「このコンサートから、次の夢が生まれる」別所哲也とオ・マンソクが語る『JAPAN-KOREA Friendly Concert』

オ・マンソク、ユ・ジュンサン、朝夏まなと、加藤和樹、そして別所哲也という日韓のミュージカル俳優が出演する『JAPAN-KOREA Friendly Concert』が5月31日(土)、東京・TAKANAWA GATEWAY CITYにて開催される。

このコンサートは、1999年にスタートした日本発の国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下、SSFF& ASIA)』を主宰する別所哲也が、“日韓国交正常化 60 周年”を機に、仲間とともに企画した特別イベント。今年の『SSFF & ASIA 2025』の幕開けを記念し開催する。

韓国から出演するのは、ミュージカル『ラ・マンチャの男』『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』やドラマ『愛の不時着』『王様と私』などに出演するオ・マンソクと、現在日本でも上演中のミュージカル『フランケンシュタイン』のオリジナルキャストであり、映画やドラマでも幅広く活躍するユ・ジュンサン。
日本から出演するのは、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『マイ・フェア・レディ』など数々のミュージカルに出演する別所哲也、そして前出の『フランケンシュタイン』や『マタ・ハリ』など韓国発のミュージカルにも多数出演する加藤和樹、また現在は加藤と共に『フランケンシュタイン』に出演中なほか、別所と共演した『マイ・フェア・レディ』や『天使にラブ・ソングを』など数多くのミュージカルに出演する朝夏まなとが名を連ねる。

ふたりの出会いがこの『JAPAN-KOREA Friendly Concert』を実現させたと言える、別所哲也とオ・マンソクに話を聞いた。

別所哲也とオ・マンソクの運命的な出会いから生まれた企画

――『JAPAN-KOREA Friendly Concert』はどのような経緯で企画されたのでしょうか?

別所 国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル』は私たちが1999年にスタートし、その5年後に「アジア インターナショナル部門」が立ち上がりました。その中でもとりわけ韓国のショートフィルムには素晴らしいものがたくさんありますし、これまで韓国・アシアナ国際短編映画祭との交流や、数多くの韓国人監督作品のご紹介など、韓国とさまざまな交流を行ってきました。ですので、日韓国交正常化 60 周年という大きな節目でもある今年はなにか特集を組みたいなと思っていたのがまずひとつのきっかけです。もうひとつは、オ・マンソクさんに出会ったことです。僕自身、ミュージカルアクターとして多くの作品に出させていただく中で、日本で韓国の作品が上演されたり、韓国で日本の作品が上演されたり、両国の間にとても魅力的な交流が生まれていることは感じていました。だからなにかかけ橋になるようなことができないかなと考えていた時に運命的に出会ったのが、オ・マンソクさんです。演劇も映像もやっていらっしゃる。さらには大学の教授もなさっている。とても尊敬できる方ですし、表現のフィールドや、後輩を育てたいという思いでは、どこかシンパシーも感じています。だからこそなにか一緒にできたらと思い、このプロジェクト開催に至っています。

――マンソクさんにはどんなふうに声をかけられたのですか?

別所 「こんなことがやりたいんです」と話したら、すぐに「ぜひ実現しましょう」とおっしゃってくださって、そこから話が進み始めました。同じ頃に今回の主催であるネルケプランニングさんにご相談したところ、「一緒にやりましょう」と言ってくださり、実現することができました。『Friendly Concert』というタイトルは、同じアジアに暮らし、同じことを考えている人たちが“繋がる”という意味です。

マンソク 別所さんと最初にお会いしたのは食事会だったのですが、一目でこの方は尊敬できる人だと思いましたし、僕はもともと日本と交流をしたかったので、今回の提案をとても嬉しく思いました。

――どうして日本と交流をしたかったのでしょうか?

マンソク 僕自身は普段、韓国で活動しているのですが日本の素晴らしい舞台演出など、見習いたいことがたくさんあり、いつか日韓で一緒に作品をつくってみたいと思っていたんです。だからこのコンサートが今年限りではなく、来年も再来年も交流が続いていけば良いなと思っていますし、これをきっかけに他にもなにか一緒につくることができたらという希望があります。

別所 オ・マンソクさんは足繫く日本にいらっしゃっているので、日本のこともよくご存知なんです。少し前には僕が出演した『チキチキバンバン』も観に来てくださったりもして。

マンソク 『チキチキバンバン』を観て、日本といろんなお仕事をしたいなという考えが生まれました。別所さんがご出演された帝国劇場の素晴らしいコンサート(帝国劇場のクロージングコンサート 『THE BEST New HISTORY COMING』)も観に行きたかったのですが、スケジュールの都合で行けなくて残念でした。

別所 ありがとうございます。

――別所さんもおっしゃっていましたが、ふたりの出会いはどこか運命的なものを感じますね。

マンソク はい。そんな感じがします、本当に。

別所 本当にね。僕のほうが世代は少し上ですが、それぞれミュージカルに対する想いもあるし、演劇も好きだし、後輩たちを育てたいとか、やりたいことがすごく似ているんです。この出会いのタイミングも最高だったんじゃないかなと思います。

日韓で人気がある世界的な作品に光を当てるラインナップ

――披露される楽曲にも期待が高まりますが、もう決まっていますか?

別所 構成はほぼほぼ決まりつつあるので、楽しみな状況です。オ・マンソクさんとも相談して、どんな歌を歌ったり、どんな交流をしたらいいかということを考えました。

――楽曲はまだ言えませんか……?

別所 ソロ曲をチラッと言っていいよと言われてるんですけど(笑)、僕は、自分の代表的な出演作に『レ・ミゼラブル』(2003年から2011年まで出演)があるので、その中から一曲歌えたらいいなと思っています。『レ・ミゼラブル』は、日本の公演に韓国の俳優さんが出演されたこともありますし、日韓で愛され続けている作品ですしね。僕が演じたジャン・バルジャンの曲になるかな? どうかな? みたいなところで考えています(笑)。

マンソク 僕はミュージカル『ヘドウィグ』(『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』/2005年の韓国初演から2021年まで出演)から「The Origin of Love」を歌おうとしています。もともとこの楽曲が好きですし、自分がミュージカルを続けていくきっかけになった曲でもあるので。

別所 他にもみんなで一緒に歌う楽曲もありますし、言語も、日本語で歌う楽曲もあれば韓国語で歌う楽曲もあるのが、このフレンドリーコンサートならではだと思います。

――みなさんで一緒に歌う楽曲もあるんですね。

別所 もちろんあります。ひとつ言うとすれば、今は『キンキーブーツ』の「Raise You Up」を歌わないかって話になっています。

――えー! このメンバーでですか。それはかなり貴重ですね。

別所 どの曲も、韓国でも日本でも人気があって上演されている、世界的な作品に光を当てたいと思って選びました。

マンソク 歌えば「あ! あの作品だ!」というようなプログラムになったと思います。「フレンドリー」というのがコンサートのテーマでもありますので、観客のみなさんが楽しめる楽曲を選びました。あとは、私ではないけどちょっとサプライズ的なものがあるのではないかな。

別所 お、誰だろう(笑)。

――(笑)。マンソクさんがおっしゃるということは、ユ・ジュンサンさんですか?

別所 (笑)。お二人は兄弟みたいな関係で、今回、ユ・ジュンサンさんが出てくださるのはオ・マンソクさんのお声がけがあってのことなんですよ。さらにユ・ジュンサンさんは加藤和樹さんとも交流がありますしね。そんなユ・ジュンサンさんが何を歌うかも楽しみにしてもらいつつ。

マンソク ふふふ。

――ユ・ジュンサンさんはどんな方ですか?

マンソク 韓国には「練習の虫」という言葉があるのですが、そういう、すごく真面目で、すごく厳しく練習する方です。ミュージカル、ドラマ、映画に出演しながら、映画を作ったり、歌を作ったり、子供向けの絵本を作ったりしているんですよ。以前、僕が演出したミュージカルにも出演してくれました。

別所 同じステージに立つのは久しぶりなんじゃないですか?

マンソク そうですね。ミュージカル『レベッカ』や『あの日々』では同じ役だったので一緒に立つことはなかったですし。

別所 夢の共演ですよね。韓国ミュージカルファンにもたまらないと思います。

マンソク ユ・ジュンサンさんは私の10倍くらい愉快な方なので(笑)、そこにいるだけで盛り上がると思いますよ。

別所 ユ・ジュンサンさんと加藤和樹さんはもともと交流がありますし、お二人と朝夏まなとさんは『フランケンシュタイン』で繋がっていますし、朝夏さんと僕は『マイ・フェア・レディ』で一緒に作品をつくりあげてゴールまで頑張った仲間なので、そこも繋がっていますし、

マンソク 僕と別所さんも仲が良くて、ユ・ジュンサンさんと僕も仲が良くて、それこそ「フレンドリー」という感じですね。

――ちなみに別所さんと加藤和樹さんとはつながりはありましたか?

別所 加藤さんとは共演経験がないんです。ただ舞台は何作も拝見していますし、彼のエネルギーをとても素敵だなと思っていました。そして今回実はオ・マンソクさんが「加藤和樹さんはどうか」と提案してくれたんですよ。紹介資料も作ってくれて。

――え! マンソクさんが加藤さんの資料を作って推薦されたのですか?

別所 そうです。オ・マンソクさんが韓国との繋がりということで提案してくださってね。すごいんですよ。

マンソク もともと加藤さんはユ・ジュンサンさんとお知り合いなのですが、僕も加藤さんと共演したいと思っていました。それに日本のいい俳優さんが韓国の舞台にも立てるようにしたい、という思いもあったのでこのコンサートがそういった次への一歩になればと提案しました。

まずは同じアジアに生まれた僕たちが手を携えて

――コンサートでどんなことを楽しみにしていらっしゃいますか?

別所 僕は『SSFF & ASIA 2025』の関連企画としてこのコンサートをやらせていただけることをすごく嬉しく思っています。ユ・ジュンサンさんは映画祭のほうでショートフィルム作品でも参加してくださいますしね。オ・マンソクさんもおっしゃっていましたが、このコンサートから“NEXT”と言いますか、次のアイデアや夢が生まれるんじゃないかと思いますし、生まれていくといいなと思います。ネルケさんも含め、きっと同じ先の未来を見ていると思うので、一緒にいろんなことをやっていけたらいいなと思っています。

マンソク 映画祭で言えば、僕も来年ショートフィルム作品を出したいなという考えをしています。

別所 ええ! わあすばらしい! 映画とミュージカルとショートフィルムの交流がどんどんできたらいいなと思っています。

マンソク 実はもうシナリオを書いています。日本の俳優さんが出てもおかしくないようなドラマです。

――では日本の俳優で撮るかもしれないですか?

マンソク その可能性もあるかもしれません。

別所 いろんな俳優が手を挙げますよ。「出たい!」って。

――なんだかすごく大切なものが生み出される場所になりそうですね。

別所 そうなんですよ。きっとこの場所でお客様と一緒にわかちあったものが、新しいなにかを生み出すことになると思うので、ぜひ目撃者になってもらいたいです。

――ここからどんどん広がっていきそうです。

別所 きっとそうなると思います。このコンサートが発表になった時、僕の周りだけでも「自分も出たいです」って方がたくさんいました。だからきっとこのコンサートで最初の種をまいたら、いろんなことが生まれてくるんじゃないかなと思うし、生んでいきたいとも思っています。

――マンソクさんは日韓で作品を作りたいとおっしゃっていましたが、そちらもなにか構想がありますか?

マンソク 簡単にできることではないと思っていますが、こういった交流の中でお互いにいろんな話をして、つくりあげられたらと思っています。できれば日韓関係が良くなるようなコンテンツを作りたいです。そこで一番大事なのは「交流」だと思いますし。

――交流が信頼を生みますしね。

マンソク はい、そうです。それに日本には、韓国でまだ知られていない素晴らしい作品がたくさんあるので、そういうものも韓国で紹介できたらいいなと思うんです。今は来年に向けてショートフィルム作品を作り始めましたが、将来的にはミュージカル映画をつくれたらという希望があります。

――日本の作品で好きなものはありますか?

マンソク 個人的には三谷幸喜さんの作品が好きです。韓国版の『オケピ!』には僕も出演していますしね。『笑の大学』も好きです。

――最後に改めて別所さんに『SSFF& ASIA』のこれからをうかがえたらと思います。

別所 世界がいろんな意味で後ろ向きにならないために、人と人が信頼したり繋がったりしていくことは大事だと思っています。エンターテインメントによって、人と人が感動を分かち合うこと、そしてわかりあうことは絶対にできるから、だからまずは同じアジアに生まれた僕たちが手を携えてこの映画祭を、世界を明るくできるような場所にしていきたいです。今年も、ウクライナやミャンマーからも作品が集まってきています。この映画祭を、いろんなことを乗り越えて人と人が繋がれる場所にこれからもしていきたい。そう思っています。

取材・文:中川實穗