【連載】『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』 2018年2月に日本初上陸を果たす「FUN HOME」の魅力を余すところなくお届け!

2015年トニー賞作品賞受賞の傑作ブロードウェイミュージカル「FUN HOME」が、来年2月に日本人キャストで日本初上陸!FUN HOME大好きローチケ演劇部員が、公演に先駆けて、現地ブロードウェイで感じた、FUN HOMEの魅力をたっぷりお伝えします!!


【STORY】
42歳、レズビアンで漫画家のアリソンは、今の自分を見つめなおすため、今の自分と同じ年齢で自殺した父と自分の関係を漫画として記録することを決意する。小さいころからどこか男勝りな性格だったアリソンは、厳格で完璧主義な父と複雑な関係を築いてきた。
大学生となり、自身がレズビアンと自覚した彼女は、母の口から父がゲイであると知ることになる。そして、手紙で自身がレズビアンだとうちあけた数か月後、父は自殺してしまう。
彼女がしまい込んでいた父への思いとは、そして、父の苦しみとは何だったのか。
家族でありながらも他人、他人だけど家族。
田舎町の小さな一家の別れと再生を通して描かれる、希望の物語。

 

アリソン・ベクダルの自伝的な同名コミックを原作にして作られた本作。STORYだけ読んでしまうと、とても暗い物語、、、とも思われがちだが、そこで敬遠しないでほしい。実は、このミュージカル、悲劇でありながらもコメディーでもある、まさに“悲喜劇”とも呼べる新しいジャンルの物語なのだ。

例えば、子どもたちがFUN HOME(funeral home=葬儀屋(※アリソンの実家の家業))のCMを制作する場面の「Come to the FUN HOME」は、もうめちゃくちゃかわいい。空の棺桶をスタジオにして披露される小学生たちのロックンロールに、思わず笑みがこぼれること間違いなし。他にも、大学生のアリソンが性の目覚めに喜ぶ「Changing My Major」では、初体験後の興奮を、あくまで滑稽に描いて笑いを誘う。一見暗い題材でありながらも、こうして笑いの要素がとてもバランスよく散りばめられているため、どんな人でも楽しめる作品になっている。

 

さて、この物語の最大の特徴は主人公が3人いることだろう。子供のアリソン、大学生のアリソン、そして42歳のアリソン。作品中では大人のアリソンが昔の自分にツッコミを入れたり、時には記憶に入り込んだりするのだが、このかけあいも楽しみの一つだ。観客は現在のアリソンと一緒に彼女の記憶の中を眺めていくため、より深く彼女の感情を知ることが出来る。
感情といえば、私、ローチケ演劇部員のお勧めは「Ring of Keys」。トニー賞授賞式パフォーマンスでも披露されたこの曲では、女の子としての自分にどこか違和感を持っていた子供のアリソンが、初めて自分と同じ雰囲気を持つ魅力的な女性に出会い、その不思議な感覚に戸惑いながらも喜びを表現する。喜びにあふれていながら、なぜだか切なくなる感覚を、是非、是非体感してほしい。今回はダブルキャストで演じられるということで、二人のそれぞれの個性にも注目だ。

 

 今作では、今大注目の演出家、小川絵梨子が日本版「FUN HOME」の演出を手掛ける。数々の話題作の演出を手掛けてきた彼女が、セクシャルマイノリティを題材したこのミュージカルに挑むこととなる。今作はレズビアンを題材とし、さらに3人の主人公が自分がレズビアンであることに対する戸惑いなど繊細な感情をそれぞれ表現するのだが、世代の違う3人をどのように演出していくのか注目である。

小川と共に本作に挑むのは、瀬奈じゅん、吉原光夫、大原櫻子、紺野まひる、上口耕平、横田美紀ら実力派キャスト達。元宝塚トップスターの瀬奈じゅんが、人生を深く見つめ直す42歳レズビアン漫画家を演じるなど、それだけで一見の価値があるのではないだろうか。さらに、ゲイの父親とその愛人、すべてを知っている母親、大学生のゲイカップル等、それぞれ癖の強いキャラクターを演じる彼らは見逃せない。

 

ミュージカルというと、豪華絢爛、大掛かりで、みんなで踊りながら歌うような華やかなイメージを持つ人も多いだろう。しかしながら、この作品には華やかさはあまりない。その代わり、心温まる素朴さを持ち合わせており、丁寧なつくりが非常に魅力的。人物に寄り添ったメロディーの反復、一音で作り出される静かなリズム、落ち着いた舞台に刺激を与える照明効果など、この作品を構成する一つ一つが意味を持ち、それらがすべてあくまでも自然に調和しているように感じられるのだ。全体としてとてもシンプルなミュージカルではあるが、こうした演出によって、演じる人々の温かさや感情を直に伝えることができる、「丁寧なミュージカル」なのである。

ミュージカルってなんか派手で苦手なんだよなあ…という人にこそ、強くお勧めできる作品だ。

シンプルだからこそ、生でしか感じられないこの感覚、是非劇場で体感してほしい。

 

文/ローチケ演劇部員(有)

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