
【藤井直樹「事務所の歴史や先輩方が築いてきたエンターテインメントの素晴らしさを受け継ぎたい」、中村浩大「視覚でも魅せられるシアタータップを学んでいます」——華やかなダンスと楽曲が満載のクラシカルなエンタメショー『THE GIFT』藤井直樹×中村浩大インタビュー】
最高のクリスマスショーを作ろう――「クラシカルな作風」を信条とする青年ふたり組が夢に向かって奮闘する姿を、ミュージカルのヒットソングや華やかなダンスとともに描き出すミュージカルショー『THE GIFT』。ブロードウェイ・ミュージカルの翻訳・演出を数多く手掛け、近年はオリジナル作品やアイスショーにも精力的に取り組む菅野こうめいが、作・構成・演出を担うエンターテインメントショーだ。
大学のミュージカル学科に所属し、理想のクリスマスミュージカルを作り上げることに心血を注ぐルーク・バーンズ役を演じるのは、ミュージカル初出演にして主演を務める藤井直樹。ルークとコンビを組み、作詞を担当するマーク・ハーマン役はSpeciaLの中村浩大が演じる。さらに、ブロードウェイでキャリアを積む同級生、エリエル・スチュアート役に小南満佑子、ルークとマークの才能を信じる大学教授、スティーブン・バーンスタイン役に大澄賢也と実力派が脇を固める。
本格的な稽古を前に、現在(取材は9月中旬)はタップダンスの練習に励んでいるという藤井と中村。今回はふたりにミュージカルへの想い、お互いの印象、そしてクリスマスの思い出などを語ってもらった。
――藤井さんは、ミュージカル出演が念願だったそうですね。
藤井 はい。事務所に入って初めて観た先輩方の舞台に感動して以来、ずっと憧れていたので、今回出演が決まって本当に嬉しくて。ミュージカルは物語に加えて音楽でも心を豊かにしてくれるところが好きなんです。
――同じ事務所の中村浩大さんと共演できるのも心強いのでは?
藤井 ホントに! お話をいただいたときは「よし、船を漕いでいこう!」と気を引き締めたんですけど、浩大君と一緒と聞いて「わ、大きな船が来た!」って(笑)。僕としては「大船が来た、乗り込むぞー!」という気持ちでした。
中村 いやいや(笑)。僕は藤井君との共演を知って「めっちゃ楽しみ!」と思いました。
藤井 ありがとう! ただ、これまで接点はあまりなかったよね。
中村 じつはそうなんです。
藤井 逆に言えば、今回をきっかけに交流を深められる気がします。
中村 役どころも、ふたりでひとつみたいなコンビですしね。僕ら自身の仲も、ここから深まっていけばいいなと。
藤井 主演として引っ張っていけるように頑張りますけど、多分浩大君に甘えると思います(笑)。
中村 (笑)。
――中村さんは、出演のお話を聞いたときはいかがでしたか?
中村 とても嬉しかったです。大好きなミュージカルに加えてタップダンスもありますし、まずクリスマスの世界観そのものが大好きなので。
――“好き”が詰まった作品ですね。おふたりが得意とするタップダンスについては後ほど伺うとして、まずは台本を読んだ感想からお願いします。
藤井 自分に重なる部分があると感じました。「古き良きもの」というキーワードが出てくるんですが、事務所の歴史や先輩方が築いてきたエンターテインメントの良さを、リスペクトを持って受け継ぎたいと改めて思いましたね。
中村 僕も同じ気持ちです。それに、後半にショーパートがあるのも魅力ですね。前半はお芝居や楽曲で楽しんでいただき、ラストは思いきりエンターテインメントをお見せできる。そこが楽しみです。
――劇中にはクラシカルな楽曲も多く登場します。若い世代から見て、どんな印象を持ちましたか?
藤井 昔習っていたタップダンスやジャズは、どちらかというとショー寄りでクラシカルな部分があったんです。当時は正直「もっとイケイケな曲で踊りたいな」って思っていたんですけど(笑)、今思えばあの経験がすごく糧になっていて。素敵な曲だったなという思い出もあるし、僕自身、クラシカルな音楽がすごく好きです。
中村 僕も大好きです。今は「新しいものを新しいものを」と、いろいろなものを取り入れてどんどんアップデートしていきがちだけど、昔の積み重なりがあるからこそ“今”があるし、“オリジナル”を生み出せるじゃないですか。なので、昔からあるものを大事にしていきたいと思います。
――では次に役について。藤井さん演じるルーク・バーンズ、中村さん演じるマーク・ハーマンの印象は?
藤井 マークはミュージカル学科に所属する大学生。マークとコンビを組み、作曲を担当しています。理想のクリスマスミュージカルを作り上げるために奮闘する姿には、自分にリンクする部分があるなと感じました。クリエイティブなことをしていると、才能がなかなか開花しなかったり、自分の良さがわからずに悶々としたり…うまくいかないよなぁってすごく思うんです。自分が生み出したものが人に理解してもらえるか、受け入れてもらえるか…そんな不安を持ちながらも、一歩を踏み出し曲を作って披露するマークの想いに寄り添いながら、表現していきたいです。
中村 真面目なルークとは対照的に、マークはちょっとおちゃらけたオープンな性格。普段の僕とは違うタイプなので(笑)、いつも以上に役作りが必要だなと。
藤井 (笑)
中村 でも好きなことには真っ直ぐで芯があるところは似ているので、そこを活かしたいと思っています。
藤井 台本を読んで思ったのは、ルークはきっとマークに羨ましさを抱いているんじゃないかなということ。真面目なルークは作曲に集中するあまり、周りが見えなくなってしまう不器用な部分があると思っていて。自由に気持ちを表現できるマークにジェラシーを感じているルークを、丁寧に演じたいです。
中村 確かにルークは真面目すぎる(笑)。
藤井 そうだよね(笑)。
中村 でもマークは、ルークのことを心から信頼していると思います。マークがいくら歌詞を書いたって、ルークの素敵なメロディがないと曲は完成しないから。あと、ルークは女の子に奥手なところも可愛らしい(笑)。
藤井 うんうん(笑)。
中村 作詞作曲と言えば、僕もいつか曲を作ってみたいので、これを機に作詞家のヒントを得たいですね。今もたまに、思いついた言葉をメモしているんです。
藤井 そうなんだ、マークみたいだね。
中村 お風呂に入ってるときとか、コンサートやリハーサルが終わったときに、急に言葉が降りてくることがあって。
――何かひとつ、フレーズを教えていただけますか?
中村 え~(照)。いや、あたためておきます(笑)。
藤井 あはは! ファンの方は乞うご期待!
――劇中には歌唱シーンも多いそうですね。
藤井 歌稽古は始まっていないんですけど、一度ふたりで歌う機会がありました。
中村 ハモったりしてね。
藤井 うん。
中村 めっっっっちゃ楽しかった。
藤井 あはは! めちゃくちゃ歌が上手な浩大君と一緒に歌うにあたって、僕は低音は得意だとは思いたくて(笑)。歌ってみたら「藤井君が下パート、浩大君が上パートのハモりで歌えたら、すごく良いかもね」を歌唱指導の先生がおっしゃってくれたので、楽しみがより増えました。
中村 僕は普段から、B&ZAIの今野(大輝)と一緒に昔からカラオケでハモったりとか、歌唱動画をSNSにアップしたりしているくらいハモることが大好きで。今回藤井君と歌えたのは新鮮だし、めっちゃ楽しかったんです。歌稽古の開始が待ち遠しくなりました。
――タップの稽古は始まっているとのことですが、本間憲一さんの振付はいかがでしょう?
中村 シアター系のタップで、姿勢をすごく重視されるんですよ。僕が普段やっているのは「リズムタップ」といって、姿勢よりもリズムで聴かせるタイプ。今回は音だけじゃなく、視覚でも魅せられるタップダンスを学んでいます。
――タップは足に注目しがちですが、上半身も重要と聞きます。
中村 まさにそうなんです。
――その課題に取り組んでいる最中なんですね。藤井さんはいかがですか?
藤井 中学生のときに習っていたのがシアタータップだったので、懐かしい気持ちです。当時はただただ楽しんでいたので、今になって「あ、そういう名前のステップだったんだ」とか、「これが一連の動きだったのか」と初めて知ることが多いんですよ(笑)。でも稽古初日、見よう見まねで踊っていたら、本間先生が開始30分くらいで「あ、ふたりなら全然いけそうだね!」と。
中村 言ってくださったよね。それで自信がつきました(笑)。
藤井 本間さん、すごく褒めてくださるんですよ。「いいね! 次行こう!」って盛り上げてくださるから、僕らも「行っちゃいましょう!」って前向きになれるというか。初めての動きで「ちょっと難しいかも」と思っていても、「だいたいOKだから、次踊ったときにはできてるよ」と、自信を持たせてくれました。
――お互いのタップの印象は?
中村 藤井君はシアタータップ経験者ということもあって、姿勢がめっちゃ綺麗なんですよ。
藤井 嬉しい…!
中村 手の動かし方もすごく綺麗だから、見習いたいところばかりです。
藤井 浩大君こそ、先生が「こういう名前で、こういう動きです」と説明しながら実際に動いた姿を一度見ただけで、すぐにものにするから「すげー!」と思って。知識がない僕は「ああ、ここでこれがこうなってるんだ」みたいに、自分の中で整理してからじゃないと踊れない。
中村 ありがとうございます…(照)。
――ふたりでタップを披露するシーンもありそうですか?
藤井 はい、あると思います。
中村 ぜひ注目して欲しいところです。
――ダンス稽古はこれから?
中村 はい。振付の大澄賢也さんとはまだお会いできていません。でも、大澄さんに振りを付けていただけるなんて…!
藤井 そうだよね、楽しみ!
――大澄さんといえばシアタージャズですし、おふたりと相性が良さそうです。
中村 はい。ドキドキとワクワクがすごいです。
藤井 僕はワクワクが大きいです!
――お互いのダンスの印象も教えてください。
藤井 浩大君、ダンスめっちゃ上手ですよね。シルエットが綺麗だし、タップも得意だからリズム感も抜群。しかもヒップホップも踊れるよね。オールマイティだなと思います。
中村 そっくりそのままお返しします(笑)。
藤井 あはは!
中村 藤井君は身体がとても柔らかいでしょ? だからコンテンポラリーダンスがめちゃくちゃうまい。
藤井 確かにコンテはちょっと自信あるかも。
――オールマイティ同士ですね。
藤井 刺激し合いながら頑張りたいです! 物語自体もわかりやすいと思いますし、「心温まる」という言葉がぴったり。僕たち自身も楽しみながらお芝居、歌、ダンスをお届けするので、それがお客さんにも伝わるといいよね。
中村 そうだね。
――台本を読んで、特に心温まったシーンは?
中村 ルーク、マーク、教授(スティーブン・バーンスタイン/大澄)、エリエル・スチュアート(小南満佑子)がカフェに集まるシーン。ルークは突然「曲を作らないと!」と店を飛び出すのですが、マークは空気を読んで残ろうとする。そのとき教授が「行かなくていいのか」と声をかけ、マークは「行きます」と席を立つんです。ルークとマークの絆を感じられる場面でした。
藤井 特定のシーンじゃなくてもいいですか? 僕はルークに「縮こまってなくていいんだよ」と声をかけたくなりました。彼らが大切にしている「クラシックな作風」は、身近なコミュニティでは「古臭い」と理解されない。でも少し世界を広げれば「良いね」と共感してくれる人がいる。世界を広げていくルークの姿を通して、観る方に勇気を届けられたらと思います。
――台本に“思い付かないなら思い出そう”というフレーズが出てきます。おふたりのクリスマスの思い出を教えてください。
藤井 子どもの頃、お姉ちゃんとツリーにオーナメントを飾ったことですね。親が「飾りつけていくか!」と先導してくれて。当時は当たり前のように思っていましたが、今振り返ると温かい家庭で育ったんだなぁと実感します(笑)。
――思い返してみると「あれって幸せだったんだな」と。
藤井 そうなんです。
中村 僕は妹と一緒に、欲しいものを書いた紙の横にサンタさんへの贈り物としてケーキやタルトを置いていました。
藤井 へ~!
中村 翌朝プレゼントが置いてあって、ケーキはちゃんと食べてくれていて。今でもあの嬉しさを覚えています。
――サンタさんへ「ありがとう」の気持ちを込めて。
中村 はい。妹とふたりで空に向かって「サンタさん、ありがとう!」って手を振っていました。
藤井 かわいい!
――舞台を観た方も記憶を思い返したり、優しい気持ちになってくれたりしそうですね。では、素敵なクリスマスミュージカルを経験した上で、当日がもしオフだった場合のクリスマスの理想の過ごし方は?
中村 舞台と同じニューヨークに行きたいです。
藤井 おっ、いいねぇ!
中村 の世界観に浸りたくて。街中でクリスマスの曲が流れていたり、大きなツリーが飾られていたりする光景を楽しみたいです。
――藤井さんも一緒に?
藤井 行っちゃいます(笑)! でも、最近は家族で過ごしたい気持ちが強くなりました。お母さんのご飯を食べながら、家族と一緒にゆっくり過ごすクリスマスも素敵ですよね。
――ご自身はまだサンタ側ではなく…?
藤井 サンタ側か~。僕はまだまだ子どもなので、いつでもサンタさんを待ってます(笑)!
――それでは最後に、公演を楽しみにしている皆様へメッセージをお願いします。
藤井 11月公演ということで、クリスマスをちょっと先取りすることになりますね。『THE GIFT』を観て、家族や友達、恋人など大切な人と温かい時間を過ごしていただけたら嬉しいです。素敵なショーをお届けできるよう頑張ります!
中村 「観て良かったな」と感じていただけたり、帰り道に「あのシーンが良かったよね」と話し合ってもらったり、皆さんの心にずっと残るような素敵な作品をお届けします。ぜひ劇場へ足を運んでいただけたら嬉しいです。
テキスト:豊泉彩乃
ヘアメイク:服部幸雄(メーキャップルームプラス)
スタイリスト:柴田拡美(クリエイティブ ギルド)