平成最後の春、咲いて散るなら いざや、かぶかん!!『ミュージカル ふたり阿国』観劇レポート

3/29(金)に明治座で開幕した『ミュージカル ふたり阿国』。皆川博子作「二人阿国」を原作に持ち、戦乱の世に咲き誇る芸の花、抑圧された民衆の声をテーマにした新作のオリジナルミュージカルである(演出・脚本:田尾下哲、脚本:中屋敷法仁)。


時は戦国の世が終わりを告げようとしていた1600年頃。天賦の才を持ち、芸の道に生きる阿国と、阿国に憧れながらも反発し、のちに二代目おくにを名乗るお丹。二人の“おくに”が火花を散らし求める、天下一の芸とは――


早くも公演半ばに差し掛かり、ますます深化する本作の模様をレポートする。

 

京の民衆をややこ踊りで熱狂させていた阿国と、笠屋舞一座の娘・お丹。2人はひょんなことから出会い、共に船旅に出ることとなる。目指すは新興の地、佐渡国だ。

船旅のさなか、乗客の男衆を客として興行を始める阿国一座。しかしお丹は男衆の相手をさせられることを嫌がり、座敷から出てしまう。そしてある出来事をきっかけに、お丹は阿国との決別を決意。二人は離れ離れとなる。

数年後、お丹は京の店で『佐渡島おくに』を名乗り、華やかな遊女踊りの一座を従えている。そこに再び引き合わされた阿国は、「これまでかつて誰も踊ったことのない踊り」としてかぶき踊りを披露する。

“おくに”の名の決着とは果たして――阿国と言えば、歌舞伎の開祖として知られる“出雲阿国”を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。

その役を演じるのは、元宝塚男役トップスターの北翔海莉だ。持前の華麗さ・力強い歌声には、民衆の心を掴んで離さない阿国の絶対的カリスマ性という説得力がある。
注目の的でありながら、阿国が隠し持っている苦労もまた底知れぬ大きさ。彼女の内面が吐露される場面、阿国の“影”を繊細に表現する北翔に、客席は思わず息を飲む。

一方、阿国に憧れる娘・お丹を演じるのは、AKB48の峯岸みなみ。彼女の眼差しからは、お丹の持つ純粋さと野心がダイレクトに伝わってくる。繕わず、等身大で役に挑んでいる姿が印象的だ。ポップス音楽のもと歌い踊るシーンでは、これぞトップアイドルAKB48といった峯岸の本意気見せてくれた。そんな2人の“おくに”の脇を固めるのは、バックボーンの異なる多彩な俳優陣である。

天下無双の美少年・猪熊少将教利を演じるのは、近年目覚ましい活躍を見せる玉城裕規。公家というみやびな身分に固執するも、阿国との出会い・江戸幕府の台頭などに感情をかき乱されていく姿が儚い。演技力に定評がある玉城だが、今作では更なる“凄み”を増したかのように感じる。

ひとり狂言師・とっぱを演じるのは、ミュージカル『ライオンキング』日本初演時シンバ役オリジナルキャストとしても知られる坂元健児。今回は一人で男女二役を演じる狂言師という一風変わった役だが、低音・高音を自在に操る歌唱力にはさすがの一言。場を和らげるキャラクターもぴったり、とても愛らしい役どころだ。

蜘蛛舞一座の権蔵・一蔵・二蔵をそれぞれ演じる平田裕一郎・グァンス・細貝圭は、軽やかなラップを披露し、劇場はライブさながらの盛り上がりを見せた。

また、お丹の父・笠屋犬太夫役にはモト冬樹、お丹を二代目おくにに仕立て上げようと企む三郎左役にはコング桑田というベテラン勢の布陣が、要所要所で作品を引き締める。

幕間には、モトが客席を練り歩きながら“観客いじり”をする場面も。笑いを誘いつつ、作品の世界観を途切れさせない配慮としてもありがたい演出だ。

 

和モノとは言え、固定概念に捉われず自由に展開していく本作。持ち味の異なった俳優が、様々な音楽で観客を魅了し、一つの作品として融合する…このドキュメンタリー部分が、劇中の人間関係にもリンクしているようだった。

対決の末、2人の“おくに”が求めたのは天下一の芸とは…?

勝ち負けだけでは終わらない、本当の結末は劇場で!4/15(月)まで、東京・明治座にて上演中。

 

取材・文/ローソンチケット
写真/オフィシャル提供