ミュージカル『サムシング・ロッテン!』|加藤和樹インタビュー

2018年に上演され、観客を笑いの渦に巻き込んだミュージカル『サムシング・ロッテン!』が待望の再演。12月19日から東京公演が行われ、年明け1月8日から大阪でも上演される。2015年初演のブロードウェイ版は、トニー賞で1部門受賞・9部門ノミネートを果たした大ヒットコメディで、シェイクスピア作品をはじめとするミュージカルや演劇の名作たちを大胆にパロディにしながらも、演劇への愛と情熱と笑いを詰め込んだ作品。演出は日本版初演に引き続き、コメディの名手・福田雄一氏が手掛ける。ルネサンス時代のイギリスを舞台に、主人公の売れない劇作家ニック(中川晃教さん)と文芸バトルを繰り広げる、スーパースターの劇作家シェイクスピア役で出演する加藤和樹さんに、福田組コメディ初挑戦の心境や今作の魅力について聞いた。

――念願の福田雄一さん演出のミュージカルに出演が決まった心境から伺えますでしょうか?

僕は福田さんの作品の中でも『スパマロット』が大好きで。2012年の初演を観たときには、福田さんの作り出す絶妙なタイミングと間を生かした独特な笑いがツボにハマってしまって、もう腹を抱えて笑い倒しました。その後、WOWOWの福田雄一×井上芳雄『グリーン&ブラックス』という番組の初回(2016)でご一緒させていただいて。それ以来、いつか舞台の上でも福田さんの作品に出てみたいという思いがあったので、今回は福田さんから直接ご連絡いただいてすごく光栄でしたし、夢が叶いました。

――加藤さんが思われるミュージカル『サムシング・ロッテン!』の魅力はどんなところでしょうか?

福田さんもおっしゃっていますが、本当にミュージカル好きのための作品だなと思います。シェイクスピアの名作の台詞や人気ミュージカルの楽曲の数々を、作品への愛のあるパロディで随所に取り入れて笑いに変えているところが、大きな魅力のひとつですよね。ミュージカル作品としては、タップダンスナンバーも素晴らしいですし、みんながひとつになれる歌の力がある。会場中を巻き込むような楽曲で、お客様が一緒になって楽しめるハッピーなミュージカルだと思います。

――主演ミュージカル『ファントム』のエリック役はじめ、重厚感のある作品に多く出演されている印象がありますが、コメディーミュージカル『サムシング・ロッテン!』のシェイクスピアをどのように演じたいと考えていますか?

コメディは大好きなんですけど、けっこう暗い作品をやりがちなので(笑)、この作品の中に入ることで新しい自分に出会えるんじゃないかなという期待はあります。今回、僕が演じるシェイクスピアは自己主張が強くてナルシストで、かなり面白い部分がたくさんあるんですけど。加藤和樹自身がシェイクスピアと融合することによってこそ出せる面白さを、どう開拓していくかっていうところが、ひとつチャレンジになると思います。初演でシェイクスピアを演じられた西川(貴教)さんのイメージが強烈すぎて、それを超えるものをという気持ちはもちろんありますが、自分だからできるシェイクスピアの面白さ、カッコ良さ??…みたいなものを表現することができたらいいなと思っています。

――今作で演じるシェイクスピアとご自身との共通点はありますか?

どうだろう…。ただカッコつけているだけじゃなくて、本当はプレッシャーも感じているし自信がなくて虚勢を張っている彼の弱さみたいなものが、ふと垣間見える瞬間みたいなものは自分もいつも自信がない人間なので、気持ちがリンクするところが見つけられればいいなと思います。

――福田さんから、役作りなどで何かオーダーされていることはありますか?

昨年の秋、舞台『裸足で散歩』を響志さんが翻訳してくださっていたのもあり観劇してくださったときに、福田さんと響志さん(今作の翻訳・訳詞を担当)と食事をしたのですが、『サムシング・ロッテン!』の話はほとんどせず楽しくゴハンを食べ終えて。帰り際に「ロッテンよろしくね。カッコよく居てくれればいいから」とだけ言われました。いや、絶対それだけなはずないよなと思いながら、逆にその一言が怖いなと(笑)。

――ミュージカル『怪人と探偵』、『フランケンシュタイン』で共演されている盟友・中川晃教さんと、今回はコメディ作品でタッグを組まれます。どんなことを楽しみにされていますか?

まだ“楽しみだね”というお話くらいしかしていないのですが。僕としては、心強い反面、ちょっと怖さもあるなという。あっきーさんって面白いことが好きだから、もう突拍子もないことをふってきたりもするので、そこがちょっとドキドキというか(笑)。あっきーさんがすごいのは、笑いに対してもすごく真面目なところなんですよね。もうまっすぐだからこその面白さがある。福田さんもそこに目をつけて演出をつけていらっしゃると思うのですが、自分がそれを受けたときにどういう感情になるのか、笑わずにいられるのか、けっこうゲラなので心配ではあります(笑)。

――福田組作品の稽古場に初めて挑む心境は?

計算しつくされている笑いだから、きっと突発的に役者から出てきたものというよりは、稽古場でトライ&エラーを繰り返して、タイミングを計算して作られていると思うので。そこが崩れると急に笑えなくなる瞬間ってあるじゃないですか。だから稽古でどれだけ詰められるかですよね。自分の中から何が出てくるか未知数なので、もうチャレンジでしかないです。自分にやれることは何でもやる覚悟で臨みます。

――ハードなスケジュールの中、心身ともにベストな状態で舞台に立つために心がけているのはどんなことですか?

食を一番大事にしています。お酒をそんなに飲まないので、一日の楽しみってやっぱり“ごはん”なんですよね。体づくりの制限をしている時以外は、基本的に自分の好きなものをバランスよく食べています。体調管理も含めて、気持ちの部分でもこれを食べたらテンションが上がるとか、自分にとって食というものはものすごく大きな割合を占めていますね。

――自炊されることは多いですか?

はい。自分で作ったほうがおいしく感じるんですよね。忙しくても料理をすることでストレス解消にもなりますし、ちょっとリセットの時間になるんです。ラーメンのスープと向き合っている時間も没頭できるからいいんですよ。そういう意味でも自分にとって料理は欠かせないものですね。

――公演を楽しみにしている方へ、メッセージをお願いいたします。

僕自身、どういう加藤和樹が見られるのだろうかと、すごく楽しみにしています。ミュージカルでこういうキャラクターを演じられることもなかなかないので、そういう姿を観て年末年始に楽しんでいただければなと思います。

取材・文/井ノ口裕子