ミュージカル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』│ゲネプロレポート

スペイン映画界の巨匠ペドロ・アルモドバルが監督・脚本を手掛け、ヴェネツィア国際映画祭脚本賞を受賞した傑作映画『神経衰弱ぎりぎりの女たち』。これをブロードウェイでミュージカル化し、トニー賞にノミネートされたラテンミュージカルコメディが、ついに日本へ上陸する。
日本初演の主演を務めるのは望海風斗、演出は上田一豪。共演には秋山菜津子、和希そら、長井短、髙嶋政宏らが名を連ね、落ち着く暇をひとときも与えぬスリリングでギリギリな群像劇を生み出した。
6月7日(日)に東京・日本青年館ホールにて初日を迎えた本作のゲネプロ公演及び初日前会見の様子をお届けする。

まず目を引くのは舞台上にところ狭しと並べられた植物の緑と、カラフルな家具が織りなす極彩色。ラグジュアリーインテリアブランドRoche Bobois(ロッシュ ボボア)とアルモドバル監督とがコラボしたソファを中心に、その色彩が開演前からスペインの風を感じさせてくれる。
さらに観客をスペイン・マドリードに誘うのは、ときにはストーリーテラー、ときにはタクシードライバーとして登場する遠山裕介が歌い上げるラテンなナンバー。遠山の情熱的な歌声は作品の色にピタリとハマり、この先どんな“ギリギリ”が待ち受けるのか観客の期待を煽ってくれる。

物語は女優のペパ・マルコス(望海風斗)が、恋人のイバン(髙嶋政宏)に一方的に別れを告げられたことを皮切りに、想定外の出来事が雪だるま式に膨れ上がっていく。
ペパのもとに図らずも集まってきたのは、愛に狂わされて人生の歯車がいまにも軋んで崩壊しそうなルシア・ベルトラン(秋山菜津子)、カンデラ(和希そら)、パウリーナ・モラレス(長井短)たち。

さらに元凶ともいえるプレイボーイなイバン、その息子で庇護欲をかきたてるカルロス(溝口琢矢)、彼の婚約者で強気なマリサ(黒川桃花)を巻き込み、物語の既定路線をことごとく裏切る展開が続く。「そっちにいくの!?」という想定外の連続にペパたちの精神はすり減っていく。だが観客は、その目まぐるしい展開に巻き込まれる心地よさを存分に味わえるだろう。

本格コメディは初挑戦という望海は、普段見せてくれるかっこいい女性像とは裏腹に、愛に翻弄されてままならないペパを、絶叫したり髪を振り乱したりしながら熱演。ギリギリな状態だからこそ湧いてくる生命力とペパの魅力で、ステージを満たしてみせた。

和希は地に足のついていないカンデラをキュートに演じ、秋山は持ち前の迫力でルシアの狂気的な執着を体現してみせた。和希はカンデラの落ち着かない脳内を楽曲にしたような愉快なナンバーを、秋山は愛憎絡み合うソロを披露し、どちらも聴き応え抜群。独特な佇まいのパウリーナ像を立ち上げた長井の、ミュージカル初挑戦とは思えない歌声にも注目を。

そして、すべての発端となるイバンを演じるのは髙嶋政宏。女たちを翻弄するプレイボーイぶりに、どこか憎めない愛嬌を漂わせ、混沌の中心で異彩を放っていた。イバンの遺伝子をかすかに匂わせる溝口のカルロスや、黒川の強気なマリサがペパたちの騒動にどう巻き込まれていくのかもお見逃しなく。

トニー賞作曲家デイヴィッド・ヤズベクの手がける楽曲は、いずれも情熱が底に流れるラテンなナンバー。さまざまな文化の融合によって生まれたラテンのリズムに乗せ、愛に翻弄されるいくつもの人生が交錯していく。観客もまた、そのリズムに身を委ねるうちに、登場人物たちの“ギリギリ”に飲み込まれていくだろう。
演出も何一つ型にハマっていない。複数のパネルを使った映像演出、上手だけにある盆、セットの転換まで、心躍る仕掛けが散りばめられている。その自在な発想が、目まぐるしい物語をさらに加速させていた。

愛に翻弄される女たちが繰り広げる、ひっちゃかめっちゃかの饗宴。一瞬も落ち着く暇のないスリリングな展開の渦中で、望海演じるペパが揺るぎない芯となり、物語を貫いていく。観終わった後も、ラテンのリズムが体の奥で鳴り響いているような、熱い余韻に浸ってみてほしい。

ゲネプロに先立ち行われた会見には、望海、秋山、和希、長井、髙嶋が登壇。本格コメディ初挑戦となる望海は「笑わせに行くコメディではなく、みんなが真剣になればなるほど滑稽に見えるもの。自分が恐れていることを必死に演じ、舞台に立ち続けたい」と意気込みを語る。秋山は「とてもいいカンパニー。それがにじみ出てお客様に伝わるのでは」と手応えを口にした。

和希はラテンとミュージカルの親和性に触れ、「歌い終わるとフー!と歓声が飛び交う稽古場だった」と熱気を明かす。ミュージカル初挑戦の長井は「先輩たちも緊張していると聞いて安心した」と笑顔を見せた。

カンパニーの仲の良さも随所に。稽古最終日には“リゾート”のドレスコードが指定され、バカンスコーデでスペイン料理へ繰り出したという。髙嶋は女性陣について「百戦錬磨の人たちが、その技術でギリギリを見せていく。間近で見て幸せ」と絶賛した。最後に望海は「肩の力を抜いて、楽しんでいただけたら。情熱をぶちまけられる作品です」と観客へメッセージを送った。

取材・文・写真/双海しお