【連載】『FUN HOME』大好きローチケ演劇部員が送る、FUN HOMEの楽曲解説企画第1弾!

『It All Comes Back』

FUN HOMEオープニングナンバー、『It All Comes Back』。この曲は、子供時代のアリソン(以後、小アリソン)と父の貴重なふれあいの思い出、父の美しいものへの執着、そして大人のアリソン(以後、大アリソン)の気持ち、これらが1曲で簡潔に表現されている、まさに!オープニングにふさわしい楽曲です。

 

この曲の中で最初に切り取られるのはありふれた日常の1場面。ですが、この親子にとっては、肌に触れてコミュニケーションをとった、とても珍しい瞬間なのです。私が思うに、この作品の中で、実は一番幸せな場面なのではないでしょうか。なんせ、この後二人は常にどこか寄り添えないでいるので…。

この場面を描いているのは大アリソン。レズビアンで漫画家の大アリソンは、今自分が行き詰っており、ゲイだった父と自分は似ているのかもしれないと考えはじめます。「パパもそうだったの?私はあなたとおなじなの?」なにが真実なのか、父は何を思って生きてきたのか。それを知るため、大アリソンは自分の人生を漫画に描くことを決意するのですが、その際に、最初に思い出されたのがこの場面です。大人になった彼女が、一番に思い出すのがこの彼女と父の貴重なふれあいの思い出だということが、すれ違っていく二人の今後を考えると、とても切ない…。

 

オープニングナンバーということもあり、この曲は父の性格、アリソンの性格を簡単に、でもとてもよく表しています。

 

ガラクタを嫌い、高価なリネンの布など、質がよく美しいものに魅了される父。

父が愛する美しいものよりも、ネズミの死体の方に興味がある小アリソン。

自らの記憶を信じず、真実が知りたい、と冷静に決意を固める大アリソン。

 

曲の最後に、3人がそれまで歌ったフレーズを一気に3人で歌う部分があるのですが、それぞれのメロディーが異なる3重奏も、近くにいながらも交わっていない彼らの思いを表現するのに大きな役割を果たしているようです。

以降の楽曲にも通じることですが、このミュージカルは、登場人物の気持ちを、その人物自身の言葉で表現するのがとても上手です。その表現は決して説明的でも直接的でもないのですが、観客は、その人物の行動、台詞によってその人がどんな人物なのかを、意識しないうちに知ることが出来るのです。3重奏もその一つで、それぞれの思いが分かるようで、すべては聞こえない。でも、どこか調和している。そのバランスがとても素晴らしい!

文/ローチケ演劇部員(有)

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