ミュージカル『ラ・マンチャの男』製作発表記者会見レポート

スペインの国民的小説「ドン・キホーテ」を原作としたミュージカル『ラ・マンチャの男』が2019年9・10月に上演される。

日本では1969年の初演より松本白鸚が主演し、翌年1970年には日本人としては初めてブロードウェイからの招待を受け、単身渡米。全編英語のセリフで計60ものステージを務めた。その後、今日までの上演回数は1,265回に上る。今年喜寿を迎える白鸚、そして日本初演50周年という記念すべき本公演で、通算上演回数は1,300回(10/19(土)夜の部)を突破する予定。

6/13(木)、本作の製作発表記者会見が実施された。出演者の白鸚、瀬奈じゅん、駒田一、松原凜子、宮川浩、上條恒彦、そして東宝の池田篤郎取締役が登壇し、それぞれが作品への想いを語った。

まず白鸚は、「日本初演から50周年の『ラ・マンチャ』にまた火が灯りまして、皆様と一緒に今日の日が迎えられることは、自分にとっては奇跡に近こうございます。今までの思い出もたくさんございますが、これから幕を開けるのは、真新しい『ラ・マンチャ』でございます。主演の俳優の名前が変わりましたからね!」と昨年2018年に幸四郎から白鸚へと襲名したことに触れつつ、2019年公演への意気込みを語った。白鸚演じるドン・キホーテが想い姫と慕うアルドンザ役に挑むのは、2009年に宝塚歌劇団を退団後、2012年には「第37回 菊田一夫演劇賞」「第3回 岩谷時子・奨励賞」を受賞した瀬奈じゅん。前回の2015年公演を観劇したという彼女は、「終演後にあまりの感動に涙が止まらず、心が震え、立ち上がれないという感動を体験致しました。この舞台に立てるという、その頃には想像もつかなかったことが今起こっていて、とても幸せな気持ちと、「やらねば」という意気込みとが入り混じった複雑な気持ちです。あの時私が客席で感じた感動を皆さんにもお届けできるよう、魂を込めてアルドンザ役を演じます。」とコメント。これまでにラバ追い、床屋、サンチョと役を変え、本作への出演回数は500回を超える駒田は「今回はどう演じたらいいか、どうやって苦しんで、楽しみにしたらいいのかと、いろんなことを常日頃考えております」と語ったほか、襲名した白鸚について「昔から幸四郎さんと呼ばずに、“旦那様”とお呼びしていたので、名前が変わっても“旦那様”と呼ばせて頂ければと思います!」と茶目っ気溢れるコメントで会場を和ました。『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役、『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』ソーニャ役など、近年名立たる大作ミュージカルに出演を果たす松原は、今回初めて『ラ・マンチャの男』に出演する。松原は2015年公演を観劇した学生時代を懐古しつつ、「夢を追いかけたいけれど、そんなの叶うはずがないんじゃないかと考えていた時期にこの作品を観劇させて頂きました。中でも『本当の狂気とは、あるべき姿のために闘わないことだ』というセリフが大好きで、なれるかもしれない自分の姿のために私も闘っていこう、と思わせて頂いた作品です」と目を潤ませながら、力強く語った。2015年公演から本作に出演しているカラスコ役の宮川は「前回はじめて参加させて頂いて、見えない中で必死にもがき苦しんでいたという思い出があります。4年経ってどれほどカラスコが成長したのか、(アロンソ・)キハーナの心情がどれだけ読み取れるようになったのか、自分でも楽しみにしております」とコメント。また、白鸚の襲名について「イニシャルが“HM”になり、僕と同じになりました!」 と笑顔を見せ、会場の笑いを誘った。本作には1977年から800回以上出演し、セルバンテスが投獄された牢獄の牢名主、そしてドン・キホーテが逗留する旅籠の主人を演じる上條は、「私は高麗屋さん(白鸚)より2歳年上で出演者の中でも最高齢です。年を取ったのは確実ですが、がんばろうと思います」と意気込んだ。出演者それぞれの挨拶のあと、記者からの質疑応答が行われた。

――白鸚さんが単独主演で50年間もの長きにわたり演じてこられたその要因は何だったのでしょう?

白鸚「東宝さんと、歌舞伎俳優である私を『ラ・マンチャの男』に出演することを承諾してくださった松竹さん、この2つの大きな演劇会社の、演劇人としての良心が、私を実現して下さっていると思っています」――多くの人から愛され続けた理由はどんなところにあると思われますか?

上條「端的に言っていい作品だったということでしょう。時代を超越したテーマを持っている。役者がどんなことを言っているかという具体的なことではなく、作品の持っている風格、雰囲気、内容がいつも伝わるからだと思います」

松原「難しい作品だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、最後には勇気をもらえたり、明日から頑張ろうという活力を頂けたりするところかな、と思います」

宮川「この作品、観ても演じてもすごいんです。また50年間一人で主演を続けてきた白鸚さんも本当にすごい。だから続いてきたんだと思います」駒田「本の魅力、楽曲の魅力、旦那様の魅力、そしてご覧になった方一人一人がそれぞれに投影したり、感じられたりできる部分がすごく深いものなんじゃないかなと思います」

瀬奈「その時の感情や状況、体調によって感じ方が変わってきて、何回観ても新しい発見がある作品だと感じます。それに加え白鸚さんが毎回毎回新しい発見をし、ブラッシュアップされている。だからこそ50年続き、愛されてきたんだなと思います」白鸚「私ども(大人)は気恥ずかしくて普段口に出来ないようなことを、このミュージカルは正面から言ってくださるんですよね。それだけにドン・キホーテ/セルバンテスをやる役者はそういう生き方、心を持った役者が務めるべきだと考えてやり続けていたら、50年経っていました。初演をご覧になった方、その時はまだお生まれになっていない方がご一緒に会するこういった場を設けて下さったことは、本当に嬉しいことでございます」――最後に白鸚さんから、締めの言葉をお願い致します。

白鸚「日本初演50周年記念公演の製作発表、締めません!クライマックスでもございません!人間、肉体には限界がございますが『ラ・マンチャ』の魂だけはいつの時代にも生き続けてほしいと思います」ミュージカル『ラ・マンチャの男』は、9/7(土)開幕の大阪・フェスティバルホール公演を皮切りに、宮城・東京エレクトロンホール宮城、愛知・愛知県芸術劇場 大ホール、東京・帝国劇場にて上演される。

 

 

取材・文・写真/ローソンチケット