ミュージカル『いつか~one fine day』稽古場レポート

3月末、都内で4/11(木)から東京・シアタートラムで上演される「いつか~one fine day」の稽古が行われていると聞き、稽古場にお邪魔してきた。

本作は、韓国の映画監督イ・ユンギが手掛けた『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』を原作にミュージカル化した、今回初演のオリジナルミュージカル。藤岡正明、皆本麻帆ら実力派キャストが出演し、妻を亡くした男性と昏睡状態の女性の交流を通して、人間の感情を丁寧に描いた作品である。


【STORY】

妻に先立たれた男、昏睡状態の中で心だけ目覚めた女―
二人は胸の内に抱えた悲しみゆえに巡り会い、互いの心の穴を少しずつ埋め合っていく

保険調査員のテル(藤岡)は後輩・タマキ(内海)の担当だった仕事を引き継ぐよう新任の上司・クサナギ(小林)から命じられる。それは交通事故で植物状態の女性・エミ(皆本)の事故の原因を調べるというもの。しかし、エミの代理人・マドカ(佃井)と友人・トモヒコ(荒田)は調査に非協力的で敵対。仕事が進まないなか、病死した妻・マキ(入来)のことをまだ整理できずにいるテルに声をかけてきたのは、意識がないはずのエミだった。俄かには信じがたいと思いながらも自分にしか見えないエミと交流を重ねるうちに、事故の陰に幼い頃にエミを捨てた消息不明の母親・サオリ(和田)の存在が浮かび上がってくる。

 

この日行われていたのは、登場人物8人全員が揃った場面。それぞれが様々な悩みや苦しみを抱えて生きながらも、「いつか」晴れる日が来ると信じ、ひたむきに生きる彼らの心情を歌い上げる歌唱シーンである。

稽古が始まると、稽古場には美しいハーモニーが響く。ピアノ伴奏のもと奏でられる総勢8人のハーモニーは、透明感と優しさがありながらも、なぜだか懐かしくなるような、切ないような、心を刺激する音楽。最近の言葉を使えば、非常に“エモい”、ジンとする音楽が特徴的だ。
小劇場ならではの濃密な空間でこの優しい音楽を浴びれると思うと期待が膨らむ。本作では全部で19曲の音楽が披露され、美しい音楽たっぷりの作品となっている。

本作は8人がそれぞれのエピソードを持ち、それらが交差していく群像劇。今回、全員が揃う貴重な稽古時間を使用して立ち位置の確認が行われていた。歌の中で行われる場面転換では8人が入り乱れて移動するため動線が難しく、歌も台詞も動きも、確認事項はまだ山積みだ。出演者も意見を出しながら、話し合いながら動きをつけていく。
休憩時間には、皆本をセットの布団でくるんで笑いあう仲のよさを見せたり、それぞれが自主的に動いて稽古をつけたりと和気あいあいとした時間を過ごしていた出演者たち。
稽古の中でも、タイタニックなど数々のミュージカルで活躍中の藤岡は持ち前の伸びやかな歌声を発揮し、場を引き締める。皆本のはかなげで力強い歌声や、入来、佃井の明るさは場を盛り上げており、小林は最年長として落ち着いた表現力を発揮。内海、荒田は演出指導を真剣に聞き、場面を繰り返すごとに新鮮な表情を見せていた。
最も自身と年齢が離れた役を演じる和田だが、温かさを感じさせる透明感のある歌声を披露していた。

音楽だけでなく印象的な言葉も多くちりばめられている本作。LGBT、自分の夢とか正義感、それぞれの人の思い、悩み、そういったものが入り混じって、自分に投影されていくように感じる。今回稽古場で見学したのは一部のシーンのみだったが、その中でも「社会に出て、具体的な敵が見えないんですよね。」という何気ない台詞がとても印象的だった。人それぞれ、これだ、という自分に響く言葉があるだろう。是非探してみてほしい。

東京・シアタートラムで上演。美しいハーモニーと心に残るストーリーをぜひ濃密な空間で体感してみては。
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取材・文/ローチケ演劇部員