日米合作ブロードウェイミュージカル「フル・モンティ」│山本耕史 インタビュー

1997年公開の同名のイギリス映画をもとに、舞台をニューヨーク州の田舎町バッファローに移して舞台化を果たしたブロードウェイミュージカル『フル・モンティ』。ブロードウェイで2000年に初演されたのち、世界各地で上演され、日本でも招聘公演と日本語版が上演されているこの作品、2026年の今夏は“日米合同制作”として全編英語で上演する(日本語字幕あり)。

主人公のジェリーを演じるのは、2024年に同じく“日米合同制作”で上演された『RENT』に出演し、国際的な評価も確立している山本耕史だ。本格的な稽古がスタートするのは、まだまだ先という5月下旬に取材会が行われ、山本が作品への想い、出演に至るまでの流れ、そして稽古や本番に向けて楽しみにしていることなどを語ってくれた。

――2024年の『RENT』に続き、また“日米合同制作”で今度は『フル・モンティ』を、という話が来た時にどう思われたかということからお聞かせいただけますか。

僕としては、まさかこう繋がるとは予想外だったんですけどね。そもそも、山本耕史という俳優の大半を作ったとも言える作品が『RENT』だったんです。僕が21歳の時に1998年に日本語版の初演に出て、翌年の再演の後、いろいろ紆余曲折を経て2024年に“日米合作”として久しぶりにまた『RENT』に向き合うことができまして。英語での上演になったのは実は権利の問題などがあったからなんですが、自分としては結局この作品への出演が叶ったことは僕の舞台人生に一つ区切りがついた、という感慨深い想いがあったんです。だけどその上演が終わった時点で、演出のトレイ・エレットが「次は何やる?」なんて言ってきて。当初は日本でよくある社交辞令みたいなことかなと思ったんだけど、もしそうでも嬉しかったから「そうだね、何をやろうか?」と。

――軽い気持ちで答えていたら?(笑)

「耕史にぴったりの作品があるんだよ」と言い出したんです。とはいえ、幸せなことに僕もスケジュールがガラ空きだったわけではないので(笑)、急にそんなことを言われても難しくて。

――舞台なら余計にそうでしょうね。

こっちも調整して日程を組まないと無理な話ですから。だけどそのうち「この時期だったらどう?」と具体的な日程を提案されるようになって、だんだん「これ、本気なのかな?」と思うようになり、そこからは間に会社に入ってもらったんです。すると、あれよあれよという間にこうして本当にやることになりました(笑)。僕にとってはやはり母国語ではない言葉での上演となると想像を絶する大変さがあるのですが、でも「またやろうよ」と誘っていただけるということは、前回がそれほど悪くはなかったんだな、と思えますし。

――再び声をかけたというのは、その証拠とも言えます。

そう、だからそのことがとにかく嬉しかった。それで、また別の意味ですごい冒険にはなりそうなんだけど、引き受けることにしたんです。だって今回は『フル・モンティ』なわけですからね。『RENT』は、どんな作品か知っていたし、歌も台詞も事前に理解できていたけど、『フル・モンティ』に関してはまったくゼロ状態でしたから。もちろん映画版の存在は知っていましたけど、舞台版とはちょっと違うし。

――また新しい冒険の始まりだったわけですね。

いや、もしかしたら『RENT』以上のトライになるかもしれませんよ。

――「耕史にぴったりの作品だ」と言われたとのことですが、ご自分としてはどの点がぴったりに思われたんだと分析しますか?

それは、やっぱりカラダだと思いますよ(笑)。だって今回のイーサン役のスティーヴン(・ロシェット・ロペス)は、前回の『RENT』でロジャー役を何公演かやっていたんですが、彼もすごい身体の持ち主で。トレイも、マーク役の僕とロジャー役のスティーヴンが並ぶと「マーベルのスーパーヒーローみたいだ!」なんて喜んでいましたから。きっと、その印象もあったんじゃないかな。

――今回演じるジェリー役に対して、共感できる部分というと。

ジェリーには子供がいる設定なので、そこはすごく共感します。息子のために奔走する、という姿勢がこの舞台でのジェリーの役どころの一番核になる部分ですから。そこはもう僕としても、何の迷いもなく演じられそうです。僕だって、子供のためなら何でもするだろうと思いますし。そういう意味でもこの役は自分にぴったりだなと思うし、トレイもそう思ったのかもしれませんね。だけどジェリーって実は、この作品の中ではあまり際立った個性がないんですよ。たとえばチームの中だったら、デイブならちょっとぽっちゃりな人だし、ハロルドは紳士だけどなんだかダサくて、マルコムは弱虫でお母さんと一緒に住んでいて、ホースはアフリカンアメリカンで身体がすごく動かせるけど、もはや本当におじいちゃんに近い年齢で、みたいな。それぞれに特色があるんだけどジェリーに関しては背が高いわけでもなく、別にマッチョでもなく。なんならデイブとジェリーが2人でいる時に「君たちはストリップには似合わない、ジェリーは痩せすぎだしデイブは太りすぎだ」なんて言われたりもする。おそらく、うだつの上がらない男で着ている服もイマイチな設定なんでしょう。これは僕の勝手な深読みかもしれないけど、『RENT』の時にあれだけいわゆるネイティブのキャストが揃った中で一人だけエイジアン(Asian)だった僕に、ちょっと異質ながらも朴訥とした存在感みたいなものをもしかしたらトレイが感じて「これはジェリー役、いけるんじゃないか?」と閃いてくれたのかもしれないです。

――では今回の身体づくりって、どうされますか? あまり作り込まない感じなんでしょうか。

ブロードウェイの映像を見ると、デイブのぽっちゃりを引き立てるためにはある程度細めの人は必要かなとも思いますけど。だけど僕以外のキャストのみなさんは、もともと身体がしっかりしていますから。マッチョの設定の人はいないんですけど、たぶんイーサン役のスティーヴンが大きな身体だから、僕が脱いだところでそんなに「うわぁ!」とはならないはずです。日本の、僕よりも下の世代の華奢な男の子たちと並んだとしたら、たぶん大きく見えてしまうかもしれないけど、その点では海外勢のルックスの力はやっぱり大いに頼りになりそうですね。ともかく、だらしない身体では出ちゃいけないなとは思っています。といっても、ボディビルダーみたいな身体にはしませんけど(笑)。どっちかというと現時点では、ちっちゃくしている感じかな。筋肉量そのものがまだ大きいからちょっと絞って、少し筋肉を残しつつシェイプするイメージ。あとはキャストたちが日本に到着してから、みなさんの身体のバランスを見て最終的にそこからもっと大きくするか、もしくは更に絞るかを考えようかなと思っています。

――『RENT』の時はクリスタル ケイさんが共演されていましたが、今回はゆりやんレトリィバァさんがご一緒ですね。彼女にはどんな印象をお持ちですか。

ゆりやんさんこそ、すごくないですか? だって彼女、初めてのミュージカルなんでしょう? 舞台に立つこと自体は慣れていらっしゃるだろうけど、それでも初めてのミュージカルがブロードウェイで活躍されているこのキャストたちと、しかも全編英語でってすごいことですよ。ぜひ、心境を聞いてみたいです。すごくワクワクしてるのか、もしかしたら怖いのか、でもやっぱり楽しみなのか。ジョージー役は、ゆりやんさんにぴったりの役だなと思うので僕も今からすごく楽しみにしているんです。『RENT』の時もそうだったんだけど“日米合作”と言いつつも人数的には米国側の比重が大きいですからね。そこにゆりやんさんがいてくれることは僕としては非常に心強い。だって『RENT』の時は、基本的に物語がわかっているから良かったものの、演出に関する言葉を使われると言っていることがハッキリとはわかっていなかったかもしれないと思うから。僕はそんなにベラベラ喋れるわけではなくて、単に困らない程度に意思疎通ができるだけなのでね。だからおそらく、ゆりやんさんには「今、演出の人はなんて言ってた?」と聞くことになると思います(笑)。だから、早くお会いしてみたくて。何かのバラエティ番組ですれ違ったりとかしていなければ、たぶんまだちゃんと会ったことがないと思うんですよね。しかも今回、舞台上に最初に登場するのがゆりやんさんになるはずで。きっと初めに彼女が出てくることによって、日本のお客さんは少し緊張が緩んで気持ちが軽くなりそうな気がしますから、そこから物語がスタートするというのはとても良いなあとも思っているんです。

――改めて山本さんが思う、このミュージカルの魅力とは。

たとえば、ちょっとセクシーな本を男同士で見ている場面でなぜかめちゃくちゃカッコイイ曲が流れたりするところとか、すごく面白いなと思っているんです。それとマルコムという登場人物が「自殺したい」なんて言い出すと、仲間たちが「やめろよ。自分でそんなことするくらいならむしろ、俺らがやってやるよ」なんてことを言う場面。そこでは、ものすごくラブリーな曲がかかるんです。そういうギャップも、すごくいい。なんならちょっと感動しそうな曲調なのに歌詞は「俺らがお前の頭をかち割ってやるよ、だって俺たち友達だろ」みたいな感じでね。そういう、相反している組合せみたいなところにもとても魅かれます。この作品って実は、派手なショー的要素って特にないんです。もちろん実際にステージ上でストリップをしていくところは、ショーではあるんですけど、決してみんながすごいテクニックでダンスを披露することもなく、ある意味ダサい、ゆっくりしたダンスをおじさんたちが一生懸命に踊ることになるので。だけどそこが、グッとくるんです。そうやって、音楽とストーリーとキャラクターとがとてもうまくフィットしているところが、ミュージカルであるこの『フル・モンティ』の最大の魅力なんだろうなと思います。

――この作品の中で山本さんが一番心を動かされたのは、たとえばどういうシーンでしたか。

いっぱい、ありますよ。ハッピーな方向に心をつかまれるシーンは、前半にたくさんあったし。でも、ずっと核にあるのは息子が自分のために手を差しのべてくれるような場面かな。やはり息子との関係性を描くシーンは、安心してできそうな気がします。パフォーマーとしてというより、自分自身がゆっくり呼吸しながらできそうだというか。逆に無呼吸で突破する爽快さがあるシーンもあって、それはそれで楽しそうですけどね。あとはやっぱり、クライマックスシーンも! 感動的で、笑えると同時に心をしっかりつかまれる瞬間になるはずですので、そこもぜひ楽しみにしておいてほしいです!!

取材・文/田中里津子
撮影/清水隆行