなくてドロドロのものができてしまうんですけど、そのドロドロのものたちのダンスもあったりするんです。そのドロドロをチョコレートに仕上げていく過程の歌も、ものすごく素敵になっていて、私の狙った通り!と思っています。ミュージカルの力を感じましたね。歌にすると、人生のシビアなところから、生きる力のほうへジャンプできる力が生まれるんですよ。


――北川さんは物語にどのような印象を持たれましたか。

北川 最初に読んだ時のイメージは選挙に行かないこと、無関心であることがすごく怖くなりました。無関心であったことで、どんどん変わってしまう怖さ。今まで興味を持っていなかったことにも、ちゃんと責任をもって行動してみようという勇気をもらえました。


――石丸さんからみた北川さんの魅力はどのようなところでしょうか。

石丸 昨年に上演した公演(ミュージカル『翼の創世記』)を観に来てくださって、その時には何をたくさん話したわけではないんです。ですが、飾らない人だな、と思いました。アイドルとして活躍しているし、近づきがたい雰囲気をまとっていらっしゃるんじゃないかとか、ちょっと気を遣わなきゃいけないかな、とか考えていたんです。でも、ごく普通の人として、ふらっと男の子が観劇に来てくれたみたいな、ニュートラルな雰囲気でいらっしゃって…。もう、そういう人が大好きなんです、私。これから何色にでも染まっていけるような、まっすぐで素直な印象があって、これは仲良くできるな、と第一印象で思いました。この方なら、稽古でも作品に必要なことを、まっすぐに言える。まっすぐに言えないと、なかなか作品作りがしにくいんです。作品や演劇についての共通言語、いい作品にしたいという共通の思いがあれば、すぐに言いたいことが言える関係性になれる。そうなれると、第一印象から思ってましたね。

北川 今日、こんなに褒めていただけると思わなかったです。あの時は本当に普通に、お芝居を観に行こう、いろいろ勉強して吸収しようという気持ちだったので…。石丸さんは、本当に優しく話しかけてくださったんです。すごく緊張していましたし、人見知りするタイプなので、どうしようかと思っていたんですけど、気さくに話しかけてくださって安心しました。お話してみて、これからの挑戦についてのイメージが見えてきたし、頑張りたい気持ちも強くなりました。


――本作に挑むにあたって、楽しみにしていることはありますか?

北川 まずは稽古・本番を経てたくさん学べる事、吸収できるものがどんなものになるのか楽しみです。ミュージカルは知らないことだらけだし、自分自身、もっと成長していきたい。いろんな面で実力をつけていきたいし、表現者としてもっと大きくなっていきたいので、それを学ばせていただく機会として幸せな時間を過ごせる、光栄な時間を過ごせることを期待しています。とても楽しみだし、ありがたいですね。

石丸 今回、北川くんは初めての本格的なミュージカルだけれど、終演後「北川くんっていいよね」って劇場で囁かれるようになってほしいんです。みんなが「見つけた!」っていう気持ちになれるところまで行ってほしい。そういうふうになるべきだし、私は作品を作る時にキャストが褒められることが何よりも嬉しいから。作品作りの中で、キャストが良く見えるというのが、重要なファクターになっているんです。


――北川さんは、今回演じられるスマッジャーという役をどのように捉えていらっしゃいますか。

北川 年齢的には普通の少年で、少しヤンチャなところがあるんですけど、立ち向かっていく勇敢さがありますね。僕自身の性格とはぜんぜん違っていて…僕はすごくおとなしくて、あまり気軽にしゃべれないんですよ。だから、性格的には真逆で、ミスマッチなんじゃないかと思ったんですよね。でも、勇敢に立ち向かっていく強さや内側から秘めているものも作り込んでいきたい。普段から僕を見てくださっている方は、まったく違う北川拓実になると思いますね。そういう姿を見せられたら成功です。

石丸 その方が楽しいじゃない? 意外とね、自分に近い役って作るのが難しいのよ。距離が遠い方が思い切って飛び込みやすいから。

北川 確かに、こういう時じゃないと演じられないですよね。演じることはすごく楽しいし、いろんな役にも挑戦していきたい。そういう中で、自分にとっては新しいスマッジャーという役を頂けたのは、幸せです。大切に演じたいです。


――石丸さんは、物語の中心となるスマッジャーとハントリー(東島京)、フランキー(木村来士)の3人の少年の関係性をどのように描こうと考えていらっしゃいますか。

石丸 スマッジャーとハントリーは普段から仲良しで意気投合できているんだけど、何かちょっとした判断をする時にスマッジャーの方が子どもらしい無邪気な自由さがあって。2人とも、子どもだからこそ、怖いものがないというのがいいところなんですよ。チョコレート大戦争を起こして戦士になろうなんていきなり言い出すんですが、初めはそこに自分のナルシズムとか、カッコいいと思っているものへの軽いモチベーションがあるんですね。でも、軽かったモチベーションに本物が入ってくるようになる。そこに、敵対する大人たちがいるからです。私がこの作品をやりたいと思ったのは、恐怖心がまだない子どもたちが起こす革命に魅力を感じたから。そして、大人たちに立ち向かうため、強くなっていく。運命をともにしていた2人ですが、ある時、運命が分かれてしまいます。1人は矯正施設に送られ、1人は助かる。助かった方は、自分だけが助かってしまったという気持ちに苛まれます。これって、いろんなことで起こりうる感情なんですね。一緒に過ごした豊かな時間のことを考えて、1人で耐えていく力。戦い抜くエネルギーを得て、また一緒に戦う時には、知恵をつけていて大人たちを相手にするにはどうかいくぐればいいかもわかっている。この世界を変えるにはどうすればいいのかを本質的に考えられる人になっていきます。大変な役だと思いますが、北川くんと東島くんにはまっすぐ挑んでほしいですね。そして木村くんが演じるフランキーはそんな2人とは相反する役を演じてもらいます。彼が学校に行く理由は、甘いものを食っているやつがいないかチェックして、いたらチクる。そしたらご褒美がもらえるんですね。そこにはある理由があるんですが…ただ、どの少年たちもそれぞれに一生懸命に生きているんです。そんな3人が、最後には向かい合うシーンがあって、そこはものすごく心が揺さぶられるシーンになると思っています。とても大切に描いていきたいところですね。


――本作はチョコレートがとても重要なアイテムになっていますが、お2人のチョコレートにまつわる思い出を教えてください。

北川 一時期、すごくチョコレートを食べていた時期があるんです。毎日のように食べていて、ある時チョコレートのパイをリハーサル前に2個くらいをもう一気にほおばって食べたんですよ。そしたら、口の周りがチョコレートだらけになっちゃって。でも、僕はそれに気付かずに、そのままリハーサルに行ってしまったんです。そしたらみんなから「何でそんなにチョコついてんの?」って言われて…。鏡を見てみたら、もうめちゃくちゃチョコがついていて、大慌てでした(笑)

石丸 やっぱり、頭を回すとなると糖分が必要なんですよ。ダイエットしなきゃ、と思いつつ、仕事のためだから、とつい買っちゃうんですね(笑)。稽古場では、隣にいる演出助手さんが、芝居が煮詰まってくると、隣から「さち子さん、どうぞ」ってチョコレートを差し出してくれるんです。その1粒が、本当にホッとさせてくれるんですよね。実際に、その糖分が入ることで何かが動き出して、想像力の種になることもよくあるんです。食べ過ぎは禁物ですけどね(笑)。でも、今回のお芝居を見たら、絶対に帰り道にチョコレートを食べたくなるはず!


――お話ではチョコレートが禁止されてしまいますが、お2人が”コレを禁止されたら困る!”というものは?

北川 なんだろう? 踊るのを禁止されちゃったら、もうヤバいですね。職業というか、それが大好きでやっているので、もし失われてしまったら、逆に僕はどうすればいいのかわからないです。これからどうやって生きていけばいいんだろう…ってなりますね。自分のダンスや歌を喜んでくれるお客さんの顔を見て、すごく幸せを感じられる瞬間を経験してきているので、もしなくなったら絶望です。生きる意味を失ってしまいますね。

石丸 私も、つまらない答えになっちゃうんですけど…演出禁止、って言われたら、もう死んでしまいますね。マグロみたいなもので、ずっと泳ぎ続けていないと元気が保てない(笑)。私がこの世界と繋がる術なんです。人と出会うのも、自分が言いたいこと、伝えたいことを共有し合うのも、喜びを共有し合うのも、すべて演劇。そして演出と言う仕事があるから楽しめているんです。どんなことがあっても、稽古場に行くとアドレナリン全開になりますから。その前日まで、ここどうしよう?って思っていたところも、目の前に俳優がいると、これで行こう、これならいける、というものが出てくる。それは、私が1人で生きているんじゃないと思わせてくれます。演出という仕事を与えられているから、私という人が役に立てる人でいられるっていうのかな。そういう感じです。あとは…ペット禁止って言われても、ダメかも知れない。猫を飼っているんですが、もし今日から取り上げますって言われたら、もうボロボロになってしまいますね。


――最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。

北川 世界初のミュージカルということで、プレッシャーはありますが、スマッジャーと同じように飛び込んでいって、楽しみながら作りあげて、みなさんに良いものをお届けしたいと思います。ぜひ観に来ていただけると嬉しいです!

石丸 今、生きていて息苦しいなと思っていることや、何でそうなっちゃうの?と思うようなことは老若男女、みんな抱えていると思います。世界はどうなってしまうんだろう、と思うようなニュースも流れてきますが、エンターテインメントや劇場という空間はそんなことを一切忘れて楽しむところになることもあるし、その問題意識を確認するような場所になるときもあります。このお芝居は、子どものような気持ちに戻って、その両方を味わっていただけるものです。シビアなシーンもありますが、それを超える幸福感や爽快感も味わっていただけると思っていますし、ミュージカルとしても、高橋亜子さんの力でギュッとエッセンスが詰まった素敵な歌詞がいっぱいあるんですよ。オレノグラフィティさんの音楽も合わさって、心動かすナンバーになっているので、ミュージカルの喜び、演劇の喜び、とにかく全部盛り込んでいます! 来て良かった、と思ってもらえるのが私たちの一番の喜びなので、そう思っていただけるものを作っていきます!

 

取材・文:宮崎新之