
村山彩希がAKB48を卒業後、初の単独主演を務める舞台、革命ミュージカル「新・幕末純情伝」の公開稽古が都内で開催された。本作は、沖田総司が実は女だった、という独創的な着想で1989年に初演された、つかこうへいの代表作。これまで何度も再演を繰り返してきたが、今回、初めてミュージカル化される。演出を務めるのは、つかこうへい作品を数多く手掛けてきた岡村俊一。振付は、エンターテインメント集団「梅棒」のメンバー多和田任益が務めている。

久保田創の勇ましい呼び込みで始まった公開稽古。村山が演じる沖田総司が、坂本龍馬(百名ヒロキ)、土方歳三(柳下大)らとの関係を、松任谷由実の「リフレインが叫んでいる」に乗せて表現していくシーンからスタートした。

歌詞を口ずさみながら、軽やかにステップを踏む村山の姿は、アイドルとして培ってきた身のこなしが存分に活かされており、女でありながら剣に生き、時代に翻弄されながらも自らの信念に従って生きる想いと葛藤を、しなやかに演じていた。

続いての場面は、激しい殺陣の場面。村山は初めてとは思えない剣捌きで、あざやかに男たちをいなしていき、背中を預ける坂本龍馬との掛け合いの中には、女としての表情も見え隠れさせる。つか作品独特の浴びるような長台詞にも熱がこもっており、並々ならぬ覚悟を感じさせた。

最後に公開されたのは、新選組の面々が夢と未来を語り合う軽快なシーン。Mrs.GREEN APPLEの「ケセラセラ」を歌いながら、隊士と沖田総司の絆を、歌とダンスで爽やかに紡いでいた。
わずか十数分、3シーンだけの公開だったが、ミュージカルとして生まれ変わる「新・幕末純情伝」が放つ、新たな感動の予感を大いに感じさせられた公開稽古だった。

稽古後の取材会には、村山彩希、百名ヒロキ、柳下大、細貝圭の4人が登壇。意気込みや稽古の手ごたえなどを語った。

村山は「AKB48卒業後、初めての挑戦がこの作品なので、とてもプレッシャーは感じているんですけど、自分らしい沖田総司を演じていけたらと思います。けっこう男前な役で、男口調や態度はAKB48の時には出してこなかった自分じゃないかと思います。怒りの感情を露骨に出すのも初めてで、怒りの感情でこんなにも褒められた稽古場だったので、凄く手ごたえを感じています」と、初挑戦ながら確かな成果を感じている様子。
沖田に恋心を抱き、彼女の運命に大きく関わっていく男・坂本龍馬を演じる百名は「つかこうへい作品は初めてで、ここまでアツい現場なんだ!と目の当たりにしています。今、3シーンやっただけで汗びっしょりで、昨日は稽古場に落ちた汗に滑って転んだ人がいるくらい(笑)。こうやって受け継がれてきている作品に出られることは、すごく嬉しいし、誇らしいです。みんなと一緒にお客さまにお伝えできるのがすごく楽しみです」と、つか作品ならではの熱量を実感していると話した。
そして新選組副長・土方歳三を演じる柳下は「これまでいろいろなパターンの『新・幕末純情伝』を観てきましたが、出演は初めて。土方という大役をやらせていただくので、非常に気持ちを入れて稽古に入ったら、2~3日で声を潰してしまいました(笑)。それくらいの気合を込めています。稽古の熱量がスゴイので、早くみなさんにお届けしたいです」と、並々ならぬ情熱をみせる。
そして勝海舟を演じる細貝は、7年ぶりの出演。「また同じ役をやらせていただきますが、久々につかさんの作品に触れると、改めて体に悪いお芝居だな、と思うと同時に、自身の身体の劣化を感じます(笑)。でも、個の一体感がやっぱりとてもいい。もう全力で、体で表現していくことがつかさんの魅力だから、とにかく頑張ります!」と、つか作品ならではの一体感こそが大きな魅力と語った。

また殺陣が初めての村山が「殺陣をすごく楽しみにしていたんですが…殺陣の稽古初日、私は0から教わるつもりだったのに、他の皆さんは経験があってスタートラインが全然違うことに気付いた瞬間に心が折れて帰りたくなりました」と明かすと、他のメンバーは「え、ウソ?」「ほんとに?」「次の日には振れるようになってたじゃん!」と驚きの表情をみせた。
村山は誰よりも早く現場に入り、木刀と竹光を持ち帰って練習をしていたそうで「家に持って帰って振り回していたんですけど、寝室のドアを1回刺した瞬間に”賃貸だ…!”と思って(笑)。そこからはスタジオをお借りしています」と練習中のエピソードを明かした。そして「みなさんにもたくさん稽古に付き合ってもらって、そのおかげで成長できたので、それも早くお見せしたい」と意気込みを語った。
つかこうへい戦後80年に問う 革命ミュージカル『新・幕末純情伝』は、2025年8月8日(金)から8月24日(日)まで、東京・紀伊國屋ホールにて上演される。
取材・文/宮崎新之
撮影/柏井彰太