2005年にブロードウェイで初演し、トニー賞で10部門11ノミネートされミュージカル主演男優賞を受賞したコメディミュージカル「ペテン師と詐欺師」が、山田孝之と石丸幹二のW主演で上演される。演出は舞台、ミュージカル、テレビドラマなどでヒット作を連発しているコメディの名手、福田雄一が手掛ける。夏本番を迎えた8月某日、本稽古初日の主演2人にその胸中を聞いた。
――今回の作品にご出演されることが決まって、まずどんなことを考えましたか?
山田「僕ですら聞いたことのある作品で、石丸さんと一緒にやらせてもらえるということで…でも、プレッシャーよりも楽しみな気持ちが大きかったですね。ただただ必死な状態で、みなさんについていきたいと思っています。早く稽古に入りたかったので、今日が待ちに待ったその日です」
石丸「山田さんとミュージカルの現場でご一緒できるとは、夢のようです。また作品もブロードウェイで観たときに、いつかやってみたいと思っていましたので、とても幸せな稽古初日です」
――新橋演舞場で上演されますが、劇場の印象などはいかがですか?
山田「僕はまだ立ったことが無いのですが、どんな劇場だったとしても「凄い!」となると思います。ここに立って芝居するんだ、と。嬉しいですし、歴史のある劇場でやらせてもらえて感慨深いですね」
石丸「僕は俳優デビューが新橋演舞場で上演された「オペラ座の怪人」でした。和の劇場でシャンデリアの代わりに提灯が落ちるんじゃないか?って言われていました(笑)。思い出深い劇場にまた帰ってくることができてうれしいです」――演出は福田雄一氏が手掛けます。福田さんの印象は?
山田「僕は福田さんが演出するミュージカルにしか出たことがないので、福田さんの演出以外、知らないんです。なんだか特殊らしいんですが…(笑)。僕みたいに慣れていない人がいる場合、ちょっとずつ詰めていって最後に完成させるのではなくて、かなり初期の段階からずっと通して、何度も何度も稽古をやってくれるんですよ。そうすると、動きと一緒に台詞もどんどん入っていくし、慣れていくので、そうしていくれているとお聞きしたことがあります」
石丸「福田さんの演出作品に初めて出演させていただきますが、勝手が違うということは噂で聞いていました。でも今、稽古しながら台詞を体に入れていくことが許されると山田さんから聞いて、ちょっと安心しました」
山田「僕はずっと台本を持っています。福田さんはコメディ、笑いを大事にする方なので、どの現場においてもスタッフの方などに怒鳴ったり声を荒げたりすることを許さない方なんです。後でこっそり「ああいうことはやめてくれ」と声をかけたりしていました。だから福田さんの現場に来ると、みんな仲が良くて楽しいな、って思っているんですけど…福田さんのメガネの奥の目は笑ってないので(笑)。サラサラッと「山田君ちょっと、もう1回」って言ってくるんですけど、どんどんズバズバ言ってきますよ」
石丸「そうなんだ…メガネの奥は見ちゃダメだね(笑)」
――役作りについてはいかがですか?
山田「僕が演じるフレディは若くて、スキルはまだまだだけど若さゆえに自分に自信があって。ちょっと調子に乗ってるんです。その根拠のない自信が彼の可愛さでもある。そこを全うすることがはっきりとカラーの分かれるところだと思うので、ずーっと舐めてかかった感じで(笑)。教えてもらう立場であっても、「あなたが10年かかった事を、俺は3日でできる」っていう気持ちで挑んでいれば、そういうキャラクターになっていくと思います」
石丸「ローレンスは名うての詐欺師です。フレディが自分の縄張りに来たことを、新聞の一面で知ります。そして、フレディの技術を見て、奮い立っていく。初心に戻るカンフル剤に、フレディがなるんですね。そこが面白いところだと思っています」
――ブロードウェイ版の他に、映画や市村正親さんと鹿賀丈史さん主演の日本版も上演されています。それらはご覧になりましたか?
石丸「映画も日本初演も観ています。笑いが多く、イメージを拡げることができました。先日、映画が撮影された南仏にも行ってきたんです。ホテルに滞在している人だけでなく、タクシーの運転手や街の人までもがどこかセレブな雰囲気で、その空気を体感できたことは大きかったと思います」
山田「僕はどれも観ていないんです。原作があるものを演じる経験はこれまでにもありますので、自分なりに台本を読んで、自分ができるフレディをやれば面白くなるんじゃないかと思っています」――自分が演じる役どころに似ているところは?
山田「劇中で言われてるんですけど、フレディはあまり上品さがない。そういうところは近いんじゃないですかね(笑)。「何とかなる!」って思うところとか」
石丸「福田さんに役についてお聞きした時に、もっともっと上流風にとおっしゃられましたので……、自分に無いものをお見せすることになると思っています」
――楽曲の魅力についてはいかがでしょうか。
石丸「聴いていて惚れ惚れするような楽曲のオンパレードですね。でも…歌い手としては、非常にトリッキーな音がいっぱい使われていて、楽譜通りに歌うことが難しい作品ですね。1小節の中に2回転調するようなところもあるんですよ。そこには単純じゃない心理が込められている。騙し合いみたいな曲調なんですよね」
山田「楽曲はただただ難しい(笑)。でも、アンサンブルの方たちが、ダンスもすごく大変なんだけど、観ている側からは大変に見えないと言ってました。かなりいろいろやってきた方たちでも今回は大変で、ただそれが伝わらない。歌も踊りもそうなんでしょうね」
石丸「楽曲やダンスでも、観客を唸らせるようなところがこの『ペテン師と詐欺師』にはたくさんあります。観方によって万華鏡のように印象が変わる。そこがこの作品の面白いところです」
――最後に、見どころをお願いします!
山田「騙し合いの話なので、対する相手や状況によってキャラクターをコロコロと変えたりするんです。それはお客さんが一番楽しめるところじゃないかな」
石丸「騙し合いの勝負をしているのに、フレディとローレンスがお互いに暗黙のルールで動いている、みたいな感じでね」
山田「二人だけの時はそのままなんだけど、他にもう1人入ってくると、二人ともキャラクターを作ってくる」
石丸「そうして、帳尻を合わせていつものコンビみたいに振る舞うんですよ。二人の掛け合いを、ぜひ楽しみにしていてください」
――楽しみにしています。本日はありがとうございました!
取材・文/宮崎新之