
ミュージカル『四月は君の嘘』が、8月23日(土)、東京・昭和女子大学人見記念講堂にて初日を迎えた。新川直司による同名漫画を原作に、『ジキル&ハイド』『デスノートTHE MUSICAL』などを手掛けるフランク・ワイルドホーンが作曲を手掛けた本作は、2022年に日本初上演。その後、日本を飛び出した本作は、2024年にはロンドン・ウェストエンド、韓国・ソウルでも上演され、2025年、3年ぶりに日本での再演が決定した。
新キャストよって、新たな色彩を帯びたミュージカル『四月は君の嘘』。初日を前に実施されたゲネプロ公演のうち、有馬公生役に東島京、宮園かをり役に宮本佳林、澤部椿役に山本咲希、渡亮太役に島太星が出演した公演の様子、及びメインキャスト8名が登壇した初日前会見の様子をお届けする。
3年ぶりの再演、色鮮やかな青春「アゲイン!」
母の死をきっかけにピアノの音が聴こえなくなり音楽の世界から目を背けていたかつての神童・有馬公生(東島京)。そして、バイオリニストとして全身全霊で音楽を楽しみ聴く人の心にその存在を刻みつける宮園かをり(宮本佳林)。色でいえばモノクロの世界に生きる公生と、カラフルな世界に生きるかをりは、まるで違う世界に住む2人に見える。公生が歌う「映画みたいに Just Like A Movie」の歌詞にあるように、かをりはヒロインで公生はエキストラな“友人A”。そんな2人を軸に、公生の幼馴染の椿(山本咲希)や渡(島太星)を含めた4人の、音楽に、部活に、恋に懸命な高校生の青春の日々が、鮮やかな楽曲とともに描かれていく。
パワフルな歌唱力を持つ東島が作り上げた公生は、端々に天性の才能が見え隠れする姿が印象的。母の死と結びついたピアノを遠ざけながらも、音楽なしでは生きていけないであろう、演奏家としての情熱が歌とともに胸に届いてきた。音楽に向き合えたとき、心の奥で新たな気持ちが芽生えたとき。彼が五線譜の檻の向こうからこちら側に手を伸ばした際の爆発力は抜群。東島の芝居は、有馬公生はどこまでいっても天性のピアニストであることに説得力を持たせる。それでいて、初めての恋に臆病で手探りな姿は、観ていて少し照れくさくなってしまうほどに繊細で、かをりに振り回される様子に思わずはにかんでしまったほどだ。


本作は公生が後ろ向きな性格だからこそ、彼が前を向くきっかけを与えるかをりの存在感が大きなカギとなる。宮本の持ち前の芯の強さが際立つかをり像。その強さは、序盤の元気いっぱいな姿にも、運命に抗い何度も立ち上がろうとする姿にも表れていた。なかでも印象的だったのは、ずっと強気で笑顔を見せていたかをりが、ふと自身の弱さを垣間見せる瞬間。宮本がその場でまとった儚げな雰囲気は、個性派バイオリニストであり、運命に立ち向かう強い彼女が、同時に“普通の女の子”でもあることを思い出させてくれた。
山本は椿の行き場のない思いをカラッと明るく見せながらも、ふとした表情に切なさをにじませ、観客の心を揺さぶる。島は伸びやかな歌声と天真爛漫な雰囲気を活かし、女子にモテる渡の軽やかに見えて意外と熱い一面を爽やかに演じ、それぞれの個性で物語を彩った。


さらに、学生やコンテスタントたちをエネルギッシュに演じた平均年齢22.5歳というフレッシュなアンサンブルキャストの活躍も見逃せない。コンクールの場面で歌われるコンテスタントたちの音楽にかける情熱がほとばしる「One Note~この一音に賭けて~」をはじめ、全身から溢れ出るパワーに圧倒された。公生に憧れてきたライバルのピアニスト、相座武士(内海大輔)や井川絵見(飯塚萌木)、娘の人生を優しく見守るかをりの父(原慎一郎)や母(鈴木結加里)。それぞれの存在が物語に奥行きを与え、青春の輝きとともに“今を生きることの意味”を浮かび上がらせていた。
本作はWキャストでの上演となり、前日にはもう1組のキャスト陣が一足先にゲネプロに挑んだ。囲み会見でキャスト自身も触れていたが、同じ役であっても、まるで違ったキャラクター像が生み出されていた。原作のキャラクターを踏襲しながらも、役者自身の個性や内面が反映された人物像は、観客に異なる印象を与えるだろう。Wキャストによって生まれる無数のハーモニーが、この舞台を何度でも新鮮にしてくれる。どんな色にも染まる物語――その魅力をキャスト自身がどう受け止めているのか。初日前会見では、彼らの率直な思いが語られた。




囲み会見レポート
初日を前に行われた囲み会見には、メインキャスト8名が登壇。
ゲネプロを終えた心境について、岡宮来夢は「みんな素敵なので、早く届けたい気持ちでいっぱい」とコメント。東島京も「エネルギーがめちゃくちゃに溢れているので、ダイレクトに受け取っていただけたら」と意気込みを語った。加藤梨里香は「広い会場だからこそ、エネルギーと繊細さを両方大切にしたい」と話し、宮本佳林は「それぞれの気持ちが届けば」とコメント。希水しおは「観客と一緒に思いきり青春したい」、山本咲希は「個性豊かなキャストなので、ワクワクしてもらえるはず」と期待を寄せた。吉原雅斗は「恥ずかしいくらい青春しているけれど、それを拒まず受け取ってほしい」と笑い、島太星は「ハンカチやティッシュ必須です」と観客に呼びかけ、会場を和ませた。
Wキャストならではの役作りについては、公生役の岡宮が「同じ役でも別物。芯はあれど、それぞれの色が出ている」と語ると、東島も「人生や経験が役に乗っているので、組み合わせを楽しんでいただきたい」と話し、それぞれの解釈の違いが魅力であることを強調した。
また、稽古場でのエピソードでは、本編顔負けの青春な思い出が飛び出した。岡宮は「少し恥ずかしいんですが……」と前置きしたうえで、8人で線香花火をしたエピソードを披露。「みんなで円になって、花火がついている間、それぞれの夢を語りあった」そう。東島も「その日を境に仲が深まった」と振り返り、カンパニーの一体感をのぞかせた。
最後に東島は「青春を懐かしむだけでなく、みんなに平等にある“今”という瞬間の輝きを感じてもらえる作品。大切な人と劇場に来てほしい」と呼びかけ、岡宮も「大切な人に何かを伝えたくなる、背中を押してくれる作品。青春を生きるキャストの輝きを劇場で体感してほしい」と締めくくった。


取材・文・撮影:双海しお